次に、筆者がタイピング(と言うよりもパソコン)と出会ったのは、大学入学後である。必修科目「情報処理」(Pascalプログラミング中心)に加え、試験対策プリントもパソコンで打ち込んで配布する必要があった。別にそれが強制ではなかったが、ドイツ語の単語リストやら訳文やらを全部手書きで書く気にはならなかったのだ。従って、嫌でもキーボードに触れることになった。最初のうちはタッチタイプという概念を知らなかったので、キーボードを見ながら打っていた。だが、授業の課題の他にも友人と長文メールのやり取りをするうちに少しずつ指がキー配置を覚えていった。その際、概ね次のような過程をたどった。
(1) 「私は」「しかし」等、文章内に良く出てくる単語の打ち方を自然に覚える。
(2) キーボードを見なくても打てる単語が次第に増えていく。
(3) 「じゃ」「ぃ」のような滅多に出ない文字の入力方法を一つ一つ覚えて潰す
当時は美佳タイプにまだ出会っていなかった。ローマ字単語で言えば100〜150文字/分程度だったと思う。また、Pなど英字26文字の中にもタッチタイプできない文字が存在していた。
これと前後して「生協学生委員会」なる別の組織にも新規に加入した。そこではさらにハイレベルな争いが待っていた。ここで初めて美佳タイプを打った時、筆者のスコアは311文字/分程度。だが、318文字/分を打つ方がいた。これは頑張れば抜けるだろうと思っていた。一方で、英単語412、数字421、パスカル580という、当時の筆者には信じられないスコアがあった。だが、英単語系で唯一の得意種目であったMSDOSコマンドで594をマークした頃から、この組織でも次第にトップへのし上がっていった。
また、DQ6のデータをHPで公開したり、ネットニュースの読み書きを盛んに行ったり、そしてゲーム研究会会誌第1号(B5、84ページ)を制作(PC作業は実質自分1人で行った)したりする過程で、タイプ速度は少しずつ伸びていった。このように、必要に迫られている場合や、他の人と競っている場合にはえてして上達が早いものだ。
話が前後するが、「生協学生委員会」ではまずローマ字単語での覇権を奪うことに全力を挙げた。その結果、1996年7月頃、330文字/分に達したあたりで決着がついた。しかし同時に、ローマ字単語練習ばかりを集中的に練習することの限界を悟った。また、英単語など他の種目でもトップへのし上がろうと思った。1996年3月には330程度だった英単語、400そこそこのパスカル、400に達しなかったC言語やBASICの他、ランダム練習にも手を出し始めた。思えばこれがタイピング上達の転機となった。
MSDOSコマンドでは、DISKCOPYなど数種類の単語の打ち方を考えるだけで400、500、600という壁を次々と突破していった。やや邪道ではあるが、DISKCOPYを打つ時に限りOを中指、Pを薬指で打つと安定してこの単語を打ち終えることができ、以後得意単語の1つとなった。それならばパスカルやC言語だって同じだろうと思ったが、procedureやsscanfにはかなり手を焼いた。「ced」「ssca」の早打ちの難しさは半端ではない。このあたりが、MSDOSコマンドほどには早く打てない原因であろう。それでも練習を積むうちに、パスカルとフォートランで500を超えた。同時にランダム練習もぐんぐん伸びていき、ホームポジションで300を超えるなど、比較的短時間のうちに「数字」「8086アセンブラ」以外の全種目でトップを奪うことができた。
「8086アセンブラ」を克服するにはさらに約2ヶ月を要した。それでも、当時の記録「323」は破ることができた。問題は「数字」である。ホームポジションすら300そこそこの筆者が、まともに最上段を打っていては400など夢のまた夢だ。そこで最初からテンキー入力で打っていた。当初はやや迷いもあった。しかし、421をマークした先輩が「右手の人差し指1本によるテンキー入力」を実践しているのを見て、テンキー入力の方が速いという確信を得た。筆者には人差し指1本という芸当はとてもできないが、親指で0、人差し指で147、中指で258、薬指で369を打てば、少なくとも最上段を打つよりは速く打てる。だが、350を超えたあたりから記録が伸び悩んだ。
