Intersteno2016オンライン大会:レポート(2016.4.16-5.2)



Interstenoとは
筆者の結果
プロローグ
戦略
戦術
各言語の対策(主要なもののみ)
日本語の係数について
モチベーション維持策
感想(というよりも反省)
来年に向けて
参考文献・謝辞
各種資料


●Interstenoとは

Intersteno(国際情報処理連盟)とは、1887年に設立された、速記者やタイピストを中心とする団体である。オフラインの速記およびタイピングの大会を2年に1回(2007年以降)、オンラインのタイピング大会を1年に1回(2003年以降)実施している。以下の記述は、2016年4〜5月に開催されたオンライン大会に関するものである。

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オンライン大会には、17言語で参加可能である。練習サイトであるTakiソフトウェアの順番に並べると、イタリア語、英語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、スペイン語、トルコ語、ポルトガル語、ルーマニア語、日本語、フィンランド語、クロアチア語、チェコ語、スロバキア語、ハンガリー語、ロシア語、ポーランド語である。

各言語で初見の課題を10分間打ち、「総打鍵数−ミス数×50」を得点とする。この得点の合計値で競う。従って、速度を上げることも重要だが、それ以上に正確性を上げることが非常に重要である。但し、毎日パソコン入力コンクール(以下「毎パソ」)とはミスの定義が違う。例えば、1単語内の入れ替えミス(例:that→taht)や、1行すっ飛ばしは、1ミスとカウントされる

筆者は、昨年参加を断念したロシア語を含め全17言語に参戦した。


●筆者の結果

【表1:本番の結果】

言語得点速度(文字/分)ミス数順位参加者数
イタリア語5132(+1025)518.2(+87.5)1(-3)6(+15)305(-119)
スペイン語5070(+597)522.0(+64.7)3(+1)4(-)161(+6)
オランダ語5070(+572)517.0(+62.2)2(+1)5(+3)223(+16)
英語4932(+35)523.2(-16.5)6(-4)12(+5)473(-1)
クロアチア語4869(+1073)486.9(+92.3)0(-3)4(+21)204(+2)
ポルトガル語4830(+722)508.0(+92.2)5(+4)3(+1)103(-3)
ドイツ語4811(+697)491.1(+69.7)2(-)4(+10)321(+43)
フィンランド語4791(+991)494.1(+104.1)3(+1)1(+5)144(+11)
日本語4752(+924)475.2(+67.4)0(-5)4(+3)57(-47)
トルコ語4660(+1664)476.0(+151.4)2(-3)18(+69)505(+152)
フランス語4633(+685)478.3(+63.5)3(-1)6(+6)231(+56)
スロバキア語4409(+1323)445.9(+112.3)1(-4)4(+25)298(+41)
ルーマニア語4378(+652)457.8(+70.2)4(+1)2(+6)72(+1)
ハンガリー語4299(+1380)439.9(+138.0)2(-)7(+32)124(+5)
ポーランド語4181(+1440)428.1(+99.0)2(-9)5(+21)70(-4)
チェコ語3983(+981)423.3(+103.1)5(+1)13(+104)479(-165)
ロシア語3487(+3487)378.7(+378.7)6(+6)12(-)37(-4)
合計78287(+18248) 47(-17)2(+4)1699(-25)

※()内は昨年比。
※得点、速度、順位、参加者数は上がった時に+表示。ミス数は増えた時に+表示。
※オランダ語とフランス語にはベルギー方言、ドイツ語にはスイス方言で参加した。
※順位は5/3昼時点のもの。また、方言(例:ドイツ語とスイスドイツ語)はまとめて集計した。

【表2:10分間練習の結果】

言語最高記録平均得点平均速度平均ミス数
イタリア語5234(+1127)5031(+1091)514.0(+102.5)2.2(-1.3)
スペイン語5103(+630)4892(+975)500.9(+80.6)2.4(-3.4)
オランダ語5187(+455)5008(+760)515.0(+65.1)2.8(-2.2)
英語6030(+723)5449(+549)561.7(+31.7)3.3(-4.7)
クロアチア語4869(+1073)4579(+1006)472.1(+94.8)2.8(-1.2)
ポルトガル語5143(+1035)4623(+927)483.4(+100.5)4.2(+1.6)
ドイツ語5040(+864)4758(+1023)491.5(+84.3)3.2(-3.6)
フィンランド語4807(+829)4718(+1157)489.9(+109.4)3.6(-1.3)
日本語4795(+439)4263(+508)444.7(+38.6)3.7(-2.4)
トルコ語4660(+1653)4331(+1722)444.8(+142.3)2.4(-6.0)
フランス語5008(+1007)4016(+653)431.1(+49.1)5.9(-3.2)
スロバキア語4409(+1205)4009(+1000)417.7(+97.7)3.4(-0.5)
ルーマニア語4865(+1027)4593(+1253)476.1(+118.9)3.4(-1.3)
ハンガリー語4476(+1557)4085(+1424)428.2(+137.1)3.9(-1.1)
ポーランド語4430(+993)4188(+1148)435.2(+103.4)3.3(-2.3)
チェコ語4084(+995)3955(+1365)414.4(+120.4)3.8(-3.2)
ロシア語3631(+3631)3208(+3208)341.7(+341.7)4.2(+4.2)
合計81771(+19243)75704(+19767)  

※()内は昨年比。
※上記の数字には本番も含む。
※Takiソフトウェアのバグによるミスと、それによる減点も含む。英語とフランス語でミスが多かったのはこのため。


●プロローグ

2016年オンライン大会に向けた本格的な準備は、本番の半年前である2015年10月には始まっていた。しかも、2015年大会と比較して日本国内のレベルが格段に上昇していた。paraphrohnさんが多言語総合世界一を目指して各言語で凄まじい記録を連発する一方、たにごんさんが難関言語であるチェコ語でいとも簡単に500文字/分を叩き出していた。実際、paraphrohnさんが主催するTypeRacer多言語対戦会では毎週のように叩きのめされ続けた。ベース速度で50文字/分以上の大差があるため、多少正確性を上げても焼け石に水だ。2015年と同等のスコアでは、21歳以上部門で3位以内に入ることは事実上不可能となった。

その後半年にわたり順調に練習を重ね、当初目標の合計70000点はほぼ確実に達成可能という見通しが立った。それどころか、昨年大会の優勝ラインである合計75000点すら視界に入ってきた。ところが! 本番開始を目前に控えた4/6夜に不測の事態が発生した。不注意と不運が重なった転倒により両手・左膝・前歯・肋骨を負傷し、約4日にわたり全力タイピングができなくなった。これにより、当初描いていた本番戦略の根本的な修正を余儀なくされた。さらに、この怪我で筋トレやランニングができなくなって抵抗力が落ちたのもマイナスに働いた。4/28に職場で感染させられたと思われる風邪が本番実施期間中ずっと完治せず、苦しめられた。この窮状からいかに立て直したのかについては、以後の本文を参照されたい。


●戦略

2015年大会とは根本的にアプローチを変更した。何しろ今回は対策期間が半年以上あるのだ。2015年大会で時間の制約上できなかったことや、その後思いついた構想をほぼすべて試すことができた。

(1) 各言語の配列の再検討 〜頻出特殊文字の1打鍵化〜

2015年大会では、大会参加期間が限られていたため、かり〜さん制作のインテルステノ用拡張配列(以降、かり〜配列)の採用を即断した。この配列の長所は導入の手軽さ(言語毎に配列をインストールする必要が無い)と習得の容易さであり、短期決戦では最強だった。一方、難点は特殊文字が頻出すると速度が出ないことだ。特にチェコ語、スロバキア語、ポーランド語、ハンガリー語、トルコ語では速度が著しく低下した。また、フィンランド語では頻出するウムラウトに毎回3打鍵(例:äは「Shift+:→a」)を要し、大きくロスしていた。

しかし、ジュニアさんのように各言語の専用配列を習得する域には残念ながら到達できなかった。理由は、一部の文字や記号の位置が言語ごとに異なるためだ。QWERTZやAZERTYといった配列を習得すると、QWERTY配列で打つ言語(英語等)に悪影響が出るのは明らかだ。さらに、,.;:'"等の記号の位置は全言語で共通にしておかないと、必ずミスが出ると直観した。

そこで、まずはUSインターナショナル配列をベースに、USインターナショナル配列で打てない言語の配列を独自に検討した。配列変更ソフトであるMicrosoft Keyboard Layout Creator(以降、MSKLC)の使い方を体で覚えつつ、各言語の文字の出現頻度を調査した。その際には多言語タイピングWikiの情報を参考にした。但し、これだけに頼らず、後述の通りInterstenoのTakiソフトウェアの練習用課題からもデータを収集した。

