Intersteno2021オンライン大会:レポート(2021.3.27-5.12)



Interstenoとは
筆者の結果
プロローグ
戦略
戦術
各言語の対策(主要なもののみ)
感想(というよりも反省)
来年に向けて
参考文献・謝辞
各種資料


●Interstenoとは

Intersteno(国際情報処理連盟)とは、1887年に設立された、速記者やタイピストを中心とする団体である。オフラインの速記およびタイピングの大会を2年に1回(2007年以降)、オンラインのタイピング大会を1年に1回(2003年以降)実施している。以下の記述は、2021年3〜5月に開催されたオンライン大会に関するものである。

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オンライン大会には、全17言語から最大16言語を選択して参加可能である。練習サイトであるTakiソフトウェアの順番に並べると、イタリア語、英語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、スペイン語、トルコ語、ポルトガル語、ルーマニア語、日本語、フィンランド語、チェコ語、スロバキア語、ハンガリー語、ロシア語、ポーランド語、クロアチア語/セルビア語である。

各言語で初見の課題を10分間打ち、「総打鍵数−ミス数×50」を得点とする。この得点の合計値で競う。従って、速度を上げることも重要だが、それ以上に正確性を上げることが非常に重要である。但し、毎日パソコン入力コンクール(以下「毎パソ」)とはミスの定義が違う。例えば、1単語内の入れ替えミス(例:that→taht)や、1行すっ飛ばしは、1ミスとカウントされる


●筆者の結果

【表1:本番の結果】

言語得点速度(文字/分)ミス数順位参加者数
フランス語6020(+254)602.0(+5.4)0(-4)3(+2)165(+22)
イタリア語5826(+197)582.6(-0.3)0(-4)3(+1)238(-4)
ポルトガル語5714(+375)571.4(+27.5)0(-2)2(+1)104(+10)
英語5654(-477)590.4(-27.7)5(+4)3(-)325(-295)
フィンランド語5279(+277)532.9(+17.7)1(-2)1(+1)136(+3)
トルコ語5276(+122)542.6(+12.2)3(-)11(+4)227(+14)
スペイン語5220(-133)547.0(+1.7)5(+3)4(-1)152(-16)
ルーマニア語5111(-32)521.1(+1.8)2(+1)2(-1)82(+12)
オランダ語5052(-299)535.2(-14.9)6(+3)3(-1)202(+1)
クロアチア語5050(-199)520.0(-14.9)3(+1)1(+3)205(-19)
ドイツ語4802(-423)510.2(-27.3)6(+3)7(-3)253(-12)
スロバキア語4738(-28)483.8(-2.8)2(-)2(-)185(-202)
ポーランド語4723(-84)497.3(+1.6)5(+2)6(-2)99(-5)
チェコ語4613(-167)481.3(-1.7)4(+3)4(-2)238(-417)
ハンガリー語4559(+179)475.9(+12.9)4(-1)3(-)91(-20)
日本語4507(-)460.7(-)2(-)2(-)25(+25)
ロシア語----45(+10)
合計82144(-207) 48(+6)1(+1)839(-677)

※()内は昨年比。
※合計欄の昨年比は、16言語で算出した(昨年は日本語を、今年はロシア語を除く)。
※得点、速度、順位、参加者数は上がった時に+表示。ミス数は増えた時に+表示。
※オランダ語とフランス語にはベルギー方言、ドイツ語・イタリア語・クロアチア語には本家で参加した。
※順位は5/13 日本時間7:00時点のもの。また、方言(例:本家ドイツ語とスイスドイツ語)はまとめて集計した。

【表2:10分間練習の結果】

言語最高記録平均得点平均速度平均ミス数
フランス語6020(+112)5745(+103)583.3(+11.3)1.75(+0.19)
イタリア語5826(+92)5554(+48)566.2(+5.6)2.15(+0.15)
ポルトガル語5714(+243)5361(+74)547.5(+5.8)2.29(-0.33)
英語6302(-97)5792(-123)594.5(-9.4)3.06(+0.57)
フィンランド語5385(+180)5171(+87)528.3(+12.9)2.25(+0.85)
トルコ語5671(+15)5422(+203)553.6(+18.8)2.29(-0.29)
スペイン語5568(-7)5386(+38)556.7(+11.5)3.62(+1.54)
ルーマニア語5389(+54)5086(+2)522.5(+3.6)2.78(+0.67)
オランダ語5641(+91)5276(-28)543.8(+4.8)3.25(+1.52)
クロアチア語5345(+53)5063(+7)519.6(+1.1)2.67(+0.07)
ドイツ語5406(+75)5160(+27)529.1(+1.9)2.63(-0.15)
スロバキア語4937(+34)4753(+85)487.5(+4.0)2.43(-0.90)
ポーランド語4723(-84)4514(-84)480.2(+6.0)5.75(+2.89)
チェコ語4840(+59)4577(+31)477.0(+8.3)3.85(+1.05)
ハンガリー語4665(-374)4495(-112)471.2(-4.5)4.33(+1.33)
日本語4903(-2)4599(+50)473.3(+3.3)2.67(-0.33)
ロシア語4153(-428)3937(-245)418.0(-14.4)4.86(+2.02)
合計90488(+16)85891(+164)  

※()内は昨年比。
※上記の数字には本番も含む。
※Takiソフトウェアのバグによるミスと、それによる減点も含む。
※ロシア語は、本番には参戦しなかったが練習は実施した。


●プロローグ

2021年オンライン大会では、前年敗れたSeanへの雪辱を期して臨むこととなった。また、16言語で85000という昨年未達成の目標も残っていた。このため、2021年の目標は昨年の記録を更新して世界第一位奪回と決定した。