長い間ほとんどやっていなかったローマ字単語練習だったが、330文字/分の力を取り戻すのに時間はかからなかった。そしてその後、332、334、339、348、351、360、368、……(この数字、一部あやふや)という具合でスコアが伸びていった。
1997年の夏休みには、統計学の課題として美佳タイプの研究をやった。「ローマ字単語練習のスコアとミスタッチ数の関係」「英単語練習とローマ字単語練習のスコアの関係」「ローマ字単語練習のスコアと打鍵数の関係」等を調査した。資料はどこかの段ボールに埋もれていて発見できないが、見つけたら公開予定である。その結果、スコアとミスタッチ数には相関関係が全くなく、他2つには相関係数0.8以上という比較的強い相関関係が確認された。つまり、複数の練習を行えば相乗効果で両方の練習が伸び、またミスタッチが多少増えてもスコアへの悪影響はほとんどない、ということが分かった。
研究期間中にローマ字単語378、英単語497というスコアが出た。副産物として、MSDOSコマンド666、パスカル631、フォートラン615、8086アセンブラ458といった記録が生まれた。また、スピード練習の他に、ミス1桁でローマ字単語や英単語練習を打つ練習もした。この練習ではローマ字単語340台、英単語450台が最高だったと思う。だが、その後の打ち方に微妙な変化を及ぼし、スコアの伸びにつながっていった。
ローマ字単語は1997.10.17に385、1997.12.5に382、1998.2.14に385と、ほぼ2ヶ月に1回の割合で380を超えた。とはいえ、ミスタッチが一桁に近く、打ちやすい単語が多数出現し、ミスしたときに迅速かつ完璧にリカバーできるという条件が全部揃わないと380台は出ない。この意味で、筆者のローマ字単語はこれが限界かと思った。しかし1998.3.1、そこそこいい感じで打ち進んでいくといつの間にか最終行を半分以上打っている。さらに速度を上げたところ、全部を打ち切ってしまった。記録406.8達成! この日は早打ち系がさえ渡り、MSDOSコマンド704、英単語533をも記録した。だが……いくら調子が良かったとはいえ、その後一度もこんな記録は出ていないし、自己2位以下の記録との差も大きい。従って筆者の中でのローマ字単語406とMSDOSコマンド704は「参考記録」という位置付けである。英単語は2000.1.17に530を記録したことだし、すべてがうまくかみ合えば550くらいは打てる自信があるが。
1998年に入り、数字が伸び始めた。コンスタントに最終行まで到達するようになり、2ヶ月ほどで400の壁を超えた。だが、2〜3月に406.8を3回記録したが、これ以上の記録は出ていない。筆者のテンキー入力ではこの辺が限界なのかもしれない。
その後就職した筆者は、会社のノートPCに美佳タイプを入れて昼休みなどにちょこちょこと練習していたが、なかなか学生時代のスコアを上回れなかった。ノートPCのキーボードにはすぐに慣れたが、ミスを1回でもすると極端に処理が遅くなるのだ。従ってほぼノーミスで入力しないとろくなスコアが出ない。ローマ字単語はたまに370台が出る程度であり、MSDOSコマンドも600台すら難しかった。この時ばかりはやる気をなくしかけた。一方で、学生時代には240に達しなかったローマ字ランダム練習が少しだけ伸びるという奇妙な現象も発生した。
1999年6月には自分専用のノートPCを購入したが、美佳タイプのミス時の大幅ロスという問題は解決できなかった。この頃にはろくに練習もせず、気が向いた時にやっていたローマ字単語は350台に低迷していた。雑誌の付録についてきた「猫的タッチタイプ」なるソフトに一時期はまったが、すべての練習で「神速の域」という評価を得る頃にはほとんどやらなくなった。
2件目。これがTyping Attackである。……ローマ字単語ハイスコア386、MSDOSコマンドは660台。これは手強い! 見た瞬間そう思った。また、美佳テキストを含めすべての練習で競えるというシステムが気に入った。
