Intersteno2015オンライン大会:レポート(2015.3.9-5.11)



Interstenoとは
筆者の結果
プロローグ
戦略
戦術
日本語の係数について
感想(というよりも反省)
来年に向けて
参考文献・謝辞


●Interstenoとは

Intersteno(国際情報処理連盟)とは、1887年に設立された、速記者やタイピストを中心とする団体である。オフラインの速記およびタイピングの大会を2年に1回(2007年以降)、オンラインのタイピング大会を1年に1回(2003年以降)実施している。以下の記述は、2015年3〜5月に開催されたオンライン大会に関するものである。

公式ランキングはこちら

日本人ランキングはこちら

オンライン大会には、17言語で参加可能である。練習サイトであるTakiソフトウェアの順番に並べると、イタリア語、英語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、スペイン語、トルコ語、ポルトガル語、ルーマニア語、日本語、フィンランド語、クロアチア語、チェコ語、スロバキア語、ハンガリー語、ロシア語、ポーランド語である。

各言語で初見の課題を10分間打ち、「総打鍵数−ミス数×50」を得点とする。この得点の合計値で競う。従って、速度を上げることも重要だが、それ以上に正確性を上げることが非常に重要である。但し、毎日パソコン入力コンクール(以下「毎パソ」)とはミスの定義が違う。例えば、1単語内の入れ替えミス(例:that→taht)や、1行すっ飛ばしは、1ミスとカウントされる

筆者はUSインターナショナル配列で対応可能な9言語に加え、かり〜配列(後述)で対応可能な7言語にも参戦した。唯一ロシア語には参戦しなかった。


●筆者の結果

【本番の結果】

言語1言語2言語3得点速度(文字/分)ミス数順位/参加者数
EnglishEN英語4897539.71017/474
NederlandsNLオランダ語4498454.818/207
EspañolESスペイン語4473457.324/155
Deutsch(Schweiz)DE(CH)ドイツ語4114421.4214/278
Português(Brasil)PTポルトガル語4108415.814/106
ItalianoITイタリア語4107430.7421/424
Français(Suisse)FR(CH)フランス語3948414.8412/175
日本語JP日本語3828407.857/104
SuomiFIフィンランド語3800390.026/133
HrvatskiHRクロアチア語3796394.6325/202
RomânăROルーマニア語3726387.638/71
SlovenčinaSKスロバキア語3086333.6529/257
ČeskyCZチェコ語3002320.24117/644
TürkçeTRトルコ語2996324.6587/353
MagyarHUハンガリー語2919301.9239/119
PolskiPLポーランド語2741329.11126/74
平均  3752395.24.0

※合計60039点。総合6位。
※順位は5/12朝時点のもの。また、方言(例:ドイツ語とスイスドイツ語)はまとめて集計している。

【10分間練習の結果】

言語最高記録平均得点平均速度平均ミス数打鍵回数
英語53074900530.08.011
オランダ語47324248449.85.016
スペイン語44733916420.45.812
ドイツ語41763735407.26.816
ポルトガル語41083696382.92.76
イタリア語41073941411.63.56
フランス語40013363382.09.17
日本語43563755406.16.19
フィンランド語39783561380.54.917
クロアチア語37963573377.34.07
ルーマニア語38383341357.24.68
スロバキア語32043009320.13.812
チェコ語30892590294.07.012
トルコ語30072609302.68.36
ハンガリー語29192661291.15.06
ポーランド語34373040331.85.69
合計    160

※上記の数字には本番も含む。
※Takiソフトウェアのバグによるミスと、それによる減点も含む。英語とフランス語でミスが多いのはこのため。


●プロローグ

Pocariさんの尽力で今年から日本語が正式な種目として採用された。しかも、彼のご厚意により、初年度は参加費が無料になるとのこと。そこで、まず日本語と英語に参戦することとした。他には、十分に練習を積んだ言語のみの参戦を検討していた。具体的には、第二外国語だったドイツ語、第三外国語だったフランス語だ。生半可な気持ちで参戦しては日本人の恥晒しになるだけと考えた。