一方、昨年まで日本人の参加を取りまとめて下さったPocariさんが不在となり、筆者が取りまとめを急遽代行することとなった。3月中に動いたため、例年と異なり、大会期間を6週間確保できた。


●戦略

2021年のテーマは、16言語で世界のタイピストたちとガチ勝負とした。背景として、日本人以外の参加者が漢字かな交じりの日本語を打つのが困難という状況で公平を期すため、16言語での開催となった。なお、昨年検討されていた日本語(transliterated)は課題文の準備が間に合わず、今年も実装が見送られた。2022年の実装を目指して準備中とのことだった。

実際には、日本人がまだ有利という見方もできる。日本人は17言語から16言語を選択できる。即ち、日本語以外の苦手な1言語(大抵ロシア語)を選択して除外できる。一方、海外のタイピストは事実上日本語を選択できず、16言語から16言語を選択するしかない。しかし筆者にとって影響は少ない。母国語として日本語の選択が必須であるため、むしろ不利にすらなる。キリル文字を打ち続けるロシア語や、特殊文字の多いチェコ語のスコアでさえも、日本語のスコアを上回っているためだ(2018・2019年本番)。

対策は、全16言語の速度アップだ。昨年のレポート来年に向けてに記載した通り、積極的に攻めることによる速度アップを狙う。もちろん、正確性を保ったまま高速化するのが望ましい。だが、大前提として速度を上げないことにはスコアも頭打ちになる。これに関しては、基本的に、2016年大会である程度確立した戦略を踏襲した。同様のアプローチでもう少し伸ばす余地があると考えていたためだ。但し、必要に応じて修正を加えた。

(1) 各言語の配列の再検討 〜頻出特殊文字の1打鍵化〜

2017年と同様。

(2) 各言語の配列の再検討 〜デッドキーの活用〜

2017年と同様。

(3) 基礎力強化

6月から3月前半に至るまで、タイプウェル国語Rの攻略を継続していた。フランス語やイタリア語、日本語のスコアが伸びた背景には、タイプウェル国語Rによるベース速度の強化があったと考えられる。一方、これにより英文の練習が疎かになった。英文打鍵力の劣化は、ほぼすべての高速言語に影響する。最初に違和感を覚えたのは、ポルトガル語の10分間練習を実施していた時だった。スペイン語、ドイツ語、オランダ語でも指が思うように動かず、最後まで苦しむこととなった。

12月から2月にかけて、「未打鍵課題潰し」と称して、トルコ語、各種フランス語、本家イタリア語の1分間練習を1日10回ずつ打ち続けた。それぞれ数百個の1分間課題を収集したのに、ろくに練習していないことに気付いたためだ。結局、トルコ語と本家イタリア語は約95%、各種フランス語は約75%の課題を打鍵した。これにより、これらの言語は早期に10分間練習に移行できた。また、スイスイタリア語、セルビア語(キリル)、セルビア語(ラテン)が順次追加されたため、課題収集と入力を実施した。トルコ語、フランス語、イタリア語、クロアチア語の劣化を最小限に抑制できたのは、このためと考えられる。

Takiの練習課題の全文再入力とミスの検出も、平日の日課として進めていた。その結果、新たに約150万文字の課題に対して約200ものミスを検出し、精度を向上させた。詳細は後述する。

(4) 練習スケジュール

3月に入り、大会期間が迫ってきたため、満を持して練習を開始した。本番実施を見据えて、本番対策と同様に1週間に4言語を練習した。具体的な練習計画は表4の通り。日本語を除く16言語を一通り練習する目論見だった。

【表4:練習スケジュール】

期間言語
3/15-21チェコ語、スロバキア語、ポルトガル語、スペイン語
3/22-28ロシア語、ハンガリー語、トルコ語、英語
3/29-4/11クロアチア語、ルーマニア語、イタリア語、フランス語
4/12-18ポーランド語、フィンランド語、ドイツ語、オランダ語

新型コロナウィルスの影響で在宅勤務となったため、平日は業務終了後に即練習できる。このため、当初は1分間練習によるリハビリを実施しつつも、徐々に本番を想定した10分間練習に切り替えた。単に10分間打つというノルマをこなすだけの無益な練習を徹底して排除したのは昨年と同様だ。このため、10分間練習の平均得点は昨年とほぼ変わらない。但しスペイン語、フィンランド語、スロバキア語、ポーランド語、ハンガリー語の1分間練習または10分間練習の課題数は限られており、課題を覚えてしまうリスクがあった。このため、Typeracerに参戦することもあった。

2015年〜2021年大会に向けた練習量の比較は表5の通り。2021年の練習量は2019年こそ上回ったものの、2018年以前と比較するとなお少ない。とはいえ、大会期間が6週間もあったため、大半の言語では必要十分な調整を実施できた。

【表5:10分間練習の打鍵回数の比較】

言語2015年2016年2017年2018年2019年2020年2021年
フランス語74414939(+6)12(+3)
イタリア語6111611510(+5)13(+3)
ポルトガル語62114151413(-1)14(+1)
英語1124586151751(+44)17(-34)
フィンランド語1786855(-)4(-1)
トルコ語6179155657(+51)7(-50)
スペイン語12149142013(-7)13(-)
ルーマニア語811184079(+2)9(+3)
オランダ語16121611611(+5)8(-3)
クロアチア語72516151215(+3)9(+3)
ドイツ語162016969(+3)8(-1)
スロバキア語1281214106(-4)7(+1)
ポーランド語911101367(+1)4(-3)
チェコ語121316351110(-1)13(+3)
ハンガリー語6331318626(+20)9(-17)
日本語924103695(-4)9(+4)
ロシア語03594441467(+53)7(-60)
合計160552375598147323(+176)163(-160)

