Intersteno2017オンライン大会:レポート(2017.4.17-5.9)



Interstenoとは
筆者の結果
プロローグ
戦略
戦術
各言語の対策(主要なもののみ)
日本語の係数について
モチベーション維持策
感想(というよりも反省)
来年に向けて
参考文献・謝辞
各種資料


●Interstenoとは

Intersteno(国際情報処理連盟)とは、1887年に設立された、速記者やタイピストを中心とする団体である。オフラインの速記およびタイピングの大会を2年に1回(2007年以降)、オンラインのタイピング大会を1年に1回(2003年以降)実施している。以下の記述は、2017年4〜5月に開催されたオンライン大会に関するものである。

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オンライン大会には、17言語で参加可能である。練習サイトであるTakiソフトウェアの順番に並べると、イタリア語、英語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、スペイン語、トルコ語、ポルトガル語、ルーマニア語、日本語、フィンランド語、クロアチア語、チェコ語、スロバキア語、ハンガリー語、ロシア語、ポーランド語である。

各言語で初見の課題を10分間打ち、「総打鍵数−ミス数×50」を得点とする。この得点の合計値で競う。従って、速度を上げることも重要だが、それ以上に正確性を上げることが非常に重要である。但し、毎日パソコン入力コンクール(以下「毎パソ」)とはミスの定義が違う。例えば、1単語内の入れ替えミス(例:that→taht)や、1行すっ飛ばしは、1ミスとカウントされる

筆者は、昨年に続いて全17言語に参戦した。


●筆者の結果

【表1:本番の結果】

言語得点速度(文字/分)ミス数順位参加者数
英語5844(+912)599.4(+76.2)3(-3)5(+7)335(-138)
ポルトガル語5247(+417)529.7(+21.7)1(-4)1(+2)91(-12)
フランス語5215(+582)531.5(+53.2)2(-1)1(+5)163(-68)
ドイツ語5136(+325)513.6(+22.5)0(-2)4(-)228(-93)
スペイン語5129(+59)517.9(-4.1)1(-2)1(+3)132(-29)
オランダ語5126(+56)517.6(+0.6)1(-1)2(+3)172(-51)
フィンランド語5048(+257)504.8(+10.7)0(-3)1(-)111(-33)
イタリア語5003(-129)510.3(-7.9)2(+1)5(+1)217(-88)
クロアチア語4986(+117)508.6(+21.7)2(+2)2(+2)178(-26)
ルーマニア語4882(+504)493.2(+35.4)1(-3)1(+1)63(-9)
トルコ語4471(-189)467.1(-8.9)4(+2)15(+3)408(-97)
スロバキア語4443(+34)459.3(+13.4)3(+2)2(+2)228(-70)
日本語4413(-339)446.3(-28.9)1(+1)3(+1)28(-29)
ポーランド語4358(+177)445.8(+17.7)2(-)4(+1)68(-2)
ハンガリー語4325(+26)442.5(+2.6)2(-)3(+4)100(-24)
ロシア語4274(+787)432.4(+53.7)1(-5)10(+2)33(-4)
チェコ語4257(+274)435.7(+12.4)2(-3)12(+1)317(-162)
合計82157(+3870) 28(-19)1(+1)1197(-502)

※()内は昨年比。
※得点、速度、順位、参加者数は上がった時に+表示。ミス数は増えた時に+表示。
※オランダ語とフランス語にはベルギー方言、ドイツ語にはスイス方言で参加した。
※順位は5/10昼時点のもの。また、方言(例:ドイツ語とスイスドイツ語)はまとめて集計した。

