また、札幌に拠点がある筆者にとって、札幌から比較的手軽にアクセスできる百名山に少しずつ登っておくのは合理的である。ちょうどこの夏には1週間の夏休みを確保できた。札幌在住の叔父や祖母との面会を兼ねて、これを機にトムラウシ山に登ろうと考えた。
今回も、公共交通機関のみを利用しての日帰りという要素を組み込みたかった。だが、事前の調査の結果、筆者の実力では極めて困難であることが判明した。新得駅7:00発のバスに乗り、トムラウシ温泉8:35着。帰りのバスは16:15発なので、7時間40分以内に登頂して戻ってこなければならない。標準コースタイム12時間超のコースで、これはあまりに厳しい。また、短縮登山口まで送迎してもらえばギリギリで間に合うかもしれないが、これでは「公共交通機関のみ」という条件を満たせなくなる。
そこで、国民宿舎 東大雪荘への前泊を選択した。ここを拠点とした日帰りなら、何とかなると考えた。前日に北海道入りし、下山後に新千歳空港から東京に帰還すれば、何と1泊2日の日程で間に合う。加えて、せっかくだから短縮登山口ではなく、トムラウシ温泉発着の長期戦コースでどこまで闘えるか試してみたくなった。
ところが、せっかく北海道に行くのに1泊2日では何とも気ぜわしいし、費用対効果も低い。そこで、付近にある十勝岳にも登ることとした。なお、十勝岳に関しては、上富良野駅を拠点とすれば、終バスの時間に間に合うように日帰り可能である。
なお、旭岳〜トムラウシ山〜十勝岳や、その先の日高山脈へと続く縦走も、挑戦心を揺さぶられるルートである。だが、テントや食糧、燃料、調理器具、携帯トイレ等を加えた重い荷物を背負っての単独縦走にはまだ不安がある。また、必要最小限の装備で日帰り特攻を積み重ねてきた筆者のスタイルには合わないと考え、今回は見送りとした。
十勝岳に関しては、標準コースタイムが7時間30分である。登りで45分詰めることを前提に、6時間40分で計画を立案した。帰りのバスの時間には余裕があるため、十勝岳温泉凌雲閣もしくは吹上温泉白銀荘で日帰り入浴する気満々だった。また、登りは十勝岳温泉からのコースを選択した。一方、下りでは十勝岳温泉へのコースか、吹上温泉へのコースのどちらを採用するか決めていなかった。標準コースタイムは大差無いため、登りのルートに飽きたら下りでは別のルートを選択しようと考えていた。
装備・持ち物は、基本的に日光白根山日帰りと同じである。既に8月であり、登山を阻むレベルの残雪があるとは考えられなかった。このため、雪山装備は一切持たなかった。
水や電解質は、日光白根山日帰りよりもやや増やした。即ち、2日合計で水2.5リットル、緑茶0.5リットル、粉末POCARI、ウィダー類5個である。これに限らず、荷物を最小限とすることに気を配った。下山時の膝へのダメージを可能な限り軽減するためだ。そこで、膝対策としては右膝サポーターのみを持参し、着用した。ストックは不要と判断し、持参しなかった。
交通手段や宿は、可能な限り事前に手配しておいた。当日に切符を購入する手間を省くとともに、費用を節約するためである。
……
翌5日の目的はトムラウシ温泉への移動である。これだけでは時間が余るため、AC版TODのスコアアタックというイベントを組み込んだ。事前に調査したところ、札幌では残念ながらTOD設置店を見出せなかった。だが、ディノス帯広店にTODが稼働していることを電話で確認したため、ここに行くこととした。
スーパーおおぞらは大変快適で、寝たり車内情報誌を見たりしているうちに、新得に到着した。興味があったのは北海道の地図だ。この電車はどこを通って行くのか、知っていると知らないのとでは旅の楽しみが違う。また、昨日から札幌の西側で大雨警報が盛んに発令されていた。この雨がいずれ東に移動すると予想されたため、そして寒冷前線の動きが大変気になったため、地名とその位置を知っておく必要もあった。
新得では乗り換え時にホームを移動することに気付かず、危うく9:27発の電車に乗り損なうところだった。ここで失敗すると、帯広でのTODを諦めなくてはならない。幸いなことに、9:10頃に帯広方面らしい電車が早くも到着したため、駅員さんに確認して事無きを得た。また、時間があったため、駅のホームを歩き回って駅の外側をざっと確認。新得名物のそば屋らしき店は見えなかったが、バス停は見えた。午後のバス乗車前に30分の余裕があるとはいえ、早めに確認しておいた方が何かと安心だ。
電車に乗ること55分、柏林台に到着。帯広の一つ手前の駅だ。ここでは自動改札どころか、通常の改札すらないため、電車から降りる時に車掌さんに精算してもらう。乗車券は新得までしか買っていなかったためだ。そして行軍開始。
トムラウシ山・十勝岳登山の動機
トムラウシ山とは、日本百名山の一つであり、北海道の名峰の一つである。確かに標高こそ2141mで、北アルプス等と比較すると低い。だが、北海道は高緯度にあるため、気温が低い。従って、北海道の2000m級の山岳の難易度は、本州の3000m級の山岳の難易度に匹敵すると聞いたことがある。また、周囲にある百名山(旭岳、十勝岳)と比較しても、登山口からのアプローチが長く、登頂の難易度が高い。
トムラウシ山・十勝岳登山の準備
トムラウシ山に関しては、標準コースタイムが12時間超である。登りで55分詰めることを前提に、11時間30分で計画を立案した。今回は前泊して4:30に行動開始することで、ゆっくり歩いた場合でもトムラウシ温泉発の最終バスまでに余裕を持って下山できるようにした。むしろ、計画よりもさらに早く下山して、トムラウシ温泉で日帰り入浴する気満々だった。一方、駒鳥沢や前トム平に予定通りに到着できなかった場合や、天候が急変した場合、そして膝に痛みを感じた場合には、登頂を諦めて下山する予定とした。
2014.8.5(Tue)トムラウシ温泉まで
4日に札幌入りし、第一の目的である叔父と祖母との面会を果たした。東京では炎暑が続いていたらしい。が、北海道は涼しい! 一応30度を超えた日もあり、北海道民である叔父や祖母は暑いと言っていた。だが、筆者にとっては快適そのものだった。冷房は不要だし、朝夕になれば涼風が気持ち良いし。夜に雨が降ると、むしろ寒いくらいだった。いちいち折り畳み傘をザック(ザックカバー付き)から取り出して差すのが面倒で、速乾性シャツ1枚で歩いていたためでもあるが。帯広まで特急料金に加えて普通運賃もケチる明日のトムラウシに備えた準備運動をするため、柏林台から歩くのだ。なお、ディノス帯広店まで歩いたら汗だくになると予想されたため、キナバルTシャツはザックに放り込み、速乾性Tシャツ1枚とした。
斜め横断万歳 | ディノス帯広店に到着 |
地図上では約1.7kmの道のりだが、ここは北海道だ。広大な原っぱや公園があるため、近道と見たらどんどん斜め横断していく。登山靴を装備しているため、多少の悪路も問題無い。むしろ、靴底の減りを考えると、アスファルトや砂利道よりも、草むらの方がありがたい。その結果、25分かかる予定が何と18分で到着した。歩いた道のりは約1.2kmかな。
そしてついに、目的地のディノス帯広店が見えた! ネット上では11時開店とあったが、実際には10時開店だった。結果的に、帯広まで特急を使い、10時に突入した方がプレイ時間を多く確保できた。さて、1階のゲームコーナーを進んでいくと、見慣れたキーボード付きの台が片隅に。しかも、二台並んでいる! TODに加えて、ななななんとルパンまであった!!
