Intersteno2020オンライン大会:レポート(2020.4.14-6.1)



Interstenoとは
筆者の結果
プロローグ
戦略
戦術
各言語の対策(主要なもののみ)
感想(というよりも反省)
来年に向けて
参考文献・謝辞
各種資料


●Interstenoとは

Intersteno(国際情報処理連盟)とは、1887年に設立された、速記者やタイピストを中心とする団体である。オフラインの速記およびタイピングの大会を2年に1回(2007年以降)、オンラインのタイピング大会を1年に1回(2003年以降)実施している。以下の記述は、2020年4〜6月に開催されたオンライン大会に関するものである。

公式ランキングはこちら

日本人ランキングはこちら

オンライン大会には、16言語で参加可能である。練習サイトであるTakiソフトウェアの順番に並べると、イタリア語、英語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、スペイン語、トルコ語、ポルトガル語、ルーマニア語、フィンランド語、クロアチア語、チェコ語、スロバキア語、ハンガリー語、ロシア語、ポーランド語である。なお、今年は日本語の本番開催が中止となった(練習サイトには存在する)。

各言語で初見の課題を10分間打ち、「総打鍵数−ミス数×50」を得点とする。この得点の合計値で競う。従って、速度を上げることも重要だが、それ以上に正確性を上げることが非常に重要である。但し、毎日パソコン入力コンクール(以下「毎パソ」)とはミスの定義が違う。例えば、1単語内の入れ替えミス(例:that→taht)や、1行すっ飛ばしは、1ミスとカウントされる


●筆者の結果

【表1:本番の結果】

言語得点速度(文字/分)ミス数順位参加者数
英語6131(+281)618.1(+13.1)1(-3)3(-)620(+237)
フランス語5766(+317)596.6(+46.7)4(+3)5(-1)143(+2)
イタリア語5629(+65)582.9(+21.5)4(+3)4(-)242(-30)
スペイン語5353(-129)545.3(-12.9)2(-)3(+1)168(+14)
オランダ語5351(+86)550.1(+18.6)3(+2)2(-1)201(+2)
ポルトガル語5339(-81)543.9(-8.1)2(-)3(-)94(+7)
クロアチア語5249(-53)534.9(+4.7)2(+2)4(-3)224(+10)
ドイツ語5225(+622)537.5(+52.2)3(-2)4(+3)265(-1)
トルコ語5154(-121)530.4(-7.1)3(+1)15(-6)213(-220)
ルーマニア語5143(-263)519.3(-21.3)1(+1)1(-)70(+14)
フィンランド語5002(-89)515.2(+1.1)3(+2)2(-1)133(+7)
ポーランド語4807(+28)495.7(+12.8)3(+2)4(-1)104(+34)
チェコ語4780(+127)483.0(-2.3)1(-3)2(+2)655(+424)
スロバキア語4766(+184)486.6(+18.4)2(-)2(+1)387(+123)
ハンガリー語4380(-299)463.0(-4.9)5(+5)3(-1)111(+15)
ロシア語4276(+50)442.6(+5.0)3(-)15(-7)49(+15)
合計82351(+725) 42(+13)2(-1)1516(+273)

※()内は昨年比。
※合計欄の昨年比は、日本語を除く16言語で算出した。
※得点、速度、順位、参加者数は上がった時に+表示。ミス数は増えた時に+表示。
※オランダ語とフランス語にはベルギー方言、ドイツ語には本家で参加した。
※順位は6/5夕方時点のもの。また、方言(例:本家ドイツ語とスイスドイツ語)はまとめて集計した。

【表2:10分間練習の結果】

言語最高記録平均得点平均速度平均ミス数
英語6399(+181)5915(-11)603.9(-1.5)2.49(-0.08)
フランス語5908(+293)5643(+197)572.0(+24.2)1.56(+0.89)
イタリア語5734(+170)5506(+83)560.6(+13.2)2.00(+1.00)
スペイン語5575(-111)5348(+27)545.2(+2.1)2.08(-0.12)
オランダ語5550(+259)5303(+105)539.0(+7.5)1.73(-0.61)
ポルトガル語5471(+51)5286(+33)541.7(+6.3)2.62(+0.62)
クロアチア語5292(-10)5056(+105)518.6(+9.3)2.60(-0.23)
ドイツ語5331(+191)5134(+189)527.2(+13.6)2.78(-1.06)
トルコ語5656(+129)5219(-41)534.8(+1.3)2.58(+1.08)
ルーマニア語5335(-71)5084(+19)518.9(+3.9)2.11(+0.40)
フィンランド語5205(+45)5084(+63)515.4(+7.3)1.40(+0.20)
ポーランド語4807(+28)4598(+98)474.1(+16.6)2.86(+1.36)
チェコ語4781(+28)4546(+3)468.6(+0.7)2.80(+0.07)
スロバキア語4903(+6)4668(+10)483.5(+3.7)3.33(+0.53)
ハンガリー語5039(+327)4607(+66)475.7(+9.9)3.00(+0.67)
ロシア語4581(+280)4182(+145)432.4(+13.3)2.84(-0.24)
日本語4905(+181)4549(+166)469.9(+20.5)3.00(+0.78)
合計90472(+1977)85727(+1256)  

※()内は昨年比。
※上記の数字には本番も含む。
※Takiソフトウェアのバグによるミスと、それによる減点も含む。
※日本語は、本番は開催されなかったが練習は実施した。