【表2:10分間練習の結果】

言語最高記録平均得点平均速度平均ミス数
英語6314(+284)5722(+272)583.7(+22.0)2.30(-1.04)
ポルトガル語5247(+104)4869(+246)498.1(+14.6)2.64(-1.60)
フランス語5420(+412)5091(+1076)523.8(+92.7)2.93(-2.98)
ドイツ語5136(+96)4775(+18)488.2(-3.4)2.13(-1.03)
スペイン語5321(+218)5063(+172)520.2(+19.3)2.78(+0.42)
オランダ語5277(+90)4962(-46)510.9(-4.0)2.94(+0.10)
フィンランド語5048(+241)4816(+99)491.6(+1.7)2.00(-1.63)
イタリア語5447(+213)5030(-2)516.1(+2.1)2.63(+0.44)
クロアチア語4986(+117)4727(+148)485.2(+13.1)2.50(-0.34)
ルーマニア語5202(+337)4776(+182)489.2(+13.1)2.33(-1.03)
トルコ語4645(-15)4389(+59)459.5(+14.7)4.11(+1.76)
スロバキア語4514(+105)4317(+309)443.0(+25.3)2.25(-1.13)
日本語4833(+38)4406(+143)452.1(+7.5)2.30(-1.37)
ポーランド語4440(+10)4274(+86)440.9(+5.7)2.70(-0.57)
ハンガリー語4437(-39)4259(+174)439.3(+11.2)2.69(-1.25)
ロシア語4279(+648)3872(+664)401.7(+60.0)2.90(-1.27)
チェコ語4406(+322)4178(+223)435.3(+20.9)3.50(-0.27)
合計84952(+3181)79526(+3822)  

※()内は昨年比。
※上記の数字には本番も含む。
※Takiソフトウェアのバグによるミスと、それによる減点も含む。


●プロローグ

2017年オンライン大会に向けた本格的な準備は、本番の11カ月前である2016年5月には始まっていた。しかも、2016年大会と比較して日本国内のレベルがさらに上昇していた。昨年度世界第一位のparaphrohnさんは、2016年大会を上回るスコアを叩き出す実力を保持していると思われた。実際、9月の
第八回タイピングサミットでは、「日本語を除く16言語で筆者の17言語のスコアを上回る」という目標を公言していた。彼を引き継いで多言語TypeRacer対戦会を毎週主催するたのんさんの実力も侮れない域に到達しており、実際TypeRacerでは敗北することもたびたびあった。さらに、司さんもDvorak配列を駆使し、英語で筆者を軽く上回るスコアを連発するとともに、他の言語も軒並み伸ばしてきていた。以上により、2016年と同等のスコアでは、21歳以上部門で3位以内に入ることは事実上不可能と思われた。

筆者はサミット終了後、TWオリジナルの「すべてのキー」による四段活用の強化、TW国語R・英単語によるミス制限時のベース速度強化を実施していた。しかし、そろそろロシア語の重点強化を開始しないと間に合わなくなるという焦りもあり、12月からIntersteno対策を開始した。

その後4カ月にわたり概ね順調に練習を重ね、日本語を除く16言語で75000点、日本語を含む17言語で80000点という目標を掲げるに至った。また、公表こそしなかったものの、日本語を除く16言語では75204点(Celal Aşkın氏、2015年)を、日本語を含む17言語では80836点(paraphrohnさん、2016年)を、それぞれ意識していた。

但しこの時点では、歴代第一位(81505点、Sean Wrona氏、日本語とロシア語を除く15言語、2011年)や歴代第二位(81394点、Daniel Chen氏、日本語を除く16言語、2009年)は意識していなかった。そもそも上回るのが困難と考えていたのに加えて、いずれも日本語を含まない記録であり、競争条件が異なるためである。


●戦略

基本的に、昨年ある程度確立したアプローチを踏襲した。昨年と同様の戦略でもう少し伸ばす余地があると考えていたためだ。但し、必要に応じて修正を加えた。

(1) 各言語の配列の再検討 〜頻出特殊文字の1打鍵化〜

配列変更ソフトであるMicrosoft Keyboard Layout Creator(以降、MSKLC)を活用し、独自の配列を検討したのは昨年と同様である。昨年使用した配列が完成形だとは思えなかった。そこで、各言語の一般的な配列(QWERTZやAZERTYを含む)と自ら作成した配列を比較し、長所・短所を把握した上で改めて最適な配列を検討した。結果的に、昨年用いた配列から大きく変わることは無かった。仮に一つの言語に絞るなら、その言語の一般的な配列を採用した方が速度・正確性の向上を見込めるかもしれない。だが、多言語部門に挑むにあたり、やはり言語間の混同によるミス増加が怖い。

最終的に、日本語配列で言う@[]^qvwxyzのキーに表3の通りに特殊文字を割り当てた。英語配列以降は、習得済みのUSインターナショナル配列をベースに作成した。習得コストを減らすため、同じキーには可能な限り似たような文字を割り当てた。但し他に出現頻度の高い特殊文字がある場合は、そちらを優先した。

