●筆者の結果
【タイムと順位】
SCMS2015公式結果のPage45によると、フルマラソン完走8974人中2208位。詳細は以下の通り。
TIME | Overall Rank | Category Rank | Gender Rank | |
---|---|---|---|---|
OFFICIAL TIME | 05:19:55 | 2208 | 708 | 1914 |
NET TIME | 05:19:21 | 2476 | 774 | 2142 |
# of finishers | - | 8974 | 2229 | 7569 |
※OFFICIAL TIMEはスタート合図からゴール地点通過までの時間。ゴールゲート上の時計に表示される。
※NET TIMEはスタート地点通過からゴール地点通過までの時間。
※Category(年齢カテゴリ)は40-49歳。
※Gender(性別)はMale。
ランキングはNET TIMEでなく、OFFICIAL TIMEの順に掲載される。即ち、スタート時点では可能な限り前の方に陣取り、スタート合図後にスタート地点を通過するまでの時間を少なくした方が良い。
距離 | ラップ | 1kmあたり時間 | 合計時間 | 順位 |
---|---|---|---|---|
5km | 27:42 | 5:32 | 0:27:42 | 549 |
10km | 27:46 | 5:33 | 0:55.28 | 520 |
15km | 28:22 | 5:40 | 1:23:50 | 530 |
20km | 34:37 | 6:55 | 1:58:27 | 835 |
25km | 42:29 | 8:30 | 2:40:56 | 1369 |
30km | 46:10 | 9:14 | 3:27:06 | 1770 |
35km | 43:19 | 8:40 | 4:10:25 | 2031 |
40km | 50:11 | 10:02 | 5:00:36 | 2157 |
42.2km | 18:45 | 8:31 | 5:19:21 | 2208 |
※合計時間はSCMS2015スマホアプリに表示されたもの。
※ラップタイムは合計時間から逆算したもの。
※1kmあたり時間はラップタイムを距離で割ったもの。
※順位は公式結果によるもの(SHOW SPLITSで表示)。
※中間点(21.1km)は2:05:31に通過した。この時点で852位。
15kmまでは順調に推移していたことが分かる。その後はどんどんペースダウン。30km過ぎと40km過ぎで少しだけ立て直したが、元のペースには遠く及ばず。marathon-photos.comのStats(統計情報)によると、ラスト5kmでは11人抜く間に382人に抜かれたらしい。もっと抜いた気もするが、実際には抜き返されたのだろう。
●プロローグ
きっかけは、7月のInterstenoオフライン大会@Budapestで登山靴を装備したまま5km走った時の感触だ。この一見不利な状況でそれなりに気分良く走れたことから、長年抱いていた「フルマラソンなんて筆者にはとても無理」という固定観念が雲散霧消していった。また、このハンガリー旅行中にぽかたんによるシンガポールマラソンへの勧誘が行われていたことも念頭にあった。
実際には日本人らしく2016年2月の東京マラソンを走る予定だった。だが、ご多分に漏れず平均競争率10倍超の抽選で叩き落とされた。このため、エントリーさえすれば確実に走ることのできるシンガポールマラソンに気持ちが傾いた。また、シンガポールマラソンの費用を概算したところ約10万円であり、東京マラソンへのチャリティー参加費用と大して変わらない。この点も、決断に向けた後押しとなった。
●準備
【費用の抑制】
シンガポールマラソンに限らず、海外のマラソンに一歩を踏み出せない理由の一つが、費用の高額さだと思う。但し、今回は計10万円以内に抑え込んだ。
No. | 費目 | 費用(円) |
---|---|---|
(1) | 航空券 | 65,230 |
(2) | 宿 | 5,874 |
(3) | 参加費 | 13,024 |
(4) | その他 | 15,500 |
合計 | 99,628 |
※(1)はマイル付与による相殺分を除く。
※(4)は1USD=100JPYとして換算(調達時価格)。
※(4)はカジノの儲けによる相殺分を除く。
最大の割合を占めるのが航空券だ。社会人の場合は日程が制約されるため、往復ともに直行便がほぼ唯一の選択肢となる。数カ月前から格安航空券のサイトをチェックした結果、マイレージ会員となっているJALを選択した。今回の条件ではマイル付与分を含むとLCCよりも安くなったためだ。