この結果に基づき、頻出する特殊文字を1打鍵で打てるように配列を作成した。例えば、フィンランド語のäöは@[で打てるようにした。一方、ハンガリー語ではすべての特殊文字を1打鍵で打つことを考えるとキーが不足する。一部の難関言語を除いて最上段や,./等のキーにまで割り当てる気にはなれなかったため、アルファベット26文字の中で出現頻度が極めて低い文字を探した。その結果、最終的にüöőをqwxに割り当てることとした。チェコ語とスロバキア語ではさらに特殊文字が多いため、明らかにキーが不足する。そこで、最上段への割り当てを解禁した。専用配列と出現頻度を参考にして、チェコ語ではšňřťýを、スロバキア語ではšňŕťýを、34567に割り当てた。

……

以上の手法は、昨年USインターナショナル配列で打鍵した7言語(独仏伊蘭西葡芬)にももちろん適用可能だ。例えばフランス語とイタリア語では'(アポストロフィ)が、ポルトガル語ではçãõが頻出するため、それぞれ1打鍵で打てるように配列を変更した。英語に関しても、練習問題で稀に出現する’éçを念のため1打鍵で打てるようにした。

また、当初は言語ごとに配列を分けるのが非効率と考えていた。このため、「オランダ語・スペイン語・ポルトガル語共通配列」が存在した。だが、各言語の最適化を図った結果、この3言語はすべて別の配列で打つこととなった。最後まで共通配列として残ったのは、「イタリア語・フランス語配列」「フィンランド語・ドイツ語配列」のみである。

最終的に、日本語配列で言う@[]^qvwxyzのキーに表3の通りに特殊文字を割り当てた。英語配列以降は、習得済みのUSインターナショナル配列をベースに作成した。習得コストを減らすため、同じキーには可能な限り似たような文字を割り当てた。但し他に出現頻度の高い特殊文字がある場合は、そちらを優先した。

なお、この割り当ては完成形ではない。今後も試行錯誤を経て進化していく。

【表3:各言語の特殊文字の割り当て(デッドキーを除く)】

配列@[]^qvwxyz
日本語配列日本語QWERTY配列。カスタマイズせず。
ロシア語配列пчьщфжшхуй
英語配列éç       
オランダ語配列èë        
イタリア語・フランス語配列é '       
フィンランド語・ドイツ語配列äöüß      
ポルトガル語配列ãõç   í à 
スペイン語配列áéíü  ó   
ポーランド語配列ąęłóść ż  
チェコ語配列áéížů ěč  
スロバキア語配列áéížú ľč  
ハンガリー語配列áéíóü öő  
トルコ語配列ışç ü öğ  
クロアチア語配列ćščw  đž  
ルーマニア語配列ăşţwâ î   

※チェコ語ではšňřťýを、スロバキア語ではšňŕťýを、34567に割り当てた。
※英語配列以降の空欄は、USインターナショナル配列から変更していないことを示す。例えば英語配列のqにはqを割り当てたままである。

(2) 各言語の配列の再検討 〜デッドキーの活用〜

言語によっては、上記の方法だけではキーが不足する。その場合、USインターナショナル配列ではデッドキーという考え方を採用している。例えば、áはデッドキー「:」を用いて「:→a」の2打鍵で入力する。かり〜配列では複数のデッドキーを駆使して、複数の言語に同時に対応している。

また、qwvxに特殊文字を割り当てると、代わりにqwvxQWVXが入力できなくなる。このため、デッドキーの考え方を応用し、「:→qwvxQWVX」に割り当てた。同様に、チェコ語やスロバキア語では34567#$%^&を「半角/全角→34567#$%^&」に割り当てた。また、日本語配列の@[]^に割り当てられている[]{}\|=+も打てなくなる。このうち=はごく稀に出現するため、「半角/全角→-」に割り当てた。

今回用いたデッドキーは表4の通りである。

【表4:各言語の特殊文字の割り当て(デッドキー)】

配列デッドキー
:半角/全角その他
共通 àèìòù=ãñõũ(Shift+半角/全角)
âêîôû(Shift+6)
ロシア語配列IVXёэъ“”«»—–  
英語配列 “”£€‘’…– 
オランダ語配列  äïöü(])
イタリア語・フランス語配列àèìòùç朓”€’«»ºª–âêîôû([)
フィンランド語・ドイツ語配列å€  
ポルトガル語配列áéíóúwy“”ºª âêôïü(^)
スペイン語配列úñºª  
ポーランド語配列ńźqvx  
チェコ語配列ďqwx34567#$%^& 
スロバキア語配列ďäôqwx“”‘’–ĺ34567#$%^& 
ハンガリー語配列äűqwx“”„–  
トルコ語配列âîþqwx“”’  
クロアチア語配列ðæx«»–  
ルーマニア語配列qǎ“”„’ºª–‚… 

※各言語で本来使用されない文字であっても、InterstenoのTakiソフトウェアで出現した文字は割り当ての対象とした。例えばハンガリー語のäやクロアチア語のð等。

共通事項として、USインターナショナル配列のデッドキーのうち「半角/全角」「Shift+半角/全角」「Shift+6」は念のため残した。グレイヴ・アクセント、チルダ、サーカム・フレックスは、通常用いられない言語にも固有名詞として稀に出現するためだ。実際には、大半の言語で他のキーやデッドキーに割り当てることになったが。

一方、デッドキーは必要に応じて移動した。例えば、英語配列のデッドキーには:でなく半角/全角を用いた。これは、頻出する'(アポストロフィ)を1打鍵で打ちたかったためだ。USインターナショナル配列では、'は日本語配列で言う:キーに割り当てられている。ところが、:はデッドキーとしても用いられるため、'を打つためには「:→Space」とする必要がある。これでは非効率だ。

同様に、イタリア語・フランス語配列では;(セミコロン)を1打鍵で打つため、当初;に割り当てていたトレマ用デッドキーを^に移動した。

(3) 難関言語の底上げ

ハンガリー語は、2015年大会では最も速度が出なかった。ポーランド語は、最も得点が低かった。他にも、トルコ語、チェコ語、スロバキア語は3000点前後に低迷した。逆に言えば、これらの難関言語を底上げすることで大幅な得点アップが見込める。比較的得意な英語やオランダ語を1000点上げる(≒100文字/分伸ばす)よりも、ハンガリー語やポーランド語を1000点上げる方が遥かに現実的だ。

まず、ハンガリー語で速度が出ない原因を調査・考察した。その結果、配列の最適化によるストローク数の削減が極めて有効と判断した。そこで、前記の通り独自の配列を検討した。さらに、配列を少しずつ進化させつつTakiソフトウェアで1分間練習を1日10回実施し続けた。ハンガリー語を含めた練習計画は表5の通り。

【表5:ハンガリー語の底上げのスケジュール】

期間継続1対戦会継続2調査枠
2015/10/26-ハンガリー語フランス語英語トルコ語
2015/11/2-ポルトガル語スロバキア語
2015/11/9-フィンランド語チェコ語
2015/11/16-クロアチア語ポーランド語
2015/11/23-ルーマニア語オランダ語
2015/11/30--(スロバキア語)--
2015/12/7-ハンガリー語チェコ語英語スペイン語
2015/12/14-トルコ語イタリア語
2015/12/21-ハンガリー語ドイツ語、スロバキア語
2015/12/28--フランス語、ロシア語
2016/1/4-ポーランド語ポルトガル語
2016/1/11-ロシア語フィンランド語

※継続1 :重点的に強化(弱点の底上げ)
※対戦会:その週の多言語対戦会の対象言語
※継続2 :重点的に強化(ベース速度および持久力の強化)
※調査枠:配列検討

実際には12/6のシンガポールマラソン前後で練習時間を確保できず、計画通りに練習が進まなかった。スロバキア語の対戦会にも参戦できなかった。このため、スペイン語を1週間後に、スロバキア語を3週間後に延ばした。さらに、年始の1/3には対戦会を開催しないこととなったため、空き時間を利用してラスボスのロシア語に着手した。

(4) 練習量の確保

2015年大会と違い、もはや日英以外の言語もランダム練習ではない。日本のトップレベル、そして世界のトップレベルと闘うには、各言語の頻出ワードに習熟する必要がある。少なくとも、10分間練習を数回打っただけで本番を打鍵するというナメた態度では結果を残せないと判断した。このため練習量を増やし、各言語の高速化を狙った。

第一段階(10〜12月)では、paraphrohnさん主催のTypeRacer多言語対戦会にほぼ毎週参戦した。その準備として、各言語の配列の最適化を進めるとともに、Takiソフトウェアで練習した。この段階では1分間練習に絞り(課題数が極端に少ないスペイン語を除く)、配列や頻出ワードを脳と指に叩き込むことに集中した。さらに、後述する課題の収集と全文打鍵や再入力も、この時期に開始した。

……

第二段階(1〜3月)では、TypeRacer多言語対戦会への参戦を継続するとともに、10分間練習を解禁し、持久力を鍛えた。但し、言語によっては10分間練習の数が限られており、初見文章の練習にならない。このため、英語以外の10分間練習は基本的に土日にのみ実施した。その際、課題文章に番号を付けて管理し、ローテーション的に打鍵した。例えばハンガリー語では、「土曜日に課題1、日曜日に課題2、翌週の土曜日に課題3、日曜日に課題4」というローテーションを繰り返した。これは、同じ課題を続けて打たないようにするという意図である。

