フィリピンという国について詳しく調べたのは今回が初めてであった。その結果、最高峰はMt. Apo(アポ山、2,956m)であると判明した。日本語での情報収集には初期段階から限界を感じたため、英語での情報収集をメインとした。その結果、(フィリピンの他の山も同様だが)勝手に登ることはできず、ガイドの雇用が必須であること、DENR(Department of Environment and Natural Resources、環境天然資源省)の許可が必要であること、さらに医師の証明書まで必要であることが判明した。
一方、Mt. Apoは昨年の山火事の影響で、自然保護のため閉山となっており、今年4月にようやく限定的に登山が許可され始めるという状況だった。加えて、5月23日にはMt. ApoやMt. Dulang Dulang(フィリピン第二の高峰、2,938m)のあるミンダナオ島の一部に戒厳令が発動され、会社から不要不急の渡航禁止という通達が下った。今回は社用で来ているため従わざるを得ず、必然的にこの二峰は延期することとなった。
そこで浮上してきたのがMt. Pulag(プラグ山、2,922m)だ。ルソン島最高峰にして、フィリピン第三の高峰である。ところが、この山に関しては登山口まで行くのが結構大変だ。ManilaからBaguio(ルソン島北部の中心都市)まではバスで行くとして、そこから先はローカルの交通機関に頼ることとなり、タガログ語を操れない外国人の単独行動では敷居が高い。そこで見出したのが、現地ツアー会社であるTrail Adventoursだ。Google検索では他にも数社見つけたが、2017年に入ってからもツアーを継続している(ように見える)のはこの会社だけだった。
Trail Adventoursのサイトによれば、登り4時間、下り2〜3時間である。つまり、登山としては楽勝である。むしろ、登山口に到達するまでの方が危険と判断した。そこで、5月30日に滞在先付近で開催された事前説明会に参加するなどして、情報収集に努めた。
それによると、Ambangeg trailは登山口が約2,440mであり、山頂との標高差は500m弱だ。しかも、ツアーなので基本的に一番遅い人に合わせて登る。小ピークは4つあるものの、全部登ることは無い。多少のアップダウンはあるものの、急登は無いとのことだった。ますますもって、登山に関しては楽勝すぎるとしか思えなかった。
登山口までの交通手段に関して、ManilaからBaguioまでは夜行バス、Baguio以降はMonster jeepney(小型乗合バスを山岳地域向けに改良した乗り物)を利用するとの説明だった。このジプニーというのはフィリピン特有の乗り物であり、Manilaで外国人が乗るには敷居が高い。会社からは「Manilaでは危険なので乗るな」との通達が出ているくらいだ。ところが、人数が揃えばチャーターも可能となる。
日本の登山との最大の違いは、地形図どころかまともな地図すら無いことだ。これに関して質問したところ、「DENR事務所にある概要図を撮影しておけば良い」との回答だった。万一ガイドとはぐれた場合はこの概要図に頼るしかない。なお、後日になって、Google地図でMt. Pulagで検索すれば地形図が表示されることを確認した。登山前に気付いていれば!
登山の準備としては日本の夏山、但し2,000m級(男体山等)を想定した。気温は5度以下に下がることは無いとの予測の元、防寒着は持たなかった。速乾性Tシャツ計4枚、ランニングタイツ上下、雨具上下を組み合わせて対処することとした。
さらに、荷物を最小限とすることにも気を配った。下山時の膝へのダメージを可能な限り軽減するためだ。但し、海外の山を登るにあたり、パスポートと地球の歩き方は携帯せざるを得なかった。このくらいの重量増加は止むを得ない。
むしろ、登山口に辿り着くまでのスリ・引ったくり対策に気を配った。基本的に、余分な物(特に高価そうに見える物)は持たない。現金もほとんど持たない。かつ、財布とそれ以外に分散させて持つ。
最後に、登山関連の概算費用は以下の通り。キリマンジャロと比較すればだいぶ安上がりだ。
Mt. Pulag登山の動機