また、同時に旅程も決定した。主に費用面から、12/4(金)夕方出国、12/7(月)早朝帰国がほぼ唯一の選択肢となった。金曜夜発や土曜発では価格も高くなるし、現地の気候に順応する時間も取れない。一方、金曜夕方に出国すれば土曜日を丸一日観光に使える。なお、木曜午後から休むとか、月曜を休むという選択肢は最初から無かった。実際、今回は月曜朝6:05に帰宅し、着替えと朝食を済ませてそのまま出勤している。
宿は寝るだけなのでカプセルホテルで充分だ。Expediaでさくっと2泊分確保した。欲を言えばマラソンのスタート地点もしくはゴール地点に近い所が良い。だが、スタート地点は日本で言えば銀座、ゴール地点は国会議事堂のような場所であり、ホテル代が暴騰する。少し検索した限りでは、1泊2万円以下の宿を見出すのが困難だった。今回はスタート地点から約3kmのLittle India付近の宿を選択した。いざとなれば準備運動を兼ねて徒歩で向かうつもりだった。実際には、当日2:30頃からMRT(電車)が特別運行していたため、3kmの徒歩をしなくても済んだ。また、もう少し旅慣れていればドミトリーという選択肢もあったと思う。今回はそこまでのリスクを取りたくなかったため、カプセルホテルに落ち着いた。
マラソン参加費のうち基本部分は125SGD(約11500円)である。但し、受付開始直後にエントリーすればEarly bird価格が適用されて若干安くなる。将来再び参加するならこれを狙うべきだろう。また、15SGD追加で参加証に記録が記載されるとのことだったため、このオプションも付けておいた。残念だったのは、手持ちのクレジットカードではUSD建ての決済ができず、このクソ円安の時に日本円決済という最悪の結果になったことだ。
以上により、10万円の予算に対し1.5万円ほど余るため、これを食費、交通費、観光費、土産代等に充てる。現地在住の友人であるぽかたんが筆者の希望を含めた完璧なプランを作成して下さったため、この範囲内に収まった。事前に希望した中では最も高額な逆バンジーに結局乗らなかったことと、移動以外に費用のかからないアクティビティ(登山、ヤシの木)を好んだことが、結果的にコスト削減に結びついた。また、SGDへの両替はJPYでなくUSDからにする(USDを持っている場合は)。アベノミクス円安はまだまだ続いており、海外で日本円を使うほどアホらしいことは無い。
練習方法を試行錯誤した結果、土日の朝ランに加えて平日2回の夜ラン、つまり週4回のトレーニングという形が定着した。但し各日の距離は原則約5.5kmであり、日曜日に調子が良ければ8.25km走る程度だった。インターバル走やビルドアップ走、坂道ランを採用するなどメニューは自分なりに工夫した。だが、距離が決定的に不足だったと思う。
また、公的な大会に申し込み、20kmを走ったことが二度あった。具体的には9/26の第18回皇居Funランと10/31の第7回小松菜マラソンだ。11/15の30km走は悪天候を理由にキャンセルしたため、結局20kmまでの経験しか無いままフルマラソンを強行することとなった。
例えば速乾性の衣類に絞る(必要に応じて洗濯する)ことで着替えを削り、食料調達を現地に絞ることで水や日本食を削り、スマホの機能を駆使することでノートPCを削る。併せて、良い機会なので財布の中の不要なカード類やレシート類の削減、鞄の中身の棚卸も実施した。
……シンガポールでは雨に降られてもすぐ乾くという先入観の元に折り畳み傘まで削ったのはやり過ぎだったかもしれないが。また、靴を削るためにランニングシューズ1足で通したのもどうかと思う。
カテゴリ | 装備・持ち物 | 備考 |
---|---|---|
【マラソン】 |
速乾性短パン、速乾性下着、厚手靴下、 メガネストッパー | レースで着用 |
速乾性Tシャツ、ランニングシューズ | 観光でも兼用 | |
貴重品入れ | パスポートと少額現金は持って走る | |
ビニール袋 | ↑の防水用 | |
白タオル | 直射日光対策のほっかむり用 | |
雪山用サングラス | 日の出以降は必須 | |
絆創膏 | 靴擦れ、怪我対策 | |
【その他】 | 黒ビジネス鞄 | 移動にも観光にも使用 |
パスポート、USD、念のためJPYも | ||
e-ticket控、宿MAP、その他ロジ関連書類 | ||
パスポートコピー | 念のため | |
Registration Slip | Race Entry Pack受領用 | |
地球の歩き方 | 地理把握用 | |
