多言語タイピングにおけるギリシャ語の強化

2022.12.18(Sun)
文責:dqmaniac

※本稿は、たのんさんが主催するタイパー Advent Calendar 2022に登録しています。
※昨日の記事は、テルさんの競技ルールのお話 〜陸上競技のルーツから〜です。
※明日の記事は、パルキーさんのTW憲法ノーミス縛りをして得たことです。



結論
ギリシャ語のタイピングとは
なぜギリシャ語か
2018年の対策 〜TypeRacer〜
2022年の対策 〜monkeytype〜
おまけ1:Interstenoにギリシャ語が採用されるには?
おまけ2:過去のタイパー Advent Calendar向け記事へのリンク


●結論

ギ リ シ ャ 語 は 個 人 的 趣 味 !


●ギリシャ語のタイピングとは

ギリシャ語のタイピングを始めるには、まずギリシャ文字に習熟する必要がある。ギリシャ文字(α,β,γ,...)は、主にギリシャ語で用いられる。英語や日本語ローマ字で用いられるラテン文字(a,b,c,...)や、ロシア語で用いられるキリル文字(а,б,в,...)とは似て非なる文字である。基本24文字の他、ς(スティグマ)という特殊文字が用いられる。さらに鋭アクセント記号[´]とトレマ[¨]という2種類の文字装飾が用いられる。これらを合計すると、少なくとも34文字となる。英語の26文字よりも多いため、一般的なキーボード上にすべてを割り当てることはできない(数字キー等を潰せば別だが)。

次に、ギリシャ語のキーボード配列に習熟する必要がある。ギリシャ語の一般的なキーボード配列として、現代ギリシャ語配列、古典ギリシャ語配列、Polytonik配列が存在するらしい。しかし筆者は独自の配列を作成した。他の言語への影響を抑えつつ、しかも短期間で、一般的な配列を習得するのが困難と判断したためだ。

ギリシャ語タイピングの技能を発揮する場として、TypeRacermonkeytypeがある。Interstenoではまだ採用されていない。英語をはじめとするラテン文字に慣れきっていると、ギリシャ文字およびギリシャ語キーボードの壁は高い。例えば、Interstenoの合格条件である「240文字/分以上、かつミス率0.50%以内」を突破するのが意外と難しい。また、約30秒という短期決戦であっても、外国人がTypeRacerやmonkeytypeで100wpmに到達するのは極めて困難である。

※wpm: words per minute; ワード/分。1ワードは5文字と数えるため、1wpm=5文字/分、100wpm=500文字/分となる。


●なぜギリシャ語か

【偉大な先駆者と有用な練習サイトの存在】

Intersteno 2016オンライン大会における多言語部門の優勝者であるparaphrohnさんは、2017年にTypeRacerのギリシャ語で100wpmを達成。筆者より1年早く、かつ短期間で達成していた。そもそも筆者がギリシャ語を打ってみようと思ったのはparaphrohnさんの影響によるものであり、大変感謝している。

筆者は2018年にまずTypeRacerでギリシャ語タイピングに取り組んだ。TypeRacerでは文章を打つ。1回あたりの時間は概ね30秒〜1分である。2022年にはmonkeytypeで改めて100wpm達成を目標とした。monkeytypeではランダムに並んだ単語を打つ。1回あたりの時間は細かく設定可能であり、筆者は初期値の30秒のままにしている。また、通常版(約200語)の他に語彙増加版として1k(約1,000語)、5k(約5,000語)、10k(約10,000語)、25k(約25,000語)という難易度の高いバージョンが用意されている。筆者は全種目で順次100wpmを目指している。

【ギリシャ文字への馴染み】

ギリシャ文字は、漢字・平仮名・片仮名・ラテン文字・キリル文字以外の文字の中で、筆者にとって最も馴染み深い文字である。背景として、筆者は理学部数学科卒であり、就職後も約10年は金融工学を使う仕事をしていた。筆者は数式を見るとヨダレが出る性格である。ギリシャ文字を見てもそれはある程度当てはまる。