2017年5〜7月に、Manila(Makati)に長期出張することが決定した。だが、これだけ長期間フィリピンに滞在するのに、仕事だけして帰ってくるのはいかにももったいない。今後フィリピンを長期にわたり訪れる機会は(何かの間違いで駐在にでもならない限り)滅多に無いであろう。それならば是非ともフィリピン最高峰に登りたい! という強烈な思いを抱いたのは筆者にとってごく自然なことだった。
Mt. Pulag登山の準備
今回は出張で訪問しているため、休暇は原則として取得できない。従って、登山に使えるのは土日のみだ。必然的に、最短ルートであるAmbangeg trailを選択せざるを得なかった。本当は最難関のAkiki trailに挑みたかったのだが! そもそも、Trail AdventoursのAkiki trailの日程は今回の出張期間外という理由もあった。
項目 | 金額 | コメント |
---|---|---|
航空券 | - | 出張のため会社負担 |
宿 | - | 同上 |
登山ツアー | 5000ペソ | 交通費、食費、ガイド費用、入山登録料を含む |
医師の証明書 | 100ペソ | 登山向けの証明書が必要。登山口付近の病院で取得 |
交通費 | - | 集合場所への往復は徒歩のみ |
水 | - | 宿泊先が毎日500ml×4本補充してくれる |
食糧 | 計100ペソ | バナナ6本、Balut |
合計 | 5200ペソ |
※1ペソ≒2.25円。
モンスタージプニー | 道路を闊歩する牛の群れ |
しかし朝食は別途用意されていた。食事処という表現が似合う場所で下ろされ、そこで朝食。事前の案内では料金に含まれていないはずだが、なぜか金を払わずとも喰えた。チキンとブロッコリー?のスープ、それに飯。日本で言う赤飯みたいなものだった。この先は曲がりくねった山道を走行するとのことなので、控えめにしておく。大柄な欧米人たちはガッツリ食べていたが! 筆者は先日のMakatiオフィスでの説明会で知り合ったジン、ミナの父娘と会話。ジンは弁護士とのこと。ミナは21歳とのこと。小柄で童顔なので、10歳くらいかと思っていた。だが、登山経験はジンよりも豊富らしい。後で知ったのだが、高校を卒業後、メド(Med、医大)に通っているらしい。
Ambuklao Dam | 反対側には発電所らしき建物も |
次、つり橋(Hanging bridge in Sitio Capao)。約100mあり、揺れるし高度感もある。だが、手を使わずに往復完了。ワイヤーでガッチリ支えられているし、北アルプス(剣岳等)のハシゴ群と比べれば楽勝だ。到達点から先に少し登れる道があったため、上からも写真を撮影しておく。今一つ構図がよくなかったが。なお、デジカメの電池切れを心配し、撮影は最小限にしておく。
つり橋 | ここまで頑丈な造りなら、手を使う必要無し |
次、硫黄温泉(Daclan Sulfur Hot Spring)。温泉と言ってもそのまま入れるわけではなさそうだ。Pauと日本の温泉の話を少しする。
いかにも熱そうな温泉 | 温泉卵は効率良く生産できそう |
9時過ぎに診療所(JB Medical Clinic)に到着。医師の証明書を取得していない場合、ここで取得する必要がある。全14人パーティ中、筆者を含め10人以上がここで取得していた。なお、健康診断結果では結局ダメであることが、後で判明する。ところが、人が多すぎて遅々として受付が始まらない。よって別の病院(Dennis Molintas Memorial Hospital)へ。ここでは受付リストに氏名、年齢、性別、出身地を記入した後、まず血圧を測定する。ところが、今度は急患のため約1時間待ち。頭にケガをした子供が担ぎ込まれたらしく、泣き叫ぶ声がしばらく聞こえた後、包帯を巻かれて出てきた。その間に豪州人のHarryと話す。フィリピンには3カ月滞在し、障害者向けの教育をしているらしい。なお、全体的に若い人が多い。先程の受付リストをチラ見したところ、大半が20代後半〜30代前半だった。
証明書取得のため立ち寄った病院 | まず血圧測定。次に右奥の部屋で問診+聴診 |
