老化とタイピング

2020.12.6(Sun)
文責:dqmaniac

※本稿は、たのんさんの主催するタイパー Advent Calendar 2020に登録しています。
※昨日の記事は、かり〜さんのタイパーインタビュー02:Conconさんです。
※明日の記事は、かり〜さんのタイパーインタビュー03:mayoさんです。



結論
老化とは
認識
判断
打鍵
老化に抗うには


●結論

老 化 に 抗 う に は 判 断 の 老 練 を も っ て せ よ !


●老化とは

本稿における老化とは、加齢に伴う各種能力の低下を指す。特に高強度の運動能力に関しては40代以降顕著に現れる。プロ野球選手やプロサッカー選手の大半が40歳までに引退を余儀なくされるのが好例だ。20歳を過ぎると筋肉量が毎年1%低下していくという研究結果もあるらしい。

筆者の場合、40歳を過ぎてから始めたランニングで当初は毎年記録を伸ばしてきた。これは、元々の筋力や走力が不足だった状況でトレーニング効果が出たためと考えられる。ところが、45歳を迎えた2020年は、10月に長期風邪の影響で3週間近く走れない日が続いた影響で、速度も距離も明確に低下した。具体的には、昨年はキロ4分30秒を切って7km走ることができていたのに、今年はキロ4分40秒で5km走るのがやっとという体たらくだ。インターバル等の高強度トレーニングをやろうとしても、心肺と脚の双方が悲鳴を上げる。長い距離を走ろうとしても、体力も気力も続かない。そもそも風邪が3週間近く続いたり、下手すると気管支炎に発展したりという事態も、20代や30代ではあり得なかった。

タイピングではどうか。ここでタイピングとは、タイプウェルに代表される短距離種目において、国語Rで総合ZJ、英単語で総合ZH(両方とも800打/分を30秒継続)を狙うような高強度トレーニングを主に指す。タイピングは大雑把に言うと認識・判断・打鍵の三要素に分解される。このうち認識は目、判断は脳、打鍵は腕と指を主に使用する。本稿では老化によりどの要素が衰えたのかを分析し、今後のタイプウェルの記録更新の可能性を模索する。


●認識

数字として明確に現れるのは、初速である。筆者のタイプウェル国語Rの各モードの初速の推移を表1に示す。

【表1:タイプウェル国語Rの各モードの初速の推移】

年齢初速
2003年以前20代0.4秒台前半
2007年30代0.4秒台後半
2016年以降40代漢字で0.5秒台前半、他モードでは0.5秒台後半

2016年以降で漢字だけ速いのは、下段のローマ字を読んでいるためだ。他の3モードでは上段の日本語を読んでいる。もっとも、0.5秒台後半が出るのは、打ちやすいカタカナやひらがなで始まる時に限る。打ち辛いカタカナやひらがなが出ると0.6秒台、漢字の場合は0.7秒台まで落ちることも珍しくない。これは、次項で述べる判断の要素が入ってくるためだ。

数字として表現できないものの、明確に衰えていると感じるのは、視力および動体視力だ。検査で測定できる視力は20代の頃とほぼ変わらない。眼鏡の度が進んでいることもない。だが、タイプウェルに関しては明らかに変わった点がある。それは、2016年以降、[オプション]→[文字・画面サイズ設定]を[最大]に設定しないとまともに読めなくなったことだ。2007年以前は[中]設定でもそこそこ読めていたのに。

動体視力の欠如が顕著に現れるのは、改行時の認識だ。これは20代の頃と変わっていない。先を読めないので推測しながら打っている。推測を外しては即死してブチ切れることも日常茶飯事だ。[オプション]→[流れる文字設定]で[流れる文字を表示する]で解決できないかと言われることもあるが、これも動体視力不足で読めない。コンパクトモード(F2)も試してみたが、かえって記録が低下した。動く文字を追いかける分だけ認識が遅れるのが原因と考えられる。

先読みした文字を先に打つ現象にも苦労している。例えば慣用句で[気が済む けんもほろろ]を見て脊髄反射で[ken]と叩いて爆死する。類似の現象で、ローマ字を読むと[h],[k],[t]の判別が難しいというのもある。例えば[takikawa]と[tatikawa]、[kikuti]と[kituki]の区別は非常に難しく、毎回確率1/2に賭けるしかない。これは老化というよりも、もともとできないし、練習を重ねても改善されていないのだと思う。但し、加齢に伴い現象は頻発するようになっている。


●判断

タイプウェルではこの要素も重要だ。具体的には、カタカナ語で[モッツァレラ][ドゥシャンベ]を見て即座に[mottsarera][dwusyanbe]というローマ字を脳内で構成しなくてはならない。特に[ツァ][ドゥ]は日常的に出てこないため、ワードに特化した訓練が必要だ。
ザ・タイピング・オブ・ザ・デッドの[女]を[ONNA]と打つ訓練を重ねたように。

基本では[一日][身体]を見て[ついたち][しんたい]と読まなければならない。一瞬でも[いちにち][からだ]を思い浮かべたらその瞬間に敗北だ。数ワードを習得すれば良い基本でさえこの判断に苦戦するのだから、漢字はもはや無理ゲーだ。難読漢字や難読地名を含め2000ワード以上を丸暗記し、瞬時に読み切る必要がある。筆者の脳には負荷が高すぎる。従って、漢字を読むよりもローマ字読みを突き詰めた方がZJに近いと判断し、漢字の日本語読みへの挑戦は先送りにしている。