高校数学まででもα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)は変数名として普通に出てくる。円周率を表すπ(パイ)、加算を表すΣ(シグマ)、角度を表すθ(シータ)も頻出だ。ω(オメガ)も1の三乗根(のうち虚数を含むもの)に使われていた。高校物理ではλ(ラムダ)とμ(ミュー)もよく使われていた。

大学数学の最初の関門としてε-δ(イプシロン-デルタ)論法がある。ζ(ゼータ)関数もそのうち学ぶことになる。統計学のχ(カイ)二乗分布も有名だ。

金融工学では、金融派生商品(デリバティブ)におけるブラックショールズモデルの指標(その名もGreeksという)の名称として用いられる。代表的な指標として、Δ(デルタ)、Γ(ガンマ)、Κ(カッパ)、Θ(シータ)、Ρ(ロー)がある。例えば、Δはプレミアム価格を原資産価格で微分した値である。即ち、原資産価格が変動した時にプレミアム価格がどの程度動くかを示す指標である。

余談だが、2020年以降は新型コロナウィルス(COVID-19)の変異株の名称として使われている。例えばδ型は毒性が強く、ο(オミクロン)型は感染力が強いらしい。

【難関言語の工数見積もり】

さらなる難関言語(ここではアラビア語、タイ語、ヒンディー語等を指す)に将来挑戦する際の工数を見積もっておきたかった。これらの言語に使われる文字には、筆者は全く馴染みが無い。少し調べた限りでは、図形認識すら困難だ。この意味で、ロシア語やギリシャ語と比較しても難関言語の習得は極めて困難である。とはいえ、図形認識の段階さえクリアすれば、その先の成長過程はあまり変わらないと予想される(実はこの見通しがまだまだ甘いのかもしれないが)。従って、ギリシャ語で100wpmを達成する工数を知っておけば、難関言語で100wpmを達成する工数がそれ以上であると想定できる。

具体的には、100wpm到達までには以下のような幾つかの段階がある。このうち「図形認識の成長」は、ラテン文字のタイピング習得過程にはほぼ無かった。英語のタイピングを始めたのが英語習得の後だったためだ。2015年のInterstenoの多言語対応においても、ロシア語を除けば一部の特殊文字(ドイツ語のß等)や文字装飾に対応するだけで済んだ。ロシア語のタイピング習得時にのみ、図形認識の壁が存在した。だが、気付いた時にはその壁を通り過ぎており、「配列の試行錯誤」の段階に入っていた。ギリシャ語タイピング習得の過程で「図形認識の成長」の段階を改めて実感できた。

・図形認識の成長
・文字装飾の区別
・配列の試行錯誤
・打鍵高速化過程のプラトー現象
・最後に100wpmを目指して集中練習

もちろん難関言語にはさらなる難関要因が含まれる可能性もある。例えばアラビア語の場合、「右から左に読む」ことが難関要因となり得る。しかし上記の各段階の工数を概ね把握しておくことで、ある程度の見積もりが可能となる。

……

以上、ロシア語と違って趣味に走った理由しかない。Interstenoではギリシャ語が2022年現在採用されていないし、今後採用されるか否かも分からない。ギリシャ語タイピングで競い合うライバルがいるわけでもない。要するに、ギリシャ語タイピングはあくまでも自己満足である。とはいえ、己が成長する実感を味わうのは類稀なる快感を伴うものである。


●2018年の対策 〜TypeRacer〜

【配列の検討】

短期間で成果を出すため、そして他の言語との混同を可能な限り抑制するため、図形認識を重視した配列を作成した。paraphrohnさんが作成した
インテルステノ用paraph配列集のロシア語配列の考え方を参考にしている。即ち、ラテン文字と似たギリシャ文字をUSインターナショナル配列に強引に割り当てた。ラテン文字に、そしてUSインターナショナル配列に慣れきった筆者にとって、例えば[ν]は[v]、[ρ]は[p]としか認識できないためだ(実際には[ν]は[n]、[ρ]は[r]に対応する)。他にも[ς][η][υ][ω][γ]はそれぞれ[c][n][u][w][y]としか認識できない。従って、筆者の作成した配列は、ギリシャ語で一般的に用いられる配列とは一線を画す。