その後、簡単な問診があった。最初に、高山病に関して聞かれた。富士山では高度3000m以上で軽い症状が出たと説明する。次に、アレルギーが無いか確認された。他にも幾つか聞かれたが、単語が聴き取れなかったため適当に流しておく。こんなんでいいのか。最後に聴診器を当てられ、ようやくMedical Certificateを入手した。料金は100ペソ(約225円)也。時間はかかったが、費用は予想よりもだいぶ低かった。良い機会なので、院内を可能な範囲で見て回り、撮影しておく。ここで蚊に刺された。しかも2か所。いずれもランニングタイツ下を貫通した。マラリアやらデング熱やらに罹患しなければ良いのだが(結局今回は大丈夫だった)。
今回はBabaoak(Ambangeg) Trailを登る | 次回はよりガチなAkiki Trailに挑戦したい |
昼食へ。当初予定していた店ではミスコミュニケーションがあったとかで喰えず。次の店まで、モンスタージプニーの屋根の上に乗って移動するというなかなかエクストリームな体験をした。豪州男性1人、女性2人と一緒に。アップダウンと左右のカーブが頻繁にあるため、その辺のジェットコースターよりも余程スリリングだ。振り落とされないよう、腕力と腹筋、足の踏ん張りを駆使して耐える。山岳地帯であり、あまりスピードが出ていないからこそこれが可能となるのだろう。良い機会なので、オーストラリア最高峰のコジオスコ(Kosciuszko, 2228m)について聞いてみる。何と舗装道路が続いているため、ランニングの訓練に良いらしい。但しトレイルランニングの訓練にはならないとのこと。
昼食のチキンカレー | 野菜スープ |
昼食は別の店でチキンカレー、野菜スープ、白飯。日本のカレーとはだいぶ違う。ココナッツミルクを使用しており、甘くてまろやかだ。フィリピンの昔ながらの料理とのこと! 但し、ハエの多さには閉口した。ここに限らず、ホームステイ先でもだ。朝食を食べた店にはほとんどいなかったのに。ハエも少し涼しい方が生息しやすいのだろうか。
1人部屋で悠々登山向けパッキング | 午後になると曇ってきて寒い |
入室後、速攻で登山向けパッキング。不要物が多すぎるため、すべて部屋に残していく。空ペットボトル1個、その他ゴミ、替え靴下、ポケットティッシュ、手拭き、バナナ2本(明日の夕食用)、地球の歩き方、メモ数枚。水も2リットルあれば充分だ。パスポートと余剰現金(と言っても2000ペソ、約4500円)はザック内に移動する。行動中に腰巻は不要だからだ。この作業の結果、ザック内は登山に必要なものだけに絞り込まれ、だいぶ軽くなった。
次に装備。ガスが出てきて普通に寒いため、雨具下を着用する。ランニングタイツ下は常時着用していた。上は速乾性Tシャツ/タンクトップ4枚とランニングタイツ5枚を重ね着。もっと寒ければ雨具上も装備するつもりだったが、そこまでではなかった。さらに軍手やヘッドランプをスタンバイしておく。
この日記の元となるメモをざっと執筆したところで15:15だった。この間、トイレは済ませたが、シャワーはまだ不要だ。全身を速乾性の衣類で固めているため、不快感は全く無い。それよりも眠かったため、2時間以上も仮眠を取る。
18:05、夕食。ティノーラ(鶏肉煮込み)、野菜炒め、赤飯。結局3食とも似た感じになったが、食が進む。こういう田舎っぽい食事の方が筆者には合う。Manila近郊では脂っこい食事が多く、野菜が少ない。
夕飯! |
自己紹介タイム。フィリピン人は会計士が多かった。ジンも弁護士だし。フィリピン人にとっては高額なツアーなので、ある程度の収入が無いと参加し辛いのだろう。なお、タガログ語で「マガンダン ハポン! アコ アイ シ ○○」(こんにちは!私は○○です)と挨拶したら予想外にウケた。これと「サラマ」(ありがとう)だけは覚えておいて正解だった。
また、名前と職業の他にideal tent mateを語るように言われたが、tent mateが聴き取れず。最初はideaと聞き間違えたため「今考えていること」と勘違いし、「明日は好天に恵まれて全員で無事登れれば良い」と回答。次はidealと聞き間違えたため「将来の理想/夢」と勘違いし、「Mt. Everestに挑戦すること」と回答。いずれも完全にトンチンカンな内容になってしまった。他の人の聴き終えてしばらく経過したところでようやく理解できた。遅すぎ!