また、ハンガリー語の底上げが進行するに伴い、事前に指慣らしをする必要性を感じ始めた。当初は10分間タイピングやmyTyping(ローマ字入力)を用いていた。だが、ローマ字入力をするのであればInterstenoの日本語を打った方が効率的だ。そこで、3/26以降は日本語を指慣らし種目として追加した。

さらに、この時期の特徴は、同じ言語を2週続けて練習したことだ。当初はたまたま対戦会の予定に合わせただけだった。だが、以後はこの方針が有効であることに気付き、可能な限り継続した。チェコ語など一部の言語に関してはこの時期になっても配列の改良を継続していた。2週続けて練習することで、新たな配列を確実に定着させ、高速化を図ることができた。この期間の練習スケジュールは表6の通り。

【表6:第二段階の練習スケジュール】

期間指慣らし継続1対戦会継続2調査枠
2016/1/18--ハンガリー語ドイツ語英語クロアチア語
2016/1/25-クロアチア語ルーマニア語
2016/2/1-ルーマニア語チェコ語
2016/2/8-チェコ語トルコ語
2016/2/15-トルコ語スロバキア語
2016/2/22-イタリア語ポーランド語、フランス語
2016/2/29-10分間タイピングスペイン語ポーランド語、ポルトガル語
2016/3/7-myTypingフィンランド語オランダ語
2016/3/14------
2016/3/21-myTyping/日本語ハンガリー語ハンガリー語英語ロシア語、ドイツ語
2016/3/28-日本語ロシア語クロアチア語

実際には3/19-21のタイパー15周年オフおよび、その直前の海外出張により、計画通りに練習が進まなかった。このため、この週の練習予定を翌週に延ばした。さらに、最も準備の遅れていたロシア語の底上げも開始した。

……

第三段階(4〜5月)では、本番に向けた最終調整を実施した。10分間練習を基本としつつ、正確性重視の打鍵を継続して本番に備えた。本番に向けたスケジュールは後述する。

2015年大会と2016年大会に向けた練習量の比較は表7の通り。特に英語、フランス語、ロシア語、ハンガリー語の練習量が大きく増加した。フランス語の練習回数には、2015年6月に本家・スイス方言・ベルギー方言の違いを検証した分が反映されている。

【表7:10分間練習の打鍵回数の比較】

言語2015年2016年
イタリア語611(+5)
スペイン語1214(+2)
オランダ語1612(-4)
英語11245(+234)
クロアチア語725(+18)
ポルトガル語621(+15)
ドイツ語1620(+4)
フィンランド語178(-9)
日本語924(+15)
トルコ語617(+11)
フランス語744(+37)
スロバキア語128(-4)
ルーマニア語811(+2)
ハンガリー語633(+27)
ポーランド語911(+2)
チェコ語1213(+1)
ロシア語035(+35)
合計160552(+392)

※上記の数字には本番も含む。
※2016年の打鍵回数には、2015年オンライン大会終了後のすべての10分間練習を含む。

(5) 本番実施の順序

当然ながら、全17言語の本番を1〜2日で実施するのは非効率である。本番実施を繰り返すことで、肉体的にも精神的にも著しく疲労するためだ。さらに、練習の質・量が甘いと各言語の特殊文字や頻出シーケンスを混同するリスクがある。今回の大会実施期間は4/11〜5/2であり、22日間の期間があるはずだった。但し平日は仕事があるため、本番実施は土日や祝日がメインとなる。以上を踏まえて、筆者は本番に向けたスケジュールの第一案を表8のように決定した。なお、本番参加用のIDを入手できるのは4/11夜と想定し、4/12(火)には休暇を取得する予定だった。

【表8:2016年大会の本番に向けたスケジュール第一案】

期間指慣らし中速言語低速言語高速言語継続
2016/4/4-12日本語ハンガリー語トルコ語英語ロシア語
2016/4/13-17ドイツ語フィンランド語ポーランド語オランダ語
2016/4/18-24ポルトガル語スロバキア語チェコ語スペイン語
2016/4/25-5/2フランス語ルーマニア語クロアチア語イタリア語

※ハンガリー語と英語を最初に片付けて、重点強化を終了する。
※ハンガリー語とトルコ語の配列は親和性が高い(öüをwqに配置)。
※ドイツ語とオランダ語は言語として親和性が高い(ゲルマン語派)。
※ドイツ語とフィンランド語の配列は共通。
※スロバキア語とチェコ語の配列は親和性が高い(特殊文字を34567に配置)。
※スペイン語とスロバキア語、チェコ語の配列は親和性が高い(áéíを@[]に配置)。
※フランス語とイタリア語の配列は共通。

高速に打てる言語(英語、オランダ語、スペイン語、イタリア語)と速度の出ない言語(ハンガリー語、トルコ語、ポーランド語、スロバキア語、チェコ語、ロシア語)を可能な限り分散させた。これは、高速に打つ感覚を維持するとともに、低速言語を底上げするためだ。

また、親和性の高い言語や、共通の配列を使う言語は、同じ週に打つのが効率的だ。逆に、混同する可能性の高い言語(例:フランス語とスペイン語、ハンガリー語とドイツ語)を同じ週に打たないように注意した。なお、チェコ語とスロバキア語にも混同しやすい部分がある。だが、配列の親和性による相乗効果の方が上回ると判断し、同じ週に実行することとした。

さらに、最終週にロシア語の練習時間を確保すべく、他の難関言語は3週目までに本番を終わらせておくこととした。ロシア語に関しては、最初の週に照準を合わせて一気に終わらせるという一案もあった。だが、継続して練習すればまだ伸びると感じていたため、最終週まで粘ることにした。

……

以上は、本番実施期間が実質4週間あることが前提となる。この前提が崩れた場合、本番実施サイクルを短縮したり、一部言語への参戦を取りやめたりといった決断が必要となる。実際には、4/6夜に前述のアクシデントが発生し、4/12に本番を撃破することは困難になった。また、本番実施用のIDを入手したのは結局4/16のことだった。即ち、本番実施期間が17日間に減少したため、表9のようにスケジュールを組み直した。

【表9:2016年大会の本番に向けたスケジュール第二案】

期間指慣らし低速言語中速言語高速言語挑戦言語
2016/4/4-17日本語ハンガリー語トルコ語英語ロシア語
2016/4/17-23ドイツ語ポーランド語フィンランド語オランダ語 
2016/4/24-29ポルトガル語チェコ語スロバキア語スペイン語 
2016/4/30-5/2フランス語クロアチア語ルーマニア語イタリア語 

基本的に、当初予定よりも1週間後ろ倒しとするつもりだった。加えて、比較的余裕のある1週目にロシア語を含め5言語の本番を終える決断を下した。今回は後ろが詰まりすぎているためだ。また、他の難関言語(ポーランド語、スロバキア語、チェコ語)にも時間を割きたかった。高速言語でありながら伸び悩んでいたスペイン語についても、まとまった練習時間を確保したいと考えた。

さらに、2週目も余裕があれば5言語以上打つつもりだった。ところが、今度は仕事の繁忙期が入ったため、この週も4言語に留まった。3週目も、4/24(日)に余裕があればイタリア語やフランス語の本番を打つつもりだった。だが、わずか一日の練習で全盛期の実力を取り戻せるほど甘くはないことを思い知らされただけだった。結果として、ゴールデンウィーク前半の4日間を利用して8言語の本番を実施するという危険な賭けに出ざるを得なかった。

しかも4/28には風邪を感染させられ、練習に充てるべき貴重な時間が休養に費やされていった。トドメはポルトガル語の配列変更だ。paraphrohnさんの本番での大爆発をきっかけに、4500点前後で伸び悩んでいたポルトガル語を抜本的に改善する必要性を感じ、4/30になって配列変更に踏み切った。今回の本番実施はまさに綱渡り状態であった。

なお、練習を積み重ねた結果、トルコ語がハンガリー語よりも速くなった。このため、トルコ語を中速言語に、ハンガリー語を低速言語に分類し直した。これに伴い、2週目以降の練習順序も変更した。

最終的な本番実施スケジュールは表10の通りである。

【表10:2016年大会の本番実施スケジュール】

日付・時間帯言語累計得点コメント
4/16(土)午後一トルコ語、英語9592トルコ語は自己ベストだが、英語で痛恨の1分ロス
4/16(土)夜日本語14344会心の一撃!
4/17(日)午前ロシア語17831ミスが多く、不満。原因は明らかに練習不足
4/17(日)午後一ハンガリー語22130悪くないが、もう少し行けたかも
4/23(土)午後一フィンランド語、オランダ語31991両方とも自己ベスト付近。悪くない
4/23(土)夜ドイツ語、ポーランド語40983全盛期の実力を取り戻せなかったのが悔しい
4/29(祝)夕方チェコ語44966ガチれる体調でなかった。無念
4/29(祝)夜スペイン語、スロバキア語54445スペイン語を5000台でしのぎ、スロバキア語で会心の一撃!
4/30(土)夜フランス語59078気負いすぎて失敗
5/1(日)夜イタリア語、ルーマニア語68588イタリア語は悪くないが、ルーマニア語で轟沈
5/2(日)夜ポルトガル語、クロアチア語78287悪くない。だが、もう少し行けた