●プロローグ

2020年オンライン大会にも、ディフェンディングチャンピオンとして臨むこととなった。とはいえ、2017〜2019年大会での世界第一位は、2016年の覇者であるparaphrohnさんの不在によるところが大きい。それに、かつて15〜16言語で8万点を超えたSean、Danielといった偉大なタイピストたちも本来の実力を発揮していないか、もしくは不在だった。昨年と同等の実力で彼らとガチ勝負をした場合、敗北する可能性は高いと考えた。このため、2020年の目標は昨年の記録を更新して四連覇と決定した。

ところが、練習に必要なモチベーションが上がらなかった。タイプウェル国語Rでまよまよを抜くという目標に注力するあまり、萌え燃え尽き症候群に陥ったためだ。結局、タイピングに注力できるのは休日のみとなった。ところが、休日に打つのはInterstenoでなくタイプウェル国語Rという状況が2月末まで続いた。その結果、タイプウェル国語Rの記録は12年前と比較して7000ポイント以上伸びた。だが、12/31に基本常用語で29.184秒を出して以来、伸びがほぼ止まった。まずは総合レベルZJに到達すべく、もう少し伸ばしておこうと悪あがきを続けるうちに、2月も終わろうとしていた。


●戦略

2020年のテーマは、日本語を含む17言語で世界のタイピストたちとガチ勝負とした。背景として、日本人以外の参加者が日本語に公平に参戦できるようにするため、日本語(transliterated)、即ちローマ字読みで日本語を入力できる種目が新設されるという情報があった(大会公式ルールにも掲載された)。これに伴い、昨年まで日本語に参戦できなかった海外のタイピストたちの大半が日本語(transliterated)を打ってくると予測した。

対策は二つある。一つは、日本語対策だ。漢字かな交じり文を打鍵する旧来の日本語種目では、係数2.2607の存在を考慮しても明らかに不利になる。何しろ、昨年の筆者の実績を見ると、キリル文字を打ち続けるロシア語や、特殊文字の多いチェコ語のスコアでさえも、日本語のスコアを上回っているのだ。それに、終了時に未確定文字列が残っていると全部エラー判定となる仕様も致命的だ。そこで、筆者も日本語(transliterated)に挑戦し、1000点以上の上乗せを狙う。幸いなことに、タイプウェル国語Rの漢字でローマ字読みの訓練を継続していたため、ローマ字読みへの耐性はそれなりにある。従って、英語並みとはいかないまでも、フランス語やイタリア語と同等以上の速度を期待できる。

もう一つは、日本語以外の16言語の速度アップだ。昨年のレポートの「来年に向けて」に記載した通り、積極的に攻めることによる速度アップを狙う。正確性を保ったまま高速化するのが望ましい。だが、大前提として速度を上げないことにはスコアも頭打ちになる。これに関しては、基本的に、2016年大会である程度確立した戦略を踏襲した。同様のアプローチでもう少し伸ばす余地があると考えていたためだ。但し、必要に応じて修正を加えた。

(1) 各言語の配列の再検討 〜頻出特殊文字の1打鍵化〜

2017年と同様。

なお、ポルトガル語の10分間課題に[ñ]の出現を新たに確認した。だが、配列に反映させる前に本番を終えたため、来年以降更新する。

(2) 各言語の配列の再検討 〜デッドキーの活用〜

2017年と同様。

(3) 基礎力強化

5月から2月に至るまで、タイプウェル国語Rの攻略を継続していた。英語に加えて、練習不足気味のフランス語やイタリア語のスコアが伸びた背景には、タイプウェル国語Rによるベース速度の強化があったと考えられる。

Takiの練習課題の全文再入力とミスの検出も、平日の日課として進めていた。その結果、新たに約250万文字の課題に対して約600ものミスを検出し、精度を向上させた。詳細は後述する。

一方、10月から始まったTypeRacer対戦会では苦戦を強いられた。たのんさんの実力は昨年からさらにパワーアップしており、特にトップスピードでは勝ち目が無かった。そこで、苦手言語や練習不足の言語に限り、TypeRacerでの事前練習を解禁した。だが、その程度では太刀打ちできなかった。さらに、今年新たに参戦してきたAndreaのベース速度はさらに凄まじく、高速言語では毎回のように叩きのめされた。

(4) 練習スケジュール

3月に入り、大会期間が迫ってきたため、重い腰を上げて練習を開始した。本番実施を見据えて、本番対策と同様に1週間に4言語を練習した。具体的な練習計画は表4の通り。日本語を除く16言語を一通り練習できた。

【表4:練習スケジュール】

期間言語
2020/3/2-8チェコ語、スロバキア語、ポルトガル語、スペイン語
2020/3/9-15ロシア語、ハンガリー語、トルコ語、英語
2020/3/16-22クロアチア語、ルーマニア語、イタリア語、フランス語
2020/3/23-29ポーランド語、フィンランド語、ドイツ語、オランダ語
2020/3/30-4/5チェコ語、スロバキア語、ポルトガル語、スペイン語
2020/4/6-12ロシア語、ハンガリー語、トルコ語、英語

平日帰宅後は眠すぎるため、1分間練習によるリハビリを中心とした。疲労が蓄積している金曜日は原則として休養日に充てた。単に10分間打つというノルマをこなすだけの無益な練習を徹底して排除した。そして、本番を想定した10分間練習のほとんどは休日に実施した。10分間練習の平均得点が2019年以降向上しているのは、このためでもある。但しスペイン語とロシア語の1分間練習の課題数は限られており、課題を覚えてしまうリスクがあった。このため、平日帰宅後に10分間練習を打つこともあった。