変換プラグ | 必要なものだけ | |
デジカメ、スマホ、スマホ充電器 | ||
モバイルルータ | 国内通信用 | |
日焼け止め | 登山前、レース前に塗る | |
着替え | 靴下のみ | |
歯磨きセット | 安宿利用時は必須 | |
襟付シャツ、汎用チノパン | 機内・室内防寒、ドレスコード対策 | |
夏山用フリース | 帰国時の防寒対策 |
朝食のカヤトーストセット | 山頂まで1.1km。登山というよりハイキング |
その後、シンガポール最高峰であるブキティマヒル(163.63m)に挑む。出発点であるビジターセンターへの道は工事中で封鎖されていた。だが、SUMMIT TRAILと表示されている迂回路を通れば問題無し。前半は大倉尾根の序盤に似た舗装道路で、後半は整備の行き届いた階段だ。
もちろん登山としては余裕ありまくりだ。ランニングシューズにビジネス肩掛け鞄というおよそ登山らしくないスタイルでも問題無し。赤色表示された「1時間コース」を、ゆったりペースで登り25分、下り20分弱だった。丸々5日間もランニングをサボった足の筋肉に、少しだけ刺激を与えられたと思う。次回登頂はいつになるか分からないが、4時間コースに挑戦したい。
シンガポール最高峰へ出発 | あっさりと登頂! 余裕です |
また、山頂ではエクストリームタイピングに挑戦してみる。タイパー登山部として外せないイベントだ。将来はマラソンをやりながらタイピングをすることもあるだろうか。
山頂でエクストリームタイピング | RACE ENTRY PACK受領後 |
次、明日のマラソンに備えてRACE ENTRY PACKを受け取りに行く。中身はレース用Bibにゼッケン(タイム測定デバイス付き)、スポンサーからのグッズ(日焼け止め、筋肉痛の薬)等。会場はEXPOという、東京ビッグサイトのようなところだった。PACKを受け取った後、全参加者の名前が記載されているらしい巨大な絵が展示されているのを眺める。その後はうねうねと曲がりくねった順路の両側にスポンサー出店の嵐。ぽかたんが外で待っているし、そもそも興味を引かれる商品も無かったため、可能な限り速攻で脱出を図った。
Raffles Places付近のラオパサに移動してさとうきびジュースで癒される。昼食は華記肉骨茶でバクテー。胡椒の効いたスープがなかなか美味だ。明日のマラソンの直後だと胃腸に浸み渡るだろうなー。温野菜もうまい! 但し飯は日本米と違ってパサパサした米であり、日本人としては違和感がある。朝食が充実していたこともあり、完食には至らず。
さとうきびジュース! | バクテー! |
次の目的である逆バンジーは14:00開場とのことなので、クラークキーを観光する。ついでに、付近にある日本人富裕層向けショッピングセンターを眺めてみたり。かつて約1年暮らした米国ミシガン州でもそうだったが、海外で日本の物を購入すると一般的に輸送コストが上乗せされて高額になる。それにしても物価高すぎ! ラーメン1杯1600円とか、りんご1個400円とか。但し、今回の旅行に象徴されるように、現地の物に慣れ親しんでいくとぐっとコストが下がる。
逆バンジー。見た目はなかなか面白そう | 東南アジア最南端! |
その後、いよいよ逆バンジーの予定だった。だが、一人で乗るとバランスが取れず危険であり、他の人が乗りに来るまで待てと言われる。ぽかたんは乗りたくない(!)とのことだったため、先にヤシの木へ。VivocityのSentosa Expressでセントーサ島へ移動する。途中、東南アジア最南端を謳った石碑の前でエクストリームタイピングを敢行しておいた。
海に突き出たヤシの木は、見かけよりも数段怖い。実物を見る前は、いざとなれば海に飛び込めば良いなどと高をくくっていた。だが、実際には下にはゴツゴツした巨岩が敷き詰められていて、バランスを崩して頭や腕から落下したらほぼ確実に重傷を負いそうだ。また、先端から落ちると今度は深みにハマったり沖に流されたりして溺死の恐れがある。よって落ちてはならないというプレッシャーが半端ない。その結果、歩いて先端までは行けず、またがってバランスを取りながら少しずつ前進することに。先端で立ち上がることも難しかった。帰りも方向転換が難しいため、またがったまま少しずつ後退する感じで。
ヤシの木。見かけより数段怖い | ヤシの木の先端に到達 |
ヤシの木を終えた頃から雨が降り始めた。当初はドリアンを試す予定だったが、胃腸の具合が良くない。万一水下痢が悪化したら明日の本番に影響する。このため、スイーツに変更してもらった。阿秋甜品でマンゴーサゴとPomelo(きなこ餅)。うまかった!