なお、この割り当ては完成形ではない。今後も試行錯誤を経て進化していく。

【表3:各言語の特殊文字の割り当て】

配列@[]^qvwxyz
日本語配列日本語QWERTY配列。カスタマイズせず。
ロシア語配列пчьщфжшхуй
英語配列éç       
オランダ語配列ëè*       
イタリア語・フランス語配列é*'*  à   
フィンランド語・ドイツ語配列äöüß      
ポルトガル語配列ãõç*  à í 
スペイン語配列áéíü  ó   
ポーランド語配列ąęłóść ż  
チェコ語配列áéížů ěč  
スロバキア語配列áéížú ľč  
ハンガリー語配列áéíóü öő  
トルコ語配列ışçİü öğ  
クロアチア語配列ćščw  đž  
ルーマニア語配列ăşţwâ î   

※着色部分は、昨年からの変更箇所。
※*はデッドキー。
※チェコ語ではšňřťýを、スロバキア語ではšňŕťýを、34567に割り当てた。
※英語配列以降の空欄は、USインターナショナル配列から変更していないことを示す。例えば英語配列のqにはqを割り当てたままである。

(2) 各言語の配列の再検討 〜デッドキーの活用〜

今回用いたデッドキーは表4の通りである。

【表4:各言語の特殊文字の割り当て(デッドキー)】

配列デッドキー
:半角/全角その他
共通 àèìòù 
ロシア語配列IVXёэъ“”«»—–= 
英語配列 “”£€‘…–¬ 
オランダ語配列áéíóú äïöü(])
イタリア語・フランス語配列èìòùçæœw“”€’«»ºª–…=âêîôû([)ëïöÿ(^)
フィンランド語・ドイツ語配列åí”= 
ポルトガル語配列áéóúwy“”ºª°=âêôïöü(^)
スペイン語配列úñwºª= 
ポーランド語配列éńźqvx= 
チェコ語配列óúďqwx34567#$%^&= 
スロバキア語配列óďäôqwx“”‘’–ĺ34567#$%^&= 
ハンガリー語配列äúűqwx“”„–àõû[]= 
トルコ語配列âîþqwx“”’= 
クロアチア語配列ðæx«»–è= 
ルーマニア語配列qǎ“”„’ºª–ã…= 

※着色部分は、昨年からの変更箇所。
※各言語で本来使用されない文字であっても、InterstenoのTakiソフトウェアで出現した文字は割り当ての対象とした。例えばハンガリー語のäやクロアチア語のð等。
※USインターナショナル配列に存在するデッドキーのうち、「Shift+半角/全角」(ãñõũ)と「Shift+6」(âêîôû)は念のため削除せず残した。実際には使用しなかったが。

(3) 難関言語の底上げ 〜ロシア語の重点強化〜

ロシア語は、2016年大会では最も得点が低かった。他にも、チェコ語、ポーランド語、ハンガリー語、ルーマニア語、スロバキア語は4000点前後に低迷した。逆に言えば、これらの難関言語を底上げすることで大幅な得点アップが見込める。比較的得意な英語やオランダ語を500点上げる(≒50文字/分伸ばす)よりも、ロシア語やチェコ語を500点上げる方が遥かに現実的だ。

まず、ロシア語で速度が出ない原因を調査・考察した。その結果、キリル文字に脳と目が慣れていないことによる失速が主な原因であり、練習量の増加による慣れが極めて有効と判断した。そこで、重点強化言語としてロシア語を指定し、12/15に始動した。昨年のハンガリー語と同様、Takiソフトウェアで1分間練習を1日10回実施し続けた。また、10分間課題の全文入力および再入力も並行して進めた。ロシア語を含めた練習計画は表5の通り。

【表5:ロシア語の底上げのスケジュール】

期間継続1対戦会継続2調査枠
2016/12/12-ロシア語オランダ語英語-
2016/12/19-ドイツ語フィンランド語
2016/12/26--フィンランド語、イタリア語
2017/1/2-フィンランド語イタリア語
2017/1/9-イタリア語フランス語
2017/1/16-スペイン語フランス語
2017/1/23-フランス語ポルトガル語
2017/1/30-ポルトガル語クロアチア語
2017/2/6-クロアチア語トルコ語
2017/2/13-トルコ語ルーマニア語
2017/2/20-ルーマニア語ハンガリー語
2017/2/27-ハンガリー語ポーランド語
2017/3/6-ポーランド語スロバキア語
2017/3/13-スロバキア語チェコ語
2017/3/20-チェコ語スロバキア語
2017/3/27--フィンランド語、オランダ語
2017/4/3--ドイツ語、イタリア語