ところが、最も早い段階で練習を開始していたジュニアさんやかり〜さんがTwitterで発信していた情報を総合すると、オランダ語、スペイン語、イタリア語が多言語練習初心者には取り組みやすいとのことだった。そこで、まずはオランダ語とスペイン語の練習を開始した。また、USインターナショナル配列でドイツ語のウムラウトに慣れた段階で、特殊文字がウムラウト以外ほとんど出ないフィンランド語にも取り組めるとの情報をかり〜さんから頂き、フィンランド語の練習も開始した(代わりにスペイン語の優先順位を落とした)。その後、4月中は英独蘭芬の4言語に絞って練習していた。

4/29にPocariさんから本番用のIDとパスワードが送られてきた。そこで、上記4言語の本番を終え、USインターナショナル配列で対応可能な残りの4言語(西伊仏葡)の攻略に着手した。ちょうどゴールデンウィークと重なったこともあり、短期間のうちに効率的な練習を積むことができた。そして、日本語も含め計9言語でそこそこの結果を残すことができた。初年度の参戦はここまでかなと考えた。

ところが! その後、多言語に参戦している人たちにどんどん抜かれ、世界ランキングの順位が低下していった。10〜11言語に参戦している人に9言語で勝つのはさほど難しくない。だが、12言語以上に参戦している人に勝つのは難しい。そして、各言語のスコアで勝っているのに総合得点で負けるのは、総合力で勝負するタイプの筆者としては意外と悔しい。残り8言語に参戦する気は当初は皆無だったのに、いつの間にか参戦方法の模索を開始していた。そして、当初は思いもしなかった劇的な展開を迎えた。


●戦略

(1) 多言語参戦=ランダム練習との認識

日英以外の言語はすべて実質ランダム練習である。何しろ、17言語のうち大半が、打鍵するどころか見たことすらない言語なのだ。

【筆者の各言語への習熟度】

言語言語習熟度打鍵習熟度特殊文字コメント
日本語、英語タイピングの訓練を積んでいる
ドイツ語、フランス語×第二/第三外国語
オランダ語×特殊文字がほとんど無い
スペイン語、イタリア語×英語と似たスペルの単語が多い
ポルトガル語×同上
フィンランド語、クロアチア語、
ルーマニア語
×特殊文字が少ない
ポーランド語××かり〜配列により脅威が激減
ハンガリー語、トルコ語、
チェコ語、スロバキア語
×××特殊文字が多い
ロシア語××××××ラスボス

※言語習熟度とは、言語自体への習熟度を指す。とはいえ、ドイツ語とフランス語はほぼ忘れている。
※打鍵習熟度とは、打鍵経験のある単語の含有率を指す。◎○△×の順に少なくなる。
※特殊文字とは、ダイアクリティカルマーク(何らかの装飾が施された文字)の含有率を指す。◎○△×の順に多くなる。

そこで、TWオリジナルの小文字のみのミス制限練習を基礎トレーニングとして継続した。この種目では英字26文字とコンマ、ピリオド、スペースの計29文字がほぼランダムに近い形で出現する。但し練習を積み重ねると、この種目が実際には完全なランダムでなく、単語の集まりであることが分かってくる。一方、Interstenoの未知の言語も練習を積めばランダム文字列から単語に変わっていく。従って、Interstenoの多言語参戦と両立することで、むしろ相乗効果を狙えると考えた。余談だが、2月末に小文字のみの攻略を再開して以来、5月初までに425.8文字/分(XS)から453.1文字/分(ZJ)まで伸び、総合レベルZGが目前に迫ってきた。

なお、筆者にとって日本語と英語は馴染み深い言語であり、タイピングの練習もそこそこ積んできている。ところが、この油断が後で落とし穴となった。日本語と英語の練習も怠ってはいけない。貴重な稼ぎどころなのだから。

(2) USインターナショナル配列の導入

筆者は、比較的多くの言語に対応可能と言われていたUSインターナショナル配列を導入することを即断した。理由は、短期間で効率的に複数の言語を攻略できると判断したためだ。