マンゴーサゴ! | カジノ入口にて。内部は撮影禁止 |
雨は止まず、むしろ豪雨となってきたため、結局逆バンジーも見送り。明日マラソンの後に再挑戦だ。この豪雨の前に最高峰とヤシの木を終えられて本当に良かった。
代わりに、明日行く予定だったMarina Bay Sandsのカジノへ。テーブルでプレイしたかったため、最低掛け金の低いところを探す。1プレイ10SGD程度を希望していたが、実際には25SGDというのが最低だった。結局選択したのはRoyal Three Pictures。カード3枚のうち絵札の枚数および、合計値の一の位で勝負するゲームだ。とはいえ、プレイヤーがカードを選択する機会は無いため、カード運がすべてを決する。100SGDをドブに捨てるつもりでチップに替え、最低掛け金である5+25SGDずつ見様見真似で賭けていく。ところが、しばらくするとJQKというあり得ない絵札が揃い、89SGDもの配当を得たらしい。確率は3/13×2/12×1/11=1/286かな。これだけ低確率ならもっと配当が多くても良い気もするが。勝因はビギナーズラック以外の何物でも無いと思う。この勝利から数プレイ後にさくっと利確し、100SGDが182.5SGDに。
次にスロットマシン(1プレイ4SGD)で19.2SGDを光速でスッた時点で、やはりさくっと損切り。カジノ(特にスロット)の期待値の低さはSFC版DQ5の低レベル攻略等で知り尽くしているため、無理はしない。セーブ&リセット法で確実に稼げるゲームと違って、現実世界にリセットは存在しないのだ。
Marina Squareへ移動し、フードコートで夕食のRoasted Chicken Rice! 当初予定していた店は長蛇の列だったため速攻で諦める。だが、別の店のチキンライスもなかなか。特にチキンがうまい! 飯にもチキンスープが浸み込んでおり、箸が進む。但し、日本米だともっとうまいと思う。
チキンライス! | マーライオンを背景に |
最後にマーライオン付近でレーザー光と音のショー「ワンダーフル」を堪能する。チキンライスを食したフードコートからでも一部は見ることができるらしい。だが今回は、マーライオン付近のベストスポットで見ることができて良かった。
……
明日の朝が早いため、夜の楽しみは次回にとっておくことにして、さくっとタクシーで宿へ帰還した。Bibにゼッケンを装着し、明日のマラソン後を見据えてパッキングを済ませておく。荷物が増えた上に薄着になるため、鞄だけでは収まらず買い物袋も活用することに。ランに不要な荷物はすべて鍵付きロッカーに入れておく。
明日はロッカーの鍵とパスポート、少額現金、MRTカードだけ身に着けて走る。そして遅くとも6時間以内にゴールし(ヤバければリタイアし)、宿に戻って荷物を回収して期限ギリギリの12時にチェックアウトする。残りの時間は体力の許す限り観光だ。
日記をざーっと書いてから就寝。体調と食欲は順調に回復した。高温多湿な環境下でフルマラソンを走りきることに関して不安は残るものの、ペースを落とせば何とかなるという気もしてきた。
……直後に、紙が無いことに気付く。日本と違ってウォシュレットも無い(硬水のため詰まるからだそうな)。何たること! ちょうど速乾性の服のみを着用していたこともあり、すぐ隣のシャワー室へ。この時点でシャワーを浴びる予定は無かったが、眠気覚ましも兼ねて全身を洗っておく。
前々日の機内でもらった菓子パンとミネラルウォーターで軽めの朝食を済ませる。これだけでは明らかにエナジー不足だが、昨日調達を怠った報いだ。後はバナナステーションに期待することとする。さらに、日焼け止めを塗ったり、日記を書いたりしてしばらく待ち。あまり早く到着してもやることが無いと思われたためだ。
3:15頃に移動開始。宿の周辺にはランナーらしき人を見かけなかったが、Little India駅には既に数名のランナーが居た。そして赤ラインに乗り換えると一気に増加した。後は人の流れについていけば問題無く辿り着けるだろう。……と思ったのだが、大半の人は荷物預かり所に向かっていたため思わぬロスになった。スタート地点付近の地理を把握していなかったため、うろうろと歩き回ることになった。ま、良い準備運動になったと思うことにする。
スタート地点はゴール予想タイムごとに決められている。この分類はゼッケンに記載されている。特に、6時間を切れるか切れないかで、駅を出た直後の進行方向が違う。だが、誰もチェックしていないため、前の方に並びたければそうすることもできる。筆者はマラソン申し込み時には想定タイム7時間以内と記載していた。だが、その後のトレーニングの結果、目標を5時間以内に引き上げていた。そこで、もう少し前に行くことにする。
しばらく進むと柵で止められて進めなくなった。だが、脇道を進んでいる人も多い。今度はそちらに引っ付いていくと、観客向けと思われる場所に出た。まだスタート1時間前ということもあり、スタートゲートの真横まで進むことができた。ここに居ても無意味なので、柵の手前まで戻る。