キーボード配列の変更に使用しているソフトウェア、Microsoft Keyboard Layout Creatorの設定は図1の通り。デッドキー['](日本語配列で言う[:])には[ά][έ][ί][ή][ό][ύ][ώ]を、デッドキー[`](日本語配列で言う[半角/全角])には[ϊ][ϋ][3][8]を仕込んでいる。paraph配列との大きな違いは、一部の特殊文字を打つ時に「右Altを押しながら打つ」のではなく、「デッドキーを押してから打つ」ことだ。どちらが合うかは人により違うので、試行錯誤して決めると良いと思う。

【図1: Intersteno用dq配列(ギリシャ語)】

以下補足。

・[μ]: [u]に似ている。だが、[u]には[υ]という別の文字を割り当て済みだ。試行錯誤の末、[[]に配置。
・[π][σ]: 英語の[p][s]に相当する。だが、図形認識が邪魔をする。キリル文字の[п][б]に倣い、[@][g]に配置。
・[θ]: 発音からついつい[s]と打ってしまう。図形認識を優先し、[8]に配置。
・[ξ]: ラテン文字のどの文字とも似ていない。一般的なギリシャ語配列を踏襲し、[j]に配置。
・[ά][έ][ί][ή][ό][ύ][ώ]: 当初はデッドキー[']に仕込んだ。だが、出現頻度が高すぎるため2打鍵では非効率だ。そこで、出現頻度の低い文字([s][3][]][m][r][h][^])を潰して配置した。

ギリシャ語のみに特化して強化を図るなら、一般的な配列を習得するのが有効と考える。その時には、各文字の発音、単語、文法も含めてギリシャ語を体系的に習得することになるだろう。しかし、TypeRacerやmonkeytypeで多言語を打鍵したり、Intersteno多言語部門への参戦を継続したりするなら、他の言語との混同を可能な限り抑制する必要がある。この意味で、現時点では上記の図形認識配列が最も効果的と判断している。

【TypeRacerを用いた練習】

2018年6〜7月にTypeRacerを用いて練習した結果を図2に示す。38日目・763回目の練習で100wpmを突破した。80wpm台では配列の試行錯誤で、90wpm台ではプラトー現象で、それぞれ伸び悩んだ。しかしこれらの伸び悩みの時期は、最終的に爆発して100wpmに到達するために必要な熟成期間だったと考えている。

なお、TypeRacerでは後述のmonkeytypeと違って、ノーミスを前提とした練習はしていない。ミスタッチ発生時には基本的にBS後に修正し、先に進む(あまりにもミスタッチが多い場合にはEscだが)。確かに、この修正によるロスは速度に影響する。一方、ノーミスを狙うと速度面で委縮することがある。従って、概ね正確性98〜99%を狙いつつ、加速できそうな場所では積極的に加速していた。結果的に、打ち切ったトライアルの平均正確性は98%台を維持した(99%台には到達できなかった)。

【図2: TypeRacerの練習回数と速度の成長】

表1に時系列の主な更新履歴を示す。実際には6月29日を除いて毎日練習した。1セットあたり/1日あたりの練習回数は、速度が向上するに伴い増加すると予想した。だが、11日目以降は1セットあたり15〜20回のまま変わらなかった。平日は原則1セット、休日は2セット実施する。また、特に90wpm達成後は、平日は無理せずポテンシャルを蓄えることに努め、休日に集中して更新を狙った。特に最終日の7月8日には、執念と怨念を込めまくって38回打ち込み、爆発更新を掴み取った。

【表1: TypeRacerの主な更新履歴】

日付回数速度(wpm)
6/1(Fri)436.26
6/2(Sat)1046.63
6/3(Sun)2856.40
6/4(Mon)4864.43
6/6(Wed)6568.15
6/9(Sat)10775.14
6/9(Sat)12879.68
6/14(Thu)21381.54

日付回数速度(wpm)
6/17(Sun)28685.35
6/18(Mon)33285.54
6/19(Tue)34085.74
6/21(Thu)38189.93
6/23(Sat)44390.07

日付回数速度(wpm)
6/30(Sat)56694.75
7/1(Sun)60995.63
7/7(Sat)70299.08
7/8(Sun)763106.34