※上記の数字には本番および仕様調査を含む。
※各年の打鍵回数には、前年オンライン大会終了翌日から当年オンライン大会終了当日までのすべての10分間練習を含む。

(5) 本番実施の順序

全17言語の本番を1〜2日で実施するのは非効率である。本番実施を繰り返すことで、肉体的にも精神的にも著しく疲労するためだ。さらに、練習の質・量が甘いと各言語の特殊文字や頻出シーケンスを混同するリスクがある。

今回の大会実施期間は4/1〜5/12となり、42日間確保できた。実際には、本番参加用のIDをさらに早く入手できたため、3/28には本番を開始することができた。準備不足の言語のみGWに回すという戦略を適用できた。4月下旬以降は1週間あたり3言語とやや負荷を落とすことで、各言語の練習の質と量を確保し、スコアの低下を最小限に食い止めることができた。

本番に向けたスケジュールは表6に示す通りである。

【表6:2021年大会の本番に向けたスケジュール】

期間低速言語中速言語高速言語
3/22-28(ロシア語、ハンガリー語) トルコ語、(英語)
3/29-4/11 クロアチア語、ルーマニア語フランス語、イタリア語
4/12-18ポーランド語フィンランド語、ドイツ語オランダ語
4/19-24ポーランド語フィンランド語、ポルトガル語 
4/25チェコ語、スロバキア語ポルトガル語スペイン語
4/26-30チェコ語、スロバキア語 スペイン語
5/1-2ハンガリー語 英語、日本語、スペイン語
5/3-4ハンガリー語 日本語

※ハンガリー語とトルコ語の配列は親和性が高い(öüをwqに配置)。
※フランス語とイタリア語の配列は共通。また、経験値が高い。
※チェコ語とスロバキア語の配列は親和性が高い(特殊文字を34567に配置)。
※スペイン語とチェコ語、スロバキア語、ハンガリー語の配列は親和性が高い(áéíを@[]に配置)。
※ドイツ語とオランダ語は言語として親和性が高い(ゲルマン語派)。
※ドイツ語とフィンランド語の配列は共通。
※ポーランド語とクロアチア語は言語として親和性が高い(スラヴ語派)。

基本的に、2016年以来のスケジュールを踏襲した。高速に打てる言語(英語、フランス語、イタリア語、トルコ語、オランダ語、スペイン語)と速度の出ない言語(ロシア語、ハンガリー語、ポーランド語、チェコ語、スロバキア語)を可能な限り分散させた。これは、高速に打つ感覚を維持するとともに、低速言語を底上げするためだ。

また、親和性の高い言語や、共通の配列を使う言語は、同じ週に打つのが効率的だ。逆に、混同する可能性の高い言語(例:フランス語とスペイン語、ハンガリー語とドイツ語、ポーランド語とチェコ語)を同じ週に打たないように注意した。なお、チェコ語とスロバキア語にも混同しやすい部分がある。だが、配列の親和性による相乗効果の方が上回ると判断し、同じ週に実行することとした。

……

最終的な本番実施スケジュールは表7の通りである。平日は仕事があるため、本番実施は土日や祝日がメインとなる。

【表7:2021年大会の本番実施スケジュール】

日付・時間帯言語累計得点コメント
3/28(日)夕方トルコ語5276びびりすぎ。中盤改行位置がずれて探索と修正で5秒ロス
4/10(土)夕方フランス語11296少々打ち辛い文章がかえってミスとロスを減らした
4/11(日)夕方イタリア語17122前半はミスタッチの嵐。後半は理想的な加速
4/11(日)夜クロアチア語22172前半はミス⇔BSが多い。後半は改行位置ずれで3秒ロス
4/11(日)夜ルーマニア語27283練習が甘い。フォーカス外れバグも出た
4/18(日)夕方ドイツ語32085直前の練習にピークが合ってしまい惨敗
4/18(日)夕方オランダ語37137びびりすぎ。ミスタッチが激増し、改行位置ずれ2回
4/24(土)夕方フィンランド語42416本番にピークを合わせた。中盤崩れかけたが立て直した
4/24(土)夕方ポーランド語47139打ちやすい文章だが終盤にガス欠に陥った
4/25(日)夕方ポルトガル語52853難易度低めの文章。正確性最重視しつつ徐々に加速
4/30(金)午後スロバキア語57591打ち辛い文章に対し、練習の効果を発揮して耐えた
4/30(金)夜チェコ語62204びびりすぎて要所で大硬直
5/2(日)午前スペイン語67424指冷え過ぎ。びびりすぎ。最後スペース誤爆で-100点
5/2(日)午後英語73078左が動かず。びびりすぎ。ミス⇔BSで計1分以上はロス
5/4(火)午前日本語77585気負うことは無し。だが、Rでは左殺しが厳しい
5/4(火)午後ハンガリー語82144頻出する[egészség〜](健康)で稼ぎまくり


●戦術

(1) 練習課題文の収集と入力、再入力

InterstenoのTakiソフトウェアに出現する1分間練習および10分間練習の課題文を収集した。結果は
こちら目的は、文字の出現頻度の調査の他に、ミスの原因把握と傾向調査である。2015年大会に向けた練習ではここができていなかったため、打鍵終了後に表示される結果画面からミスの原因を推測するしかなかった。ミスした単語をGoogle翻訳やGoogle検索に入力すると、正解らしき単語を見出せることもある。だが、すべてのケースでうまくいくわけではない。これでは練習効率が悪すぎる。