TODに加えてルパンもあった! | ルパンNORMALのランキングは平和だ |
1回目はAC版TODが、というよりもTODスコアアタックが約二ヶ月半ぶりだったこともあり、開幕でいきなりミス。その後も緊張しまくってミス連打。全部エセ技で誤魔化したはずだが、5章結果は正確性99%に。よって、以後は練習と割り切って流す。結果は8482だった。なお、6章MISSION1では2回もミスした。その度にEscして打ち直したが、ゾンビが攻撃してくる気配は無かった。はい、明らかにVERY EASY台ですね。
2回目は5章でフルコンを決めたが、6章開幕でまさかのミス。「こころにすきはなかった?」の「っ」でShiftか「つ」のどちらかがすっぽ抜けた。即エセ技で誤魔化して、以後はノーミスでクリア。開幕のミスが響き、はみ出し回復は5回のみ。だが、MISSION2で14体、剣モード3回、相討ち3回と粘り、スコアは9328まで伸ばした。カンストにははみ出し回復があと5回ばかり足りないが。ランキングはデフォルトのままで、うえだてんせい5000点がトップだったため、悠々1位と2位にランクイン。
1ミスは惜しいが、9328点はまずまず | 日付が変なのは気にしない |
2回目は1面の開幕でミスしたが、以後は繋いで120万点。2面以降は要所でミスが出たが、6面と7面をノーダメージで突破するなどそれなりに頑張り、289万点台にまとめた。9面で、濁点か半濁点か迷うワードが出てミスしたのが悔しい。あと、どの面だったか忘れたが、下段のみ誤植が含まれるワードがあった。いずれ暇と環境があったら、ワードを調査したい。
ミス多すぎ。クイズ外しすぎ | HARDのランキングはこの通り |
TODのキーボードの状況は極上だ。かな入力・VERY EASY台でスコアアタックをやるなら、全く問題無し。ローマ字入力やNORMAL台で必要な速度を出した時にどうなるかは不明だが。また、1P側でしか打っていないため、2P側は不明。
ルパンのキーボードは、1P側がやや硬い。「ゃ」打鍵時に力が足りないとミス判定になった。2P側は問題無し。というよりも、キーボードの色が全く違う。2P側の方が明らかに白かった。恐らく、最近入れ替えたのだろう。
あと、TODは何と100円で2クレジットプレイできた。ルパンは100円で1クレジットと通常通り。ゲームとしての難易度は、TODの方が高いためだろう。TODの難易度設定がVERY EASYなのも、このためと思われる。ルパンの難易度はデフォルトのままだと思う。
昼食の「すだちおろしうどん」 | 帯広駅前の温度計は32度!? |
その後はバスと特急を乗り継いで新得へ。バス待ちの時に雨に降られたためザックカバーと傘を装備したが、帯広駅に到着する頃にはほとんど止んでいた。帯広駅前の温度計が32度を指していたが、そこまで暑いとは思えず。やはり、東京とは湿度が違うのだろう。帯広駅では、昨日からの大雨の影響で、札幌から帯広に向かう電車が途中で足止めされているというアナウンスがあり、やや焦る。幸いなことに、新得までは遅れることもなかった。
新得までの道中では、この日記の元となるメモをひたすらフリック入力。
新得では待ち時間が30分あったため、小雨のパラつく中、付近を散策した。明日の夕食を食べる予定の「せきぐち」はすぐに見つかった。他には駅前温泉なる施設も見つけたが、こちらに入っている余裕は恐らく無いだろう。トムラウシから素早く下山し、国民宿舎で日帰り入浴するのがほぼ唯一の選択肢だ。
トムラウシ温泉行きのバスは1日に2本のみ | 今にも泣きだしそうな空模様 |
定刻の14:00になってもバスが来ないのでやや焦るが、3分遅れで到着した。何と乗客は筆者だけで、貸切状態だった。途中、十勝ダムではバスから降りてしばし観光させてくれたり。その先にある白雲台展望台からは、大雨のため何も見えなかったが。なお、乗客が少ないのは、天候が悪いためではなく、そもそもトムラウシ温泉側から登る人が少ないためとのこと。大抵の人は旭岳方面から縦走し、トムラウシ温泉に下山してくるのだそうだ。筆者もいずれその縦走をやってみたい。
十勝ダムをまた〜りと観光 | このバスでトムラウシ温泉へ |
15:30少し前に、国民宿舎に到着した。事前の予約では相部屋としていたが、天候悪化に伴いキャンセルが出たらしく、1人部屋を使えることとなった。しかも、初回提示では+3000円とのことだったが、「それなら相部屋がいいです」と断ったところ、+1080円まで下がった。1人部屋の方がいろいろと落ち着くのも確かなので、この辺で手を打っておく。
国民宿舎内にはトムラウシ山の情報が! | 激流を眺めながらの露天風呂 |
そして温泉! 無茶苦茶気持ちいい! 特に、付近を流れるユートムラウシ川の激流を眺めながらの露天風呂は素晴らしい! ここに国民宿舎を建てるというセンスがいいね! たまたま大雨の後だったためかもしれないが。メシも良い。追加料理も有料で提供されるが、通常の料理だけで充分に腹は満ちる。山小屋と同じレベルを想定していた筆者としては、大満足だ。但し、登山の後に宿泊する場合は、カロリーが不足なので、追加料理が必要になるかもしれない。
充実の夕食 | ユートムラウシ川の激流。明日の登山への影響が心配 |
夕食後、登山口の探索も兼ねて、付近をしばし散策。ユートムラウシ川の激流はますます激しくなった気がした。2007年の大規模遭難時には北沼から大量の水が流れ出し、渡渉に手間取ったらしい。明日の登山に影響が出なければ良いが。