2015年〜2020年大会に向けた練習量の比較は表5の通り。2020年の練習量は2019年こそ上回ったものの、2018年以前と比較するとなお少ない。また、本番用IDが到着すると想定してから実際に到着するまでの約3週間を英語、トルコ語、ハンガリー語、ロシア語の練習に充てたため、その分を除けば昨年と大差無い。大半の言語では必要十分な調整を実施できた一方で、練習不足のまま本番を打たざるを得ない言語も幾つか存在した。

【表5:10分間練習の打鍵回数の比較】

言語2015年2016年2017年2018年2019年2020年
英語11245(+234)86(-159)151(+65)7(-144)51(+44)
フランス語744(+37)14(-30)9(-5)3(-6)9(+6)
イタリア語611(+5)16(+5)11(-5)5(-6)10(+5)
スペイン語1214(+2)9(-5)14(+5)20(+6)13(-7)
オランダ語1612(-4)16(+4)11(-5)6(-5)11(+5)
ポルトガル語621(+15)14(-7)15(+1)14(-1)13(-1)
クロアチア語725(+18)16(-9)15(-1)12(-3)15(+3)
ドイツ語1620(+4)16(-4)9(-7)6(-3)9(+3)
トルコ語617(+11)9(-8)155(+146)6(-149)57(+51)
ルーマニア語811(+2)18(+7)40(+22)7(-33)9(+2)
フィンランド語178(-9)6(-2)8(+2)5(-3)5(-)
ポーランド語911(+2)10(-1)13(+3)6(-7)7(+1)
チェコ語1213(+1)16(+3)35(+19)11(-24)10(-1)
スロバキア語128(-4)12(+4)14(+2)10(-4)6(-4)
ハンガリー語633(+27)13(-20)18(+5)6(-12)26(+20)
ロシア語035(+35)94(+59)44(-50)14(-30)67(+53)
日本語924(+15)10(-14)36(+26)9(-27)5(-4)
合計160552(+392)375(-177)598(+223)147(-451)323(+176)

※上記の数字には本番および仕様調査を含む。
※各年の打鍵回数には、前年オンライン大会終了翌日から当年オンライン大会終了当日までのすべての10分間練習を含む。

(5) 本番実施の順序

全17言語の本番を1〜2日で実施するのは非効率である。本番実施を繰り返すことで、肉体的にも精神的にも著しく疲労するためだ。さらに、練習の質・量が甘いと各言語の特殊文字や頻出シーケンスを混同するリスクがある。

今回も一昨年と同様、公式の大会期間と実際の本番実施期間は異なると予測していた。一方、新型コロナウィルスの影響により、今回の大会実施期間は4/14〜6/1であり、49日間に拡大された。2017年までの例から、本番参加用のIDを入手できるのは早くて4/19朝と想定した。ところが、日本語の方言導入によるテストの遅れにより、実際には何と5/11未明にずれ込んだ。このため、特にロシア語・ハンガリー語・トルコ語・英語に関しては、昨年よりも練習期間が増えた。その代わり、例年と違ってGWを本番に投入することができず、17言語の本番実施戦略の再構築が必要となった。表6に示す通り昨年までと比較しても休日の少ない、余裕の無いスケジュールを組む必要に迫られた。

【表6:2020年大会の本番に向けたスケジュール】

期間低速言語中速言語高速言語
2020/4/8-5/17ロシア語、ハンガリー語トルコ語英語
2020/5/16-17  フランス語、イタリア語
2020/5/18-24チェコ語、スロバキア語ポルトガル語スペイン語
2020/5/24-25 ルーマニア語 
2020/5/25-30ポーランド語フィンランド語、ドイツ語オランダ語
2020/5/29-31 クロアチア語日本語

※1カ月前から練習を継続していた4言語を最初に実施する。
※ハンガリー語とトルコ語の配列は親和性が高い(öüをwqに配置)。
※フランス語とイタリア語の配列は共通。また、経験値が高い。
※チェコ語とスロバキア語の配列は親和性が高い(特殊文字を34567に配置)。
※スペイン語とチェコ語、スロバキア語、ハンガリー語の配列は親和性が高い(áéíを@[]に配置)。
※ドイツ語とオランダ語は言語として親和性が高い(ゲルマン語派)。
※ドイツ語とフィンランド語の配列は共通。
※ポーランド語とクロアチア語は言語として親和性が高い(スラヴ語派)。

基本的に、2016年以来のスケジュールを踏襲した。高速に打てる言語(英語、オランダ語、スペイン語、イタリア語)と速度の出ない言語(ロシア語、ハンガリー語、ポーランド語、チェコ語、スロバキア語)を可能な限り分散させた。これは、高速に打つ感覚を維持するとともに、低速言語を底上げするためだ。

また、親和性の高い言語や、共通の配列を使う言語は、同じ週に打つのが効率的だ。逆に、混同する可能性の高い言語(例:フランス語とスペイン語、ハンガリー語とドイツ語、ポーランド語とチェコ語)を同じ週に打たないように注意した。なお、チェコ語とスロバキア語にも混同しやすい部分がある。だが、配列の親和性による相乗効果の方が上回ると判断し、同じ週に実行することとした。