ジュニアさんは各言語の独自配列を使い分けて練習することで着実にスコアを伸ばしていた。確かに、十分に時間をかけて練習すればこれが最善の方法だと思う。しかし、後発組の筆者にとって、配列により特殊文字のみならず記号の位置すら変わるという状況に適応するのは極めて困難であると直観した。この直観は、ドイツ語を打つためにドイツ語の配列を調べた時点で存在した。QWERTZ配列に適応する時間はもはや無い。加えて、仮に適応できたとしても配列混同による他言語(例えば英語)への悪影響は免れないと判断した。

USインターナショナル配列にも障害がある。日本語配列とは幾つかの記号の位置が違うためだ。しかし、筆者は過去に職場でUS配列を使用したことがあり、特に苦労することは無かった。初期に練習したドイツ語とフィンランド語ではウムラウト、オランダ語ではそれに加えてアキュートアクセントのみに注意すれば良く、順調にスコアを伸ばすことができた。今思えば、この基礎練習を4月中ずっと継続したことで、他の特殊文字、他の言語への対応もすんなり進んだ。

【記号の打鍵方法】

記号USインターナショナル配列日本語配列
(Shift + 9Shift + 8
)Shift + 0Shift + 9
=^Shift + -
:Shift + ;:
': → SpaceShift + 7
"Shift + : → SpaceShift + 2

※他にも日本語配列と打鍵方法の異なる記号は存在する。だが、Interstenoでは出現しない。

(3) フランス語カナダマルチリンガル配列の導入

Interstenoの17言語のうち、ルーマニア語、ハンガリー語、トルコ語、ポーランド語、チェコ語、スロバキア語、クロアチア語、ロシア語の8言語については、USインターナショナル配列のみでの対応が困難だ。理由は、打てない特殊文字があることだ。

そんな時にTwitter上でeighさんが提唱したのがフランス語カナダマルチリンガル配列だ。それまで見たことも聞いたことも打ったこともなかったこの配列で、上記8言語のうちクロアチア語、ロシア語を除く6言語に対応可能らしい!

そこで、比較的特殊文字の少ないルーマニア語を筆頭に、ハンガリー語、トルコ語の練習を開始した。まず配列に慣れる意味で、打ちやすい言語を先に習得すべきだろう。ポーランド語、チェコ語、スロバキア語については、かり〜さんの多言語タイピングWikiを見た時点で特殊文字が多く、短期間での対応は困難と判断した。

実際、ルーマニア語、ハンガリー語、トルコ語では限られた練習期間でも合格ライン(240文字/分)は上回ることができるとの感触を掴んだ。この3言語に慣れた上で、残りの3言語の練習に着手することで、本番実施期限までに合格ラインを超える見込みが出てきた。

(4) 最終兵器、かり〜配列

クロアチア語は、フランス語カナダマルチリンガル配列をもってしても対応が困難である。理由は、đ(dストローク)という特殊文字の存在だ。本来この言語には特殊文字が少なく、専用配列を習得すれば高得点を狙えるのに、たった1つの特殊文字のために参戦が難しくなる。ところが、5/6にかり〜さんがUSインターナショナル配列をベースとしてクロアチア語に対応可能なかり〜配列(インテルステノ拡張配列)を提唱し、実装・配布を開始した。筆者はルーマニア語、ハンガリー語、トルコ語の練習で手一杯で、この配列の有用性に気付くのが1日遅れた。振り返れば、1日の遅れで済んで本当に良かった。

さらに、かり〜さんがハンガリー語のダブルアキュートにも対応可能とTwitter上で発言していたのを見るにおよび、天啓が閃いた。

打ちづらい特殊文字をすべて割り当てれば、ロシア語以外は打てるようになる!

早速、多言語タイピングWikiで各言語の特殊文字を調査し、余っているデッドキー(@:])に割り当ててみる。その結果、クロアチア語のđの割り当てを変更する必要は生じたが、すべての特殊文字の効率的な割り当てに成功した。基本的に、1つの言語で新たに導入するデッドキーを2つに抑える(USインターナショナル配列で対応済みのものは除く)。これにより、非常に効率的に各言語を入力できるようになる!