そこで、1分間練習の課題文を計1961個、10分間練習の課題文を計535個収集した(昨年以降の追加分は1分間課題584個、10分間課題22個)。さらに、収集したすべての練習課題を実際に入力してExcelシートに整理し、ミスの原因を正確に把握できるようにした。具体的な方法は2018年と同様である。

さらに、難関言語に限らず全文再入力を実施した。1分間練習の課題文のうち1709個、10分間練習の課題文のうち528個、合計で約700万文字を再入力した(昨年以降の追加分は1分間課題414個、10分間課題102個、合計で約150万文字)。その結果を過去の入力結果とEXACT関数で比較し、計2200箇所を超えるミスを検出した(昨年からの増加分は約200箇所)。この作業の結果、残存ミス率は約0.05%から0.001%未満に減少したと推測される。

(2) Takiソフトウェアの問題点、特殊文字への対応

Takiソフトウェアの練習課題には、こちらに示す問題点が存在する。また、こちらに示す特殊文字・記号が出現する。いずれも2018年までに調査・実装済みだったため、今年もその成果を活用した。

(3) 方言の選択

ドイツ語、フランス語、オランダ語の方言選択にも、上記の練習課題の収集結果資料が役立った。具体的には、バグや特殊文字の少ない方言を選択することで、練習の効率アップと本番の得点アップを狙った。

ドイツ語には本家ドイツ語の他にスイス方言が存在する。2019年以降は前者を採用している。両者の主な違いは、後者には原則としてß(エスツェット)が存在せず、ssで置き換えられることである。つまり特殊文字が1種類減るため、短期間での攻略が容易になる。但し、長い目で見れば、ssという連打に耐え続けるよりもßの位置を覚えて打つ方が負担が少ない。いずれにせよ出現頻度は低いため、実際には大差無い。なお、2016年と2018年のスイスドイツ語の本番では、ßが複数回出現した。このような場合に備え、ßを含む配列を準備し、かつ位置を把握しておく必要はある。

フランス語には本家フランス語の他にスイス方言、ベルギー方言が存在する。2016年以降、バグが最も少ないベルギー方言を採用している。但し、本質的な違いは調査しても分からなかった。その後、Taki担当者とのやり取りの中で、本家フランス語やスイス方言では記号(;:!?)の直前にスペースが入る一方、ベルギー方言では入らないとの情報を頂いた。普段打ち慣れた仕様であるベルギー方言を選択して正解だった。

オランダ語には本家オランダ語の他にベルギー方言が存在する。本質的な違いは調査しても分からなかった。一字一句違わない課題文章を両者で使い回している事例も複数存在した。但し、一部の特殊文字は方言により得点が違うことがある。特にオランダ語ではベルギー方言の.が2点なので、スコアにして約1%有利になる。この仕様に気付いた2019年以降、ベルギー方言を採用している。

イタリア語には本家イタリア語の他にスイス方言が存在する。本質的な違いは無い。一部の特殊文字は方言により得点が違うものの、その頻度は非常に少ないため、影響は限定的だ。

クロアチア語の代わりにセルビア語(ラテン)、セルビア語(キリル)を選択できる。セルビア語(ラテン)はクロアチア語とほぼ同じだ。セルビア語(キリル)はロシア語と似ているが、違う特殊文字への対応が必要で、難易度が高い。

(4) キーボードの選択

2017〜2019年大会では、東プレRealforce106(All30g)を主に使用した。日本語かな入力を除いて、All30gでもミスを抑えつつ高速化できるという確信を得たためだ。実際、2016〜2019年の総ミス数の推移は47→28→35→34、1言語あたりの平均値は2.76→1.65→2.06→2.00であり、2016年と比較して有意に減少している。

All30g適用の実験を開始したのは2016/12/19だった。2003年時点の筆者はこのキーボードを使いこなせなかった。打鍵時に隣のキーに指が軽く触れただけで認識され、ミス判定となる「かすりミス」が目立ったためだ。だが、東プレRealforce89U(45g/30g)で10年以上も正確性重視の鍛錬を継続してきたため、All30gでも次第にミスを抑えて打てるようになった。それならば、速度を出せるAll30gの方が良い。折しも、45g/30gのキーボードのSpaceキーのレスポンスが長年の酷使の影響で悪化し、高速打鍵に悪影響を及ぼすようになってきたため、All30gを久々に採用した。

但し、2019年は日本語のみ45g/30gに戻した。All30gが長年の酷使の末、5/3に至ってついに故障したためだ。

2019年10月、消費税増税前に新たに東プレRealforce(R2TLSA-JP3-IV)を調達した。All30g、かつテンキー無しという基準で選択した。このキーボードはタイプウェル国語Rの更新には役立ったが、カスリが激増するというデメリットがあった。従ってIntersteno向けには使えないのではないかという危惧を抱いた。だが、APC設定を「よく使うキー2.2mm、使わないキー3.0mm」としたことで、カスリを防ぎ、Interstenoの実戦に投入する目途が立った。

(5) その他環境整備

2018年とほぼ同様。本番準備・実施手順書を作成し、遵守することで、人為ミスをシステム的に根絶することを目指した。但し2019年以降、Windows10機で打鍵中にフォーカスが勝手に外れる事故に悩まされている。2019年のフィンランド語と日本語、2021年のルーマニア語の本番でも発生した。当初は左Alt、右Alt、左Ctrlへの誤爆による何らかのショートカット発動が原因と考えていた。最大の要因である左Altのキートップを外す、あるいはソフトウェアで一時的に無効化するといった対策がまず考えられる。さらに、「セキュリティソフトの割込み」「プリンタドライバの割込み」等、他にも原因がありそうだ。原因究明のためMy Window Loggerを導入したが、まだ原因を見出せず、対策もできていない。