そういえば、全体でも女性比率が高い。国際グループは女4男2、フィリピン人は女6男2、ガイドは女1男1。つまり合計で女11男5。この後、登山区間だけ加わったガイド2人も女性だった。
なお、ツアー申し込み時に支払った4400ペソというのはフィリピン人向けの価格であり、外国人価格との差額600ペソをここで追加で支払うことに。また、当初は持参必須と書かれていた気がするWaiverの提出は、その場でリストにサインするだけで終了した。
その後、歯磨き、手洗い、小用を済ませ、湯を飲んでから再び仮眠。22時頃、雨の音がした。Pauによると、21時頃から降っていたらしい。
23時過ぎに目覚めた後、雨具上を着用して外に出て、天候と気温を確認する。幸いなことに雨は止んでいて、気温もそこまで低くない。よって、出発時の服装は上は速乾性Tシャツ2枚+ランニングタイツに決定した。あまり着込むと脱ぐのが面倒だ。下はアンダーウェア、ランニングタイツ、短パン、雨具下とする。
ラーメン! 砂糖入りコーヒー! |
宿泊先から登山口(Ranger Station)まではジプニーで15分程だ。
予定 | 実績 | 高度 | 場所 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1:30 | 1:15 | 2440m | Ranger Station発 | |
2:30 | 2:00 | 2560m | Camp Site 1 | 15分休憩 |
3:45 | 3:15 | 2680m | Camp Site 2 | 35分休憩 |
5:30 | 5:00 | 2922m | Mt. Pulag山頂 | 写真撮影など |
※予定時間はツアーによるもの。
※実績時間は手元の時計によるもの(概算)。
※高度はGoogle map目視による概算。
他のグループによる渋滞で頻繁に止められつつ、2:00にはCamp Site 1に到着した。予定より30分も早い。ここで15分休憩。星空が非常に美しい。
ここからは欧米人中心の最速グループに入り、しかも先頭を進む現地ガイドの直後についてみる。彼女は前に誰もいなければそれなりの速度で歩くため、足元がよく見えないまま盲信してついていくと危険だ。もっとも、全体的にペースは上がらない。相変わらず他のツアー客が多く、頻繁に渋滞が発生するためだ。幾つかのグループを抜き去って、ようやく道が開けたかと思ったらまたすぐに詰まる。なお、この先はMossy forest(苔むした森)が続くらしいが、真っ暗なので全く見えず。下山中に鑑賞することにする。
3:15、Camp Site 2に到着した。ここで35分休憩。一般的にはだいぶ速いペースでここまで登ってきたらしい。急いで登ると、結局山頂で日の出を長時間待つことになる。それよりはここで待った方が良いとのこと。星空、というよりも天の川が綺麗だ。視力を失ったことを後悔するタイミングでもある。眼鏡による矯正では、天の川まではよく見えない。
3:50頃、Camp Site 2を出発した。今度は欧米人軍団に先に行ってもらい、後ろからついていく。この先はgrass land(草原)らしい。確かに森林限界を超え、高木がなくなって視界が開けた。一方、ヘッドランプがいよいよ怪しくなり、ほぼ消えかかった。他の人の強力なLEDランプやflash lightを頼りに進む。それでも時々足元が見えずにつんのめる。2015年9月の富士山の夜間行軍の時点でこんな感じだったような。他にも同様の状態の人がいて、「I can't see anything!」などと言って減速、停止していた。
4:30頃、ついにヘッドランプが電池切れを迎えた。しかも、ろくでもないことに替え電池を持っていなかった! だが、視界は開けており、明け方も近づいたため、ようやく足元が見え始めた。ここまで完全な転倒は無かったが、バランスを崩して手をついたことは多数あり。