スタート30分前に柵が開き、前に進めるようになる。ここでも人の流れに乗って進んでいくと、場違いなほど前の方に来てしまった。スタートゲートまで20mも無いかもしれない。つまりスタートダッシュをぶちかます高速ランナーたちに囲まれてしまった可能性もある。今更戻れないため、腹を据えて待ち。但し、人が密集しているため準備運動が全くできなかった。その場で伸びをしたり足首を回したりする程度。これは次回に向けた反省事項だ。
とはいえ、単に目の前の人についていくだけでは必ずどこかで行き詰まる。速いランナーと遅いランナーが混在しており、かつジグザグに走行して強引に抜いていく人がいるためだ。視野を広く持ち、なるべくコースを変更せずに遅い人を抜くようにする。
1kmも走ると周囲がだんだん落ち着いてきた。すると今度は高温多湿が気になり始める。この環境でキロ5分なんてとても出せないので、キロ5分30秒ペースで妥協する。このペースを最後まで維持すればサブフォー(4時間切り)達成だ。実際にはこの「最後まで維持」というのが非常に難しいのだが。
本来、行けるところまで行くという考え方はフルマラソンには通用しないらしい(終盤でへばるため)。だが、この高温多湿な環境で実施されるシンガポールマラソンに関しては、日が昇る前に可能な限り距離を稼ぐ必要性も同時に感じた。特に直射日光に晒される30km地点以降の消耗が凄まじいためだ。このような思考をしていたため、自分では抑えているつもりでも実際にはオーバーペースに陥っていたのかもしれない。
上記の方針は、14kmまでは機能していた。キロ5分30秒ペースで、さほど苦しさを感じることも無かった。温暖な気候が幸いし、日本の同時期のレースのように鼻水に悩まされることもない。但し、約3km毎にある給水ポイントでことごとく立ち止まって水と100PLUS(スポーツドリンク。炭酸無し)を補給していたため、タイムロスと膝への負担がそれなりに蓄積されていった。また、10km前後では太ももに水をぶっかけたところ、靴下と靴まで水を吸って足が一気に重くなった。これも地味にダメージの蓄積につながったと思われる。
なお、この時点では夜明け前だったこともあり、周辺の景色を堪能することはほとんどできなかった。例えば2.5km付近で逆バンジー、5.5km付近でマーライオンの付近を通過するはずなのに、全く気付かなかった。但し、6km付近ではライトアップされたMarina Bay Sandsが見えた。
さらに進むと両ふくらはぎの凄まじい筋肉痛も加わり、目に見えてペースダウン。無意識のうちに左膝をかばう走り方になり、無理な力がかかったのだろうか。そして19km手前でサブフォーのペースメーカー集団に抜かれた時点で、ついに心が折れて歩き始めた。
仮にこれがハーフマラソンなら、多少無理をしてでもゴールまで頑張って走り通したことだろう。だが、今回参加しているのはフルマラソンであり、まだ23kmも残っている。ここで無理をして走り続けると、終盤には歩くことすらできなくなるかもしれない。従って、歩くのは非常に残念な選択だったが、止むを得ない選択でもあった。
とはいえ、棄権はまだ考えもしなかった。確かに、左膝の違和感は完全に痛みに変わり、走りたくても走れない。だが、時速5km程で歩くだけなら痛みは無い。それに、スタートからまだ2時間も経過していない。歩きながら計算し、今後の戦術を構築する。そして、仮に後半のうち20kmを歩いたとしても約7時間でゴールできるという見通しを立てた。
また、一度でも歩くと二度と走れないと思い込んでいたが、そんなことはない。確かに元の速度で走るのは厳しい。だが、大幅にペースを落とせば再び走り始めることは可能だ。実際、20kmの表示が見えた瞬間に少しだけ元気が出て、Half point(約21.1km)、折り返し点(約21.5km)を経て22kmの給水所まで走ることができた。もっとも、給水で立ち止まると再び走る気力が失せたのだが。
また、「DRINK POINTまであと300m」と書いてある看板から実際の給水所まで非常に遠く感じられた。場所によっては、1km近くあったのではないか。
なお、20km過ぎで7:00を過ぎ、日が昇った。そこで、短パンのポケットに入れておいた雪山用サングラス(通常の眼鏡の上から装着するタイプ)を装備する。これがレース後半を通して非常に役立った。加えて、ほっかむりと日焼け止めにより、日焼けに対する防御は完璧だった。
22kmの給水所で、最初のバナナを見かけた。この時点ではまだ腹が減っていなかったためスルーした。だが、25km過ぎからは空腹によるエナジー不足を自覚し、常にバナナを探し求めていた。そして29kmと31km付近でついにバナナにありつく。立ち止まって食べると癒される!