●戦術

(1) 練習課題文の収集

InterstenoのTakiソフトウェアに出現する1分間練習および10分間練習の課題文を収集した。目的は、前記の文字の出現頻度の調査の他に、ミスの原因把握と傾向調査である。2015年大会に向けた練習ではここができていなかったため、打鍵終了後に表示される結果画面からミスの原因を推測するしかなかった。ミスした単語をGoogle翻訳やGoogle検索に入力すると、正解らしき単語を見出せることもある。だが、すべてのケースでうまくいくわけではない。これでは練習効率が悪すぎる。

そこで、1分間練習の課題文を計970個(約97%)、10分間練習の課題文を計151個(約33%)収集した。さらに、収集したすべての練習課題を実際に入力してExcelシートに整理し、ミスの原因を正確に把握できるようにした。具体的な方法は表11の通りである。

【表11:Takiソフトウェアの練習課題の収集・分析方法】

・課題全文をキャプチャする。
 →Takiソフトウェアの画面で文章を表示させた直後にキャプチャする。
 →日本語全角文字をガチャ打ちする。半角文字の倍速で打てるためだ。
 →左手(親指以外)をASDF、右手をL;:]に置き、指の動く限り乱打する。
 →約5行毎にEnterを押下し、必要なら半角文字を追加して文字列を確定させる。
 →すると画面上部に表示される課題がスクロールされていく。
 →1ページ分の課題がスクロールされたら、再びキャプチャする。
 →課題のスクロールが止まるまでこれを繰り返す。
 →さらに半角文字を約5行打ち込むと、2行同時にスクロールする。ここで文章終了。

・キャプチャした画像をmspaint等で連結して1つの画像にする。
 →1分間課題は概ね3枚、10分間課題は概ね25枚の画像を連結すれば完了。
 →余分な部分は削除する。

・この画像を見ながら、メモ帳に課題文章を入力する。
 →メモ帳の横幅を調整し、改行位置をTakiソフトウェアの画面と合わせる。
 →特殊文字を保存するため、文字コードを「Unicode」に設定する。

・入力結果をExcelに貼り付ける。
 →そのまま貼り付けると1行おきになってしまうため、後で余分な行を削除する。

・ExcelからGoogle翻訳の画面に貼り付ける。
 →ロシア語は約10行、他の言語は約15行毎に実施する。
 →翻訳結果がおかしい場合は大抵ミスが原因なので、修正する。
 →難関言語は再入力し、以前の入力結果とEXACT関数で比較してミスを発見する。

・1〜3行目を順次Google検索し、出典が見つかればメモする。
 →各行を" "で囲んで検索する。
 →出典が明確ならミスの発見に役立つし、本番課題の予想にも使える。

・ExcelからWordに貼り付けた後、文字カウントで文字数を数える。
・Excelの置換機能を用いて特殊文字やqwvx等の出現頻度を調査する。
 →マクロを使っても良いし、司@dvorakさん推奨のWebサイトもある。

この作業の結果、出現するすべての文字を把握できた。例えば引用符として"の他に“”等が存在することを確認できたし、昨年は「アポストロフィバグ」と呼称していた'と’の違いも明らかになった。さらに、ハンガリー語ではőűの代わりにõûが、クロアチア語ではđćčの代わりにðæèが、ルーマニア語ではăの代わりにãもしくはǎが用いられるケースもあることが判明した。日本語の「いえ→ゐゑ」のような扱いなのだろうか。英語等では、日本人が普段まず打つことのない€(ユーロ)や£(ポンド)が稀に出現することも判明した。

また、英語等で頻出するTakiソフトウェアの問題点の報告も効果的に実施できるようになった。どの文章のどの文字がバグであるか、ピンポイントで指摘できるためだ。実際、12月から3月にかけて、英語・ハンガリー語・イタリア語・ドイツ語・フランス語・ルーマニア語・クロアチア語・ポルトガル語の問題点をInterstenoのTaki担当者にまとめて報告し、練習課題の精度向上に貢献した。

さらに、全文入力自体が各言語の打鍵のトレーニングになった面も見逃せない。スコアを測定する練習は1言語・1日につき「1分間練習×10」「10分間練習×2」程度が精一杯であった。だが、これでは練習量が絶対的に不足する。確かに全文入力ではスコアを目的としないため、ともすれば緊張感の無い打鍵になりがちだ。とはいえ、絶対的に不足している練習量を補う効果は間違いなくあった。さらに、英語では20分前後、ロシア語では30分以上かけて10分間課題の全文(約1万文字)を入力し続けることで、脳・目・指の持久力が強化され、10分間の打鍵を長いとは感じなくなった。

(2) Takiソフトウェアの問題点への対応

Takiソフトウェアの練習課題には、表12に示す問題点が存在する。発見次第Interstenoの担当者に報告し、その総数は約200件に上った。これは、今年のみならず来年以降の練習課題の精度を上げるためだ。

【表12:Takiソフトウェアの問題点一覧】

No.内容言語
110分間練習用の課題が2〜5種類しか無いため、
初見課題の対策にならない
フィンランド語、ポーランド語、スロバキア語、
ハンガリー語、オランダ語、スペイン語
2スペルミス英語(competitition、artisric等)
3その言語では使用しないはずの特殊文字が
出現する
英語(éçàèìò)、ハンガリー語(äõû)、トルコ語(îûþ)、
クロアチア語(ðæè)、ルーマニア語(ãǎ)、
イタリア語(î)、ポルトガル語(ïö)
4画面上部に何も表示されないことがある英語、クロアチア語、イタリア語、
ベルギーフランス語
5麻雀牌に似た記号が出現する各種ドイツ語、イタリア語、各種フランス語、
英語、ベルギーオランダ語
6黒ダイヤ内に白い?を含む記号が出現するフランス語、イタリア語
7アポストロフィがミス判定となる文章がある英語、フランス語、スイスフランス語、
イタリア語、トルコ語、ルーマニア語、スロバキア語
8ハイフンがミス判定となる文章がある日本語、英語、ハンガリー語、クロアチア語、
ルーマニア語、フランス語、ロシア語、スロバキア語
9その他、特殊な記号が出現する下記参照
10短すぎて1分未満で終了する1分間課題があるトルコ語等
11短すぎて10分未満で終了する10分間課題があるスイスフランス語
12結果表示画面でうまく改行されておらず、
ミスの詳細が隠れて表示されない
英語、イタリア語、ポーランド語
1310分経過時点で仮確定文字列が残っていると、
ミス判定になる。
日本語

No.7に関して、日本語配列の「Shift+7」やUSインターナショナル配列の「:→Space」で打鍵すると'(アポストロフィ)が表示される。ところが、一部の文章では’(シングルクォート)が使用されている。後者にはやや角度がついているため、辛うじて判別可能である。

No.8に関して、日本語配列やUSインターナショナル配列の-(ハイフン/マイナス)を入力するとミス判定になることがある。一部の文章では—(emダッシュ)や–(enダッシュ)が用いられている。日本語では全角ダッシュが用いられている。これらは非常に紛らわしく、Takiソフトウェアの画面上では判別不可能だ。

No.9に関して、特殊文字や記号は表13に示す通り、かり〜配列で概ね対応可能だ。前記の独自配列でももちろん対応させた。とはいえ、これらの特殊文字や記号は、基本的に本番には出ない。少なくとも2015・2016年の本番で、筆者が打鍵した部分には出現しなかった。従って、練習時に理不尽な減点をされても、本番で出ないと割り切れば良いという考え方もある。

【表13:Takiソフトウェアに出現する特殊文字・記号一覧】

特殊文字/記号かり〜配列dq配列出現範囲
Shift + : → 1: → 1ルーマニア語、トルコ語、英語、ポルトガル語、
スロバキア語、ロシア語
Shift + : → 2: → 2上記+フィンランド語、ハンガリー語
(未対応): → 3ハンガリー語、ルーマニア語
£右Alt + $: → 4英語
右Alt + 5: → 5英語、イタリア語、フィンランド語
右Alt + 9: → 6英語、スロバキア語
右Alt + 0: → 7上記+トルコ語、イタリア語、フランス語
(未対応)半角/全角 → 8ルーマニア語(,の見誤りかも。未確認)
«右Alt + @: → 8フランス語、スイスフランス語、クロアチア語、ロシア語
»右Alt + [: → 9同上
º右Alt + +: → 0イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語
ª(未対応): → -イタリア語、スペイン語、ポルトガル語
(未対応): → mロシア語
(未対応): → n英語、ハンガリー語、クロアチア語、
ルーマニア語、イタリア語、ロシア語、スロバキア語
œ右Alt + x: → x各種フランス語
æ右Alt + z: → zクロアチア語
(未対応)半角/全角 → .英語、ベルギーフランス語、イタリア語、ルーマニア語
¿右Alt + /同左スペイン語
¬右Alt + [同左英語
§右Alt + S同左ポルトガル語