※回数は、記録を出した時点での総練習回数。その日までの総練習回数とは必ずしも一致しない。
※上記データはTypeRacer Dataから取得した。当時のタイピング日記によると6月11日に15回練習しているが、これは含まれていない。恐らく誤ってGuestアカウントで打ったのだろう。


●2022年の対策 〜monkeytype〜

【monkeytypeによる鍛錬】

通常版では37日(実質31日)、153回目の練習で100wpmを突破した。1kでは60日(実質41日)、216回目の練習で100wpmを突破した。

他の言語と同様、将来のTypeRacerへの再挑戦やInterstenoへの挑戦も視野に入れて、「30秒・ノーミス」という条件下で練習を重ねた。英語で160wpmを出せる筆者にとって、ギリシャ語で100wpmを目指す際に速度の比重は少ない。速度を求めてミス覚悟で限界まで追い込む必要が無いためだ。それよりも、ミスとそれによるロスを抑えることを重視した。その結果、早期に100wpmに到達できたと考えている。

ノーミスが条件である以上、1ミスでもした場合には即Escである。終了間際のミス等により、誤って打ち切って出した記録は、集計時に対象外とする。初期段階や不調な日には、1回打ち切るのに苦労することもよくあった。2018年のTypeRacerでの練習と比較して、期間があまり変わらないのに練習回数が少ないのはこのためだ。

なお、制限時間30秒は初期設定のままである。Interstenoを見据えるなら、60秒などより長い設定にした方が良い。しかし、特に初期段階で60秒ノーミスを保つのは至難である。練習効率の意味から、30秒のままの方が良いと判断した。

【通常版で100wpm達成】

2022年8〜9月にmonkeytypeを用いて練習した結果を図3に示す。2018年にTypeRacerで100wpmに到達してから丸々四年間もギリシャ語を打たなかった。このため、2022年になると文字も配列も含めほぼすべてを忘れていた。monkeytypeへの初回挑戦では約20wpmしか打てず、初日には50wpmにすら到達できなかった。そこから徐々に感覚を取り戻した。なお、2018年と違って「配列の試行錯誤」による伸び悩みは無かった。

100wpm到達前に85wpm以上(ノーミス。以下同様)は43回、90wpm以上は21回、95wpm以上は7回しか出していない。比較的順調に成長したと言えるだろう。特に90wpmを出してから100wpmに到達するまでが、ベトナム語(ラテン文字の最難関)やモンゴル語(キリル文字の最難関)と比較しても際立って速かった。

【図3: monkeytype通常版の練習回数と速度の成長】

表2に時系列の主な更新履歴を示す。1日あたりの練習回数(というよりもノーミス達成数)は、速度が向上するに伴いむしろ減少した。100wpmを意識してびびりまくり、終盤にミス爆死するケースが激増したためだ。

【表2: monkeytype通常版の主な更新履歴】

日付回数速度(wpm)
8/23(Tue)649.60
8/24(Wed)1255.18
8/25(Thu)1662.78
8/27(Sat)2266.40
8/27(Sat)2372.80
8/28(Sun)3678.77
9/3(Sat)6881.60

日付回数速度(wpm)
9/4(Sun)8885.14
9/8(Thu)10285.20
9/10(Sat)10489.20
9/10(Sat)11089.97
9/11(Sun)11490.00

日付回数速度(wpm)
9/16(Fri)12490.37
9/17(Sat)12890.40
9/18(Sun)13295.60
9/20(Tue)14197.60
9/21(Wed)14297.97
9/27(Tue)15199.57
9/28(Wed)153101.17


【1kで100wpm達成】

2022年9〜11月にmonkeytypeを用いて練習した結果を図4に示す。通常版で100wpmを達成した少し後に1kの練習を開始した。このため、1kでは最初から60wpm以上打つことができ、初日に75wpmに到達した。一方、通常版では単語慣れにより攻略できた部分が多かった。このため、単語が増えると75wpm程度しか打てず、これが実力相応の結果だったという見方もできる。1kでは改めて単語慣れ(というよりも頻出シーケンスへの慣れ)を進めるとともに、ギリシャ文字自体への慣れが不足していた部分を補うことにより、徐々に100wpmに近づいていった。