慣用句も漢字ほどではないが深刻で、[羹に懲りて膾を吹く]といった難読漢字を瞬時に読み切る必要がある。とはいえ、慣用句のローマ字読みは漢字のローマ字読みよりも難易度が高いため、消極的選択で日本語を読んでいる。

これらの判断に関しては、老化により衰えたのではなくもともとできないと考えている。できないのは練習の質と量が不足しているためであり、今後改善の余地がある。


●打鍵

20代の頃は、何も考えずがむしゃらに打ちまくっていれば良かった。だが、30代に入ると力任せに打つことにより腱鞘炎の前兆と思われる痛みが発生するようになった。具体的には、タイプウェル国語R・英単語・国語K・オリジナル数字で概ね700文字/分を超える打鍵を一定時間継続すると、右手中指や薬指が少しキーに触れただけで痛むようになった。

その後は、力任せの打鍵を可能な限り避けるようにした。乱打を避け、正確性と安定性を重視する打ち方に徐々に変えていった。そもそも打鍵速度が要求される種目を極力避け、オリジナルの数字以外の種目を鍛えたり、Interstenoの10分間練習を重視したりした。タイプウェル国語Rや英単語で普段からミスを抑えた打ち方をする(そして結果的にミス1%以内記録ノーミス記録を狙う)のも、このためだ。

40代に入るとどうなるかと思っていたら、1日のうちでベストかそれに近いパフォーマンスを出せる時間が明確に減少した。具体的には、三セットに分けて練習する場合、第一セットと第三セットではまずまともな記録が出ないようになった。もちろん各セットの前に指慣らしは実施するのだが、それでも第一セットでは指が充分に温まらない。一方、第三セットに入ると既に両腕がパンプアップしていて、ろくな打鍵ができない。以上により、第二セットを中心に、数少ないチャンスを確実にモノにしていかないと、更新はおろか、高々400文字を打ち切ることすらできない。

さらに、スタートダッシュが決まる確率が明確に低下した。1行目前半で、さらに言えば最初のワードでミスや硬直が発生し、それが連鎖して大規模な崩壊につながり、Escを余儀なくされる事態が、20代や30代の頃と比較して明確に増加した。Interstenoのような長距離種目ならともかく、タイプウェルのような短距離種目でスタートダッシュができないのは致命的だ。


●老化に抗うには

筆者には、老化を受容して今後の更新を諦めるという発想はまだ無い。老化に関しては非常にネガティブに捉えており、老化を受け入れるくらいなら死んだ方がマシだくらいに思っている。

実際、認識・判断・打鍵の各要素が確実に老化しているとはいえ、まだできることはあるはずだ。バーバラおばあちゃんという偉大な先人の例もある。目が見えなくなるとか、指を失うといった事態にならない限り、タイピングの記録は伸ばしていけると思いたい。

確かに、認識や打鍵に関連する能力は日々衰えていく。だが、老化の速度を抑制する手段はある。退化防止練習改め、老化防止練習だ。即ち、競技タイピングに特化した練習を少しずつでも継続することだ。但しこれはネガティブな練習である。練習することで改善される要素は少ない一方で、練習しなければ確実に、そして加速度的に衰えていく。このような状況で練習を継続するには、強靭なモチベーションが不可欠だ。

一方で、判断には経験により補える部分があると言われている。その一環として、2019年以降、筆者は最適化第二段階の導入に取り組んだ。即ち、[cu][co][fu][xn]を徐々に採用し、かつハイフンの担当を右手中指から薬指に矯正している。これらについても、脳内で個別に判断が必要だ。第一段階(※)と違ってローマ字を変更する必要があり、ワード毎の訓練も必要だった。また、タイプウェル国語Rでは[ca][cu][co]を個別に設定できない。すべて変えると例えば[柏崎]が[casiwazaki]と表示され、左殺しが凶悪化する。よって、[kou]を見たら[cou]と打つという訓練が必要だった。40代半ばになってからこの訓練を実施するのは非常に辛く、1年経過してもまだ適応しきれていない。20代、せめて30代のうちに習熟しておけばと後悔せずにはいられない。

※最適化第一段階では[un]を中人、[nu][hu][yu]を人中、[po]を薬中に矯正した。20代の頃に採用した。ローマ字を変更する必要が無く、運指だけ変えれば良かったため、そして老化の影響が無かったため、短期間で適応できた。

最適化第二段階への習熟が進んだら、次は第三段階だ。例えば一部のワードに[ca][zi][zyu]を採用したり、[うやむや]の[uy]を中人で打ったりという手段が考えられ、試験的に導入している。また、第二段階の最適化のうち、[cu][co][fu][xn]を入れない方が良いワードを一つ一つ抽出し、潰していく作業も欠かせない。例えば[孤独]は[codocu]よりも[kodoku]の方が明らかに打ちやすい。10年前の筆者は、国語Rでの速度不足(そして殿堂ポイントの伸び悩み)は国語Kで補えば良いと考え、ローマ字入力の最適化(もしくは指の運動能力の強化)を怠ってきた。今更遅いかもしれないが、今後伸びが期待できる部分でもある。


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