最後に急登が待っていた。欧米人と筆者の間に割り込んだ挙句に牛の如くチンタラ歩きやがって筆者の進路を妨害し続けてくれた他ツアー客4人組をようやく抜き去り、思う存分加速する。体力は有り余っていたため、一時は50mほど先行していたHarryも捉えつつ、5:00に山頂に到達した。なお、最も速かったのはカナダ人女性2人組だった。筆者よりもガタイが良い(縦も横も!)し、キナバル登山の経験もあるとのことで、パワー・スピードとも今回の参加者ではトップクラスだ。後でフィリピン人たちを引率しつつ登ってきたPauもキナバルに登ったことがあるらしく、何とキナバル経験者が4人も揃うことに。カナダ人女性はVia ferrataも楽しんだとのこと。ちなみに、Pauによると今はVia ferrataの価格が高騰しているらしい。
予想はしていたが、山頂はひたすら寒い。現地ガイドが持参したホットコーヒーで体を内部から温めつつ、日の出を待つ。雲が多かったが、5:30になってようやく日の出を迎えた。フィリピン人たちはこの頃になってようやく登頂してきた。欧米人たちとの基礎体力の違いに加えて、高い山に慣れていないという要因もあるのだろう。Congratulation! You too! が飛び交う。
山頂に到達! | ご来光は雲に阻まれ見えず |
5:20頃に山頂の標識とともに記念撮影を済ませた後は、心置きなく写真を撮影しまくる。もう電池切れを心配する必要が無いためだ。寒いと電池残量が0を示すことが頻繁にあるため、こまめに温めつつ。一方、フィリピンスマホは、電源を入れたら残1%と表示された。そして写真を1枚も撮れないまま、ご臨終となった。次回はデジカメも含め、充電器を持参すべきか。Baban'sでは40ペソで充電ができたためだ。
なお、下りの前に日焼け止めを顔や首、耳の後ろに塗っておく。これとランニングタイツで日焼けへの防御は万全だった。それまでに焼けた分も多少あったはずだが、目立つ症状は無し。
雲海で有名な山らしいが、この日は雲が少ない | この山並み中の登山道を登ってきた |
予定 | 実績 | 高度 | 場所 | 備考 |
---|---|---|---|---|
7:30 | 6:35 | 2922m | 山頂発 | |
8:30 | 7:30 | 2680m | Camp Site 2 | 10分休憩 |
- | 8:30 | 2560m | Camp Site 1 | 10分休憩 |
- | 9:15 | 2440m | Ranger Station | 35分休憩 |
12:00 | 10:15 | 2300m | Barbon's |
※予定時間はツアーによるもの。
※実績時間は手元の時計によるもの(概算)。
※高度はGoogle map目視による概算。
下山開始! 写真を撮りつつ進む | こんな登りはあったかな |
筆者はグループの最後尾につき、写真を撮りつつまったりと歩く。登りと違って足元が完全に見えるため楽勝だ。傾斜は緩く、石畳が整備されている区間もあり、足に優しい道だった。後ろから速い人が来たら、どんどん先に行ってもらう。何しろ登りでは夜で暗いため、そして電池温存のため、1枚も写真を撮影していない。前方と後方の両方に気を配り、これは! という思う景色があったらどんどん撮る。この山にこのルートで再び登ることは恐らく無いだろう。ある程度は心のアルバムに焼き付けておくとしても、今撮り逃したらもう二度と撮れない。
基本的に傾斜は緩く、楽勝 | ようやく遠くに雲海が形成されてきた |
ほぼ平坦な道をサクサク下山 | そろそろ森林限界 |
7:30、早くもCamp Site2まで下山してきた。朝食その1としてサンドイッチとバナナ1本を食し、10分後に出発。Mossy Forest(苔むした森)は、登りでは真っ暗で全く見えなかった。下りでは景色を存分に堪能できた。
Mossy Forest(苔むした森) | なるほど確かに苔むしている |
8:30、さくさくっとCamp Site1に到着。朝食その2としてバナナ1本、りんごを食す。高度を下げたのに加えて、日もだいぶ昇っており、既に普通に暑い。10分後には出発した。
Camp Site 1 | 人里が見え始めた。雲も出てきた |
ここまで下りてくると、この山岳地域の名物である棚田/棚畑が見えてきた。なお、終盤の500mほどはバイクタクシーで下ることもできる。体力の有り余っていた我々は当然最後まで歩いて下山したが。
Luzon島北部の名物、棚田/棚畑 | バイクタクシー |