※継続1 :重点的に強化(弱点の底上げ)
※対戦会:その週の多言語対戦会の対象言語
※継続2 :重点的に強化(ベース速度および持久力の強化)
※調査枠:配列検討、予備練習

実際には2/5の東京ベイ浦安シティマラソンの前後で練習時間を確保できず、計画通りに練習が進まなかった。その後も仕事の繁忙期に怪我と体調不良が重なり、2週間続けて対戦会に参戦できなかった。このため、この週の練習予定を予備期間として残しておいた3月下旬〜4月中旬に延ばした。3/19の板橋シティマラソンではこの時の教訓を活かし、練習計画への影響を最小限に抑え込んだ。

ロシア語は当初1分間練習で80wpmにすら満たなかった。だが、練習を重ねるにつれて順調に伸び、12/20には90wpm、1/15には100wpmを超えた。10分間練習では4000手前と4150手前で伸びが止まったものの、地道に強化を継続した。本番およびその直前の練習で4200台後半まで伸びたのは、この地道な練習によるポテンシャルの蓄積があったためと考えている。

(4) 難関言語の底上げ 〜全17言語で1分間練習500超え〜

2016年大会終了時点で、12言語で1分間練習の500超えを達成していた。2017年大会に向けては、残る5言語(ロシア語、トルコ語、ポーランド語、スロバキア語、日本語)で1分間練習500超えを目標とした。重点強化言語に指定したロシア語は1/15にこの目標を達成し、翌日から10分間練習に移行した。トルコ語、ポーランド語、スロバキア語に関しても、対戦会の予定に合わせて順次達成していった。最後に残った日本語は、大会期間開始後の4/17にようやく達成した。単に練習しなかっただけでもあるが。

【表6:全17言語の1分間練習の500突破日】

言語500突破日
フランス語2015/10/26
ポルトガル語2015/11/4
クロアチア語2015/11/22
オランダ語2015/11/23
ルーマニア語2015/11/27
スペイン語2015/12/9
英語2015/12/19
イタリア語2015/12/15
ドイツ語2015/12/22

言語500突破日
ハンガリー語2016/1/2
フィンランド語2016/1/17
チェコ語2016/2/13
ロシア語2017/1/15
トルコ語2017/2/9
ポーランド語2017/3/4
スロバキア語2017/3/14
日本語2017/4/17

(5) 高速言語のさらなる高速化

苦手言語の底上げは、実際には2016年にも実施している。従って、特に重点強化の対象であったハンガリー語をさらに500上げるのは相当厳しい。さらに言えば、難関言語を底上げするだけでは将来の目標である17言語85000点に届かない。そこで、2016年の練習や本番で当初目論見よりも著しく得点が低かった言語、つまり英語とフランス語も強化の対象とした

英語はベース速度および持久力の強化を目的として、10分間練習をほぼ毎日打っていた。また、フランス語は1月に3週続けて打ち、イタリア語との相乗効果を狙いつつ一時的に強化を試みた。さらに、10分間課題の収集と全文入力を継続した。

並行して、1分間練習でベース速度を鍛え直した。英語は表7の通り12/19に650を突破すると、1/22には681まで伸ばした。そこで、1/23に10分間練習を解禁した。フランス語、クロアチア語、フィンランド語では550突破を目標とし、対戦会に合わせて達成していった。唯一ルーマニア語は2/6に543を出して以来伸びが止まり、550に届かなかった。さらに、スペイン語は本番直前の4/30に600に届いた。オランダ語とイタリア語でも600を積極的に狙った。だが、残念ながら届かなかった。

【表7:高速/中速言語の1分間練習の基準点突破日】

言語550突破日600突破日650突破日
オランダ語2015/11/24  
英語2015/12/192015/12/202016/12/19
スペイン語2015/12/102017/4/30 
ドイツ語2016/1/19  
ポルトガル語2016/3/5  
イタリア語2016/2/23  
フランス語2017/1/11  
クロアチア語2017/2/4  
フィンランド語2017/3/31  