この配列を5/7夜にかり〜さんに実装していただいた。そしてルーマニア語を試し打ちしたところ、何とフランス語カナダマルチリンガル配列のスコアを400点以上更新。かり〜配列の使用を決定した瞬間であった。


●戦術

(1) 本番実施の順序

当然ながら、全17言語の本番を1日で実施するのは非効率である。本番実施を繰り返すことで、肉体的にも精神的にも著しく疲労するためだ。さらに、練習の質・量が甘いと各言語の特殊文字や頻出シーケンスを混同するリスクがある。今回は4/29夜に本番参加用のIDを入手後、5/11夜まで13日間の期間があった。但し5/1は登山、5/2はリハビリ、5/11は予備日に充てたため、実質10日である。これを踏まえて、筆者は次のように本番を実施した。

日付・時間帯言語累計得点
4/29(祝)夜ドイツ語、オランダ語、英語13509
5/3(祝)夜フィンランド語17309
5/4(祝)夜スペイン語、イタリア語25889
5/5(祝)夜フランス語、ポルトガル語、日本語37773
5/9(土)午前クロアチア語、ルーマニア語45295
5/9(土)夜ポーランド語、トルコ語、ハンガリー語53951
5/10(日)夜スロバキア語、チェコ語60039

ドイツ語とオランダ語を先に実施したのは、4月中ずっと練習してきたためだ。フィンランド語も4月中練習してきたが、スコアが伸び悩んでいたためもう少し練習したかった。次に、フランス語とポルトガル語は特殊文字への習熟が必要と判断したため、本番実施を後回しとした。5/9以降は、特殊文字の比較的少ないクロアチア語とルーマニア語を優先的に実施し、難関言語のスロバキア語とチェコ語は後回しとした。

幸いなことにゴールデンウィークと重なったため、5/5まではほぼ理想的な形で9言語の本番を終えることができた。但し、その後は6日間で初見の7言語に挑戦することを急遽決定したため、土日に本番を集中させざるを得なかった。その結果、難関言語であるトルコ語とハンガリー語の本番を練習不足な状態で打たざるを得ず、スコアも伸び悩んだ。さらに、4/29に睡眠率が高い状態で英語を打ったのも失敗だった。来年再挑戦するなら、1日あたりの本番実施数は2言語に抑えたい。但し、充分な練習を積んだ状態で、体調が良く、指の調子も好調を持続している場合は、その限りではない。

(2) 本番の実施

ベストの体調で、ベストの時間帯に実施するのは言うまでもない。筆者の場合、休日の午前の遅い時間と、夕食後21時までの時間が最善だった。仕事・育児・家事と重ならず、かつ身体が覚醒しているためだ。また、平日帰宅後や登山直後のように疲労している場合や、リハビリが不十分な場合、眼精疲労や脳・腕・指の疲労が蓄積している場合も、本番実施を避けるべきだろう。

さらに、本番の直前に必ず10分間練習を実施する。これは、他の言語との混同を避けるためだ。例えばトルコ語のıを散々打った後にハンガリー語を打つと、íをıと打ってしまうミスが激増する。また、言語ごとに頻出する単語やシーケンスが存在するため、本番の直前に目と指を充分に慣らしておく必要がある。

また、本番や練習の実施前には使用しないアプリケーションを必ず終了させておく。筆者のケースでは、Outlookの定期的なメール受信により、練習中にブラウザがフリーズしたことがあった。このような事態が本番で発生してはたまらない。WindowsUpdateやLiveUpdateに関しても、10分間打鍵の実施中にはバックグラウンドで動作させないような対策を講じておきたい。

(3) 方言の選択

ドイツ語には本家ドイツ語の他にスイスドイツ語が存在する。主な違いは、後者にはß(エスツェット)が存在せず、ssで置き換えられることである。USインターナショナル配列で参加する場合、後者を採用することで特殊文字が1種類減るため、短期間での攻略が容易になる。但し、長い目で見れば、ssという連打に耐え続けるよりもßの位置を覚えて打つ方が負担が少ないと考えられる。