※かり〜配列は、2015年5月時点のもの。
※dq配列では、英語のみデッドキーに半角/全角を使用。

(3) 方言の選択

ドイツ語、フランス語、オランダ語の方言選択の検討にも、上記の練習課題の収集結果資料は役立った。具体的には、バグや特殊文字の少ない方言を選択することで、練習の効率アップと本番の得点アップを狙った。

ドイツ語には本家ドイツ語の他にスイス方言が存在する。今回は特殊文字の少ない後者を採用した。両者の主な違いは、後者には原則としてß(エスツェット)が存在せず、ssで置き換えられることである。つまり特殊文字が1種類減るため、短期間での攻略が容易になる。但し、長い目で見れば、ssという連打に耐え続けるよりもßの位置を覚えて打つ方が負担が少ないという考え方もある。いずれにせよ出現頻度は低いため、実際には大差無い。なお、2016年のスイスドイツ語の本番では、ßが複数回出現した。このような場合に備え、ßを含む配列を準備し、かつ場所を把握しておく必要はある。

フランス語には本家フランス語の他にスイス方言、ベルギー方言が存在する。今回はバグが最も少ないベルギー方言を採用した。但し、本質的な違いは調査しても分からなかった。その後、Taki担当者とのやり取りの中で、本家フランス語やスイス方言では記号(;:!?)の直前にスペースが入る一方、ベルギー方言では入らないとの情報を頂いた。普段打ち慣れた仕様であるベルギー方言を選択して正解だった。

オランダ語には本家オランダ語の他にベルギー方言が存在する。今回は特殊文字の出現率がやや低い後者を採用した。本質的な違いは調査しても分からなかった。一字一句違わない課題文章を両者で使い回している事例も複数存在した。

(4) キーボードの使い分け

2016年大会では全17言語を東プレRealforce89Uで打鍵した。練習の質と量を圧倒的に高めた結果、東プレRealforce89Uでもミスを抑えられるという確信を得たためだ。実際、昨年と比較してミスの総数は64→47、1言語あたりの平均値は4.00→2.76と有意に減少した。来年以降も、キーボードを使い分ける必要性は全く感じない。

(5) その他環境整備

TakiソフトウェアをFirefoxで使用する場合、「Ctrl+z」でそれまでの入力結果がすべて消えるというバグが存在する。従って、このショートカットキーを無効化するか、他のブラウザを用いるという対策が不可欠である。筆者はGoogle Chromeを導入した。ちなみに、Google Chrome上で「Ctrl+z」が発動した場合は、直前に打鍵した1文字が消えるだけで済む。また、Firefoxを使用する場合は、
ChangeKeyを用いて左右のCtrlキーを一時的に無効化するのが良いと思う。

また、言語ごとに異なる配列を使用する場合は、配列変更のショートカットキー「Shift+左Alt」の無効化が必須だ(Windows VistaかつFirefoxの場合)。さもないと、打鍵ミス等が原因で意図しないタイミングで入力言語が切り替わって即死する。参考サイトはこちら

さらに、www.intersteno.itでは「Ctrl+;」で文字サイズを拡大できる。特殊文字の多い言語、特にi, í, ì, ıのうち2種類以上が同時に出現する言語(伊西葡洪土捷斯)を打鍵する時には必須と言って良い機能だ。だが、www.intersteno.orgでこの操作を実施すると、"This page and application is only for use on computers, not available for mobile devices." というエラーが表示される。なお、本番ではwww.intersteno.orgで上記のエラーが発生しない一方で、画面内の本番エリアのサイズが小さいため、開始直後にマウスで調整する必要がある。www.intersteno.itではこのような調整が不要なので、開幕の数秒を無駄にしないためにもこちらを採用すべきだ。

本番や練習の実施前には、使用しないアプリケーションやブラウザ画面を必ず終了させる。筆者のケースでは、Outlookの定期的なメール受信により、練習中にブラウザがフリーズしたことがあった。また、Firefoxのプラグインの暴走により、日本語の変換結果の表示に逐一10秒以上かかる状況に陥ったこともあった。このような事態が本番で発生してはたまらない。フリーズの場合も再受験等の救済措置はない。その時点で打ち終えていた分までで判定されるか、もしくは失格(0点)となる。WindowsUpdateやLiveUpdate、JavaUpdate、セキュリティソフトの定時スキャン等に関しても、10分間打鍵の実施中にバックグラウンドで動作させないような対策を講じておきたい。

最後に、Takiソフトウェアで本番を実施する場合、直前に必ず画面をリロードする。一定の時間が経過するとタイムアウトし、練習用のTakiソフトウェアに切り替わるためだ。

(6) 本番の実施

ベストの体調で、ベストの時間帯に実施するのは言うまでもない。筆者の場合、休日の午後の早い時間と、夕食後21時までの時間が最善だった。仕事・育児・家事と重ならず、かつ身体が覚醒しているためだ。また、平日帰宅後や登山直後のように疲労している場合や、リハビリが不十分な場合、眼精疲労や脳・腕・指の疲労が蓄積している場合も、本番実施を避けるべきだろう。もっとも、今回は4/28に感染させられた風邪が最後まで完治せず、体調不良のまま本番に突撃せざるを得なかったのだが。

また、1日あたりの本番実施数は2言語に抑えたい。但し、充分な練習を積んだ状態で、体調が良く、指の調子も好調を持続している場合は、1日に3〜4言語の本番を実施することもあった。

さらに、本番の直前に10分間練習を実施する。これは、本番で使用する配列に確実にセットすると同時に、他の言語との混同を避けるためだ。また、言語ごとに頻出する単語やシーケンスが存在するため、本番の直前に目と指を充分に慣らしておく必要がある。但し英語や日本語など、ガチで10分間打つと疲労する高速言語についてはほどほどにしておく。5分で止めても良いし、1分間練習×5で代用しても良いだろう。要は、本番にピークを持っていくため、本番を想定してある程度本気を出しつつも、準備と割り切って力を抜くということだ。


●各言語の対策(主要なもののみ)

(1) ハンガリー語

重点強化言語に指定し、約半年の間ほぼ毎日打鍵した。詳細なスケジュールは
戦略の「(3) 難関言語の底上げ」で述べた通り。ここでは、配列の進化の過程を表14に記す。青太字で示した部分が、主要なブレイクスルーである。

【表14:ハンガリー語配列のバージョンアップの履歴】

日付Version変更内容
2015/10/18汎用öüを「無変換+py」で打つことで2打鍵化(これは自分に合わなかった)
2015/10/20汎用かり〜配列を改造
ウムラウトをデッドキー[;に配置し、試行錯誤
2015/10/21汎用かり〜配列を改造
ウムラウトとñをデッドキー;に、サーカムフレックスをデッドキー[に配置
2015/10/223専用配列を新規作成。őűを[]に配置し、1打鍵で打てるようにした
2015/10/234áöüを@[]に配置
2015/10/246áéを@[に配置(特殊文字の出現調査の結果を基に変更)
öüをデッドキー;に、őűをデッドキー]に配置
2015/10/277or8öüőをwqxに、qwxを半角/全角および^]に配置
2015/11/49?
2015/11/1010„を「:→3」に配置
デッドキー;に仕込んだöüを削除(;の1打鍵化
ハンガリー語に出現しないćĺńŕśýźも削除
2015/11/2712űを]に、xを「右Alt+v」に配置
2015/11/2713íóを]^に配置
űqwxを「:→ysdv」に配置(この時点では「:→qwx」に配置する方法が不明)
2015/11/2714űqwxを「:→jfgv」に配置
2016/2/315qwxを「:→qwx」に配置
2016/3/2816emダッシュを「:→m」に配置(これは結局不要だった)
2016/4/1118enダッシュを「:→n」に配置

(2) 英語

筆者にとって英語は馴染み深い言語であり、タイピングの練習もそこそこ積んできている。ところが、2015年大会ではこの油断が落とし穴となり、4897点(539.7文字/分、ミス10)という屈辱的な惨敗を喫した。速度も正確性も到底納得できない結果だった。英語の練習も怠ってはいけない。貴重な稼ぎどころなのだから。

2016年オンライン大会に向けて練習を重ねる段階で、多言語対策を重視すると英語が打てなくなることを痛感した。単純に練習時間が減少するし、英語より遅い言語を打つことで英語も遅くなるためだ。そこで、10月以降は英語の10分間練習をほぼ毎日継続した。11月以降は、10分間練習を1日に2回打ち続けた。こうして、英文の打鍵感覚を落とさないようにした。