とはいえ、符号付き文字とそうでない文字の区別は難しく、苦戦を重ねた。また、右手小指の範囲に配置した[π][μ][ί][ώ]が集中すると苦戦は免れない。例えば[μπορώ](できる), [μπορούσαν](彼らはできた), [εκπομπών](排出量)という単語には幾度苦杯をなめさせられたか分からない。特に[εκπομπών](日本語QWERTY配列では[ek@o[@^v]となる)は結局克服できず、5k以降に攻略を持ち越した。

100wpm到達前に85wpm以上は134回、90wpm以上は67回、95wpm以上は18回出した。95wpmを出してからがなかなか遠く、4週間を要した

【図4: monkeytype 1kの練習回数と速度の成長】

表3に時系列の主な更新履歴を示す。1日あたりの練習回数(というよりもノーミス達成数)は、速度が向上するに伴いむしろ減少した。100wpmを意識してびびりまくり、終盤にミス爆死するケースが激増したためだ。また、11月には100wpmを目前にしてプラトー現象に陥り、なかなか壁を越えられなかった。「ここまで来れば後は単語運次第」と楽観して試行回数のみを増やし、地力を上げる努力を怠ったのが原因と考えられる。また、わずか30秒という試行時間であるにも関わらず、終盤まで脳が持たず、文字の認識ができなくなる事象が頻発した。その原因は、ギリシャ文字への慣れが不足していることと、特に平日在宅勤務後は脳が疲弊しきっている(というよりも半分以上寝ている)ことであると分析した。11月26,27日の練習では休日の脳が働いている時間帯に加速単語での加速を意識して、ようやく結果を出した。

【表3: monkeytype 1kの主な更新履歴】

日付回数速度(wpm)
10/3(Mon)375.12
10/4(Tue)575.95
10/4(Tue)776.77
10/5(Wed)1277.20
10/7(Fri)1480.37

日付回数速度(wpm)
10/8(Sat)2181.20
10/8(Sat)2681.97
10/9(Sun)3882.35
10/9(Sun)4283.17
10/10(Mon)4685.60
10/10(Mon)5288.77
10/15(Sat)7089.57
10/16(Sun)7690.71

日付回数速度(wpm)
10/30(Sun)12491.57
10/30(Sun)12591.91
10/30(Sun)12695.97
11/9(Wed)16197.53
11/12(Sat)16898.80
11/26(Sat)20499.20
11/26(Sat)20999.97
11/27(Sun)216102.33


【5kで100wpm達成(2023.1.7追記)】

2022年11月〜2023年1月にmonkeytypeを用いて練習した結果を図5に示す。1kで100wpmを達成した直後に5kの練習を開始した。このため、最初から80wpm以上打つことができ、初日に85wpmを超えた。5日目に90wpmを、10日目に95wpmを突破した。1kでの2カ月にわたる鍛錬は無駄ではなかったようだ。頻出シーケンスへの慣れがある程度通用した。しかしその後は伸び悩んだ。1kまでに出てこないパターンを一つ一つ高速化し、ミス誘発箇所を一つ一つ潰していく作業が再び必要となったためだ。

100wpm到達前に85wpm以上は156回、90wpm以上は111回、95wpm以上は43回出した。95wpmを出してからがなかなか遠く、4週間を要した

【図5: monkeytype 5kの練習回数と速度の成長】

表4に時系列の主な更新履歴を示す。1日あたりの練習回数(というよりもノーミス達成数)は、速度が向上してもあまり変わらなかった。また、12月には100wpmを目前にしてプラトー現象に陥り、なかなか壁を越えられなかった。2022年内の到達という目標を掲げていたのに、無念にも失敗した。1kの時と同様に、終盤まで脳が持たず、文字の認識ができなくなる事象が頻発した。詰まらずに打てれば100wpmに届くという感触は、12月下旬の時点で既にあった。この問題を解決するには、失速を極限まで減らすか、失速を補えるだけの加速をするしかない。1kの時と同様に後者を目指して練習しているうちに、たまたま単語運に恵まれ、前者に限りなく近い形で結果が出た。