部屋では電源を取ることができたため、スマホとデジカメの充電を忘れずに。ついでに電波もバッチリ入ったため、愛妻に到着連絡を入れておいた。
早朝の国民宿舎前 | 登山口は昨日のうちに見つけておいた |
昨日からの雨は、寝ている間に止んでいた。これは非常に幸いだった。昨日と同じくらい雨が降っていたら、トムラウシアタックの中止も検討せざるを得なかった。その場合、行けるところまで進んだ後、引き返す判断を迫られただろう。この判断を誤ると、7年前の大量遭難事故を再現することになる。
予定 | 実績 | 場所 | 高度 | 備考 |
---|---|---|---|---|
4:30 | 4:25 | トムラウシ温泉 | ||
5:30 | 5:36 | 短縮登山口分岐 | 休憩4分 | |
6:45 | 6:15 | カムイ天上 | 1160m | 通過 |
8:00 | 7:29 | 駒鳥沢 | 1430m | 通過 |
8:55 | 8:08 | 前トム平 | 1738m | 休憩6分 |
− | 8:47 | トムラウシ公園 | 通過 | |
10:10 | 9:26 | オプタテ分岐 | 休憩5分 | |
10:45 | 9:53 | トムラウシ山頂 | 2141m | 休憩、写真撮影等9分 |
登り始めはそこそこの急登 | このまったりした登りが延々と続く |
20分も登ると、地図が示す通り、高低差がほとんど無いルートとなった。時々小ピークはあるが、基本的には実にまったりとした登りが延々と続く。これが行けども行けども終わらない。迷う場所は無いが、標識も全く無いため、1時間も経過すると道を間違えたのではないかと疑心暗鬼になる。結局、最初のチェックポイントである「短縮登山口分岐」に到達したのは、登山開始から1時間10分後だった。いきなり予定からビハインドとなり、やや焦りを感じた。なお、当初はここで朝食とする予定だったが、天候が悪く、座って大休憩するような場所ではなかった。宿で食べておいて正解だった。
短縮登山口分岐。ここまで1時間10分 | 水が流れ下る登山道 |
その後はわずか40分弱で次のチェックポイントである「カムイ天上」に到達した。水が流れ下っている中を登らなくてはならない場所が幾つか存在したが、他には特に難所もなく、すんなりと進んだ。
そして、次のチェックポイントである「駒鳥沢分岐」までがまた長かった。昨日の大雨の影響で、道がぬかるみまくっていた。
カムイ天上に到着 | ぬかるみまくりの登山道 |
さらに、少し前から降り続いていた霧雨が小雨に変わった。先月登った日光白根山の時と同様、雨具ジレンマに陥った。まず上は、登りの間は基本的に暑いため、本降りの雨にならない限り必要無い。問題は下だ。今回も懲りずに綿100%のズボンを装備しており、ずぶ濡れになるとまた後で冷えまくることが予想された。だが、前回と違って、藪漕ぎは非常に少なかった。よって、雨が少し先で止んだこともあり、雨具は結局最後まで装備しなかった。
天候は霧雨から小雨へ | 駒鳥沢が近づいてきた |
1時間近く歩いたところで、ようやく、駒鳥沢と思われる沢の音が聞こえてきた。それまでは、沢までの距離と、雨の音とが原因で、聞こえなかったのだ。そして、地図が示す通り、急な下りとなった。この下りはなかなか厳しかった。膝へのダメージを最小限に抑えることだけを考えて、一つ一つ難関をクリアしていく。また、事前の地図読みで、この一時的な下りが高低差100m程度で終わると知っていたことが、大いにプラスになった。もしこの事実を知らなければ、いつ終わるのかということだけを考えてしまい、余分な消耗を強いられたことだろう。
急な下り。高低差100mほど下る | 滝が流れていたり |
それでもカムイ天上からの長い道のりと、後半の急な下りとで消耗したのは事実であり、下りが終わって沢が見えたあたりで休憩。ウィダー1個目を投与しておく。
駒鳥沢分岐には、休憩終了後わずか5分で到着した。もっとも、駒鳥沢分岐は休憩するような場所ではなかったため、結果オーライだったのだが。
駒鳥沢分岐から先で、紛らわしい分岐があった。右側は水が流れ下っているところを登るルート。左側はまともな登山道に見えるが、そこに取り付くまでに駒鳥沢の上を石伝いに少し歩くルートだ。しばし迷った挙句、左側を選択した。だが、左足が沢にどっぷりとハマり、靴全体が濡れるという惨事に。ちなみに、この分岐はどちらを選んでも良かったことに、登り終えた後で気付いた。何てこった。
駒鳥沢分岐の先の紛らわしい分岐 | ぬかるみはようやく終わり |
その後は前トム平を目指す。ぬかるみや流水の道とようやくオサラバだ。これだけでも非常にありがたい。しばらくの間は、沢に沿って登る。上の方に雪渓も見えたが、近づいてみると雪渓の脇を通る夏道があった。その道を登り詰めると、今度は岩の道だ。岩でできた沢を横断するルートで、巨岩の上に整備された登山道を進んでいく。この頃になると日差しも出てきた。高度1600mにして森林限界に到達し、真夏の太陽がまともに照りつける。出発前に日焼け止めを塗ったが、雨と汗で流れた恐れもあり、やや心許ない。とはいえ、塗り直すのも面倒なので、放置して先に進む。
雪渓がまだ残る。脇を通っていく(撮影は下山時) | 岩の道 |