とりあえず何か記録を出さないことには話にならないから、怒涛のようにWindows版美佳タイプを開始。初期状態では3行しか表示されないのでその気になればとんでもない高記録が出る(ローマ字単語412とかMSDOSコマンド750台とか)が、当然こんなズルをやるつもりはない。で、初回プレイは軽く流す。ローマ字単語340程度、MSDOSコマンド500程度だったと思う。そして10行すべてが表示されたところで適当にスコアを入れ始める。ローマ字単語360、MSDOSコマンド550、英単語450程度だったと思う。これらをまとめて登録したところ、総合、ランダム練習、英単語練習、ローマ字練習、英文練習すべてでベスト5に入り、努力次第でトップになれるという確信を得た。
ちなみに、MS-DOS版で昔出した記録、特にローマ字単語406とMSDOSコマンド704はあえて登録しないことにした。1回しか出ていないし、今の自分には出せないと分かっているからだ。
2000年に入り、本格的に記録更新を開始した。まずはローマ字単語380、MSDOSコマンド643。約2年ぶりに味わう超高速入力の感触には感動を覚えたものだ。だが、早打ち系(ローマ字単語、MSDOS、パスカル等)はその後伸び悩んだ。その代わり、昔はあまり力を入れていなかったランダム練習(ローマ字ランダム練習を含む)がじりじりと伸び始めた。これは、本格的な練習を開始したこと、Typing Attackには昔の筆者を上回る強者が存在したこと、ロケテスト中のザ・タイピング・オブ・ザ・デッドで変な単語を打ちまくったことなどが原因であろう。
2000.1.24現在、Typing Attackでは「MSDOSコマンド」「パスカル」「C言語」「ローマ字単語」を除きトップを獲得している。自己ベストを出しても30近く届かないC言語を除けば、昔の勘が戻ればトップ獲得も不可能ではない。だが、各練習を見るとまだまだ甘い。2位以下を圧倒的に引き離しているのはテンキー入力の「数字」(2000.1.10に四度目の406.8を記録)のみである。
だがC言語、BASIC、8086アセンブラ、英単語など、打鍵数が500前後の英単語系練習についてはあと2割程度伸びる余地があると思う。確かに打ちづらい単語が存在し、それによって記録が伸び悩んでいる。だが、そういう単語を1つ1つ克服していくことによって記録が伸びるはずだ。
次にランダム練習も、まだまだ伸びる余地がある。「全段」以外は努力次第で400は可能だと思う。2000.1.23現在、「ホームポジション」の351が最高だ。まだ指を動かせていない部分があり、もどかしさを感じることが多い。だがもう少し練習を積めば、「何が出てこようとも瞬時に打てる状態」に到達すると確信している。実際、ホームポジションで351を出した時には、そういう状態が全体の約半分を占めていた。なぜ打てないのかを解明し、対策を行った時、壁を破ることができるだろう。残りのランダム練習も同様である。一般的に打ちにくいとされる「下一段」も、見方を変えれば7文字しかないのだ。9文字ある「ホームポジション」、10文字ある「上一段」で340を超えていることを考えれば、同じレベルまでは達すると考えられる。また、ローマ字ランダム練習ももう少し伸ばせるだろう。現時点のロスの最大の原因は、「づ」「ぽ」でとっさに指が動かないことである。この辺を改善すれば280程度までは伸びるだろう。ただ、300に行けるかどうかは未知数である。
「全段」については、やや勝手が異なる。筆者は「数字」をテンキー入力で練習していたが、それがネックになるのだ。「全段」で数字を打つ時には最上段を打つ。まさかテンキーまで右手を伸ばす人はいないだろうし、ノートPCでは物理的に不可能である。よって、最上段の数字入力にもある程度慣れる必要がある。ところが、筆者は試しにそれをやってみたところ「282文字/分」。これを改善するのが先決だ。そしてある程度改善された時、全段300が見えてくるだろう。ちなみに、テンキー入力による「数字」も400を少し超えるあたりが限界と感じている。レジ打ち等に慣れればもう少し出せるのかもしれないが、右手だけで400文字/分というのは両手で700文字/分を打つよりもきつい。よって、最上段の入力の方が長い目で見れば上回るのかもしれない。