【表4: monkeytype 5kの主な更新履歴】

日付回数速度(wpm)
11/27(Sun)385.89
11/27(Sun)586.77
11/28(Mon)688.77
12/1(Thu)1190.34

日付回数速度(wpm)
12/3(Sat)1891.54
12/3(Sat)2792.77
12/6(Tue)3595.57

日付回数速度(wpm)
12/13(Tue)6796.77
12/21(Wed)9997.53
12/25(Sun)11397.93
12/31(Sat)13599.53
1/7(Sat)166101.13


【10kで100wpm達成(2023.1.14追記)】

2023年1月にmonkeytypeを用いて練習した結果を図6に示す。5kで100wpmを達成した直後に10kの練習を開始した。このため、最初から90wpm以上打つことができ、初日に95wpmを超えた。5kまでの鍛錬は無駄ではなかったようだ。頻出シーケンスへの慣れがある程度通用した。というよりも、10kに出現する単語の半分は5kに出現するため、見たことのある単語やシーケンスが至る所に出現した。

100wpm到達前に85wpm以上は21回、90wpm以上は20回、95wpm以上は10回出した。極めて順調に100wpmを達成した。

【図6: monkeytype 10kの練習回数と速度の成長】

表5に時系列の主な更新履歴を示す。わずか1週間であっさりと100wpmに到達するとは思っていなかった。1kや5kの時のように、なかなか100wpmに到達できない焦りを感じることもなかった。終盤にびびって大失速したりミス爆死したりすることも、ほぼ無かった。一方で、5kの時に中途半端に終わってしまったスピード練習をこれ幸いと継続したのもプラスに作用した。

【表5: monkeytype 10kの主な更新履歴】

日付回数速度(wpm)
1/8(Sun)191.54
1/8(Sun)294.77
1/8(Sun)496.77

日付回数速度(wpm)
1/9(Mon)1397.57
1/13(Fri)1699.60
1/14(Sat)22101.13


【25kで100wpm達成(2023.2.1追記)】

2023年1〜2月にmonkeytypeを用いて練習した結果を図7に示す。10kで100wpmを達成した直後に25kの練習を開始した。このため、最初から85wpm以上打つことができ、初日に95wpmを超えた。10kまでの鍛錬は無駄ではなかったようだ。頻出シーケンスへの慣れがある程度通用した。8日目には99.57wpmまで伸ばし、そのまま100wpmを達成できそうに思われた。ところが、その後は1週間ほど伸び悩んだ。雑務が増加して平日の練習に支障をきたしたためだ。また、5k,10kまでに出てこないパターンが多く、また単語も長く複雑になったのも影響した。

一般に、語彙が増加するほど難易度が上がる。25kでの100wpm達成までにはまだまだ壁が立ちはだかると想定していた。このため、100wpm達成を焦ることは無かった。終盤の安定性を維持しつつ隙を見て加速をする点に課題があると分析していたため、それに対応する練習を繰り返して実力を地道に高めるつもりだった。ところが、18日目にそのような練習を実施していたところ、たまたま単語運に恵まれ、あっさりと100wpmを超えた。

100wpm到達前に85wpm以上は49回、90wpm以上は39回、95wpm以上は22回出した。

【図7: monkeytype 25kの練習回数と速度の成長】

表6に時系列の主な更新履歴を示す。1kや5kの時のように、なかなか100wpmに到達できない焦りを感じることもなかった。終盤にびびって大失速したりミス爆死したりすることも、ほぼ無かった。5k,10kの時に中途半端に終わってしまったスピード練習を継続した。

【表6: monkeytype 25kの主な更新履歴】

日付回数速度(wpm)
1/15(Sun)188.00
1/15(Sun)289.97
1/15(Sun)497.57

日付回数速度(wpm)
1/22(Sun)2299.57
2/1(Wed)50101.90


通常版、1k〜25kを合わせた練習回数と速度の関係を図8に示す。通常版の最初の15回(60wpm未満)は除く。1kまでは95wpm以上のエリアの密度が薄い。即ち、単語運に頼っていた部分があった。5kで95wpmを出してからの苦戦を経て、10k,25kでも95wpm以上を出せる実力が培われたと考えている。また、通常版から1kに移行した時のギャップが最も大きかった。5k以降は初日に85wpmを超えるなど、移行時のギャップが小さかった。