この岩の道を終えると今度はハイマツの嵐だ。とはいえ、斜度は小さいので、軽快に登っていく。そしてようやく、前トム平に到達した。ここまで4時間近く登ってもまだトムラウシ山が見えないってどういうことよ。
ハイマツの間を通る | 振り返れば幻想的な風景 |
前トム平で休憩した時に、靴下を装備解除して絞る。駒鳥沢分岐で沢にハマった結果が意外と重大だった。靴も靴下も水を吸って重く、しかも大変気持ち悪い。歩くたびにグチュグチュと音まで出るし。沢にハマらなかった右足の靴下も、ぬかるみや流水の道でそこそこ濡れていた。もっと早く絞っておけば良かった。なお、靴下を絞っても靴の濡れまでは解決しない。その結果、歩いているうちに靴下に再び水がしみ込んでくる。よって、その先でも靴下を絞る作業が何度か必要となった。また、直射日光対策として、トムラウシ温泉で入手した手ぬぐいでほっかむりをしておいた。帽子よりも手軽で、かつ頭部への日射をそこそこカットできる。
前トム平。一息つく | 小さな尾根を二つ越える |
前トム平から先で、尾根を二つ越える。この二つ目の尾根を登り詰めると、ようやくトムラウシの山頂がその威容を現す。ここまで来ないと見えないとは、まさに神の山と呼ぶに相応しい。ところが、この二つ目の尾根越えの際に、ルートを見失った。
トムラウシ山がその威容を現した! | 登りで道を間違えた場所(左が正解。撮影は下山時) |
気付かず進むうちに、トムラウシ山頂からだんだん遠ざかっていることに気付いた。それどころか、はるか左方向にあるはずのオプタテシケ山に向かってねえか? 早速、地図を出して確認。二つ目の尾根を越えた後は池付近まで一旦下り、その後山頂を目指すことになっている。ところが、全く下ることなく、むしろ尾根沿いに進んでいるらしい。道を間違えたことは明らかなので、分かるところまで戻る。
ルートを見失った原因は、尾根を下る道が発見しづらかったためだった。巨岩の上を進むルートであり、北アルプス等と違ってペンキで正解ルートが示されているわけでもない。一方、尾根沿いに進むルートは大変分かりやすい。それにしても、約5分のロスで済んで本当に良かった。
ようやく二つ目の尾根からの下りに入る。今度は中間目的地の池が見えているため、迷うことは少ない。だが、ルートは極めて分かりづらい。ハイマツに完全に覆われ、一見して道とは分からない所もあった。そのため、誤って巨岩の上を下ってしまった。そこそこ急な下りで道を誤ると、大抵は行き止まりになるか、常人には進めない状況に陥る。ところが、今回に限っては、筆者程度の登山経験でも何とか進めてしまうため、たちが悪い。結局、巨岩の上を強引に進み続けて本道に復帰した。
トムラウシ公園。ここを目標に下ってきた | 山頂まで約1時間半 |
池(トムラウシ公園)に到達した時にはそれなりに消耗していた。とはいえ、ここから山頂までは長くてもあと1時間半だ。実際、40分も進まないうちにオプタテ分岐に到達した。ここで最後の休憩を入れる。やることは盛りだくさんだ。水分と電解質の補給、タイム等のメモ、靴下絞り、などなど。ここでもたついている間に、4人に抜かれていった。ここまでの道のりでは計13人抜いてきたのに。
ハマるとヤバそうな沢を越える | オプタテ分岐。ここで最後の休憩 |
ま、休憩している間に抜かれるのは当たり前だ。5分休憩してから悠々と出発した。そして10分後には早くも追い抜いていた。もっとも、抜いたからにはこれ以上ルートミスをしてはならないという新たなプレッシャーが加わった。筆者が間違えると、後ろの人たちも誤ったルートに入ってしまう恐れがある。まして今回は山頂付近の急な登りであり、ルートミスは大変危険だ。
急な岩登りだが、先は見えている | あっさりと山頂の標識が見えた |
幸いなことに、ルートを間違えることもなく、登頂に成功した。山頂付近に急峻な大岩があり、右手に×マークがあった。そこからの景色は良かったため、撮影後に本道に復帰する。すると、5mも登らないうちに、拍子抜けするほどあっさりと山頂の標識が見えた。最後の分岐を出発後、30分もかからないとは意外すぎた。この区間ではややペースを上げて4人抜いたからだろう。
数分間は山頂を独占。デジカメのタイマー機能を使って記念撮影しておく。そのうち、抜いた人たちも相次いで登頂してきたため、お互いに記念撮影。山頂の写真は、取り損ないのリスクを考慮すると、何枚あっても良い。
標識と三角点を入れて一枚 | 遥か北方に見えるのが旭岳かな |
予定 | 実績 | 場所 | 高度 | 備考 |
---|---|---|---|---|
11:00 | 10:02 | トムラウシ山頂 | 2141m | |
11:30 | 10:24 | オプタテ分岐 | 休憩6分 | |
− | 11:05 | トムラウシ公園 | 通過 | |
12:30 | 11:32 | 前トム平 | 1738m | 休憩17分。昼食 |
13:15 | 12:21 | 駒鳥沢 | 1430m | 通過 |
14:15 | 13:32 | カムイ天上 | 1160m | 休憩2分 |
15:15 | 14:07 | 短縮登山口分岐 | 休憩2分 | |
16:00 | 15:13 | トムラウシ温泉 |
ガスがかかってきた。長居は無用 | 下山途中もなかなか良い眺め |
筆者は下山が苦手である。山頂からオプタテ分岐まで、登りと同じ時間を要した。その後も、スリップや膝へのダメージを抑えるため、速度を落として慎重に下っていく。