……

最終的な本番実施スケジュールは表7の通りである。平日は仕事があるため、本番実施は土日や祝日がメインとなる。

【表7:2020年大会の本番実施スケジュール】

日付・時間帯言語累計得点コメント
5/16(土)夕方ロシア語4276びびりすぎ。序盤改行位置がずれて探索と修正で5秒ロス
5/16(土)夕方英語10407闘志を前面に出し、速度重視で立て直し続けた
5/16(土)夜トルコ語15561文章の難易度が高い上、直前の練習にピークが合ってしまった
5/17(日)夕方ハンガリー語19941初見文章に苦戦。4つしかない10分間課題に慣れすぎた
5/17(日)夕方フランス語25707闘志を前面に出して攻めまくった。速度は自己ベストだが4ミス
5/17(日)夜イタリア語31336同上
5/23(土)夕方スペイン語36689初見文章に苦戦。脳も覚醒せず、ピーク合わせに失敗
5/23(土)夜チェコ語41469直前の練習が絶不調。良い意味で開き直り、思う存分加速
5/23(土)夜スロバキア語4623520時を過ぎ、眠気・疲労との闘い。2ミスでよく耐えた
5/24(日)夕方ポルトガル語51574びびり過ぎ。速度を上げる練習が不足。単語への習熟も不足
5/24(日)夜ルーマニア語56717付け焼刃の1日勝負で昨年の爆発スコアを上回るのは困難すぎた
5/29(金)夕方フィンランド語61719びびりすぎ。要所で硬直とミス⇔BSを連発し、大きく出遅れた
5/29(金)夕方ドイツ語66944昨年の反省を踏まえ、入念に準備
5/30(土)夕方オランダ語72295左が動かず苦戦。1行飛ばし未遂が無かった分だけ伸びた
5/30(土)夜ポーランド語77102打ちやすい文章を速度重視で攻めまくり、本番で自己ベスト!
5/31(日)夕方クロアチア語82351頻出ワードに早めに慣れ、終盤は速度重視で速攻

※5/28,29には休暇を取得。


●戦術

(1) 練習課題文の収集と入力、再入力

InterstenoのTakiソフトウェアに出現する1分間練習および10分間練習の課題文を収集した。結果は
こちら目的は、文字の出現頻度の調査の他に、ミスの原因把握と傾向調査である。2015年大会に向けた練習ではここができていなかったため、打鍵終了後に表示される結果画面からミスの原因を推測するしかなかった。ミスした単語をGoogle翻訳やGoogle検索に入力すると、正解らしき単語を見出せることもある。だが、すべてのケースでうまくいくわけではない。これでは練習効率が悪すぎる。

そこで、1分間練習の課題文を計1387個、10分間練習の課題文を計513個収集した(昨年以降の追加分は1分間課題114個)。さらに、収集したすべての練習課題を実際に入力してExcelシートに整理し、ミスの原因を正確に把握できるようにした。具体的な方法は2018年と同様である。

さらに、難関言語に限らず全文再入力を実施した。1分間練習の課題文のうち1295個、10分間練習の課題文のうち426個、合計で約550万文字を再入力した(昨年以降の追加分は1分間課題544個、10分間課題201個、合計で約250万文字)。その結果を過去の入力結果とEXACT関数で比較し、計2000箇所に迫るミスを検出した(昨年からの増加分は約600箇所)。この作業の結果、残存ミス率は約0.05%から0.001%未満に減少したと推測される。

(2) Takiソフトウェアの問題点、特殊文字への対応

Takiソフトウェアの練習課題には、こちらに示す問題点が存在する。また、こちらに示す特殊文字・記号が出現する。いずれも2018年までに調査・実装済みだったため、今年もその成果を活用した。

(3) 方言の選択

ドイツ語、フランス語、オランダ語の方言選択にも、上記の練習課題の収集結果資料が役立った。具体的には、バグや特殊文字の少ない方言を選択することで、練習の効率アップと本番の得点アップを狙った。

ドイツ語には本家ドイツ語の他にスイス方言が存在する。2019年以降は前者を採用している。両者の主な違いは、後者には原則としてß(エスツェット)が存在せず、ssで置き換えられることである。つまり特殊文字が1種類減るため、短期間での攻略が容易になる。但し、長い目で見れば、ssという連打に耐え続けるよりもßの位置を覚えて打つ方が負担が少ない。いずれにせよ出現頻度は低いため、実際には大差無い。なお、2016年と2018年のスイスドイツ語の本番では、ßが複数回出現した。このような場合に備え、ßを含む配列を準備し、かつ位置を把握しておく必要はある。

フランス語には本家フランス語の他にスイス方言、ベルギー方言が存在する。2016年以降、バグが最も少ないベルギー方言を採用している。但し、本質的な違いは調査しても分からなかった。その後、Taki担当者とのやり取りの中で、本家フランス語やスイス方言では記号(;:!?)の直前にスペースが入る一方、ベルギー方言では入らないとの情報を頂いた。普段打ち慣れた仕様であるベルギー方言を選択して正解だった。

オランダ語には本家オランダ語の他にベルギー方言が存在する。本質的な違いは調査しても分からなかった。一字一句違わない課題文章を両者で使い回している事例も複数存在した。但し、一部の特殊文字は方言により得点が違うことがある。特にオランダ語ではベルギー方言の.が2点なので、スコアにして約1%有利になる。この仕様に気付いた2019年以降、ベルギー方言を採用している。

(4) キーボードの選択

2017〜2019年大会では、東プレRealforce106(All30g)を主に使用した。日本語かな入力を除いて、All30gでもミスを抑えつつ高速化できるという確信を得たためだ。実際、2016〜2019年の総ミス数の推移は47→28→35→34、1言語あたりの平均値は2.76→1.65→2.06→2.00であり、2016年と比較して有意に減少している。