9:15頃、Ranger Stationまで下山完了。山頂からだと2時間40分だった。休憩20分を含めてまったり下山したため、まぁこんなもんだろう。なお、付近のトイレは壊れていて使えなかった。先行したカナダ人女性2人組は一刻も早くホームステイ先に戻りたいらしく、素早く下山していった。ジプニーを雇うこともできるらしい。豪州人3人と筆者は適当にその辺の店(登山装備、食べ物、土産等)を見て回る。一人がコーヒーを飲みつつ休憩しようと言い出したため、しばし店に入って休憩。1人あたり60ペソとのことだったが、Harryが気前良く全額支払った。
Ranger Stationまで下山完了 | 最も高所にある小学校 |
その後、結局ジプニーは雇えず、徒歩でホームステイ先まで下山した。約1km、そこそこ急な斜面をまったりと。ジプニーが走行可能な舗装道を辿れば良いため、一本道で迷う要素は無い。昨日Ranger Stationまで来た時にジプニー内から見た「最も高所にある小学校」を、今度はゆっくりと見ることができた。
Baban'sに帰還 |
ちなみに、トイレ/シャワーはcomfort room / bath roomというらしい。後者はともかく前者は初めて目にした。フィリピン独特の言い方なのかな。
部屋に戻る。相変わらずハエが多い。これは昨日のランチの頃から感じていたことだが。ゴミを取りまとめつつ、パッキング。パスポートをザック内から腰巻に戻す等。ザックはジプニーの屋根に載せて運ぶ。万一落下したら、パスポートもろとも失われることとなる。登山を終えたら肌身離さず持っておくべきだ。そして外に出てまったりとメモを書く。
10:30頃になってフィリピン人たちも徐々に戻ってきた。筆者は引き続きメモを書く。速乾性装備の威力は凄まじく、まだシャワーを浴びる必要性を感じない。
昼食は豚肉野菜スープ、野菜炒め、赤飯。フィリピン人によれば、「Manilaで食べるよりもうまい。なぜなら、野菜が新鮮だから」とのこと。激しく同意! 特にスープがうまかったため、多めに食しておく。野菜炒めも結局お代わり! 食後に湯。
昼飯! うますぎる! | モンスタージプニーの内部と屋根 |
ジンは右足首をひねったらしい。フィリピン人カップルは妻がCamp Site2で動けなくなり、夫が背負って下山したとのこと! 確かにガタイのいい男性だったが、凄まじい体力だ。ガイドのPauとJonaはこの最後尾について下山し、12:15にBaban'sに到着した。9:15頃にRanger Stationまで下山完了の話をすると、フィリピン人たちは皆驚いていた。
昼食後、歯磨き、小用、手洗い。口をゆすぐ時は念のためミネラルウォーターで。昼飯の時にジンとバイキングの話をする。と言ってもvikingでなくbikingで、日本語でいうツーリングのことだ。彼からはMt. Batulao(811m)とMt. Pinatubo(1486m)を薦められた。前者は低すぎるため敬遠していたが、Manilaから近い割にそこそこの登山を楽しめるらしい。後者は1991年に噴火した活火山であり、雨季(6月以降)は泥濘に要注意らしい。
昼食後、1時間ほど仮眠。
14:00にClosing ceremony。登山完了証と記念Tシャツが渡された。今更ながら、各人の名前をメモしておく。元々リスニング能力が怪しい上、フィリピン人を1人聞き漏らした。
途中の食事処(昨日の朝食に立ち寄った店)で土産を購入しようとしたが、ジンに「Manilaでも買えるものばかりだ」と止められる。代わりに、先程の女性に「Balut(アヒルの孵化しかけの卵)を食べたことがあるか」と尋ねてみたら、何とこの店にあるとのこと! 早速挑戦だ。価格は18ペソ(約40円)。このパーティで唯一の日本人がBalutに初挑戦すると宣言したのを見て、フィリピン人たちが面白がって集まってきた。カップルのうち男性に食べ方を教えてもらいつつ、興味津々で食す! まず殻を少し割り、スープを飲む。普通にうまい。そして殻を除去して中身を取り出し、見ずに喰えとのこと。いや、超うまいんですが! 紛れもなく、濃厚なゆで卵だ。恐らく、雛があまり成長していない状態の卵なのだろう。つまり、良質なたんぱく質! protein! 毎朝ランニングの後に摂取しているあのプロテインですよ! うまくないわけがない! 精力と滋養強壮に優れた食べ物であり、膝にも良いらしい!