何やら高山植物が咲いている | こちらも可憐な花 |
登りで道を間違えた、二つ目の尾根では、逆コースだと特に問題なかった。なぜ登りでミスしたのかは、逆から見ると大変よく分かった。確かに分かりづらい場所は存在したが、大抵の場合、少し先に正解ルートらしい道が見えている。これを断続的に追って進めば、巨岩の上を直登し続ける必要は無い。ちょうど登りのパーティとすれ違ったため、ハイマツに覆われているところがあるので気をつけて、と伝えておいた。
奇岩の織り成す風景 | このハイマツが道を隠していた(撮影は登山時) |
二つの尾根を越え、前トム平で休憩。ここで昼食とした。時刻は11:30頃で、ちょうど良い。また、高度1700m付近まで下がってきたため、山頂よりも条件が良い。さらに、登りで同じルートを通っており、昼食に適した場所はこの先に無いことが分かっていた。幸いなことに、雲は出てきたが雨は降っていない。靴と靴下を装備解除し、足も含めて乾燥させつつ、悠々と昼食を平らげた。
前トム平で絶景を眺めつつ、まったりと昼食 |
昼食を終え、出発の前に準備運動をしていると、山頂で一緒だったおばちゃんが追いついてきた。彼女が速いというよりは、筆者が遅いのだろう。下山の速度も、飯を食う速度も。
昼間の景色は常に大変良かった | こういうガレ場でスリップしまくる |
実際、その後も下山には大変苦労した。岩の道では膝へのダメージが怖くて速度を出せないし、雪渓の脇の道では足の踏ん張りが効かずスリップしまくるし。駒鳥沢から登り返すのは比較的楽だったが、問題はその後だった。
駒鳥沢からの登り返し | ぬかるみロードの始まり |
まずはぬかるみ! 登山道の中央部分が深くなり、雨水や流水が溜まって泥濘と化していた。これを回避するには、膝へのダメージを覚悟で、迂回したりジャンプしたりする必要がある。筆者の膝には厳しそうだったため、結局ほぼすべてのぬかるみに正面から特攻することとなった。
ぬかるみロードに特攻 | 空模様は再び怪しく |
さらに厳しかったのが、カムイ天上付近の、水が流れ下る岩の道だ。下りで滑ると大変危険なので、登りよりも時間をかけて一歩一歩慎重に下る。ここで一気に消耗した。また、紛らわしい分岐が至る所にあった。見分けるポイントは、「人の手が入っている方が正解」「水路は不正解」くらいか。なお、たまたまかもしれないが、大抵の場合、右側が正解だった。
大変ありがたい木造の道 | 紛らわしい分岐(右が正解) |
そしてトドメが、短縮登山口分岐から先の、延々と続く道だ。高低差は少ないが、延々と43分も続いた。もはや平地に近いため、それなりのスピードを出していたのにもかかわらずだ。ここで精神的に疲労困憊して遭難の連絡を入れたくなった奴は絶対に居るはずだ。43分歩き続けた後、最後の下りが見えた時には、下山が苦手なのにもかかわらず、快哉の声を上げた。
こんな道が延々と続く | やっと見えた! 最後の下り! |
最後の下りもそれなりにきつかった。昨日の大雨の影響はまだ残っており、至る所でスリップしまくる。完全な転倒は回避し続けたが、手をついたことは無数。また、右足の小指が靴に何度か当たって痛み始めた。それでも、本格的に歩けなくなる前に、車道との分岐に到達した。そしてついに下山完了! 15:13のことだった。ここまででウィダー類3個、水1.2リットルを消費した。
スリップしやすい下り | 約11時間ぶりに戻ってきた! |
さらに、昨日宿泊した国民宿舎で日帰り入浴! 何しろ、帰りのバスまではまだ45分くらいある。登山の汗を流しておくべきだろう。というよりも、この日帰り入浴に間に合わせるため、素早く登山と下山を終えたのだ。そして登山後の温泉は何物にも代え難い。
次に、温泉の隣の休憩室にコンセントがあるのを確認し、わずかな時間をフル活用してデジカメ電池とスマホを充電する。前者は、ほぼ尽きていた。後者も、油断すると1日で尽きるので要注意だ。一応、山に居る間は電源を切断しておいたのだが。
充電の図 | 白雲台展望台から見た十勝岳らしい山 |
なお、ここで一つの実験を行った。速乾性シャツを洗濯し、着干しした場合、どのくらいで乾くのか? 結論から言うと、シャツは約1時間でほぼ乾いた。恐らく、上はこのシャツしか着用していなかったためだろう。但し、帰りのバスの中では冷房がガンガンに効いており、凄まじく冷えた。昨日購入したトムラウシシャツ(これも速乾性)を装備してもまだ寒い。さらに、洗濯せずにそのまま装備していた靴下で足も冷えていく。結局、宿に到着してもまだ乾いておらず、室内で干すこととなった。
夕食は新得駅前の「せきぐち」でそばの予定だったが、何と定休日! 昨日は営業していたのに! 仕方なく、第二案のお食事処「暖笑」へ。ここも昨日見つけたところで、そばの他に、昨日食べ損なった帯広名物の豚丼も出すらしい。確かに、メニューにはそばも豚丼もある。両方食べるのはやや重い気がしたので、店員さんに両方同時に食べられるメニューはありませんかと尋ねてみる。すると、「新得そばセット+ミニ豚丼」という組み合わせを提供してくれることに! 贅沢な夕食だ! 登山の直後で、腹が減りまくっていたこともあり、完食! 最後少しきつかったけど。トムラウシ登山の後だから完食できるのだろう。
夕食は新得そばセット+ミニ豚丼 |
その後は富良野まで電車で移動しつつ、この日記の元となるメモをひたすらフリック入力。1両しかない電車で、乗客の大半が横になって寝ていた。