2020/4/7、自宅の電気契約を30Aから40Aに上げた。打鍵中にブレーカーが落ちてもPCはバッテリーで動くため問題無い。だが、ルータの電源も落ちるためネット接続が一時的に遮断される。これが危険すぎる。

(6) 本番の実施

ベストの体調で、ベストの時間帯に実施するのは言うまでもない。今年の筆者の場合、休日の夕方と、夕食後20時までの時間が最善だった。仕事・育児・家事と重ならず、かつ身体が覚醒しているためだ。また、平日帰宅後や登山直後のように疲労している場合や、リハビリが不充分な場合、眼精疲労や脳・腕・指の疲労が蓄積している場合も、本番実施を避けるべきだろう。

また、1セット(約1時間)あたりの本番実施数は1言語、1日あたりの本番実施数は2言語に抑えたい。但し、充分な練習を積んだ状態で、体調が良く、指の調子も好調を持続している場合に限り、1セットに2言語、1日に3言語の本番を実施することもあった。

さらに、本番の直前に10分間練習を実施する。これは、本番で使用する配列に確実にセットすると同時に、他の言語との混同を避けるためだ。また、言語ごとに頻出する単語やシーケンスが存在するため、本番の直前に目と指を充分に慣らしておく必要がある。但し英語や日本語など、ガチで10分間打つと疲労する高速言語についてはほどほどにしておく。5分で止めても良いし、1分間練習×5で代用しても良いだろう。2018〜2021年は「前半は速度重視、後半は速度を落として正確性重視」「前半で体が覚醒しなかった場合は後半も速度重視」のように、その日の調子に合わせて使い分けた。要は、本番にピークを持っていくため、本番を想定してある程度本気を出しつつも、準備と割り切って力を抜くということだ。


●各言語の対策(主要なもののみ)

2018年2019年とほぼ同様。


●感想(というよりも反省)

限られた本番実施期間で、複数の難関言語を含む16言語に参戦した。その結果、合計82144点(昨年比−207)となり、ここ5年で最低の値となった。但し、16言語では昨年に続く2位の値だった。

当然ながら、来年もこの得点で同じ順位を獲得できると楽観はしていない。2015年以来の日本人の奮闘ぶりを見た諸国のタイピストたちが、座視しているとも思えない。特に、Sean, Andreaとの死闘が予想される。正確性重視で速度を抑えてばかりでは絶対に勝てない。さらに、新たな強力なライバルたちが続々と出現してくる可能性もある。さらなる境地を目指すためにも、まずは今年の失敗と成功を分析する。

(1) 英文打鍵力の低下

今年の最大の敗因は、英文打鍵力の低下と考えている。これは実に痛い戦略ミスであり、戦術を多少駆使しても挽回は不可能に近い。TW国語Rで左手集中ワードを「クソワード」と称して即Esc、という偏った練習を10カ月も継続している間に、大文字に加えてwere, was, decreaseといった左手集中ワードを高速に打ち抜ける筋力が失われた。その結果、英語のみならずスペイン語、ドイツ語、オランダ語にも多大な悪影響を及ぼした。

さらに、ミスした瞬間に脳が死に、指が止まる現象にも悩まされた。その結果、大規模なミス連鎖が発生し、10秒程度ロスする。これはTW国語RでEscを多用しつつ速度と結果のみを重視し、結果的に最終行で大爆死を繰り返してきた刷り込みが原因だ。Interstenoでも速度を重視しているとはいえ、Escでやり直すことのできない種目でTWと同じ打ち方をするな!

また、日本語への影響も見過ごせない。TW国語Rの加速ワードは確かに速く打てるようになった。一方、減速ワードはむしろ退化した。本番で「力」「加わる」「組み合わせ」といった左手集中ワードに大苦戦したのはこれが原因だ。

(2) 初見課題対策の不足

練習用課題に頻出する一部のワード(例:国際労働機関)に慣れきってしまい、それ以外の単語の練習が不足した。これは特にドイツ語とオランダ語、チェコ語で顕著だった。

フィンランド語、ポーランド語、スロバキア語等、10分間課題の少ない言語はTyperacerを併用してこの欠点を補った。確かに、「30秒ほどで終了する短文が多い」「フォントが見辛く、[.][,]や[l][I]や[i][j]の判別が至難」といった難点はある。だが、従来圧倒的に不足していた初見文章への対策にはある程度なったと思う。

とはいえ、ドイツ語とオランダ語、チェコ語はそこまで課題数が少なくないため、Typeracerにまで手を広げなくても何とかなるだろうという過信があった。この意味で、練習で出したスコアを過信してはならない。頻出ワードに慣れればTakiのスコアが改善されるのは当然だ。本番ではその分だけ落ちる。

一方、フランス語、イタリア語で大きく崩れなかったのは、練習用課題が豊富にあり、多くのワードに習熟できたためと考えられる。

(3) メンタル面の弱さ

タイピングもレベルが上がるとメンタルの要素が増す。惨敗した言語はことごとく序盤のうちに結果が見えてしまい、心が折れた。中盤で速度重視の方針で立て直そうとして焦り、かえってミスタッチが増加した。終盤に入ると戦意喪失のあまり集中力も低下し、最後の最後にミス追加という愚行をこれでもかと繰り返した。
2007.11.23の毎パソ本番での屈辱的惨敗と全く同じパターンだ。14年間で何も進歩が無かった事実には愕然とする。

(4) 本番への適応、ピーク合わせ

練習量は2019年並みに少なかった。このため、本番にピークを合わせて結果を出すことが不可欠となった。しかし、ドイツ語では今年もピーク合わせに失敗した。本番直前の練習にピークが合い、自己ベストを叩き出してしまった。直前の練習と比較して、本番では604点も落ち込んだ。昨年のハンガリー語、トルコ語と同じ失敗を繰り返したのは痛恨の極みだ。