All30g適用の実験を開始したのは2016/12/19だった。2003年時点の筆者はこのキーボードを使いこなせなかった。打鍵時に隣のキーに指が軽く触れただけで認識され、ミス判定となる「かすりミス」が目立ったためだ。だが、東プレRealforce89U(45g/30g)で10年以上も正確性重視の鍛錬を継続してきたため、All30gでも次第にミスを抑えて打てるようになった。それならば、速度を出せるAll30gの方が良い。折しも、45g/30gのキーボードのSpaceキーのレスポンスが長年の酷使の影響で悪化し、高速打鍵に悪影響を及ぼすようになってきたため、All30gを久々に採用した。

但し、2019年は日本語のみ45g/30gに戻した。All30gが長年の酷使の末、5/3に至ってついに故障したためだ。

2019年10月、消費税増税前に新たに東プレRealforce(R2TLSA-JP3-IV)を調達した。All30g、かつテンキー無しという基準で選択した。このキーボードはタイプウェル国語Rの更新には役立ったが、カスリが激増するというデメリットがあった。従ってIntersteno向けには使えないのではないかという危惧を抱いた。だが、APC設定を「よく使うキー2.2mm、使わないキー3.0mm」としたことで、カスリを防ぎ、Interstenoの実戦に投入する目途が立った。

(5) その他環境整備

2018年とほぼ同様。本番準備・実施手順書を作成し、遵守することで、人為ミスをシステム的に根絶することを目指した。但し2019年は、Windows10機で打鍵中にフォーカスが勝手に外れる事故に悩まされた。フィンランド語と日本語の本番でも発生した。当初は左Altもしくは左Ctrlへの誤爆による何らかのショートカット発動が原因と考えていた。だが、他にも原因がありそうだ。原因究明のためMy Window Loggerを導入したが、まだ原因を見出せず、対策もできていない。なお、2020年の本番では幸いなことにフォーカス外れが発生しなかった(練習では頻発した)。

4/7、自宅の電気契約を30Aから40Aに上げた。打鍵中にブレーカーが落ちてもPCはバッテリーで動くため問題無い。だが、ルータの電源も落ちるためネット接続が一時的に遮断される。これが危険すぎる。

(6) 本番の実施

ベストの体調で、ベストの時間帯に実施するのは言うまでもない。今年の筆者の場合、休日の夕方と、夕食後20時までの時間が最善だった。仕事・育児・家事と重ならず、かつ身体が覚醒しているためだ。また、平日帰宅後や登山直後のように疲労している場合や、リハビリが不充分な場合、眼精疲労や脳・腕・指の疲労が蓄積している場合も、本番実施を避けるべきだろう。

また、1日あたりの本番実施数は2言語に抑えたい。但し、充分な練習を積んだ状態で、体調が良く、指の調子も好調を持続している場合に限り、1日に3言語の本番を実施することもあった。

さらに、本番の直前に10分間練習を実施する。これは、本番で使用する配列に確実にセットすると同時に、他の言語との混同を避けるためだ。また、言語ごとに頻出する単語やシーケンスが存在するため、本番の直前に目と指を充分に慣らしておく必要がある。但し英語や日本語など、ガチで10分間打つと疲労する高速言語についてはほどほどにしておく。5分で止めても良いし、1分間練習×5で代用しても良いだろう。2018〜2020年は「前半は速度重視、後半は速度を落として正確性重視」「前半で体が覚醒しなかった場合は後半も速度重視」のように、その日の調子に合わせて使い分けた。要は、本番にピークを持っていくため、本番を想定してある程度本気を出しつつも、準備と割り切って力を抜くということだ。


●各言語の対策(主要なもののみ)

2018年2019年とほぼ同様。


●感想(というよりも反省)

限られた本番実施期間で、複数の難関言語を含む16言語に参戦した。その結果、日本語を除く16言語で82351点(昨年比+725)となり、昨年の歴代最高スコアを一時的に更新した。ところが、そのわずか1日後、15言語で83490点を叩き出したSeanに抜き返され、1139点差をつけられて四連覇を逃した。

当然ながら、来年もこの得点で同じ順位を獲得できると楽観はしていない。2015年以来の日本人の奮闘ぶりを見た諸国のタイピストたちが、座視しているとも思えない。特に、Sean, Andreaとの死闘が予想される。正確性重視で速度を抑えてばかりでは絶対に勝てない。さらに、新たな強力なライバルたちが続々と出現してくる可能性もある。さらなる境地を目指すためにも、まずは今年の失敗と成功を分析する。

(1) 失敗から学べ!

最大の失敗は、ハンガリー語とトルコ語のピーク合わせの失敗だ。本番直前の練習にピークが合ってしまった。直前の練習と比較して、本番ではそれぞれ659点、433点も落ち込んだ。逆に、チェコ語では441点、英語では405点も上昇した。チェコ語では直前の練習で指が冷えていたため、指慣らしを兼ねていた。英語では、疲労を防ぐため本気モードでは打たなかった。2週目以降はこの反省を活かし、本番にピークを合わせるようにした。

次に、ルーマニア語では本番に向けた調整期間が短すぎた。前の週にベルギーフランス語とイタリア語を1日で調整して本番を打ち、ある程度成功を収めていたため、ルーマニア語でも同じことが可能という油断があった。実際には、フランス語とイタリア語には10分間課題の再入力で得られた経験値があり、これが無いルーマニア語とは大きな差があった。ルーマニア語では昨年の実績(本番の文章運に恵まれノーミス爆発)に驕り、練習を怠り、多少崩れても何とかなるだろうと根拠の無い甘い見通しを持って本番を迎えた結果、当然のように屈辱的惨敗を喫した。