さらに、英語の配列もカスタマイズした。2015年大会では旧来の習慣から脱せず、日本語配列で打っていた。だが、表15に示す通りUSインターナショナル配列をベースとしている他言語の配列とは一部の記号の位置が異なるため、混同する恐れがある。そこで、英語もUSインターナショナル配列をベースとした。但し、当初:およびShift+:に割り当てていたデッドキーを削除し、;および'を1打鍵で打てるようにした。また、練習問題で稀に出現する一部の特殊文字(’éç)を1打鍵で打てるようにした。

【表15:記号の打鍵方法の違い】

記号USインターナショナル配列日本語配列
:Shift + ;:
':Shift + 7
"Shift + :Shift + 2
@Shift + 2@
&Shift + 7Shift + 6
(Shift + 9Shift + 8
)Shift + 0Shift + 9
=^Shift + -
_Shift + -Shift + \

※他にも日本語配列と打鍵方法の異なる記号は存在する。だが、Interstenoでは出現しない。

さらに、運指の最適化も少しずつ進めた。但し、採用したのは正確性100%を保ちつつ速度を増せるものに限る。具体的には表16の通り。

【表16:英語の運指の最適化】

シーケンス内容適用範囲
un, nu, hu正確性強化fundamental, under, tunnel, nuclear等
number(やや無理がある)
po, op正確性強化/
適用範囲拡大
opportunity, power, potential, polluting, support, possible, policy等
例外:development, developingは薬小。shoppingのoppは全部薬
lo新規allow, follow, lower
例外:ecological(適用しにくい)

(3) ロシア語

paraphrohnさんが作成したインテルステノ用paraph配列集のロシア語配列を参考に、USインターナショナル配列をベースとして新規作成した。但し、細部は筆者にとって打ちやすいようカスタマイズした。例えば、右Altを押しながら何らかのキーを打つという方法は(たとえ右Altを他のキーにスワップしても)性に合わなかった。理由は、かな入力におけるShiftが減速要因になるのと同じである。このため、デッドキー:を押してから当該キーを打つように変更した。また、キーの割り当ても微妙に変更している。

キリル文字に慣れ、зとэ、лとпとиとц、ъとьとы、БとВの認識ミスが減ってきた段階で、配列の最適化に着手した。まず、デッドキーを用いて入力していた文字のうち、ьчйщの出現頻度が比較的高いため、1打鍵で入力できるようにした。一方、ъの出現頻度は低いため、デッドキーを用いて入力するように変更した。さらに、次に出現頻度の高いэについても1打鍵での入力を検討した。但し、本番が迫ってきたため実現はしなかった。

(4) 日本語

当初は練習課題が刷新されるとのことだったため、対策はその後に実施する予定だった。ところが、本番実施直前になっても刷新されなかった。このため、昨年と同じ課題を用いて対策を実施した。

また、今年もローマ字入力一本で臨むことを早い段階で決めていた。理由は、東プレRealforce89Uにおけるかな入力が安定しないためだ。確かにローマ字入力では望み得ない速度を得られるのだが、ミスが減らない。特に濁点打鍵時に右手薬指が「わ」に触れたのが認識されてミスになるパターンが根絶できなかった。毎パソの和文部門の予選のように同じ文章を300回練習できるならこのミスは根絶できる。だが、初見課題でこのミスを根絶することは不可能というのが、現時点での結論だ。

昨年との違いは、練習課題に頻出する固有名詞「安倍晋三」を「あべしんぞう」で単語登録したことだ。毎回「あべ(3)/しんさく(2)/Enter/BS/さんこ/Enter/BS」などと手間取って1秒以上ロスするのは精神衛生上悪い。但し、これ以外の固有名詞は出現頻度が低く、かつ変換の練習にもなるとの理由から、単語登録を見送った。そもそも本番に出現するとは限らないし。

(5) チェコ語、スロバキア語

専用配列を参考にしつつも、日本語のJISかな配列をイメージして配列を作成した。即ち、右手小指や最上段まで駆使して、頻出特殊文字の1打鍵化を徹底した。この配列のデメリットとして、頻度が低いとはいえwx34567等が連続して出現した時に速度が低下する。だが、頻出文字を1打鍵化するメリットの方が上回ると判断した。

MSKLCを用いた配列の改良回数は、ハンガリー語や英語にこそ及ばないものの、両言語とも10回を超えた。まずは頻出するアキュートを中心に1打鍵化し、次にwxに特殊文字を割り当て、最後に最上段への割り当てを解禁した。合間に、シングルクォートやenダッシュ等、極稀に出現する記号にも対応した。これらの進化は一度にできたことではない。他の言語の練習から得た知見も駆使しつつ、半年の時間をかけてじっくりと練り上げ、脳と指に適応させていった。

(6) フィンランド語

この言語の対策の難しさは、「Takiの10分間課題の数の少なさ」にある。何と、わずか2種類しか用意されていないのだ。従って、10分間課題を打ちまくって対策すると、そのうち頻出単語や間違いやすい箇所を中心に文章を脳や指が暗記してしまう。これでは初見文章の対策にならない。

そこで、22種類用意されている1分間課題を中心に初見文章への対策を進めた。もちろん1分間(約500文字)打って終わりではない。一つ一つの課題は約1000文字用意されているのだから、全文を再入力し、初見文章への耐性を培った。さらに、以前の入力結果とEXACT関数で比較することにより、従来気付かなかったミスを発見し、入力結果の精度も向上させた。


●日本語の係数について

昨年大会では、日本人参加者から、日本語の係数「2.2607」は不利との声が多数挙がった。確かに、大半の参加者のスコアが「英語>日本語」となった現状を鑑みれば、そういう感想を持つことも理解できる。実際、日本人のうち英語と日本語の両方で合格条件を満たした41人中、32人(78.0%)のスコアが「英語>日本語」であった。母国語である日本語よりも外国語である英語の方が平均的にスコアが高いというのでは、違和感を覚えるのもある意味当然だろう。

今大会では、課題文章の大幅な易化により、上記の感想はほとんど目にしなかった。むしろ、得点が伸びたことで「係数が上がったのでは?」という感想を持つ人が多かった。実際、日本人のうち英語と日本語の両方で合格条件を満たした37人中、「英語>日本語」となったのは19人(51.4%)であり、昨年よりも大幅に低下した。

個人的には、そんなに不利な係数とは思わない。実際、筆者の日本語の記録は475.2文字/分(ミス0)で4752点だった。これは参戦17言語中9位に相当する。確かに英語と比較すれば低めだが、ロシア語やチェコ語、ポーランド語等と比較すれば十分に高い値だ。そしてこの例は筆者だけに当てはまるわけではない。今回の日本人参加者57人について、各言語の合格者平均点のランキングは表17の通りとなる。日本語の係数が有利というよりもむしろ、英語の優位性が際立っているのだ。そして、日本語の係数をさらに上げるのであれば、特殊文字の多い他の言語にも係数を設定すべきだろう。

【表17:各言語の合格者平均点と合格者数】

言語合格者平均点合格者数
英語3631(+59)34(-20)
ポルトガル語3530(+502)11(-3)
フランス語3487(+534)11(-5)
クロアチア語3474(+568)11(-2)
日本語3410(+596)50(-23)
トルコ語3376(+565)8(+1)
スペイン語3354(+81)16(+1)
スロバキア語3213(+493)9(+1)
イタリア語3213(+174)19(-2)
ドイツ語3208(+382)15(-3)
フィンランド語3207(+328)13(-3)
オランダ語3162(+134)23(-3)
ポーランド語3130(+317)10(+2)
ルーマニア語3117(+222)11(-)
チェコ語3073(+429)8(+1)
ハンガリー語3020(+414)9(+1)
ロシア語2807(+578)7(+4)

※()内は昨年比。
※方言はまとめて集計した。

日本語の係数は今回の参加者の平均値をベースに再検討するとのことだ。だが筆者は、係数を上げるとしても2.5程度に留めておくべきと考える。あまり高い係数を設定すると、今度は文章により日本語が有利になりすぎるリスクがあるためだ。

但し、ミスのペナルティに関しては他の言語と比較して大きめと感じた。特に合格ラインギリギリの文字数しか打てない場合、ミス率の制限に引っ掛かりやすくなる。Interstenoの仕様では、日本語に単語という概念が無いため、「抗議」を「講義」と打つと2ミスになる。これに対し、他の言語では1単語の中のミスは最大1なので、例えば英語のcomeをcmoeと打っても1ミスである。


●モチベーション維持策

今回長期に渡ってモチベーションを維持できたのは、「自分を成長させる」ことを第一の目的としたためだ。Interstenoへの参戦は今回で終わりではない。今後数年かけて多言語タイピングの実力を培うという戦略で臨んでいた。強化を継続すれば、17言語で8万点に届くという見通しを持っている。その先には16言語8万点や、17言語9万点、20言語10万点も見えてくるかもしれない。