フランス語には本家フランス語の他にスイスフランス語、ベルギーフランス語が存在する。今回は違いがよく分からなかった。たまたま、練習中に唯一4000オーバーのスコアを出したという理由で、スイスフランス語を選択した。来年参加する際には、じっくり練習してどの方言が有利なのか見極めたい。そもそも、各方言の違いをろくに調査すらしなかったのは反省すべきだ。

オランダ語には本家オランダ語の他にベルギーオランダ語が存在する。こちらも違いをろくに調査しないまま、何となく本家オランダ語のみを練習して本番を迎えた。

(4) キーボードの使い分け

筆者はドイツ語、オランダ語、英語を七号機(韓国で入手した韓国語キーボードのノートPC。Vista機)のキーボードで打鍵した。一方、他の13言語(ロシア語を除く)はこの七号機に東プレRealforce89Uを接続して打鍵した。3言語で東プレRealforce89Uを選択しなかったのは、慣れない言語を東プレRealforce89Uで打つとかすりミスが増えると考えたためだ。ところが、韓国語ノートPCのキーボードには半角/全角や右Alt、~に相当するキーが存在しないため、幾つかの特殊文字に対応できない。例えばスペイン語のñが入力できず、その分だけミス判定が増える。六号機(
タイプウェル練習用のノートPC。XP機)に接続していた東プレRealforce89Uをいちいち接続したり外したりするのも面倒だった。4月中には英独蘭芬の4言語に絞って練習していたのはこのためでもある。

13言語で東プレRealforce89Uを採用したのは、ノートPCのキーボードで打った英語で10ミスと轟沈する一方、東プレRealforce89Uで打ったフィンランド語で4ミスに抑えたためだ。TWオリジナルのミス制限練習も東プレRealforce89Uで打鍵しており、そこまでミスが増えることはないという目論見もあった。結果として、最初から東プレRealforce89Uを採用すべきだったかもしれない。来年は練習の質と量を増やし、東プレRealforce89Uを中心としたい。

(5) 日本語におけるかな入力とローマ字入力の使い分け

東プレRealforce89Uにおけるかな入力はどうしても安定しなかった。確かにローマ字入力では望み得ない速度を得られるのだが、ミスが減らない。特に濁点打鍵時に右手薬指が「わ」に触れたのが認識されてミスになるパターンが根絶できなかった。毎パソの和文部門の予選のように同じ文章を300回練習できるならこのミスは根絶できる。だが、初見課題でこのミスを根絶することは不可能というのが、現時点での結論だ。実際、ひどい時には10ミスを超えた。これでは本番で採用できない。そこで、錆が付きまくっていたローマ字入力を急遽リハビリし、本番に間に合わせた。

(6) 配列の使い分け

配列言語
日本語配列日本語、英語
USインターナショナル配列ドイツ語、オランダ語、フィンランド語、スペイン語、
イタリア語、フランス語、ポルトガル語
かり〜配列クロアチア語、ルーマニア語、ポーランド語、トルコ語、
ハンガリー語、チェコ語、スロバキア語

USインターナショナル配列は、US配列を打ったことのある筆者にとって導入が容易であった。しかし英文打鍵時には記号の場所が違うため、やや遅くなる。そこで、日本語の他に英語については日本語配列を採用した。

かり〜配列では、USインターナショナル配列をベースに各言語の特殊文字が割り当てられている。このため、USインターナショナル配列を習得した筆者にとってはやはり導入が容易だった。今回のような超短期決戦では、この配列の導入が最適解だろう。

(7) Takiソフトウェアのバグへの対応

Takiソフトウェアの練習課題には、以下の問題点が存在する。発見次第Pocariさんに報告し、その総数は約20件に上った。これは、今年のみならず来年以降の練習課題の精度を上げるためだ。