Balut初挑戦の図(左の人に教えてもらった) | 見た目はグロいが、味は濃厚なゆで卵! |
先程の女性はこの間にコーヒーを飲んでおり、その後モンスタージプニー内で寄りかかってくることも無かった。少しだけ残念な気分。
Baguio到着後に解散。Manila方面に行くのは筆者を含め7人で、筆者以外全員がフィリピン人だった。21:00発の予定なので、3時間以上もの待ち時間がある。そこで当初は付近を散策するつもりだった。ところが、日曜夜なので観光できそうな場所は既に閉まっている。それ以前に、そろそろ暗くなる。これでは、徒歩1km圏内にあるらしい市場で土産品を探すくらいしかやることがない。とその時、フィリピン人たちが「17:45発のバスに切り替えられる」と教えてくれたため行動をともにする。夕食を食べる暇が無いが、まだバナナが2本残っているため問題無し。それに、途中で2箇所ほど休憩と称してサービスエリアっぽい場所に立ち寄る。フィリピン人たちはそこで適当に食べ物を調達していた。
途中、Cubaoで降りる女性2人にうっかりついていってしまった。寝ぼけていたのに加えて、バスターミナルの風景がPasayとほとんど同じだったからだ。これは紛らわしい。こんなの分かるかい! 彼女たちに「Makatiに行くならここで降りてはダメ」と言われ、運転手にもその旨話してもらった。タガログ語のやり取りは分からなかったが、Ayalaという地名が出てきたためようやく理解できた。
その後は車内アナウンスの聴き取りに全力を集中する。地球の歩き方のManila地図も凝視して、Cubao、Ortigas、Ayala、Pasayの位置関係を把握する。ちなみに、CubaoからAyalaまでは約10kmあり、徒歩では厳しい。MRTもタクシーもあるため問題無しと高をくくっていたが、実際にはそんなことはない。まず、日曜深夜にMRTは動いていない。タクシーも危険である(日本の深夜タクシーと同じ感覚で利用してはならない)。それに、Ayalaまでバスで行った方が圧倒的に時間短縮につながるのは言うまでもない。結局Ayalaで降りることに成功した。
降ろされた場所は真っ暗で、どちらが駅なのかも判然としない。2日夜にここを歩いておいて正解だった。何となく場所を思い出し、滞在先への正解ルートを導き出す。SMストアが見えれば、以後は目印が多い(Glorietta、GreenBelt等)ため迷うこともない。Ayala museumが予想外の位置に出現してやや焦ったが、ここには先週徒歩で来たことがあったため、事無きを得た。やはり普段から歩いて慣れておくことは必要だ。滞在先には、Ayala駅からは徒歩15分かからずに到着した。ちょうどMt. PulagのTシャツ(今回の戦利品)を装備していたため、入口にいる既に顔見知りの警備員も「Mt. Pulagに登ってきたのか!」と歓迎してくれた。
本来、3:00頃にPasay付近のバスターミナルに到着し、そこからまた1時間かけて滞在先まで歩く予定だった。実際にはBaguioで早い時間帯のバスに乗車し、かつAyala駅で下車したことで、4時間近い短縮が可能となった。翌日(というか当日)には仕事があるのだから、この4時間を丸々睡眠に充当できたのは非常に大きい。
Manilaの宿泊先と職場を往復しているだけでは決して味わえない体験を積み重ねたのも収穫だった。特に印象に残ったのは、モンスタージプニーの屋根に乗って移動したことと、念願のBalutに挑戦したことだ。今回のパーティメンバーと知り合えたのも収穫だ。
登山としては楽勝だった。天候に恵まれ、ツアーなのでペースもゆっくりで、むしろハイキングという趣だった。怪我も筋肉痛も無し。下山時に左足の親指の爪を1回だけ強打したくらいか。また1週間後に黒くなるかと思ったが、結局ならなかった。古傷の右膝の痛みも再発しなかった。全体的に負荷が低かったためだろう。また、毎日実行している膝トレーニングの効果であろう。但し、次回に向けて一層の膝トレーニングを積むとともに、登山・下山自体のトレーニングを継続する必要があるだろう。
日焼けとそれによる消耗は、日焼け止めでほぼ完全に防ぎ通した。日焼け止めは富士山やキリマンジャロで使った残りを使用した。「SPF 50+ PA+++」と書いてあるものだ。
他には、ヘッドランプの不備。替え電池を持っていなかったのはアホすぎる。それ以前の問題として、そろそろLEDランプに買い替えても良いと思う。
Mt. Pulag登山の感想
最後に今回の収穫と反省をまとめて記しておく。●今回の収穫
結果的に、無事に登頂し、下山した。この先、ルソン島最高峰に登るチャンスはなかなか来ないと思うので、今回モノにできて本当に良かった。●今回の反省
ガイド付きのツアー登山であり、自力でルートファインディングして登りきるという体験はできなかった。もっとも、フィリピンのほとんどの山では自然保護等を理由にガイド雇用と登山者登録を必須としており、この制約は常について回る。●総括と今後
筆者にとって、海外の登山はこれで五度目だ。せっかくフィリピンに長期滞在しているのだから、戒厳令下のミンダナオ島は避けるとしても、他のルソン島の山にもどんどん登りたい。
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