【図8: monkeytypeの練習回数と速度の成長】


【TypeRacerによる鍛錬(今後)】

monkeytypeで25kまですべて100wpmを達成したら、TypeRacerに戻り、文章を打ちたい。筆者の独自配列ではまだ対応していない「大文字のデッドキー化」にも、ここで対応する。

その後どこまで伸ばすかは未定だ。Interstenoのオンライン大会にギリシャ語が採用されるのであれば、是非とも伸ばしたい。しかしその見込みが無いのであれば、先にアラビア語等の他の難関言語に挑戦したい。


●おまけ1:Interstenoにギリシャ語が採用されるには?

大前提として、ギリシャ語を母国語とする人たちで構成される継続的な組織が必要だ。なぜなら、オンライン大会のみを考慮した場合でも、毎年の本番用文章や、TakiやZAV向けの練習用文章を提供する必要があるからだ。課題文章は日本語の文章を参照すれば分かる通り、政治的・宗教的に中立で、著作権の問題が無く、それなりの語彙を含むある程度知的な内容で、かつ指定された量(10分間練習は約1万字、1分間練習は約1000字)を満たす必要がある。また練習/本番ソフトへの反映に際しては、特殊文字の取り扱い(どんな文字があるか、どの文字を何点にするか)を決定する必要がある。

その上で、Interstenoの組織への働きかけが必要だ。参考までに、2022年に日本語の係数を2.2607から2.95に変更する際に要した手続きの概要を記載する。ギリシャ語やその他の言語を新規に採用する際にも、以下に類する手続きが必要になると考えられる。

・日本側の組織(Intersteno Japan。全日本タイピスト連合とは別組織)からの提案
・Intersteno側のScience Committeeでの説明と承認
・Intersteno側のBoardでの説明と承認
・Intersteno側の各種作業(練習/本番ソフトへの反映、公式サイト等での周知)

以上、ギリシャ語をほんの少しかじりかけた程度の外国人が代行するのは無理がある。まずはギリシャ人の協力者を見出すことから始める必要がある。


●おまけ2:過去のタイパー Advent Calendar向け記事へのリンク

筆者が執筆した文章が数年分蓄積してきたため、備忘録を兼ねて以下にまとめておく。その後の状況も記載する。

多言語部門におけるロシア語の強化(2021.12.12)
→ロシア語の強化は継続している。但し2022年はmonkeytypeが中心だった。通常版や1kでは語彙が少なくIntersteno対策には力不足なため、10kでの練習を中心とした。25k以上では語彙がマニアックすぎてランダム練習に近くなり、かえって対策にならないと判断している。1月以降、TypeRacerやTakiを用いて文章を打つ訓練に戻ろうと考えている。

老化とタイピング(2020.12.6)
→老化は恐ろしいことに着々と進行している。特に平日の在宅勤務終了後には、眠すぎてタイピングをやる気にすらなれない日が多くなった。しかし特にスピード練習は継続的に実施しないと速度がどんどん衰えていく。Interstenoで言えば英語や日本語等、速度を要求される言語を打つ練習を採用していく。

更新したければ走れ! 2019年版(2019.12.15)
更新したければ走れ!(2018.12.16)
→ランニングは継続している。年間走行距離は当時よりやや落ちて900km程度となる見通しだ。速度も明らかに低下した。2020年4月の在宅勤務開始に伴い、日々の通勤の高速ウォーキングが丸々なくなったのが地味に響いている。また、老化に伴い、スピード練習をやらないとすぐに落ちるし、そもそもスピード練習の負荷に耐えるのが困難になりつつある。
→タイプウェル国語Rは2022年1月30日、タイプウェル英単語は2019年3月3日を最後に打っていない。約30秒で800文字/分(160wpm)かそれ以上を目指す(≒800文字/分を約30秒維持する)打鍵は、monkeytypeの高速言語の攻略とある意味似ている。スピード練習として効果的であることは間違いないため、いずれ再開する予定はある。


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