また、特に後半の各所で提供されていた、筋肉痛に効くらしい白色の塗り薬(Musclerと呼ばれていた)も試してみた。筋肉を一時的に冷やし、痛みを誤魔化す感触だ。もちろん無いよりは遥かにマシなので、後半戦では膝やふくらはぎ、太もも、上腕部等、痛みを感じる都度塗るようにしていた。
なお、15〜20kmの区間では、4km走って1km歩いた。20〜25kmの区間では、3km走って2km歩いた。22kmの給水所で歩いてから24kmの表示を見るまで、走る気になれなかったためだ。25〜30kmの区間では、約2kmしか走れなかった。というよりも、1km走り続けることができなくなり、1km+500m+500mで無理矢理2kmとした。この辺りでは歩行区間が増えたため、呼吸も落ち着き、日陰ではむしろ寒く感じられるようになってきた。そこで、寒さ対策として走ることもあった。
だが、歩いてばかりではゴールが11時を過ぎ、宿のチェックアウト時刻までに戻れなくなるという事実に思い当たった。そこで、無理に1km走らずとも、数百メートルでも良いと妥協して少しずつでも走るようにした。
なお、33km手前の給水所で頭から水をぶっ掛けたところ、ほっかむりのタオルに吸収されて重くなり、絞る手間が加算された。次回は事前にタオルを装備解除する必要があるだろう。また、そもそも頭から水をぶっ掛ける必要性があったのか否かも疑問だ。
35km手前の長大な橋はほぼ全部歩くこととなった。この橋を渡る前から、灼熱の太陽と、それに晒されながらとぼとぼと力なく歩く幾多の人が見えていた。昔何かの本で見たことのある地獄の絵にそっくりだと思った。
35kmを過ぎると、最長で100m程しか走れなくなった。少し走るだけで左膝がくじけるためだ。また、37km付近では狭い木道が延々と続く。両側は水路であり、下手に歩行者を避けて走るとバランスを崩して転落する懸念があった。なお、この区間の終盤でついにサブファイブのペースメーカー集団にも抜き去られた。彼(女)らはCome with us!と連呼していた。また、この時点でスタートから4時間30分経過しており、ついていけばこの苦行もあと30分で終わる! と一瞬考えた。だが、ついていく気力は全く回復しなかった。
40km通過が約5時間。残りは2.2kmであり、普段のトレーニングなら10分で走りきれる距離だ。だが、フルマラソン終盤の2.2kmは何て遠いんだろうと実感せざるを得なかった。加えて、40km手前の最後の給水所を過ぎるとゴールまで補給ポイントが無い。この状況で灼熱地獄を進むのは非常にしんどい。
ここからは新たなアルゴリズムを導入した。即ち、日向になったら走り、日陰になったら歩く。消耗を抑えるという意味では合理的だ。実際、同じように進んでいる人がいることに気付いた。ついていこうとしたが、日向の区間が断続的に長く続くところで一気に振り切られた。
40km前後では長大な橋や立体交差を複数渡った。これらも正直堪えた。赤道直下の強烈な直射日光に加えて、坂道はやはり厳しい。登りでは太ももが、下りでは左膝やふくらはぎが悲鳴を上げ続けていた。41kmを過ぎてからも灼熱の車道を500mほど進む区間があり、しんどいことこの上ない。
幾多の艱難辛苦を乗り越え、ついにゴールゲートが視界に入ってきた時の感動は筆舌に尽くし難い。「うおおおおお!見えたーーーっ!」と奇声を発しつつ、最後の力を振り絞って走り始める。ゴールゲート上部に表示されていた電光掲示板を見ると、ちょうど5時間20分を切れるかどうかギリギリだった。この期に及んでこの中途半端なタイムを切ることに何の意味も無い。だったらもっと手前から5時間切りを強く念じつつ戦略的に走れと。それに、スタートの定義は個々人がスタートラインを踏んだ時刻であるため、ゴールに表示されたタイムはあくまで参考値だ。そのはずなのに、何が何でも切ってやるという執念が突然芽生え、結果的にこのタイムを切ってゴール。