今日の宿は富良野駅から徒歩5分の「民宿あきば」だ。今回の旅行では、この宿を見つけるのに一番苦労した。夏休みシーズンと重なったのと、そもそも富良野周辺が車の使用を前提とした場所だからだ。だが、家族旅行ならともかく、一人旅でレンタカーはコストパフォーマンスが悪すぎる。それに、車の運転は日本国内では15年くらいしていないため、もはや自信が無い。よって、素泊まり5800円のプランを見出した時点で即決した。バスとトイレが共用だが、筆者にはこれで十分だ。
ローソンまで徒歩9分 | 上富良野駅前。天候は優れない |
民宿に戻り、コンビニサンドとおにぎりで朝食。昼食用のおにぎりも買い込んである。なお、民宿の宿泊客は国際色豊かだ。「おはようございまーす」に対して、英語で返されたのが2回、中国語で返ってきたのが1回。
昨日から送風機の前に干しておいた靴下は見事に乾いていた。だが、下足入れに入れておいた登山靴はまだ乾いていない。これはもはや仕方ない。予定より少し早くチェックアウトし、電車で上富良野に移動する。ここでバス待ち49分。実にもったいないが、リーズナブルな選択肢はこれしかないため、止むを得ない。なお、筆者の他には登山者が3人、同じバスを待っていた。
上富良野町営バスで登山口へ。このバスで十勝岳にアプローチする場合、吹上温泉か十勝岳温泉が起点となる。先述の3人組は吹上温泉で下車していった。筆者は十勝岳温泉を選択した。理由は、十勝岳温泉ルートの方が標準コースタイムが長いためだ。今日は時間に余裕があるため、より難しいと思われるルートを選択した。また、このルートを選択すると、上富良野岳と上ホロカメットク山にも登頂できる。
予定 | 実績 | 場所 | 高度 | 備考 |
---|---|---|---|---|
10:10 | 10:08 | 十勝岳温泉凌雲閣 | ||
10:30 | 10:34 | 三段山分岐 | 休憩1分 | |
10:55 | 10:53 | カミホロ分岐 | 休憩2分 | |
12:15 | 11:46 | 上富良野岳 | 1893m | 写真撮影のみ |
− | 12:04 | 上ホロカメットク山 | 1920m | 写真撮影のみ |
12:40 | 12:23 | 大砲岩分岐 | 写真撮影のみ | |
13:45 | 12:54 | 十勝岳山頂 | 2077m | 休憩、写真撮影等3分 |
十勝岳温泉付近の登山口 | 序盤は緩い登り |
しばらく進むと、三段山に向かう分岐があった。ここはトラップその1で、万一道を間違えたら十勝岳登頂を諦めざるを得なくなる。というのも、三段山から十勝岳に向かうルートは、崩壊が進み、閉鎖されているからだ。
分岐その1 | 右側は実は急斜面 |
さらに進んで沢を渡ると、やや急な登りが始まった。しかも、登山道でバランスを崩すと、急斜面から転落する。ヤブに覆われていて一見分かりづらいが、実は大変危険だ。
そしてトラップその2が、富良野岳に向かう分岐だ。ここで道を間違えると、富良野岳(1912m)に登頂できるというメリットはあるが、推定2時間のロスになる。すると、帰りのバスに間に合うように下山するのが困難になる。雨の中だったが地図を出して再確認し、正解ルートを無事に選択した。
分岐その2 | 水が流れ下る岩の道 |
その先は、水が流れ下る岩の道だった。恐らく、ここ数日降り続いている雨の影響だろう。それが終わると、果てしなく続く階段の登場だ。とはいえ、階段のお陰で、短時間に効率良く高度を稼ぐことができるのだ。登山道を切り開き、保守し続けている方々に感謝しつつ、階段を登っていく。
岩が終わると階段 | いつしか三段山が下に |
ようやく階段の道を登り詰め、赤い砂礫を登ってピークに到達した。だが、これで終わりではない。右に三峰山と富良野岳、左に三段山、奥に十勝岳を見ながら、主稜線を目指して支尾根をさらに進む。途中すれ違った人によると、上富良野岳付近は風が強いとのことだった。そして速乾性シャツだけではそろそろ寒くなってきたこともあり、雨具上を再び装備する。
崩落が進み、荒々しい山容 | 引き続き、主稜線を目指す |
この辺で、デジカメに異変が。「メモリーカードの残量がありません」というエラーメッセージの連打連打連打だ。仕方なく、昔の写真を消しまくって対応するが、その後数枚撮影するとまた同じエラーが出る。SDカードがおかしくなったのだろうか。以後、新たな写真を撮影する際に、いちいち昔の写真を消去するという余分な作業が加わり、極めてうざったい。なお、帰宅後にSDカードを調べてみたら、本当に容量不足だった。容量が4GBもあるからと油断していた。そういえば、昔の写真は1枚1MB未満となるように設定していたが、ある時点で1枚2M以上となるように設定し直したのだった。このため、10枚消しても、4〜5枚撮影すればまた容量不足となったわけだ。
最後にややきつい登りをこなし、11:46に上富良野岳に登頂した。予定より29分早い。だが、ここから十勝岳までは標準コースタイム1時間30分とある。休憩するような場所でもなかったため、写真撮影だけ済ませてさくさくっと出発した。
上富良野岳に登頂。奥には十勝岳が! |
実際、あまりのんびりもしていられない。十勝岳を目指し、稜線を進む。基本的に緩やかな登りだが、小ピークから100m近く下るところもある。当然ながら、その分は後で登り返すことになる。
上ホロカメットク山に登頂 | 直後に急な下り(撮影は下から) |
