※本稿は、たのんさんが主催するタイパー Advent Calendar 2021に登録しています。
※昨日の記事は、テトラさんのこの1年で変わったタイピングとの向き合い方です。
※明日の記事は、テルさんの異種競技の「スゴさ」を比べる難しさ 〜日本語・英語タイピングの違いから〜です。
次に、ロシア語のキーボード配列に習熟する必要がある。ロシア語の一般的なキーボード配列として、ЙЦУКЕН配列やニーモニック配列が存在する。詳細は多言語タイピングWikiのロシア語の項目を参照。しかし筆者は独自の配列を作成した。他の言語への影響を抑えつつ一般的な配列を短期間に習得するのが困難と判断したためだ。
ロシア語タイピングの技能を発揮する場として、Interstenoオンライン大会の多言語部門がある。Interstenoの概要はこちらを参照。ロシア語は2007年大会以降採用され続けている。英語をはじめとするラテン文字に慣れきっていると、キリル文字およびロシア語キーボードの壁は高い。例えば、Interstenoの合格条件である「240文字/分以上、かつミス率0.50%以内」を突破するのが意外と難しい。
ロシア語を高速化しようというタイパー/タイピストであれば、既に日本語や英語で高速タイピングの素地がある可能性が高い。従ってロシア語でも、「240文字/分以上、かつミス率0.50%以内」の壁さえ乗り越えれば、しばらくの間は順調に高速化できる。その結果、ロシア語は3000〜4000点、あるいはそれ以上を安定して狙える得点源と化す。英語等の他の16言語で4000点上乗せするのが極めて難しい現状では、ロシア語タイピングの高速化は必須である。
また、多言語部門の参加者の多くが苦手とするハンガリー語やトルコ語については、既に対策を実施してきた。ハンガリー語は2016年に、トルコ語は2018年に集中練習を行い、既に伸びしろの大部分を実現させている。もちろんまだまだ伸ばす余地はある。しかし、500伸ばすのはそう簡単ではない。
ロシア語に関しても、2017年に集中練習を実施済みだ。しかし、Interstenoでの自己ベストはスコア4276、速度で言えば440文字/分程度に留まっている。従って、他の言語での実績を鑑みれば、今後ロシア語を500どころか1000伸ばす余地も充分にある。筆者のロシア語の打鍵速度が低いのは、認識能力が弱いためだ。キリル文字にも、ロシア語の頻出文字列にも、脳も目も指も慣れていない。逆に言えば、慣れにより伸ばす余地がある。加えて、ロシア語には特殊文字が少ない。筆者の使用している独自配列では、デッドキーを使って2打鍵必要となる文字は実質[э][ъ]のみである(大文字のデッドキー化を除く)。このため、特殊文字の多いチェコ語やスロバキア語、ハンガリー語、ポーランド語の打鍵速度を上回る可能性は非常に高いと考えている。
……それを言い出したらアラビア語は? タイ語は? 朝鮮語は? という話にもなりかねない。だが、Interstenoの運営方針に大きな変更が無い限り、採用実績のある言語や文字を優先すべきだ。
●なぜロシア語か
【多言語部門で得点源になる】
筆者がロシア語のタイピングを始めたのは、2015年12月のことだった。Interstenoオンライン大会の多言語部門で上位を狙うためだ。2015年のオンライン大会には準備が間に合わず、ロシア語を除く16言語にエントリーした。結果は世界第六位に留まった。2016〜2019年にはロシア語を含む最大17言語、2020年には最大16言語にエントリーした。結果は、第二位以上で安定した。2021年には例外的に17言語から「母国語を含め最大16言語」を選択する仕組みとなり、筆者は期待スコアが当時最も低かったロシア語を除外した。しかし2022年にはロシア語を含む17言語に戻る予定であり、再びロシア語を鍛える必要が出てきた。【伸びしろが最も多い】
Interstenoオンライン大会において、筆者は英語とフランス語でスコア6000(≒600文字/分を10分維持)を突破済みである。この二言語に代表される高速言語のスコアを500伸ばす(≒50文字/分上げる)のは相当大変だ。ミスを抑えて10分間維持できる速度がほぼ上限に達しているためだ。もちろん限界は己が勝手にそう思い込んでいるものであって、伸ばす余地はある。だが、伸ばすための戦術や努力は(巷で言われているものや自ら考案したものは)一通り試し終えた。今後さらに伸ばすには何らかのブレイクスルーが必要だ。そして、それを見出すのももはや簡単ではない。【将来、キリル文字を使用する言語が増える可能性がある】
Intersteno2021では、セルビア語(キリル)が追加された。これに伴い、従来はクロアチア語(ラテン文字)を打つしかなかったセルビア人やロシア人たちがキリル文字で参戦できるようになった。キリル文字を使用する言語は他にもウクライナ語、ベラルーシ語、マケドニア語、ブルガリア語等が存在する。これらの言語を使う人たちが将来Interstenoに参戦してくれば、本番で打つ言語に追加される可能性がある。キリル文字に今から慣れておくことで、その対策になる。【想定ライバルはロシア語を重視していない】