長居は無用なので、さくっと宿に向かう。まずゴール地点の最寄り駅であるはずのCity hall駅への道を尋ねたところ、人により全く違う方向を回答されて迷う。入口が複数あり、どこに向かうかにより最初の一歩が違うという要因もあるのだろう。仕方なく、明らかに違う道(例:マラソンコースを突っ切る道)を消去法で潰しつつ、新たな人に聞くなどしてそれらしい方向に少しずつ進む。そして駅の入口を見出してから実際にMRTに乗るまでが長かったこと! 普段ならどうということのない距離なのだろうが、延々と続く地下街は消耗しきった足にはひたすらしんどかった。エスカレーターや動く歩道が出てくると心の中で快哉を叫びつつ休憩。
MRTに乗ってからは順調に宿に帰還した。チェックアウト期限が12時であることを宿の人に確認し、シャワータイム! 至福の時だ。全身に付着した日焼け止めと汗と100PLUSとMusclerを一気に洗い落とす。ついでに、芝に座り込んだ時に短パンに付着したと思われる泥も軽く洗濯しておいた。速乾性なので、後は着干しで何とかなるだろう(実際、何とかなった)。
また、ようやくWi-Fiがまともに繋がる場所に戻ってきた(というよりもスマホを回収した)ため、ぽかたんに連絡しつつ、Twitter等に完走(完歩)報告を上げておく。宿をチェックアウトしたのは期限ギリギリの11:55だった。
まずはMaxwell Food Centreに移動し、待望の昼食! 真真粥品のfish porriageが五臓六腑に浸み渡る! マラソン直後、内臓が弱っている時に最適な食べ物の一つだと思う。また、別の店で写真を見て飲み物と間違えて購入したスイーツかき氷も結果的にうまかった!
●当日:スタートまで(2015/12/6)
予定通り、2:00に起床する。スタート時刻が5:00なので、3〜4時間前には起床し、朝食を摂取しておきたい。一方、睡眠不足のまま本番に臨む事態も避けたい。両者を天秤にかけた結果、この時間となった。そして! 昨日までしつこく続いていた水下痢が奇跡的に止まった! これは行ける!
●序盤:スタート〜14km
ここまで前方に位置していたため、スタート合図後30秒ほどでスタートラインを踏んだ。当面は周囲の流れに乗りつつ、可能な限り早く自分のペースを作ること、そして適切なペースメーカーを見出すことに専念する。準備運動がゼロに等しかったこともあり、最初の1kmは準備運動を兼ねて1km6分ペースでジョギングと割り切っていた。
●中盤:14km〜30km
14km過ぎで左膝が笑う、というよりも崩れる感触があった。一時的にギアを下げつつ騙し騙し走り続ける。だが、同様の現象が16km過ぎまでに少なくとも3回発生し、少しずつ痛みも強まってきた。この辺では海岸線沿いの道を走るのだが、車止めの緩い段差が時々あり、そこで少しずつ確実に膝が消耗していった。
●終盤:30km〜ゴール
30kmを過ぎ、海岸線沿いの日陰の道を抜けてからの灼熱地獄ロードは正直堪えた。走る気力が全く湧いてこない。周囲の人の歩行速度も目に見えて低下し、普通に歩いているだけで抜けるようになった。
●ゴール後
引き続き、結構長い距離を歩かされた。故障を防ぐために動き続けさせるという趣旨らしい。そして、完走者向けTシャツとメダル、水、100PLUS2本を受け取る。一度にこんなにたくさん飲めないし、100PLUSは今度は炭酸入りだったため、一部はアイシングに使用した。しばらく芝に座り込んで水分補給とアイシングを済ませる。
●午後の観光
次第にひどくなる足の痛みに耐えつつ、ぽかたん推奨の美食三昧! フルマラソンによる消耗は少なくとも富士山御殿場口日帰り並みに激しかったらしく、何を食べてもうまい! また、足への尋常ならざるダメージは確かに存在するが、それなりの速度で歩くことはできる。これが観光する上で実に大きい。
fish porriage! | スイーツかき氷! |
続いてチャイナタウンへ移動。シンガポールで一番古い仏教寺の沸牙寺を観光する。1階の祈祷フロアでは短パンでの入場を拒否されたため、他のフロアを一通り見て回る。さらに、付近の店で土産も調達した。
沸牙寺最上階の庭園 | これが噂のドリアン! |