その後はこの反省を活かし、本番にピークを合わせるようにした。まず、本番を無理に打たないことを徹底した。例えば調整時の1分間練習の結果が安定しない場合や、直前の10分間練習で不調を自覚した場合だ。また、直前の練習では疲労を防ぐため本気モードで打たないことを徹底した。

本番では速度重視で臨んだ。昨年と同様、高速に打てると見切った部分では積極的に飛ばすことを10分間続けた。また、この言語を今年打つのもこれで最後なのかと感慨に浸りながら、打つ過程を楽しむようにした。緊張感に襲われた言語も幾つかあったが、むしろミス低減に役立てることができた。その結果、フランス語、イタリア語、ポルトガル語では本番で自己ベストを叩き出した。フィンランド語でも自己2位を叩き出した。

(5) 基礎力強化の結果

タイプウェル国語Rによるベース速度の強化は、日本語のベース速度の向上に大きく寄与した。確かに本番の文章が打ちやすかったという要因もある。だが、その打ちやすい文章を高速に打ち抜けることができたのは、ベース速度が向上したためと考える。なお、タイプウェル国語Rでは短期決戦で速度を重視するため、「こく」を[coku]で打つ最適化を採用している。だが、Interstenoのように10分間打つ場合には[cocu]の方が疲労が軽減されるという知見を得た。

英文打鍵力の低下はフランス語やイタリア語にも影響した。但し他の言語と違って、前記の未打鍵課題潰しに救われた。

(6) ミスの増加

総ミス数は昨年より6増加し、ここ6年で最悪となった。全言語でミスを恐れず積極的に攻めたためだ。来年以降の死闘を見据えると、昨年の速度で満足しているわけにはいかなかった。しかし、ミスで減った300点は、速度を上げても補いきれなかった。

本番では過去最高の3言語でノーミスを達成した。一部の言語では本番でのピーク合わせに成功したためだ。一方、練習時には、ポルトガル語での5回を筆頭に、7言語で計13回ノーミスを出すに留まった。全163回の10分間練習(本番含む)中、1ミスは31回、2ミスは34回、3ミスは26回、4ミスは26回だった。昨年と比較すると、4ミス以内の確率が約85.4%から約79.8%に、2ミス以内は約50.2%から約47.9%に、ノーミスは約12.4%から約8.0%に減った。ミスを恐れず速度を上げる練習を中心とした結果、ミスが増加した。

ミスをある程度抑制しているのは、改行位置がずれた場合の対応の改善だ。2018年以来、改行位置がずれた場合は1行以上消してでも修正している。2021年にはマウスや上下左右キー、Home/Endキー等による修正が可能となったため、修正時のスコア低下をさらに抑制できた。今年は幸いなことに、本番で改行位置ずれにより大きくロスしたことはなかった。というよりも、単語単位、行単位でずれない限り、前の行を振り返らないようにした。改行位置チェックに頼ってミスを減らすよりも、そのチェックによる減速を防ぐことを重視した。

(7) その他

スコアの伸びがすべて実力によるものではない。特にポルトガル語で375アップ、フィンランド語で277アップ、フランス語で254アップという爆発的な伸びは、本番の文章運による部分も大きい。特にポルトガル語の文章は、例年と比較して段違いに打ちやすかった。フランス語では昨年のような緊張感に襲われることもなく、日々の全文再入力の成果を存分に発揮できた。フィンランド語では運良く1ミスに抑制できた。大会の性質上、運に左右される要素はどうしても出てくる。幸運が毎回訪れるとは限らない以上、ベースとなる実力(速度、正確性、言語習熟度、配列習熟度)を地道に向上させる必要がある。

……

最後に、不正行為の誘惑には最後まで苦しめられた。管理者と選手を兼ねると不正行為がやりたい放題だ。例えば、ダミーの参加者を登録して事前に課題文章を確認し、練習を重ねてから本番を打つことも可能となる。特に日本語では、この作業を実行すれば1000点は違ってくる。また、初期段階で惨敗した場合は、一旦登録を削除して再登録する手もある。さらに研究者視点でも、全言語の本番課題を収集し、解析したいという誘惑がある。これに関しては、来年以降の管理体制を改善するとともに、個人としては今年を上回るスコアを出し続けて実力を証明していくしかない。


●来年に向けて

目標に掲げた「昨年の記録を更新して世界第一位奪回」のうち、後半部分は(Seanが不調のため)達成したが、前半部分は達成できなかった。また、日本語を除く16言語で85000点、全17言語で90000点という将来の目標にも遠く届かなかった。そこで、来年に向けてこの目標を再び掲げる。

筆者の今後数年を見据えた戦略がいつ実を結ぶかはまだ分からない。筆者が90000点以上を狙うには、もはや低速言語の底上げだけでは不充分だ。高速言語では6000点の安定化を目指して鍛錬を積み重ねる必要がある。

しかし幸いなことに、戦略と戦術の進化により、総得点を伸ばす余地は残されている。限界はかつて考えていた地点よりも遥かに先にある。カギは、攻めることだ。ミスを抑えて打てるギリギリの速度に、まだまだ伸ばす余地がある。それでは、来年に向けてさらに伸ばすには具体的にどうするか。