Intersteno多言語部門のライバルたちは、母国語をはじめとする高速言語で7000台、8000台を叩き出すことを重視しているように見受けられる。将来の発展性や、他の高速言語への波及効果を考慮すれば、上限値を可能な限り高めるのは理に適っている。一方、ロシア語やハンガリー語、トルコ語といった、外国人にとってタイピングの敷居の高い言語を集中的に練習している人はほとんどいないように感じられる。実際、過去15年分のロシア語のランキングを参照すると、ロシア人以外でスコア3000を超えたのはわずか6人、4000超えに至っては筆者のみである。筆者が多言語部門で上位に居座っていられる理由はここにある。結論に述べた「ロシア語を制する者はIntersteno2022を制す!」の根拠もここにある。そしてこの状況が変わらない限り、ロシア語を鍛え続けるのは有力な選択肢だ。
筆者はIntersteno2017〜2019のロシア語ランキングでTop10入りを果たした。しかし、Intersteno2020ではわずか20点差でマリアに敗れ、Top10からも叩き落とされた。Intersteno2022では是非ともTop10復帰を狙いたい。あわよくばさらに上を狙い、ロシアのライバルたちを本気にさせたい。確かに筆者の実力はまだまだ不足であり、彼(女)らは筆者の存在など歯牙にも掛けていないことだろう。だが、将来は分からない。
大会 | マリア | ナターリャ | 筆者 |
---|---|---|---|
2016 | 4505(5位, 4905-8) | 3656(10位, 4106-9) | 3487(12位, 3787-6) |
2017 | 4230(11位, 4830-12) | 4414(7位, 4764-7) | 4274(10位, 4324-1) |
2018 | 4751(5位, 5001-5) | 3955(8位, 4605-13) | 4249(6位, 4399-3) |
2019 | 4767(7位, 4917-3) | 4063(9位, 4513-9) | 4226(8位, 4376-3) |
2020 | 4296(10位, 4696-8) | 4764(6位, 4914-3) | 4276(11位, 4426-3) |
2021 | 4242(12位, 4592-7) | 4497(10位, 4747-5) | - |
平均 | 4465(8.3位, 4824-7.2) | 4225(8.3位, 4608-7.7) | 4102(9.4位, 4262-3.2) |
※()外はスコア。()内は順位、10分間の打鍵数、ミス数。スコア=10分間の打鍵数−50×ミス数
●過去の対策
Intersteno2018オンライン大会:レポートのロシア語の対策に記載した通り。以下に概要のみ記す。
【配列の検討】
短期間で成果を出すため、そして他の言語との混同を可能な限り抑制するため、図形認識を重視した配列を作成した。paraphrohnさんが作成したインテルステノ用paraph配列集のロシア語配列を参考にしている。即ち、ラテン文字と似たキリル文字をUSインターナショナル配列に強引に割り当てた。ラテン文字に、そしてUSインターナショナル配列に慣れきった筆者にとって、例えば[н]は[h]、[р]は[p]としか認識できないためだ(実際には[н]は[n]、[р]は[r]に対応する)。従って、ロシア語で一般的に用いられるЙЦУКЕН配列やニーモニック配列とは一線を画す。
キーボード配列の変更に使用しているソフトウェア、Microsoft Keyboard Layout Creatorの設定は図1の通り。デッドキー['](日本語配列で言う[:])には[ё][э][ъ]を、デッドキー[;]には大文字すべてを仕込んでいる。paraph配列との大きな違いは、一部の特殊文字を打つ時に「右Altを押しながら打つ」のではなく、「デッドキーを押してから打つ」ことだ。どちらが合うかは人により違うので、試行錯誤して決めると良いと思う。
年 | 1分間練習 | 10分間練習 | 総文字数 |
---|---|---|---|
2016 | 140 | 35 | 196000 |
2017 | 220 | 94 | 464000 |
2018 | 80 | 44 | 208000 |
2019 | 100 | 14 | 96000 |
2020 | 170 | 67 | 336000 |
2021 | 40 | 7 | 44000 |
合計 | 750 | 261 | 1344000 |
※総文字数は、1分間練習を平均400文字、10分間練習を平均4000文字と仮定して算出。
ロシア語にも左手範囲の大文字のデッドキー化は有効だ。幸いなことに、筆者の独自配列では右手範囲の大文字の頻度は(Пを除いて)低いし、右手小指を駆使する特殊文字も少ない。ドイツ語ほどの導入効果は見込めないとしても、終盤まで左腕の消耗を防ぐことができる。
●2021年以降の対策
【大文字のデッドキー化(試行中)】
これはロシア語に限らない。もともとはドイツ語の左手範囲の執拗な大文字連打に辟易したのが始まりだ。ドイツ語にはA,D,S,V,W,Zで始まる名詞が文頭のみならず文中にも頻出する。このため、左Shiftのみを使っていると左腕の消耗が激しい。10分も打てば、終盤には力尽きて失速するリスクが大きい。そこで、かつては右Shiftの併用も検討した。だが、右のホームポジションが大きく崩されるため断念した。代わりに導入したのが、デッドキー[;]を使用する方法だ。例えば[A]は[;→a]と打つ。左手に集中していた負荷が右手に分散されるため、左手範囲の大文字には極めて効果的だ。但し右手範囲の大文字をこの方法で打つのは辛い。右手小指の負荷が増すし、ミスも誘発される。特に、フランス語等で記号や特殊文字が絡むと地獄と化す(例: L'élève)ので、左Shiftを併用する必要がある。【TypeRacerによる鍛錬(試行中)】