そして猫山王でドリアン! アルコールや炭酸との食べ合わせが危険という事前情報のみ得ておいた。このため、1本残しておいた炭酸入りの100PLUSは結局飲まずに空港で放棄することとなったが。ドリアン自体は香りも味も、巷で言われているほど悪くない。むしろ「果物の王様」と呼ばれるほど栄養価が高いらしいし、マラソンの後の体力回復に適しているのでは? と思いつつ悠々完食した。
さらに味香園甜品でマンゴーストロベリーかき氷、東興でココナッツエッグタルト+焼きプリンとはしごし、大いに癒される。スイーツはいいねえ♪
マンゴーストロベリーかき氷! | ココナッツエッグタルト+焼きプリン! |
なお、昨日と同様午後に激しい雨が降り続いたこともあり、アクティビティ系(逆バンジー等)は断念した。基本的に、スイーツや観光で雨を回避しつつ、軒先を伝って可能な限り濡れずに移動していた。そして雨が小降りになったタイミングで長距離移動、と。昨日のレーザーショーで見たMarina Bay Sands(てっぺんに巨大な船が乗った建物)の最上階のCe La Viというバーからシンガポール各方面を見渡してみたり。マラソン終盤に地獄だと思った長大な橋もバッチリ見えた。
Marina Bay Sands上階からの眺望 | 最後の晩餐、小籠包! |
そして最後の晩餐は京華小吃(チンホア)で中華! 特に小籠包が美味すぎる。マラソンによる消耗からの回復はまだまだ途上だったらしく、餃子と合わせて普段はとても完食できない量だったのにもかかわらず悠々完食した。
……
2日間お世話になったぽかたんと別れ、MRTでまったりとチャンギ空港へ。タクシーより遅く、しかも途中の乗り換え駅まで立ちっぱなしだった。だが、費用は1/10で済む。搭乗手続きRTAを速攻で済ませ、これまたぽかたんの紹介によるBengawan Soloで土産を調達し、トイレで歯を磨き、一息ついた。幸運なことにエコノミーからプレミアムエコノミーに上げてくれたらしく、熟睡できた。
左膝の痛みは7日中も継続したため、会社では数年ぶりにエレベーターの使用を解禁した。両太ももの筋肉痛は8日にピークを迎えた。すべての痛みが消えたのは11日のことだった。
まずは充分に休養し、肉体的な疲労を完全に取り除きたい。左膝の痛みは1日経過後も継続しているし、太ももの筋肉痛はむしろ強まった。また、20km走で見出せなかった課題として、両足の甲が圧迫され続けたためか痛い。さらに、右足の親指や人差し指の爪もダメージを受けている。
次回のフルマラソンは、現時点では未定である。今回19kmという想定外の位置で歩いたことや、結果的に5時間を切れなかったことは悔しいし、将来リベンジしたい。だが、少なくとも現時点ではそのための実力が伴っていないことがはっきりと分かった。まずは長い距離を走るトレーニングを積んで筋力・走力を強化しつつ、20km走やハーフマラソン、30km走を一定回数こなすべきだろう。その上で、将来再びフルマラソンに挑戦してみたい。但し肉体は年々衰えていくため、長くは待てない。2016年中に少なくとも一度は走りたい。
そのためにも、今回露呈された最大のウィークポイントである左膝を重点的に鍛えておきたい。膝さえ痛まなければより長い時間走ることができ、結果的にタイムも改善されるだろう。一時的にはサポーター着用も良いかもしれない。だが、シンガポールマラソンのように高温多湿な環境では、明らかに暑い。基本的には膝の周辺の筋力強化で対応しようと思う。
●帰国
帰国したのは7日未明で、猛烈に寒い! 30度超のSingaporeに対し、この日の東京の最低気温は5度だったらしい。しかも、まだ足が悲鳴を上げまくっていて速く歩けない。念のため持参した夏山用フリースが、ここで役立った。帰宅したら6:05で、着替えと朝食、最低限の荷物整理だけ済ませてから予定通り出社した。
●今後に向けた改善点
高温多湿、病み上がりという悪条件下で初マラソンに挑み、とにもかくにもゴールに辿り着いた。5時間19分21秒というタイムは、まぁこんなものだろうという気もする一方で、もう少し何とかできたのではないかという悔しさもある。
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