自分を成長させるには、自ら戦略と戦術を考案し、練習の過程でPDCAを回して練り上げていくのは当然のことだ。ここまでは本気で勝ちたければ誰でも実行するだろう。加えて、実力が同程度、もしくは上の人間はライバルであると同時に、自分を成長させてくれるありがたい存在だ。今回はこの発想が根底にあったため、かつての毎パソにおけるたにごん戦のように、姑息な手段を使ってでも勝ちに行くという考えは全く無かった。むしろ、毎週のTypeRacer対戦会で叩きのめされることを感謝しつつ、最大限に利用させて頂いた。

実際、今回は対人戦を行う意思が極めて希薄だった。唯一の例外は、4月の本番期間が始まる少し前にそれまでの自己ベストおよび平均スコアをTwitter上で公開し、「目標はCelal撃破」と公言したことだ。これも、本人に伝えたわけではない。本人が知るはずもないHNで、しかも恐らく読めないと想定される日本語で書いただけなのだから(但しTwitter上で彼の名前を何度か出したため、Google検索や翻訳等で内容を知られている可能性は僅かにある)。実際には彼に闘いを挑むというよりもむしろ、大会に向けて自分を、そして日本人参加者を鼓舞する目的の方が大きかった。

理由は、国内外で対人戦を行うには実力が欠けていたことだ。昨年のCelalのスコアは16言語で75204点。今年の筆者は日本語を除く16言語で73535点であり、残念ながら届かなかった。そもそも当初の目標は17言語で7万点であり、それを75000点に上方修正したばかりだった。まして過去にはSean、Danielといった神速タイピストたちが16言語で(あるいはそれ未満で)8万点超という偉大な記録を残しており、筆者はその足元にも及ばない。日本国内に限定しても、paraphrohnさんの17言語8万点にすら届かない。この程度の実力で正面から対人戦を挑むのは無謀である。

……

一方、上位陣が本番で崩れた時には、しれっと世界第一位を頂戴する野望は当然あった。このため、特に本番直前の伸びについては意図的に秘匿した。実際、本番では目標の75000点から3000点以上上積みした。しかし、英語やロシア語の惨敗により早期に隙を見せる結果となり、総合得点でも大差で敗北した。もちろん、今年の敗戦に関して悔しさはある。だが、来年以降に向けて自分をさらに成長させるモチベーションが得られたのはそれ以上に大きい。


●感想(というよりも反省)

限られた本番実施期間で、複数の難関言語を含む17言語に参戦した。その結果、合計で78000点を超え、世界第二位を獲得した。この事実は、参戦2年目という条件を鑑みれば評価して良いだろう。

だが、来年もこの得点で同じ順位に入れると楽観はしていない。今回の日本人の奮闘ぶりを見た諸国のタイピストたちが、このまま座視しているとも思えない。さらに、新たな強力なライバルたちが続々と出現してくる可能性もある。さらなる境地を目指すためにも、まずは今年の失敗と成功を分析する。

(1) 失敗から学べ!

最大の失敗は、英語で昨年に続いて惨敗を喫したことだ。原因は、事前の配列変更を忘れていて、トルコ語配列のまま打ち進んだことだ。筆者のトルコ語配列では前記の通り、qwxがすべてüöğになる。約1分打ち進んだところでwがöになっているのに気付いて、英語配列に変更した上で全消し修正を余儀なくされた。Ctrl+AやShift+↑等のショートカットキーはTakiソフトウェアの仕様で無効化されているため、ひたすら矢印キーを押し続けるしかなく、10分中1分が丸々失われた。これは非常に痛く、残り9分で全力を尽くしたものの5000点にすら届かなかった。

ではなぜトルコ語配列のままになっていたのか。根本原因は、直前に指慣らしと称して毎パソ英文の初見挑戦を実施したことだ。英語の本番直前にTakiで10分間打つのはかえって疲労する点を考慮し、5分で終わる毎パソで代用することは少し前に決めていた。ところが、毎パソは専用ソフトを立ち上げて打鍵するため、ブラウザの言語は少し前に本番を実施したトルコ語のままだ。このトラブルを回避するには、やはり本番直前には練習としてTakiで打鍵するべきだ。10分打つと疲れるというなら、5分で止めておけば良い。

なお、配列変更を忘れたことに気付いた時点での対処は、上記が最適解だ。そのまま打ち進むとミス制限を超えて0点だし、パニックに陥ってブラウザを閉じたりPCを強制終了させたりしても0点だ。

……

他の失敗としては、体調管理だ。本番期間直前に間抜けな転倒をやらかすとか、最後の追い込みを前にして風邪にやられるとか、あり得ない。筋トレやランニングを継続し、多少の怪我や風邪に負けないよう鍛え上げておきたい。

(2) 重点強化の結果

ハンガリー語では昨年比1380アップという結果をもぎ取った。配列の最適化も、QWERTYベースでは極限に近いところまで進んだと思う。一方で、重点強化対象でなかったはずのトルコ語では1653アップ、ポーランド語でも1440アップと、ハンガリー語を上回る結果を得た。一つの要因として、ポーランド語に関しては昨年のスコアが低すぎた(11ミスと崩壊した)ことが挙げられる。トルコ語には自作配列で打ちやすいワードが数多く含まれるという要因もある。だが、ハンガリー語で配列をさらに進化させるよりも前に、やるべきことはまだまだある。最低限、頻出ワードや頻出シーケンスへの習熟を進めるべきだ。

英語は10分間練習を245回実行し、最低5500は叩き出せる見通しを持って本番に臨んだ。但し、初見文章に対して本当にこのスコアに届くのか、疑問が残る。というのも、10分間練習の課題文章が計32個しか無いため、ミスしやすい箇所をほぼ覚えてしまったためだ。本番で5500を狙うなら、練習では6000を安定させるつもりで臨む必要がある。

ロシア語は明らかに練習不足だ。認識能力も打鍵能力も発展途上のまま本番を迎えた。他の言語との兼ね合いもあるが、少なくとも4000まで伸ばしてから来年の本番を迎えたい。

……

練習量が結果に比例するとは限らない。実際、英語、フランス語、ロシア語は練習回数の割に伸びていない。もっとも、フランス語の練習回数の大半は昨年6月の仕様調査によるものなので、根本的には練習不足だが。一方、スロバキア語は最小限の練習で最大の成果を出した。次点がフィンランド語だ。イタリア語、スペイン語、オランダ語も練習量は少ない方なのに成果はそれなりに出た。とはいえ、ハンガリー語のように練習量に見合った成果が出た言語もある。こちらは練習の質と量が噛み合った成果と言えるだろう。

(3) ミスの減少

全17言語で6ミス以内に抑えた。これに関しては、普段から正確性重視の練習を地道に継続した成果が現れたと言えるだろう。また、ほぼすべての言語で、本番では練習時とは明らかに違う集中力が発揮された。その結果、トルコ語、スロバキア語、クロアチア語の計3言語で、本番で自己ベストを叩き出した。もっとも、裏を返せばこれらの言語の練習量が不足だったということだ。この辺に、来年に向けて改善の余地がある。

最後に、ノーミスの言語は日本語とクロアチア語のみだった。練習時には、英語での18回を筆頭に、12言語で計38回出していたのにもかかわらずだ。全552回の10分間練習(本番含む)中、1ミスは85回、2ミスは105回、3ミスは106回、4ミスは64回だった。昨年と比較すると、4ミス以内の確率が約46%から約72%に増えた。2ミス以内は20%から約42%に。ノーミスは約0.6%から約7.2%に増えた。合格ラインであるミス率0.50%以内(4000文字につき20ミス以内)を気にする段階から、ミスを減らして得点を最大化する段階に進んだと言えるだろう。


●来年に向けて

まずは、今後数年以内に世界第一位になりたいと敢えて宣言しておく。大前提として、国内第一位になる必要がある。そして国内第一位は、上位者が居ない状況でヘボいスコアで達成しても意味は無い。できることなら国内の猛者がフル参戦する中で、誰もが納得できるスコアを叩き出して勝ちたい。世界第一位や歴代第一位はその先にある。

筆者の今後数年を見据えた戦略がいつ実を結ぶかはまだ分からない。筆者が8万点以上を狙うには、もはや低速言語の底上げだけでは不充分だ。高速言語では6000点を目指して鍛錬を積み重ねる必要がある。加えて、2017年はオフライン大会との両立が課題だ。オフライン大会の対策として英語を重点強化するなら、多言語に割けるリソースはその分だけ減る。

しかし幸いなことに、戦略と戦術の見直しにより、総得点を伸ばす余地は残されている。昨年挙げた課題である「言語ごとに最適な方言と配列を検討」「ロシア語への参戦」「練習量の確保」は、既に述べた通りある程度解決した。それでは、来年に向けてさらに伸ばすにはどうするか。

