日本もしくはアメリカを拠点とする場合、キリマンジャロ山麓への往復に2日かかるため、この時点で計9日が必要となる。これだけの長期休暇を取得するのは、会社員にとっては極めて困難である。実際、筆者の所属する企業では結婚休暇以外に1週間の連続休暇の取得が認められることは稀である。可能性があるのは年末年始とゴールデンウィーク、シルバーウィークくらいだが、得てしてそういう時には休日出勤が入るものだ。従って、時間的余裕のある学生のうちに決行しようと考えた。幸いなことにアメリカの大学院では春夏秋冬にそれぞれ1週間以上の休暇を確保できたため、5月初の1週間(正確には9連休)をキリマンジャロ挑戦に充てることにした。くしくも日本のゴールデンウィークと重なったのは単なる偶然だ。
唯一気になったのは、5月初のタンザニアは大雨季であるということだ。雨により登山の難易度は明らかに上がるし、眺望が楽しめない事態も考えられる。しかしこのチャンスを逃すと学生のうちに挑戦することはできなくなるため、大雨季のリスクを取らざるを得なかった。実際の登山時には要所で雨が止み、快適な山行を楽しむことができたのだが、これは結果論というものだ。
一方で、登山以外の無駄な時間は極力避けることにした。代表的なのが、ナイロビ経由にせずキリマンジャロ空港に直接アクセスしたことだ。ナイロビ経由にした場合、現地到着後さらに数時間バスに揺られてキリマンジャロ山麓(アルーシャorモシ)まで移動しなければならない。さらに、ケニアビザ取得の時間と費用が余分にかかるし、タンザニア国境通過時にイエローカード提示を求められる可能性もある。
費目 | 費用 | 備考 |
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冬山装備一式 | \140000 | ゴアカッパ上下、ダウン上下、冬用インナー、ゴア手袋、毛糸帽子、ネックウォーマー |
その他持ち物 | \10000 | 山用水筒、靴の中敷き、蚊取り線香、粉末Pocari、ブドウ糖アメ、使い捨てカイロ等 |
デジカメ | \21478 | -10度に耐えられるPENTAX製のものを新規購入 |
タンザニアビザ | \7000 | 日本で取得。ビザ自体は\6000。他に交通費\1000程度 |
予防接種 | ─ | 予約で埋まっていたため断念 |
航空券 | $1716.5 | デトロイト⇔アムステルダム⇔キリマンジャロ |
登山ツアー | $1800 | Yembi、マチャメルート7日間、一人で参加 |
現地での専用車 | $400 | 空港⇔モシ、モシ⇔登下山口で$100×4 |
その他交通費 | $41 | 自宅⇔デトロイト空港のバス、タクシー |
ベースホテル | $135 | Impala Hotel in Moshi。前泊が$90、登山後のデイルームが$45 |
食費 | $72 | 空港での夕食、最終日の昼食(ガイドたちへの奢り分を含む) |
現地レンタル品 | $40 | 寝袋 |
ガイドたちへのチップ | $510 | ガイド$10、コック$9、ポーター4人×$8、7日分に加えてボーナス3日分 |
土産 | $100 | キリマンジャロコーヒー5kg(20袋) |
その他買い物 | $20 | キリマンジャロ帽子、ガイドブック(英語) |
合計 | $6820 | $1=\90として換算。$10未満は四捨五入 |
なお、登山中のガイド・コック・ポーターとの会話はほぼすべて英語で行った(片言のスワヒリ語と片言の日本語がたまに混ざる)。このため、結果的には必ずしも日本語の通じるツアーを選択する必要はなかったかもしれない。だが、今回は何かトラブルが発生した時に日本語で解決できる安心感を買った。繰り返すが、今回はウフルピークに確実に到達するのが目標であって、バックパッカーとしてタンザニアを旅するわけではないのだ。従って、登山以外の想定トラブルは事前に可能な限り回避するのが基本戦略であった。
また、一人で参加するよりは複数人で参加した方がツアー料金が安くなる。このため数名の登山仲間に声をかけた。しかし時間・費用のどちらかあるいは両方がネックとなり、そう都合良く同行者が集まることはなかった。結局今回は一人での参加となった。
持ち物としては、防寒対策として使い捨てカイロを大量に持参した。結果的にこれらは役立たなかったのだが、持参したこと自体は間違っていなかったと思う。なお、ゴアカッパの左右ポケットに1つずつ入れておいたホカロンは寒さと低圧のため温まらなかった。また、貼るタイプや靴の中に入れるタイプのものは、そこまで寒くならなかったため使わなかった。他に役立ったのは山専用と銘打たれた水筒である。アタック当日には湯を入れて持参したのだが、保温状況はバッチリだった(たまたまそんなに寒くなかったためかもしれないが)。
他には、マラリアや黄熱病を媒介する蚊への対策も重視した。たとえキリマンジャロに登頂できたとしても、これらの熱帯病に罹患するとその後の時間・費用に多大な影響を及ぼす。本来ならば黄熱病の予防接種をすべきところだが、信じ難いことに筆者が問い合わせた時点ではすべて予約で埋まっており、結果的に断念せざるを得なかった。従って、対策は防蚊という一点に絞られた。結局虫除けスプレー2個、蚊取り線香2箱を持参し、効果的に使用したお陰で、蚊には全く刺されずに済んだ。
また、キリマンジャロ登山の1週間前に富士山(あるいはそれに匹敵する高山)に登り、高度順応を行うのも一つの有効な対策であるらしい。しかし筆者にそれを行う時間的余裕は無かった。
一方、筆者が筋トレ以上に重視していたのが膝のトレーニングであった。山で膝を痛めると、下山に致命的な影響を及ぼす。下山速度が著しく遅くなるし、最悪の場合は自力で動けなくなって遭難である。実際、筆者は2008年の山行で膝を痛めたことがあり、鍼治療のお世話になっている。その時に教えていただいた膝強化トレーニングを毎朝欠かさず続けてきた。今回のキリマンジャロでも下山時に膝の痛みが再発し、一部区間をポーターに背負ってもらうことになるのだが、それでも登山の100%、下山の95%以上を自力で歩いたのはひとえにこの膝トレーニングのおかげである。