(1) 各言語の習得

究極的には、極めて有効と考えられる。実際、英語では言語習熟度がタイピングに好影響を及ぼしている。打ちながら読解し、先の流れを推測できるメリットは計り知れない。単語の羅列ではなく文章として認識できるため、速度は落ちないしミスも減る。タイプウェル英単語やTypeRacer、10FastFingers等の短距離種目では日本人タイピストの中でも決して速くない筆者が、Interstenoや毎パソ等の中長距離種目で上位に居座っていられるのはこのためだ。また、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語に関しても、英語に似たスペルの単語が多数出現するため、英語習熟度がある程度影響を及ぼしている。

さらに、第二外国語としてある程度習得したドイツ語に関しては、長い単語を見た時にどこで区切るかが概ね分かるというメリットを体感できた。同じゲルマン語派のオランダ語に関しても、習得はしていないものの、同様のメリットを享受した。

一方、第三外国語として選択しつつも習熟が甘かったフランス語では、タイピングに好影響を及ぼす段階に至っていない。2017年以降のフランス語のスコアアップの要因は、特殊文字や一部の単語に慣れたことであって、フランス語の習熟とは無関係である。まして、第四外国語以降を新規に習得するとなると、タイピングに好影響を及ぼすレベルまで引き上げるには数年かかりそうだ。長期的視野で取り組むべき課題と言えるだろう。

(2) 各言語の頻出単語・頻出シーケンスの習得

短期的にできる対策は、これに尽きる。例えば、10分間練習を100回繰り返せばある程度の成果を期待できる。例えばハンガリー語に関しては、2016年大会に向けて重点強化する過程で幾つかの頻出単語を覚えたことで、明らかに高速化された。azonban(しかし)、napjainkban(今日)といった打ちやすい単語に加えて、egészség(健康)のような打ち辛い単語も高速化できたのは収穫だ。その甲斐あって、2020年の練習では5039まで伸ばし、ようやく5000の壁を破った。2021年の本番ではegészségが頻出したため、懐かしさを覚えつつ高速に打ち抜けた。

2017年大会に向けて重点強化したロシア語でも、本格的な高速化には至らなかったものの、頻出単語は幾つか覚えることができた。Takiの練習課題では、жизни(生活)、подход(アプローチ)、Москве(モスクワ)、экономических(経済の)、воспроизводство(再生)、распределения(配布)、производство(生産)といった単語が頻出する。2020年にはようやく4500の壁を破った。さらに練習を積めば本番でも4500に到達できると確信している。キリル文字、頻出単語、頻出シーケンスにはまだまだ慣れる余地がある。

他の難関言語も例外ではない。2018年にスロバキア語で4970まで伸ばしたのは、大いに自信になった。2020年以降、ポーランド語、チェコ語も以前の記録を更新し、5000が視野に入ってきた。

中速言語の底上げも順調だ。2019年に開眼したポルトガル語では、2021年の本番で5700を突破した。加えて、ドイツ語とフィンランド語も壁を破った。クロアチア語、ルーマニア語も最高記録・平均得点ともに伸びており、数年後の5500到達が有望だ。

そして高速言語。フランス語では2021年の本番でついに6000を突破した。イタリア語、トルコ語も次のステップに向けて歩みを進めている。当然、ここが限界ではない。英語では6200台を連発しているのだ。確かに英語以外の言語ではダイアクリティカルマークで減速を強いられる。だが、特殊文字の出現頻度を考慮すると、これだけで1割以上も遅くなることはないはずだ。言語に、単語に、シーケンスに、慣れていないだけだ。特殊文字の多いフランス語で他の高速言語と互角以上のスコアが出ているのは、英語に似たスペルの単語が多く、脳と指が慣れているからだ。

(3) 来年の重点強化言語

表8に示す通り、全17言語にまだ伸ばす余地がある。但し、課題収集と全文入力はほぼ終了したため、2019年までのような顕著な伸びはもはや期待できない。地道な練習により少しずつ実力を積み上げていくしかない。日本語については、transliteratedの仕様を考慮すると、ローマ字入力を引き続き底上げしたい。一方、漢字かな交じり文に参戦する場合は、KR混在入力を引き続き試行錯誤したい。例えば前半はRで打ち、頻出ワードに目が慣れてからKに切り替えるのはどうか。この他、本番で自己ベストに近い得点を叩き出した言語についても、さらに伸ばす余地がある。

一方、練習量が低下した場合は伸びが鈍ることも考えられる。練習が疎かになった2020年のルーマニア語が好例だ。どの言語を重点的に伸ばすか、そして実力の低下を最小限に抑えるにはどの程度の練習をこなすべきか、全体最適の視点から戦略的に練習を進めていきたい

【表8:各言語の成長余地という観点での分類】

カテゴリ言語
びびりすぎトルコ語、ルーマニア語、チェコ語
高速化未完成英語、オランダ語、スペイン語、クロアチア語
正確性未完成オランダ語、ポーランド語、ハンガリー語
配列検討不足日本語、ドイツ語、ロシア語
本番自己ベストフランス語、イタリア語、ポルトガル語
本番自己ベスト付近フィンランド語

(4) Interstenoへの働きかけ

これは個人として総得点を伸ばすというよりも、将来を見据えて公平かつ公正な競争環境を維持し、裾野を広げるのが目的だ。

まず各言語の練習問題に残る問題点について。筆者が指摘済みだがまだ修正されていないものもあるし、その後新たに見出したバグも存在する。ある程度まとまった段階で、再び粘り強くInterstenoのTaki担当者に働きかけて、修正を促していく。同時に、€や£等、欧米人には常識であっても日本人には馴染みが薄い記号については、打鍵方法を啓蒙するという手段もある。