(1) 各言語の習得

究極的には、極めて有効と考えられる。実際、英語では言語習熟度がタイピングに好影響を及ぼしている。タイプウェル英単語やTypeRacer、10FastFingers等の短距離種目では日本人の中でも決して速くない筆者が、Interstenoや毎パソ等の中長距離種目で上位に居座っていられるのはこのためだ。さらに、第二外国語としてある程度習得したドイツ語に関しては、長い単語を見た時にどこで区切るかが概ね分かるというメリットを体感できた。同じゲルマン語派のオランダ語に関しても、習得はしていないものの、同様のメリットを享受した。

一方、第三外国語として選択しつつも習熟が甘かったフランス語では、タイピングに好影響を及ぼす段階に至っていない。まして、第四外国語以降を新規に習得するとなると、タイピングに好影響を及ぼすレベルまで引き上げるには数年かかりそうだ。長期的視野で取り組むべき課題と言えるだろう。

(2) 各言語の頻出ワード・頻出シーケンスの習得

短期的にできる対策は、これに尽きる。これだけなら、10分間練習を100回繰り返せばある程度の成果を期待できるだろう。例えばハンガリー語に関しては、重点強化する過程で幾つかの頻出単語を覚えたことで、明らかに高速化された。azonban(しかし)、napjainkban(今日)といった打ちやすい単語はもちろん、egészség(健康)のような打ち辛い単語も高速化できたのは収穫だ。

(3) 配列のさらなる最適化

今年用いた配列は、完成形ではない。まだまだ最適化の余地があると思う。幾つかの言語ではアイデアもあったものの、時間切れで適用しなかった。

加えて、今回真っ先に切り捨てたQWERTZ配列やAZERTY配列にも長所はあるはずだ。確かに、言語間で配列が混ざるリスクは大きい。だが、例えば速度や正確性の向上という明確なメリットがあって、リスクを上回るのならば、一部だけでも採用を検討する価値はあるのではないか。

(4) 手順書の作成と遵守

本番での失敗を抑制するため、環境設定や本番実施に関しては手順書を作成し、逐一その通りに実行すべきだ。トルコ語配列のまま英語を打つなどという間抜けな事故が再発しないよう、万全を期したい。

(5) 来年の重点強化言語

表18に示す通り、全17言語にまだ伸ばす余地がある。特に、練習の質と量を高めることで大きく伸びると想定されるロシア語は、重点的に強化したい。本番で自己ベストあるいはそれに近い得点を叩き出した言語についても、さらに伸ばす余地があるだろう。

【表18:各言語の成長余地という観点での分類】

カテゴリ言語
環境設定ミス英語
その他、本番での失敗チェコ語、フランス語、ルーマニア語
配列未完成ポーランド語、ポルトガル語
高速化未完成スペイン語、オランダ語、イタリア語、ドイツ語
本番自己ベストトルコ語、スロバキア語、クロアチア語
本番自己ベスト付近日本語、フィンランド語、スペイン語
練習不足ロシア語

(6) Interstenoへの働きかけ

これは個人として総得点を伸ばすというよりも、将来を見据えて公平かつ公正な競争環境を維持し、裾野を広げるのが目的だ。

まず各言語の練習問題に残る問題点について。筆者が指摘済みだがまだ修正されていないものもあるし、その後新たに見出したバグも存在する。ある程度まとまった段階で、再び粘り強くInterstenoのTaki担当者に働きかけて、修正を促していく。同時に、€や£等、欧米人には常識であっても日本人には馴染みが薄い記号については、打鍵方法を啓蒙するという手段もある。

次に日本語の仕様について。日本人以外の参戦が著しく困難な現状はどうかと思う。今年は結果的に日本語を除く16言語でも日本人が総合1位・2位・5位を占めた。だが、来年以降は「16言語で勝てないのに17言語で勝ちました」という事態が生じる可能性もある。「方言の一つとしてローマ字入力種目を設定する」「現状の中国語部門と同様、別枠での開催とする」等、既に幾つか案はあるものの、デメリットも多い。前記の日本語の係数の問題と合わせて、試行錯誤が必要だ。現在の不平等感が少しでも解消されるよう提言していきたい。ここでの試行錯誤は、将来の韓国語等への展開の際にも役立つことだろう。


●参考文献・謝辞

Pocariさん:Interstenoオンライン大会への日本語部門追加を先頭に立って推進し、実現にこぎつけたのみならず、2015年の日本人参加者120名もの参加費までご負担頂きました。2016年大会での日本語部門継続にあたっても紆余曲折があり、各国代表との交渉に奔走されたと聞いております。この方の尽力なくしては、筆者はInterstenoの存在すら知らず、まして参戦など考えもしなかったことでしょう。ありがとうございました。

ジュニアさん:最難関のロシア語を含む全17言語への参戦を目指し、最も早い段階で練習に着手していました。その過程では、各言語の専用配列を習得し、特殊文字や記号の入力方法を一から調査・導入されるなど、先行者として並々ならぬ苦労があったことと推察します。今年は昨年よりも大幅にパワーアップし、中盤戦で全体1位となって引っ張って下さいました。

かり〜さん多言語タイピングWikiで積極的に情報発信し、多くの初心者に多言語参戦への道筋を示して下さいました。2016年大会に向けては、TypeRacer多言語対戦会の代理開催および毎週参戦により、引き続き引っ張って下さいました。さらに2017年大会に向けた新たな取組みとして、初心者向け多言語対戦会や10FastFingers大会開催を開始されています。

paraphrohnさん:早い段階で「総合8万点で世界一」という高い目標を掲げ、それを有言実行することで日本人参加者全体を引っ張って下さいました。また、インテルステノ用paraph配列集の作成・配布に加えて、TypeRacer多言語対戦会を毎週開催して頂いたお陰で、筆者を含め参加者のレベルは昨年とは比較にならないほど向上したと言えるでしょう。

やださん:Takiソフトウェアで出現した "This page and application is only for use on computers, not available for mobile devices." というエラーに対して、画面サイズを拡大するか文字サイズを小さくすることで解決できるという情報を頂きました。

どりすとさん:上記の問題につき、www.intersteno.itで打てば問題無いという情報を頂きました。筆者は2016年大会に向けて、練習でも本番でもこちらのサイトのみで打ちました。

司@dvorakさん:文章内の文字の出現頻度調査に役立つWebサイトをご紹介いただきました。筆者は主にロシア語の文章で活用させていただきました。

愛する家族:4月後半の土日およびゴールデンウィーク前半という、本来は育児・家事・家族サービスに充てるべき貴重な時間の大半をInterstenoの多言語参戦に投入できたのは、間違いなく家族のおかげです。ありがとう! ……というよりも、我ながらろくでもない夫・父親だと思う。来年以降もオンライン大会に参加するなら、ゴールデンウィークの一部を毎年潰すことになるというジレンマがある。


●各種資料

Intersteno2016関連の資料を以下に公開します。必要に応じ、自己責任でご利用下さい。また、著作権等で問題が発生した場合は即削除します。

Intersteno拡張dq配列
→Interstenoで使用した配列。インストーラとともにMSKLC用のファイルもあります。但しまだ進化の過程にあり、完成形でないことにご注意下さい。また、言語によっては慣れるまでに相応の時間が必要であって、短期決戦には不向きであることにもご注意下さい。

Intersteno拡張dq配列:仕様書
→上記配列の仕様書。

Interstenoの各言語ランキングと統計資料
→eighさんの統計資料を参考にしつつ、自分用にVBAで作成していた資料です。本レポートにはこのデータを一部使用しています。ソースコードは非公開(効率が悪く、エラー処理も甘く、プログラマとして恥ずかしいレベルなので)。

Interstenoランキング:仕様書
→上記資料の仕様書。

Intersteno課題文の解析資料
→各言語の練習課題(1分間課題計970個、10分間課題計151個)を自力で収集・入力した資料です。配列作成の際に、特殊文字や記号、qvwxyz等の文字の出現頻度を解析するために使用しました。また、InterstenoのTaki担当者への問題点の報告は、この資料をベースに実施しています。ついでに練習時の最高記録も掲載してあります。なお、特に10分間課題の収集は約1/3が終わったばかりであり、完成形ではありません。また、入力時の正確性は99%以上あると自負していますし、難関言語の一部は再入力により正確性を高めていますが、筆者も人間である以上100%ではないことはご了承下さい。今後、未完成分は気長に埋めていくつもりですが、一人で完成させるのはものすごく大変なので、どなたか手伝って下さい。

Intersteno練習の各種統計
→Intersteno対策として実施した10分間練習(2015年160回、2016年552回。本番含む)の各種統計として、「言語毎の最高記録、平均得点、平均速度、平均ミス数」「本番の記録との比較」「練習回数」「ミス数別のトライアル回数」をまとめたものです。特に昨年からの伸びが非常に励みになりました。

Intersteno練習記録
→Intersteno対策として実施した10分間練習(2015年144回、2016年535回。本番除く)の詳細をデータベース化したものです。上記の統計資料はすべてこのデータから作成しています。なお、元のExcelシートには本番の情報(課題文の冒頭部等)も含みますが、公開資料では念のため除外してあります。


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