スペイン語、ポルトガル語、オランダ語では、高速に打つ練習が明らかに不足していた。ミスタッチの増加を恐れたためか、昨年までの速度からなかなか脱出できなかった。単語の高速化も、文章として捉える能力の高速化も、明らかに不足していた。これでは、本番で初見文章を高速に打てるわけがない。

(2) 本番への適応、ピーク合わせ

ロシア語、トルコ語、英語、ハンガリー語を除けば、練習量は昨年並みに少なかった。このため、本番にピークを合わせて結果を出すことが不可欠となった。まず、本番を無理に打たないことを(ルーマニア語とチェコ語を除き)徹底した。例えば調整時の1分間練習の結果が安定しない場合や、直前の10分間練習で不調を自覚した場合だ。

本番では速度重視で臨んだ。昨年と違って、高速に打てると見切った部分では積極的に飛ばすことを10分間続けた。また、この言語を今年打つのもこれで最後なのかと感慨に浸りながら、打つ過程を楽しむようにした。緊張感に襲われた言語も幾つかあったが、むしろミス低減に役立てることができた。

その結果、ポーランド語では本番で自己ベストを叩き出した。イタリア語、チェコ語、ドイツ語、クロアチア語でも本番で自己ベストに120以内と迫るスコアを叩き出した。このように本番での調整は概ね成功した。

体調管理もほぼ完璧だった。風邪、そして致命傷となる扁桃炎を防ぐため、睡眠時のマスク着用を徹底した。また、4月以降はランニングの負荷を落とし、怪我をしないように留意した。そして朝型の生活リズムを維持し、睡眠と休養を充分に取ることにより、練習および本番への悪影響をほぼゼロに抑えた。

(3) 基礎力強化の結果

タイプウェル国語Rによるベース速度の強化は、英語、フランス語、イタリア語のベース速度の向上に大きく寄与した。確かに本番の文章が打ちやすかったという要因もある。だが、その打ちやすい文章を高速に打ち抜けることができたのは、ベース速度が向上したためと考える。

日本語についても、新種目であるtransliteratedを打つ気満々で準備していた。最後の土日で既存の日本語種目をローマ字入力で打ってリハビリを進め、全盛期の実力をほぼ取り戻していた。transliteratedの仕様にもよるが、5500点は超える見通しがあった。この超短期決戦を可能にしたのは、ベース速度の向上だ。

(4) ミスの増加

総ミス数は昨年よりも13も増加した。全言語でミスを恐れず積極的に攻めたためだ。来年以降の死闘を見据えると、昨年の速度で満足しているわけにはいかなかった。ミスで減った650点は、速度を上げて1375点稼ぐ(1言語あたり約86点、つまり8.6打/分の増加)ことで補った。むしろ、これだけ速度を上げてもミスを平均2.63に抑えた点は評価して良いだろう。

一方、極めて残念なことに、本番でノーミスを達成した言語は一つも無かった。練習時には、英語での8回を筆頭に、15言語で計40回ノーミスを出したにもかかわらずだ。全323回の10分間練習(本番含む)中、1ミスは58回、2ミスは64回、3ミスは74回、4ミスは40回だった。昨年と比較すると、4ミス以内の確率が約88.4%から約85.4%に、2ミス以内は約59.9%から約50.2%に減った。ミスを恐れず速度を上げる練習を中心とした結果、ミスが増加した。一方、ノーミスは約10.9%から約12.4%に増えた。これは、昨年に低下しすぎた反動と考えられる。

ミスをある程度抑制しているのは、改行位置がずれた場合の対応の改善だ。2018年以来、改行位置がずれた場合は1行以上消してでも修正している(日本語を除く)。今年は幸いなことに、本番で改行位置ずれにより大きくロスしたことはなかった。というよりも、単語単位、行単位でずれない限り、前の行を振り返らないようにした。改行位置チェックに頼ってミスを減らすよりも、そのチェックによる減速を防ぐことを重視した。

……

スコアの伸びがすべて実力によるものではない。特にドイツ語で622アップ、フランス語で317アップ、英語で281アップという爆発的な伸びは、本番の文章運による部分も大きい。特にドイツ語の文章は、昨年と比較して段違いに打ちやすかった。フランス語では昨年のような緊張感に襲われることもなく、日々の全文再入力の成果を存分に発揮できた。英語では運良く1ミスに抑制できた。大会の性質上、運に左右される要素はどうしても出てくる。幸運が毎回訪れるとは限らない以上、ベースとなる実力(速度、正確性、言語習熟度、配列習熟度)を地道に向上させる必要がある。


●来年に向けて

目標に掲げた「昨年の記録を更新して三連覇」のうち、前半部分は達成したが、後半部分は達成できなかった。また、日本語を除く16言語で85000点、全17言語で90000点という将来の目標にも遠く届かなかった。そこで、来年に向けてこの目標を再び掲げるとともに、トップ奪回も目標とする。

筆者の今後数年を見据えた戦略がいつ実を結ぶかはまだ分からない。筆者が90000点以上を狙うには、もはや低速言語の底上げだけでは不充分だ。高速言語では6000点を目指して鍛錬を積み重ねる必要がある。

しかし幸いなことに、戦略と戦術の進化により、総得点を伸ばす余地は残されている。限界はかつて考えていた地点よりも遥かに先にある。カギは、攻めることだ。ミスを抑えて打てるギリギリの速度に、まだまだ伸ばす余地がある。それでは、来年に向けてさらに伸ばすには具体的にどうするか。