・言語によっては、10分間練習用の課題が2〜3種類しか無いため、初見課題の対策にならない。
・スペルミスが存在する(例:英語でcompetitition)
・その言語では使用しないはずの特殊文字が出現する(例:英語でéçやì)
・麻雀牌に似た記号が出現する(スイスドイツ語、フランス語、スイスフランス語、ベルギーフランス語、英語で確認)
・その他、打ち方の分からない記号が出現する(下記参照)
・アポストロフィがすべてミス判定となる文章がある(英語、スイスフランス語、トルコ語、ルーマニア語で確認)
・ハイフンがミス判定となる文章がある(日本語、ハンガリー語、ルーマニア語、フランス語で確認)
・短すぎて10分未満で終了する文章がある(スイスフランス語で確認)
・結果表示画面でうまく改行されておらず、ミスの詳細が隠れて表示されない(イタリア語、ポーランド語で確認)
・日本語で、10分経過時点で仮確定文字列が残っていると、ミス判定になる。

アポストロフィバグに関しては、日本語配列のShift+7やUSインターナショナル配列の:→Spaceで打鍵すると'が表示される。ところが、一部の文章では’が使用されていると思われる。ハイフンバグに関しては、日本語配列やUSインターナショナル配列の-を入力するとミス判定になることがある。一部の文章では–(nダッシュ)や—(mダッシュ)が用いられている可能性がある。これらは非常に紛らわしく、Takiソフトウェアの画面上では判別不可能だ。

他の特殊文字や記号はかり〜配列で対応可能だ。とはいえ、これらの特殊文字や記号は、基本的に本番には出ない。従って、練習時に理不尽な減点をされても、本番で出ないと割り切れば良い。

特殊文字/記号打鍵方法出現範囲
«右Alt + @フランス語、スイスフランス語、クロアチア語
»右Alt + [フランス語、スイスフランス語、クロアチア語
Shift + : → 1ルーマニア語、トルコ語、英語
Shift + : → 2ルーマニア語、トルコ語、英語
æ右Alt + zフランス語(未確認)、クロアチア語
œ右Alt + xフランス語、スイスフランス語


●日本語の係数について

今回の日本人参加者から、日本語の係数「2.2607」は不利との声が多数挙がっている。確かに、大半の参加者のスコアが「英語>日本語」となった現状を鑑みれば、そういう感想を持つことも理解できる。実際、日本人のうち英語と日本語の両方で合格条件を満たした41人中、32人(78.0%)のスコアが「英語>日本語」であった。母国語である日本語よりも外国語である英語の方が平均的にスコアが高いというのでは、違和感を覚えるのもある意味当然だろう。

しかし個人的には、そんなに不利な係数とは思わない。実際、筆者の日本語の記録は407.8文字/分(ミス5)で3828点だった。これは参戦16言語中9位に相当する。確かに英語と比較すれば低めだが、ポーランド語やハンガリー語、チェコ語、スロバキア語等と比較すれば十分に高い値だ。そしてこの例は筆者だけに当てはまるわけではない。今回の日本人参加者105人について、各言語の合格者平均点のランキングは以下の通りとなる。日本語の係数が有利というよりもむしろ、英語の優位性が際立っているのだ。そして、日本語の係数をさらに上げるのであれば、特殊文字の多い他の言語にも係数を設定すべきだろう。なお、以下の表は日本人だけを対象としているため、世界ランキングをベースにデータを取得すればまた違った結果が得られるかもしれない。

言語合格者平均点合格者数
英語357154
スペイン語327215
イタリア語303921
オランダ語302826
ポルトガル語302814
フランス語295316
クロアチア語290613
ルーマニア語289611
フィンランド語287916
ドイツ語282618
日本語281473
ポーランド語28138
トルコ語28117
スロバキア語27208
チェコ語26447
ハンガリー語26068
ロシア語22293

日本語の係数は今回の参加者の平均値をベースに再検討するとのことだ。だが筆者は、係数を上げるとしても2.5程度に留めておくべきと考える。あまり高い係数を設定すると、今度は文章により日本語が有利になりすぎるリスクがあるためだ。