地図上には「大砲岩分岐」という場所が存在するが、実際には通行禁止となっていた。この情報は事前に得ていた通りだ。実際、三段山の裏側の崩壊は凄まじく、とても通行できそうにはなかった。
大砲岩分岐。先には進めない | 十勝岳へ、最後の登り |
そして、1921mピークを過ぎたら、十勝岳山頂に向けて最後の一貫した登りだ。地面は黒い溶岩に覆われている。しばらくの間は、緩やかな斜面をほぼ直線的に進む。そのうち傾斜が急になると、つづら折れの登りに変わる。よくあるパターンだ。まだ疲労はほとんどないため、時々立ち止まって呼吸を整えながら、休憩せずに登り続ける。さらに進んで、黒い溶岩が白い岩に変わると、頂上はすぐそこだった。時刻は12:54。予定より51分早い。
火山灰の道をひたすら登る | 十勝岳に登頂 |
予定 | 実績 | 場所 | 高度 | 備考 |
---|---|---|---|---|
14:00 | 12:57 | 十勝岳山頂 | 2077m | |
− | 14:23 | 十勝岳避難小屋 | 休憩10分、昼食等 | |
15:55 | 14:43 | 雲ノ平分岐 | 通過 | |
16:15 | 15:00 | 泥流分岐 | 通過 | |
17:35 | 15:40 | 吹上温泉白銀荘 |
下山ルート。噴煙も見えている | 振り返れば雲がどんどん広がっている |
下山のルートは、標準コースタイムが短い吹上温泉方面を選択した。直接の理由は、天候の悪化だ。また、上ホロカメットク山や上富良野岳をもう一度通過するよりも、未知のルートに挑んでみたいという思いもあった。何よりも、十勝岳登頂という最大の目的を達成した今となっては、可能な限り素早く下山して、温泉に入りたかった。
吹上温泉方面への下山は、十勝岳温泉方面とは完全に別のルートだ。見える景色も、全く違う。左手には今なお噴煙を上げる火口が二つ。右手には、遠く美瑛富士やオプタテシケ山、トムラウシ山に連なると思われる山々が見える。さらに高度を下げると、巨大な火口が右手に見えてくる。この辺の下山道は、富士山の御殿場ルートの終盤に似ている。傾斜の少ない道を、滑るように下山できる。時折、風向きが変わると、左手の噴煙から硫黄の臭気が漂ってくる。
地図によれば、700mほど高度を下げると避難小屋がある。ところが、それがなかなか見えない。右手の火口の先にそれらしき建物が見えたが、近づくにつれて避難小屋ではないことが分かった。何かの観測装置のように見えた。
巨大な火口を右手に見ながら | 避難小屋らしき建物が遥か下に見えた |
右手の火口を通り過ぎると、傾斜の少ない下山道は終了だ。標高は1720mで、山頂から約360mしか下っていない。ふと後ろを振り返ると、山頂は雲に覆われていた。実に絶妙のタイミングで登頂したと思う。
その後は、筆者の苦手とするガレ場の下りが始まった。つづら折れの道に沿って降りていけば問題無いが、強引に段差を下るところも時々ある。膝へのダメージを最小限に抑えるため、速度を落として慎重に下る。唯一の救いは、しばらく降りたところでついに避難小屋が見えたことだ。もっとも、見えてからが遠いのだが。
また、標識がほぼすべて「望岳台」と「十勝岳」のみを示しており、「白銀荘」という文字は最後の方で一つ見ただけだった。事前に用意した地図には「望岳台」が存在しなかったため、地形と地図を比較して進行方向を判断するしかなかった。地図読みにさほど自信があるわけでもないため、何度も疑心暗鬼になった。
避難小屋が大きく見え始めた頃、吹上温泉から登ってきた人に遭遇した。その頃には既に、1700mより上はことごとく雲に覆われていたことを伝えると、今日はここまでにして、下山するとのことだった。また、避難小屋のはるか左手に見えていた建物が、吹上温泉の白銀荘であることを教えてもらった。この情報は非常に大きく、以後はルートの判断に確信が持てた。なお、吹上温泉には有料の日帰り入浴の他に、無料の温泉もあること、そして昨日その温泉を掃除したばかりであることも、教えて頂いた。
望岳台という地名が最後まで不明だった | ようやく避難小屋に到着 |
しばらく下山を続けて、ようやく避難小屋に到着した。内部には毛布が用意され、一晩過ごすこともできそうだ。ここで遅めの昼食とする。ところが、下山でそれなりに疲弊したため、コンビニおにぎりは1個しか喉を通らなかった。ここで時間を食うわけにはいかないので、10分後に出発した。ちょうどその時に、先ほどの人も避難小屋まで下山してきており、吹上温泉まであと1時間くらいだと教えてもらった。
だが、そこから先の道のりが長かった。
傾斜はだいぶ緩くなってきた | 白銀荘を示す標識はこれが最初で最後 |
まず、吹上温泉方面への分岐は、最後の最後まで明示されていなかった。仕方なく、地図と、少し前に上方から見た地形を判断根拠に、それらしい方向へ進む。仮に間違えても、バスの時間までには余裕があるため、分かるところまで戻れば良い。避難小屋から30分弱下山したところで、ようやく、待ちに待った「白銀荘」への標識を見出した。地図上では、「泥流分岐」と示されている場所だった。
笹の道を藪漕ぎ | 松林の中の道を突進 |
その先は、少なくとも二つの尾根を越えなくてはならない。 ここまで来て藪漕ぎがあったが、問題無く突破した。ところが、次の沢が問題だった。ここ数日断続的に降り続いた雨の影響で、増水してやがる!