(6) その他練習の工夫

トータルの練習量は2016年ほど確保できなかったため、練習方法を工夫した。例えば配列が共通あるいは似通っているイタリア語とフランス語、チェコ語とスロバキア語は相乗効果を狙って同じ週に練習した。

さらに、ロシア語・英語以外の15言語に関しては、基本的に2週以上続けて練習した。1週目に1分間練習で配列や頻出ワードを思い出すとともに、必要に応じて配列を再検討する。そして2週目には本番を想定した10分間練習で持久力と実戦力を鍛えるという意図であった。

言語によっては10分間練習の数が限られており、初見文章の練習にならない。このため、フィンランド語、ポーランド語、スロバキア語、ハンガリー語の10分間練習は基本的に土日にのみ実施した。その際、課題文章に番号を付けて管理し、ローテーション的に打鍵した。例えばハンガリー語では、「土曜日に課題1、日曜日に課題2、翌週の土曜日に課題3、日曜日に課題4」というローテーションを繰り返した。これは、同じ課題を続けて打たないようにするという意図である。

また、ロシア語の底上げが進行するに伴い、事前に指慣らしをする必要性を感じ始めた。そこで、4/10以降は日本語を指慣らし種目として追加した。同時に、本番に向けた最終調整を開始した。10分間練習を基本としつつ、正確性重視の打鍵を継続して本番に備えた。本番に向けたスケジュールは後述する。

2015年〜2017年大会に向けた練習量の比較は表8の通り。2017年は、特にロシア語の練習量が大きく増加した。一方、英語やフランス語、ハンガリー語の練習量は大きく減少した。必要最小限の練習に絞り込んだという見方もできるが。

【表8:10分間練習の打鍵回数の比較】

言語2015年2016年2017年
英語11245(+234)86(-159)
ポルトガル語621(+15)14(-7)
フランス語744(+37)14(-30)
ドイツ語1620(+4)16(-4)
スペイン語1214(+2)9(-5)
オランダ語1612(-4)16(+4)
フィンランド語178(-9)6(-2)
イタリア語611(+5)16(+5)
クロアチア語725(+18)16(-9)
ルーマニア語811(+2)18(+7)
トルコ語617(+11)9(-8)
スロバキア語128(-4)12(+4)
日本語924(+15)10(-14)
ポーランド語911(+2)10(-1)
ハンガリー語633(+27)13(-20)
ロシア語035(+35)94(+59)
チェコ語1213(+1)16(+3)
合計160552(+392)375(-177)

※上記の数字には本番および仕様調査を含む。
※各年の打鍵回数には、前年オンライン大会終了翌日から当年オンライン大会終了当日までのすべての10分間練習を含む。

(7) 本番実施の順序

当然ながら、全17言語の本番を1〜2日で実施するのは非効率である。本番実施を繰り返すことで、肉体的にも精神的にも著しく疲労するためだ。さらに、練習の質・量が甘いと各言語の特殊文字や頻出シーケンスを混同するリスクがある。

今回も昨年と同様、公式の大会期間と実際の本番実施期間は異なると予測していた。今回の大会実施期間は4/17〜5/9であり、23日間のはずだった。しかし昨年の例から、本番参加用のIDを入手できるのは早くて4/22昼と想定した(実際には4/21夜に入手)。もちろん平日は仕事があるため、本番実施は土日や祝日がメインとなる。以上を踏まえて、筆者は本番に向けたスケジュールを表9のように決定した。

【表9:2017年大会の本番に向けたスケジュール】

期間指慣らし低速言語中速言語高速言語
2017/4/10-23日本語ロシア語、ハンガリー語トルコ語英語
2017/4/24-30ドイツ語ポーランド語フィンランド語オランダ語
2017/5/1-3ポルトガル語チェコ語スロバキア語スペイン語
2017/5/4-6フランス語クロアチア語ルーマニア語イタリア語

※ロシア語と英語を最初に片付けて、重点強化を終了する。
※ハンガリー語とトルコ語の配列は親和性が高い(öüをwqに配置)。
※ドイツ語とオランダ語は言語として親和性が高い(ゲルマン語派)。
※ドイツ語とフィンランド語の配列は共通。
※スロバキア語とチェコ語の配列は親和性が高い(特殊文字を34567に配置)。
※スペイン語とスロバキア語、チェコ語の配列は親和性が高い(áéíを@[]に配置)。
※フランス語とイタリア語の配列は共通。