Takiの欠点は、課題文章の数が限られていることだ。ロシア語の1分間練習の文章は10個、10分間練習の文章は34個しかない。従って、Takiのみを半年〜1年という長いスパンで打ち続けると、いずれ間違えやすい箇所を中心に文章の一部を覚えてしまう。これでは本番の初見文章への対策にならない。そこで、当初は初見文章への耐性を培う目的でTypeRacerを導入した。
しかし練習を続けるうちに、ロシア語の頻出文字列の習得という目的の方が大きくなった。Takiでも[или](また), [жизни](生活), [Москве](モスクワ)等の頻出ワードを習得できた。しかし、未習得の頻出パターンはまだまだ多い。その結果、Intersteno本番の初見文章や初見単語に対しては1文字ずつしか認識できず、失速することがあった。認識単位が小さい場合は、実質的にランダム文字列を打ち続けるのと同じであり、高速化は到底望み得ない。そこで、TypeRacerで習得済み文字列を増やすことにより、ベース速度の向上を狙う。
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また、各指標の推移を表4に示す。2021年7月の本格練習開始以来、10月までは順調に伸びてきた。一方、11月には平均速度が明らかに伸び悩んだ。最高速度も伸び悩んでおり、27日に突然噛み合って600文字/分を超えなければ、危うく10月の記録を下回るところだった。最高記録の伸びに関しては、特定の高速文章に慣れたという要因が大きい。苦手な文章についても、30回も打てば徐々に対策ができてくる。初見文章に対して同様の結果を出せるかは不明だ。
年/月 | 平均速度 | 最高速度 | 平均正確性 | レース数 | 勝利数 | 勝率 |
---|---|---|---|---|---|---|
2016 | 327.96 | 404.50 | 95.9% | 63 | 0 | 0.00% |
2017-2020 | 420.79 | 502.00 | 98.5% | 197 | 78 | 39.59% |
2021/7 | 443.51 | 530.20 | 99.0% | 481 | 221 | 45.95% |
2021/8 | 466.47 | 534.35 | 99.1% | 480 | 235 | 48.96% |
2021/9 | 478.50 | 558.35 | 99.1% | 501 | 263 | 52.50% |
2021/10 | 491.78 | 575.25 | 99.1% | 521 | 297 | 57.01% |
2021/11 | 496.35 | 600.21 | 99.0% | 612 | 336 | 54.90% |
Total | 469.51 | 600.21 | 98.9% | 2855 | 1430 | 50.09% |
項目 | 平均速度 | 最高速度 | 平均正確性 |
---|---|---|---|
2021/12 | 500 | 600 | 99.0% |
2022/4(目標) | 550 | 650 | 99.0% |
平均速度と最高速度にはまだまだ伸ばす余地がある。Intersteno2022までに、あと50文字/分は伸ばしたい。
正確性は99%を保つ。正確性を維持しつつ速度を伸ばすには、このくらいの正確性が良いバランスだと感じている。速度を重視するあまり正確性が下がってきたら、100%を狙い続けることもある。しかしそうすると今度は委縮して速度が伸び悩む。そこで、今度は正確性99%を許容して速度を上げる。基本はこのサイクルの繰り返しだ。一方、Intersteno直前期になったら本番対策として目標を99.5%に上げるかもしれない。
項目 | 平均スコア | 最高スコア | 本番スコア |
---|---|---|---|
2020年(実績) | 4182 | 4581 | 4276 |
2022年(目標) | 4700 | 5100 | 4800 |
最低限、2020年実績+500を狙う。あわよくばさらに上を、貪欲に狙っていきたい。
●課題と対策
ロシア語ばかり打っていると、500〜600文字/分の速度に脳も目も指も慣れてしまう。その結果、高速言語の速度が低下する。ロシア語でスコアが500上がっても、英語・フランス語・イタリア語で500ずつ下がればかえってマイナスだ。対策として、大文字のデッドキー化の練習も兼ねてドイツ語やフランス語を並行して練習している。また、タイプウェル国語Rやe-typing英語、CUBE、FoxTyping等で日本語ローマ字入力と英語の練習を継続し、ベース速度(700〜800文字/分程度)の維持に努めている。
モチベーションの維持も課題だ。記録が向上するに従って、成長を続けるのは困難になる。最悪なのは、練習自体をやめてしまい、あるいは効果の無い練習を無計画に継続して、成長が止まることだ。総合レベルZJを目前に伸び悩んでいるタイプウェル国語Rの轍を踏まないように。