何やら高山植物っぽい | 増水した沢。どうやって越えろと? |
正解ルートと思われる場所も、少しでも滑ると激流に転落する恐れがあった。今までの登山歴で初めて、本格的な恐怖と、先に進めないという焦りを感じた。
正解ルートがダメなら他を探すしかない。だが、まず下流を見ると、激流が合流し、深い淵のようになっている。これは明らかに不可能だ。次に上流に向かう。だが、20mほど進んでも、渡渉可能な場所は見出せなかった。また、仮に渡渉できたとしても、向こう岸から本来の登山道に復帰するのがこれまた困難と感じた。道無き道を進む必要があり、しかも少しでも滑ると水中に転落だ。これもない。
ではどうするか。一か八かで、正解と思われるルートを進むしかない。これもダメなら、戻るしかない。とはいえ、下手な場所に戻ると、バスに間に合わなくなる。
さて、正解ルートへ。激流の上に、足場と思われる岩が二つだけ顔を出している。しかし、両方とも濡れており、極めて滑りやすそうだ。もちろん、一瞬でも滑ったら即、水の中である。単に転落するだけならまだしも、下流に流されたらおしまいだ。
結局、この難所は無事に突破できた。極めて幸いなことに、全く滑らなかったためだ。なお、後になって気付いたが、まずザックを向こう岸に投げておくべきだった。そして、登山靴と靴下(今回は沢が深いため、ズボンも)を装備解除した上で、流されないように注意しながら川底を歩くのが良いだろう。
その先も難所は続いた。次に現れたのは、ぬかるみロードだ。なるべく靴と雨具下を汚したくなかったが、膝へのダメージを最小限にするためには、多少のぬかるみ特攻も仕方ない。このぬかるみロードは5分くらい続き、神経を消耗させた。また、藪漕ぎ中に、足元の岩につまづいたことが3回はあった。これは非常にたちが悪い。いちいち藪の下を確認しながら進めということか。幸い、本格的な転倒につながったことは一度も無かったが。
ぬかるみロード | 吹上温泉登山口に到着 |
このような艱難辛苦を経て、ようやく吹上温泉にたどり着いたのは、15:40のことだった。肉体的にも精神的にも疲労困憊していた。
次、待ちに待った日帰り温泉! 無料の温泉も魅力的だったが、ここでは貴重品盗難リスクを考慮して有料の方を選択した。現金やカード類はもちろんのこと、それ以上に貴重な物があるためだ。デジカメやスマホで撮影した数々の写真や、今回の登山に関する手書きのメモなどなど。これらを鍵のかかる場所に、それもなるべく近くに置いておかないと、不安である。
温泉は大変気持ち良かった! 但し、雨天のため日焼け止めを全く塗らなかったのが災いした。主に右腕が焼けていて、入浴するとヒリヒリ感が半端ない。特に、湯温の高いところには入れなかった。
入浴を終えてもまだ1時間半以上の待ち時間があったため、まずは愛妻に登頂成功と無事下山の報告をする。さらに、避難小屋で食べられなかったおにぎりと、1つ残ったウィダーを摂取し、エナジーを補給しておく。ペットボトルの水も、500mlがちょうど1本分なくなった。この間、デジカメ電池の充電と、タオルや靴下の乾燥を、並行して実施した。残りの時間は、この日記の元となるメモをひたすらフリック入力していた。
17:40にようやくバスに乗車。この後、一気に札幌まで移動した。旭川では、都市間バスの乗り場を事前に調べておかなかった報いで、10分くらいロス。夕飯を食い損なった。但し、腹の減り具合は昨日ほどではなかったため、札幌到着後にカプホ内で肉うどんにした。内部で大抵のことが完結する仕組みが素晴らしい。
夕食の肉うどん | こちらは朝食。カプホでこれは素晴らしい |
また、当初想定よりも短時間で、登って下りてきた。トムラウシ山に関しては、標準コースタイム12時間10分のところを11時間30分という計画を立てたのに、実際には登り5時間28分、山頂9分、下り5時間11分、計10時間48分だ(休憩時間含む)。ロングコースに加えて前日の大雨という悪条件の中、健闘したと言えるだろう。十勝岳に関しては、標準コースタイム7時間55分のところを7時間25分という計画を立てたのに、実際には登り2時間46分、山頂3分、下り2時間43分、計5時間32分だ(休憩時間含む)。こちらも、前日の疲労が抜けきっていない中で、健闘したと言えるだろう。先月の日光白根山での訓練が役立った。
背景として、登山中の天候と気温が比較的良かったことが挙げられる。暑くも寒くもなく、雨もほどほどだった。但し、毎日断続的に降り続いた雨に関しては、警戒せざるを得なかった。特にトムラウシ登山の前日には道内各地に大雨警報が発令され、夜には寒冷前線が通過していった。その結果、拠点となるトムラウシ温泉に行く途中では土砂降りだった。だが、この雨は夜に降りきってくれたようで、トムラウシ登山中には「曇り→小雨→曇り→晴れ→曇り」と推移した。お陰で、山頂付近では景色も大変良かった。雨の影響で、道が滑りやすく、ぬかるみロードも至る所に存在したが。
十勝岳登山時は、「雨→小雨→曇り→晴れ→曇り→小雨→曇り」と推移した。こちらも、山頂で小雨に降られたのを除けば、まずまず好天に恵まれた。
膝へのダメージは軽微だった。足全体を見ても、擦り傷も切り傷も無かった。左足の人差し指の爪を痛め、後で内出血したくらいだ。筋肉痛は、太ももとふくらはぎに来たが、いずれも軽症だった。7月の日光白根山での訓練が役立ったと言えるだろう。
次に、地図読みもまだまだ甘い。丹沢や富士山のような至れり尽くせりの山にばかり登っていると、道標や「あと1km」等の標識に頼りきってしまう癖がつく。トムラウシ山でも十勝岳でも、地図と地形を見比べて、時には迷いながら、自力でルートを判断する必要があった。これが本来の登山の姿であり、今後も継続的に地図読みを訓練していきたい。
また、事前に雨天だと分かっていたのに、綿100%のズボンを装備したのも間違いだった。雨具下を装備すれば良いと軽く考えていたが、今回のトムラウシ登山のように天候が微妙な時には雨具ジレンマに陥る。もっとも、十勝岳に関しては最初から雨具下を装備した結果、ズボンの濡れはほぼ完璧に防ぎ通した。
下山への苦手意識も、まだ克服できていない。トムラウシ山では、登りと下りはわずか17分しか違わない。十勝岳に至っては、3分だ。逆に、登りでタイムを稼ぎ、余裕を作るのがパターンと化している。
トムラウシ山・十勝岳登山の感想
●今回の収穫
主目的のトムラウシ山と十勝岳に無事登頂し、下山した。ここで北海道の日本百名山を二つクリアしたのは大きい。●今回の反省
まず、日焼け止めを塗り忘れた。トムラウシ山では顔と腕に適当に塗っただけで、塗り忘れた場所が多々あった。十勝岳では、全く塗らなかった。天候が雨だからまぁいいやと軽く考えていたが、日差しに直撃された区間も存在した。このため、首周辺と右腕がそれなりに焼けてしまい、風呂でヒリヒリと痛むことになった。●総括と今後
今後も、北海道の山を少しずつ登っていきたい。百名山を主な攻略目標とするが、それにこだわらず、他の山にも登りたい。また、将来は旭岳から十勝岳に、あるいはさらにその先に至る縦走に挑戦してみたい。
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