今回は、たまたま変換が素直に成功しない文章が出題されたから平均的に落ち込んだだけだと思う。というよりも皆さん崩れすぎ。普段かな入力を使用し、今年に入ってからローマ字入力は今回のInterstenoの直前に数回打っただけの筆者が、日本人の日本語参加者101人中7位ってどういうことよ。但し、ミスのペナルティに関しては他の言語と比較して大きめと感じた。ミス数にも何らかの係数が掛かっているのが原因と思われる。特に失格ラインギリギリの文字数しか打てない場合、ミス率の制限に引っ掛かりやすくなる。


●感想(というよりも反省)

限られた練習期間(というよりも限られた本番実施期間)で、多数の未知の言語を含む16言語に参戦し、合計で6万点を超えた。この事実は、初参戦という条件を鑑みれば評価して良いだろう。だが、この得点で日本人1位というのでは、日本人全体が低く見られる。ランキング1位のCelal Aşkın氏を筆頭に、世界の強豪たちからは大きく引き離されている。まして今回は、欧米人の大半が参戦を見送った日本語を含むというアドバンテージがあったのだ。代わりに筆者はロシア語に参戦せず、欧米上位陣と並ぶ16言語だったのだが。

特に、英語のミス馬鹿ぶりがひどすぎた。10ミスはあり得ない。タイピストとして自分を許せない。しかも、かすりミスを恐れて東プレRealforce89Uを敢えて使用せず、七号機(ノートPC)のキーボードで打ってこの結果だ。原因は明らかに、事前の練習が不充分だったことだ。

さらに、ポーランド語で11ミスと崩壊した。これは、Takiの本番用ソフトウェアが自動的にタイムアウトしたことに気付かなかったミスに由来する。本番を実施したと思い込んでいたら、実は練習用ソフトウェアが起動していただけだった。全神経を集中した10分間で1ミスに抑え、ほっとした次の瞬間に記録が反映されていないことを知った時の落胆は極めて甚大だった。直後に画面をリロードし、ログインし直して本番を打ったのも失敗で、集中力が続かず崩壊した。もっとも、根底には練習不足がある。この難関言語をわずか8回しか練習せずに本番を打つ方が間違っているのだ。

他の言語(ロシア語を除く)では5ミス以内に抑えた。これに関しては、TWオリジナルの小文字のみのミス制限練習を地道に継続した成果が現れたと言えるだろう。また、ほぼすべての言語で、本番では練習時とは明らかに違う集中力が発揮された。その結果、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、クロアチア語、ハンガリー語の計5言語で、本番で自己ベストを叩き出した。もっとも、裏を返せばこれらの言語の練習量が不足だったということだ。この辺に、来年に向けて改善の余地がある。

最後に、ノーミスの言語は1つもなかった。練習時にも、ルーマニア語で1回出しただけだ。全160回の10分間練習(本番含む)中、1ミスは12回、2ミスは19回、3ミスは14回、4ミスは27回だった。合格ラインであるミス率0.50%以内(4000文字につき20ミス以内)は少し意識すればほぼ確実に出せる。0.10%以内(4000文字につき4ミス以内)も、頑張れば可能だ。だが、0.05%以内(4000文字につき2ミス以内)となると運も絡む。今回はこのデータが得られただけでも収穫と言えるだろう。


●来年に向けて

幸いなことに、戦略と戦術の見直しにより、総得点を伸ばす余地は多い。

まず、言語ごとに最適な方言と配列を検討する。確かにかり〜配列は短期決戦では最強だったし、クロアチア語など幾つかの言語では各言語の独自配列よりも速いと思う。だが、ハンガリー語、チェコ語、トルコ語を筆頭に速度が極端に低下した言語もあった。これらの言語に関しては、長い目で見ればジュニアさんのように独自配列を習得する方が勝ると思う。筆者にとって最も打ちづらかったハンガリー語も、ハンガリー人のDöbrentey Dániel氏は600文字/分に迫る速度で打っているのだ。なかなか伸ばし甲斐がある。