(1) 各言語の習得

究極的には、極めて有効と考えられる。実際、英語では言語習熟度がタイピングに好影響を及ぼしている。打ちながら読解し、先の流れを推測できるメリットは計り知れない。単語の羅列ではなく文章として認識できるため、速度は落ちないしミスも減る。タイプウェル英単語やTypeRacer、10FastFingers等の短距離種目では日本人タイピストの中でも決して速くない筆者が、Interstenoや毎パソ等の中長距離種目で上位に居座っていられるのはこのためだ。また、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語に関しても、英語に似たスペルの単語が多数出現するため、英語習熟度がある程度影響を及ぼしている。

さらに、第二外国語としてある程度習得したドイツ語に関しては、長い単語を見た時にどこで区切るかが概ね分かるというメリットを体感できた。同じゲルマン語派のオランダ語に関しても、習得はしていないものの、同様のメリットを享受した。

一方、第三外国語として選択しつつも習熟が甘かったフランス語では、タイピングに好影響を及ぼす段階に至っていない。2017年以降のフランス語のスコアアップの要因は、特殊文字や一部の単語に慣れたことであって、フランス語の習熟とは無関係である。まして、第四外国語以降を新規に習得するとなると、タイピングに好影響を及ぼすレベルまで引き上げるには数年かかりそうだ。長期的視野で取り組むべき課題と言えるだろう。

(2) 各言語の頻出単語・頻出シーケンスの習得

短期的にできる対策は、これに尽きる。例えば、10分間練習を100回繰り返せばある程度の成果を期待できる。例えばハンガリー語に関しては、2016年大会に向けて重点強化する過程で幾つかの頻出単語を覚えたことで、明らかに高速化された。azonban(しかし)、napjainkban(今日)といった打ちやすい単語に加えて、egészség(健康)のような打ち辛い単語も高速化できたのは収穫だ。その甲斐あって、2020年の練習では5039まで伸ばし、ようやく5000の壁を破った。

2017年大会に向けて重点強化したロシア語でも、本格的な高速化には至らなかったものの、頻出単語は幾つか覚えることができた。Takiの練習課題では、жизни(生活)、подход(アプローチ)、Москве(モスクワ)、экономических(経済の)、воспроизводство(再生)、распределения(配布)、производство(生産)といった単語が頻出する。2020年にはようやく4500の壁を破った。さらに練習を積めば本番でも4500に到達できると確信している。キリル文字、頻出単語、頻出シーケンスにはまだまだ慣れる余地がある。

他の難関言語も例外ではない。2018年にスロバキア語で4970まで伸ばしたのは、大いに自信になった。ポーランド語、チェコ語も昨年の記録を更新し、5000が視野に入ってきた。

中速言語の底上げも順調だ。2019年に開眼したポルトガル語が5500に迫ってきたのに加えて、ドイツ語も壁を破りつつある。クロアチア語、ルーマニア語、フィンランド語も最高記録・平均得点ともに伸びており、数年後の5500到達が有望だ。

そして高速言語。フランス語では練習で5908まで伸び、6000が見えてきた。イタリア語、トルコ語も次のステップに向けて歩みを進めている。当然、ここが限界ではない。英語では6200台を連発しているのだ。確かに英語以外の言語ではダイアクリティカルマークで減速を強いられる。だが、特殊文字の出現頻度を考慮すると、これだけで1割以上も遅くなることはないはずだ。言語に、単語に、シーケンスに、慣れていないだけだ。特殊文字の多いフランス語で他の高速言語と互角以上のスコアが出ているのは、英語に似たスペルの単語が多く、脳と指が慣れているからだ。

(3) 来年の重点強化言語

表8に示す通り、全17言語にまだ伸ばす余地がある。但し、課題収集と全文入力はほぼ終了したため、2019年までのような顕著な伸びはもはや期待できない。地道な練習により少しずつ実力を積み上げていくしかない。日本語については、transliteratedの仕様を考慮すると、ローマ字入力を引き続き底上げしたい。一方、漢字かな交じり文に参戦する場合は、KR混在入力を引き続き試行錯誤したい。例えば前半はRで打ち、頻出ワードに目が慣れてからKに切り替えるのはどうか。この他、本番で自己ベストに近い得点を叩き出した言語についても、さらに伸ばす余地がある。

一方、練習量が低下した場合は伸びが鈍ることも考えられる。練習が疎かになった今年のルーマニア語が好例だ。どの言語を重点的に伸ばすか、そして実力の低下を最小限に抑えるにはどの程度の練習をこなすべきか、全体最適の視点から戦略的に練習を進めていきたい

【表8:各言語の成長余地という観点での分類】

カテゴリ言語
びびりすぎロシア語、トルコ語、ルーマニア語
高速化未完成英語、フランス語、ポルトガル語、オランダ語
初見対策不足ハンガリー語、スペイン語、フィンランド語
配列検討不足日本語
本番自己ベストポーランド語
本番自己ベスト付近イタリア語、チェコ語、ドイツ語、クロアチア語

(4) Interstenoへの働きかけ

これは個人として総得点を伸ばすというよりも、将来を見据えて公平かつ公正な競争環境を維持し、裾野を広げるのが目的だ。

まず各言語の練習問題に残る問題点について。筆者が指摘済みだがまだ修正されていないものもあるし、その後新たに見出したバグも存在する。ある程度まとまった段階で、再び粘り強くInterstenoのTaki担当者に働きかけて、修正を促していく。同時に、€や£等、欧米人には常識であっても日本人には馴染みが薄い記号については、打鍵方法を啓蒙するという手段もある。