次に日本語の仕様について。日本人以外の参戦が著しく困難な現状はどうかと思う。2020年には日本語を除く16言語でSeanに敗れ、仮に日本語(漢字かな交じり文)を打てば「16言語で勝てないのに17言語で勝ちました」となる可能性があった。2021年には最大16言語という制限が設定されたが、日本人が若干有利である状況は変わらない。来年以降も同様の状況が発生し得る。一方、2020年には「方言の一つとしてローマ字入力種目(transliterated)を設定する」案がテストされ、本番適用まであと少しとのことだった。結局採用は2022年以降に見送られたものの、日本語の係数の問題と合わせて、試行錯誤が必要だ。現在の不平等感が少しでも解消されるよう提言していきたい。ここでの試行錯誤は、将来の韓国語等への展開の際にも役立つことだろう。


●参考文献・謝辞

Pocariさん:Interstenoオンライン大会への日本語部門追加を先頭に立って推進し、実現にこぎつけたのみならず、2015年の日本人参加者120名もの参加費までご負担頂きました。2016年以降の日本語部門継続にあたっても紆余曲折があり、各国代表との交渉に奔走されたと聞いております。この方の尽力なくしては、筆者はInterstenoの存在すら知らず、まして参戦など考えもしなかったことでしょう。ありがとうございました。2020年5月以降音信不通となり、大変心配です。

ジュニアさん:最難関のロシア語を含む全17言語への参戦を目指し、最も早い段階で練習に着手していました。その過程では、各言語の専用配列を習得し、特殊文字や記号の入力方法を一から調査・導入されるなど、先行者として並々ならぬ苦労があったことと推察します。

かり〜さん:2015年から多言語タイピングWikiで積極的に情報発信し、筆者を含む多くの初心者に多言語参戦への道筋を示して下さいました。さらに2017年大会に向けた新たな取組みとして、初心者向け多言語対戦会や10FastFingers大会を開催されています。

たのんさん:2017〜2020年大会に向けて、TypeRacer多言語対戦会の開催および毎週参戦により、積極的に引っ張って下さいました。2017年10月以降のパワーアップには大いに刺激を受けました。

paraphrohnさん:2016年大会に向けて、早い段階で「総合8万点で世界一」という高い目標を掲げ、それを有言実行することで日本人参加者全体を引っ張って下さいました。また、インテルステノ用paraph配列集の作成・配布に加えて、TypeRacer多言語対戦会を毎週開催して頂いたお陰で、筆者を含め参加者のレベルは前年とは比較にならないほど向上したと言えるでしょう。

やださん:Takiソフトウェアで出現した "This page and application is only for use on computers, not available for mobile devices." というエラーに対して、画面サイズを拡大するか文字サイズを小さくすることで解決できるという情報を頂きました。

どりすとさん:上記の問題につき、www.intersteno.itで打てば問題無いという情報を頂きました。筆者は2016年大会以降、練習も本番もこちらのサイトのみで打っています。

司@dvorakさん:文章内の文字の出現頻度調査に役立つWebサイトをご紹介いただきました。筆者は主にロシア語の文章で活用させていただきました。

愛する家族:4〜5月の土日およびゴールデンウィークの一部という、本来は育児・家事・家族サービスに充てるべき貴重な時間の大半をInterstenoの多言語参戦に投入できたのは、間違いなく家族のおかげです。ありがとう! ……というよりも、我ながらろくでもない夫・父親だと思う。来年以降もオンライン大会に参加するなら、ゴールデンウィークの全部または一部を毎年潰すことになるというジレンマがある。


●各種資料

Intersteno2021関連の資料を以下に公開します。必要に応じ、自己責任でご利用下さい。また、著作権等で問題が発生した場合は即削除します。

Intersteno拡張dq配列
→InterstenoおよびTypeRacerで使用した配列。インストーラとともにMSKLC用のファイルもあります。

注1:言語によっては慣れるまでに相応の時間が必要であり、短期決戦には不向きです。
注2:このMSKLCファイルはWindows10環境でBuildできないことがあります(エラー対処を実施していないため)。必要ならばWindows7, Vista, XPのいずれかでBuildし、結果ファイルをコピーして下さい。

Intersteno拡張dq配列:仕様書
→上記配列の仕様書。

Interstenoの各言語ランキングと統計資料
→eighさんの統計資料を参考にしつつ、自分用にVBAで作成していた資料です。本レポートにはこのデータを一部使用しています。ソースコードは非公開。

Interstenoランキング:仕様書
→上記資料の仕様書。

Intersteno課題文の解析資料
→各言語の練習課題(1分間課題計1961個、10分間課題計535個)を自力で収集・入力した資料です。配列作成の際に、特殊文字や記号、qvwxyz等の文字の出現頻度を解析するために使用しました。また、InterstenoのTaki担当者への問題点の報告は、この資料をベースに実施しています。練習時の最高記録も掲載してあります。

注:入力時の正確性は99%以上あると自負しています。また、各種イタリア語・各種フランス語・セルビア語以外の言語では再入力によりミスを検出して正確性を高めています。しかし、筆者も人間である以上100%でないことはご了承下さい。

Intersteno練習の各種統計
→Intersteno対策として実施した10分間練習(2015年160回、2016年552回、2017年375回、2018年598回、2019年147回、2020年323回、2021年163回。本番含む)の各種統計として、「言語毎の最高記録、平均得点、平均速度、平均ミス数」「本番の記録との比較」「練習回数」「ミス数別の試行回数」をまとめたものです。特に昨年からの伸びが非常に励みになりました。

Intersteno練習記録
→Intersteno対策として実施した10分間練習の詳細をデータベース化したものです。上記の統計資料はすべてこのデータから作成しています。

本番準備・実施手順書
→「トルコ語配列のまま英語を打つ」「省電力モードが発動して画面が暗くなる」等の間抜けな事故を防ぐために作成した手順書です。


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