次に、今年参戦を見送ったロシア語についても参戦を検討する。対策は大きく分けて二つある。キリル文字およびロシア語専用配列を習得する正攻法と、paraphrohnさん提唱のインテルステノロシア語配列を採用しつつ図形認識で頑張る短期決戦だ。Interstenoの意義を考えれば本来は前者を採用すべきだが、時間もしくはモチベーションが限られた場合は後者を採用する可能性もある。

さらに、練習量の確保だ。各言語につき最低1週間の練習期間を確保し、10分間練習を少なくとも20回はこなしてから本番を打ちたい。今回は、本番参加用のID入手が4/29までずれ込んだため、大半の言語の練習期間が限定された。これは、言語間の混同を避けるため、言語を幾つかのグループに分けて、グループ毎に練習期間と本番実施日を設定したためだ。結果的に、5回しか練習せずに本番を打った言語もあった。練習の質はともかく量は明らかに不足だったと思う。そして、量を増やすことで得点はまだまだ伸びるだろう。モチベーションを確保できればの話だが。


●参考文献・謝辞

Pocariさん:Interstenoオンライン大会への日本語部門追加を先頭に立って推進し、実現にこぎつけたのみならず、2015年の日本人参加者120名もの参加費までご負担頂きました。この方の尽力なくしては、筆者はInterstenoの存在すら知らず、まして参戦など考えもしなかったことでしょう。ありがとうございました。

ジュニアさん:最難関のロシア語を含む全17言語への参戦を目指し、最も早い段階で練習に着手していました。その過程では、各言語の独自配列を習得し、特殊文字や記号の入力方法を一から調査・導入されるなど、先行者として並々ならぬ苦労があったことと推察します。大会開始後も、世界初の17言語参戦を目指し、常に引っ張って下さいました。筆者も最終段階で目標とさせていただきました。

かり〜さん:ジュニアさんと同様、ロシア語を含む全17言語への参戦を目指し、最も早い段階で練習に着手していました。加えて、多言語タイピングWikiを開設され、多言語参戦への道筋を示して下さいました。「かり〜配列(インテルステノ拡張配列)」を提唱・実装され、USインターナショナル配列だけでは参戦が困難な7言語に関する問題を解決するなど、その貢献度は計り知れません。今回日英以外の言語に参戦した日本人が大会期間終了直前に増加したのは、間違いなくかり〜さんのお陰であると言えるでしょう。

eighさん:「フランス語のカナダマルチリンガル配列でほぼすべての言語に対応可能」という情報を頂きました。USインターナショナル配列では対応が困難な7言語をほぼ諦めていた筆者にとってこの情報は福音にも等しく、その日のうちにルーマニア語、ハンガリー語、トルコ語の練習開始を決断しました。結果的にかり〜配列で対応したとはいえ、参戦決定にはこの情報が大きな助けとなりました。

やださん:Takiソフトウェアで出現した "This page and application is only for use on computers, not available for mobile devices." というエラーに対して、画面サイズを拡大するか文字サイズを小さくすることで解決できるという情報を頂きました。このエラーにより筆者の練習が丸一日停止を強いられており、このままでは16言語参戦が危うくなるところでした。結果的に16言語に参戦できたのは、この助言があったからです。ありがとうございます。

paraphrohnさん:日本人参加者にとって最大の障害となるロシア語に対して、「インテルステノロシア語配列」という短期決戦向けの最適解を提唱していました。さらに、これを改善した「超インテルステノロシア語配列」を用いて、わずか3時間で合格ラインに到達するという離れ業を演じていました。これらの配列により、ロシア語への障壁は非常に低くなったと言えるでしょう。

愛する家族:ゴールデンウィークおよびその直後の土日という、本来は育児・家事・家族サービスに充てるべき貴重な時間の大半をInterstenoの多言語参戦に投入できたのは、間違いなく家族のおかげです。我が子との散歩の時間も、リフレッシュの機会として活用させていただきました。ありがとう! ……というよりも、我ながらろくでもない夫・父親だと思う。来年以降もオンライン大会に参加するなら、ゴールデンウィークを毎年潰すことになるというジレンマがある。


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