次に日本語の仕様について。日本人以外の参戦が著しく困難な現状はどうかと思う。今年は日本語を除く16言語でSeanに敗れ、仮に日本語(漢字かな交じり文)を打てば「16言語で勝てないのに17言語で勝ちました」となる可能性があった。来年以降も同様の状況が発生し得る。一方、今年は「方言の一つとしてローマ字入力種目(transliterated)を設定する」案がテストされ、本番適用まであと少しとのことだった。結局採用は来年以降に見送られたものの、日本語の係数の問題と合わせて、試行錯誤が必要だ。現在の不平等感が少しでも解消されるよう提言していきたい。ここでの試行錯誤は、将来の韓国語等への展開の際にも役立つことだろう。


●参考文献・謝辞

Pocariさん:Interstenoオンライン大会への日本語部門追加を先頭に立って推進し、実現にこぎつけたのみならず、2015年の日本人参加者120名もの参加費までご負担頂きました。2016年以降の日本語部門継続にあたっても紆余曲折があり、各国代表との交渉に奔走されたと聞いております。この方の尽力なくしては、筆者はInterstenoの存在すら知らず、まして参戦など考えもしなかったことでしょう。ありがとうございました。

ジュニアさん:最難関のロシア語を含む全17言語への参戦を目指し、最も早い段階で練習に着手していました。その過程では、各言語の専用配列を習得し、特殊文字や記号の入力方法を一から調査・導入されるなど、先行者として並々ならぬ苦労があったことと推察します。

かり〜さん:2015年から多言語タイピングWikiで積極的に情報発信し、筆者を含む多くの初心者に多言語参戦への道筋を示して下さいました。さらに2017年大会に向けた新たな取組みとして、初心者向け多言語対戦会や10FastFingers大会を開催されています。

たのんさん:2017〜2020年大会に向けて、TypeRacer多言語対戦会の開催および毎週参戦により、積極的に引っ張って下さいました。2017年10月以降のパワーアップには大いに刺激を受けました。

paraphrohnさん:2016年大会に向けて、早い段階で「総合8万点で世界一」という高い目標を掲げ、それを有言実行することで日本人参加者全体を引っ張って下さいました。また、インテルステノ用paraph配列集の作成・配布に加えて、TypeRacer多言語対戦会を毎週開催して頂いたお陰で、筆者を含め参加者のレベルは前年とは比較にならないほど向上したと言えるでしょう。

やださん:Takiソフトウェアで出現した "This page and application is only for use on computers, not available for mobile devices." というエラーに対して、画面サイズを拡大するか文字サイズを小さくすることで解決できるという情報を頂きました。

どりすとさん:上記の問題につき、www.intersteno.itで打てば問題無いという情報を頂きました。筆者は2016年大会以降、練習も本番もこちらのサイトのみで打っています。

司@dvorakさん:文章内の文字の出現頻度調査に役立つWebサイトをご紹介いただきました。筆者は主にロシア語の文章で活用させていただきました。

愛する家族:4〜5月の土日およびゴールデンウィークの一部という、本来は育児・家事・家族サービスに充てるべき貴重な時間の大半をInterstenoの多言語参戦に投入できたのは、間違いなく家族のおかげです。ありがとう! ……というよりも、我ながらろくでもない夫・父親だと思う。来年以降もオンライン大会に参加するなら、ゴールデンウィークの全部または一部を毎年潰すことになるというジレンマがある。


●各種資料

Intersteno2020関連の資料を以下に公開します。必要に応じ、自己責任でご利用下さい。また、著作権等で問題が発生した場合は即削除します。

Intersteno拡張dq配列
→InterstenoおよびTypeRacerで使用した配列。インストーラとともにMSKLC用のファイルもあります。

注1:言語によっては慣れるまでに相応の時間が必要であり、短期決戦には不向きです。
注2:このMSKLCファイルはWindows10環境でBuildできません(エラー対処を実施していないため)。必要ならばWindows7, Vista, XPのいずれかでBuildしてコピーして下さい。

Intersteno拡張dq配列:仕様書
→上記配列の仕様書。

Interstenoの各言語ランキングと統計資料
→eighさんの統計資料を参考にしつつ、自分用にVBAで作成していた資料です。本レポートにはこのデータを一部使用しています。ソースコードは非公開。

Interstenoランキング:仕様書
→上記資料の仕様書。

Intersteno課題文の解析資料
→各言語の練習課題(1分間課題計1387個、10分間課題計513個)を自力で収集・入力した資料です。配列作成の際に、特殊文字や記号、qvwxyz等の文字の出現頻度を解析するために使用しました。また、InterstenoのTaki担当者への問題点の報告は、この資料をベースに実施しています。練習時の最高記録も掲載してあります。

注:入力時の正確性は99%以上あると自負しています。また、イタリア語・各種フランス語以外の言語では再入力によりミスを検出して正確性を高めています。しかし、筆者も人間である以上100%でないことはご了承下さい。

Intersteno練習の各種統計
→Intersteno対策として実施した10分間練習(2015年160回、2016年552回、2017年375回、2018年598回、2019年147回、2020年323回。本番含む)の各種統計として、「言語毎の最高記録、平均得点、平均速度、平均ミス数」「本番の記録との比較」「練習回数」「ミス数別の試行回数」をまとめたものです。特に昨年からの伸びが非常に励みになりました。

Intersteno練習記録
→Intersteno対策として実施した10分間練習の詳細をデータベース化したものです。上記の統計資料はすべてこのデータから作成しています。

本番準備・実施手順書
→「トルコ語配列のまま英語を打つ」「省電力モードが発動して画面が暗くなる」等の間抜けな事故を防ぐために作成した手順書です。


トップページに戻る
タイピングページに戻る
タイピング日記最新版に戻る