基本的に、昨年のスケジュールを踏襲した。高速に打てる言語(英語、オランダ語、スペイン語、イタリア語)と速度の出ない言語(ロシア語、ハンガリー語、ポーランド語、チェコ語、スロバキア語)を可能な限り分散させた。これは、高速に打つ感覚を維持するとともに、低速言語を底上げするためだ。

また、親和性の高い言語や、共通の配列を使う言語は、同じ週に打つのが効率的だ。逆に、混同する可能性の高い言語(例:フランス語とスペイン語、ハンガリー語とドイツ語)を同じ週に打たないように注意した。なお、チェコ語とスロバキア語にも混同しやすい部分がある。だが、配列の親和性による相乗効果の方が上回ると判断し、同じ週に実行することとした。

……

今年も、比較的余裕のある1週目にロシア語を含め5言語の本番を終える決断を下した。後ろが詰まりすぎているためだ。また、他の低速言語にも時間を割きたかった。高速言語でありながら伸び悩んでいたスペイン語についても、まとまった練習時間を確保したいと考えた。

4/29に勢いに乗って4言語の本番を撃破。これで1日前倒しで残り8言語を練習できることとなったのが非常に大きかった。最終的な本番実施スケジュールは表10の通りである。

【表10:2017年大会の本番実施スケジュール】

日付・時間帯言語累計得点コメント
4/22(土)夕方ロシア語4274びびりまくって指が止まるも自己2位とまずまず
4/22(土)夜英語101183年目にしてようやく人間らしい結果
4/23(日)午後一トルコ語14589練習量の甘さが露骨に出た
4/23(日)夕方ハンガリー語18914目が霞むという不調を乗り越え、ミスを抑えた
4/23(日)夜日本語23327難易度高めの文章に対し健闘するも惨敗
4/29(土)昼飯前ドイツ語28463びびりつつも速度自己ベストしかもノーミス!
4/29(土)昼飯前ポーランド語32821びびる余裕無し。ミスを防ぐのに必死
4/29(土)夕方オランダ語37947終盤に改行位置がずれて探索・修正で10秒ロス
4/29(土)夜フィンランド語42995本番にピークを合わせて、ノーミス自己ベスト!
5/1(月)夜スペイン語48124速度不足。もっと伸ばしたかった
5/2(火)午前チェコ語52381やや不調だが決行。最低限の結果は出した
5/2(火)午後一ポルトガル語57628望外の爆発! ノーミス無敵モードに何度か突入
5/2(火)午後一スロバキア語620713ミスするも、速度が冴えた
5/4(祝)午後一フランス語6728610分間びびり続けたが、攻める気持ちを前面に
5/4(祝)夕方イタリア語72289後半は正確性最重視で守りに入り、萎縮した
5/5(祝)午後一クロアチア語77275悪くない。だが、2ミスして5000を逃したのが残念
5/5(祝)夕方ルーマニア語82157正確性最重視で防御に徹した


●戦術

(1) 練習課題文の収集

InterstenoのTakiソフトウェアに出現する1分間練習および10分間練習の課題文を収集した。目的は、前記の文字の出現頻度の調査の他に、ミスの原因把握と傾向調査である。2015年大会に向けた練習ではここができていなかったため、打鍵終了後に表示される結果画面からミスの原因を推測するしかなかった。ミスした単語をGoogle翻訳やGoogle検索に入力すると、正解らしき単語を見出せることもある。だが、すべてのケースでうまくいくわけではない。これでは練習効率が悪すぎる。

そこで、1分間練習の課題文を計1013個(約98%)、10分間練習の課題文を計310個(約66%)収集した。特に10分間練習については昨年から150個以上上積みし、イタリア語とトルコ語を除いてほぼ完了した。さらに、収集したすべての練習課題を実際に入力してExcelシートに整理し、ミスの原因を正確に把握できるようにした。具体的な方法は表11の通りである。

【表11:Takiソフトウェアの練習課題の収集・分析方法】

・課題全文をキャプチャする。
 →Takiソフトウェアの画面で文章を表示させた直後にキャプチャする。
 →日本語全角文字をガチャ打ちする。半角文字の倍速で打てるためだ。
 →左手(親指以外)をASDF、右手をL;:]に置き、指の動く限り乱打する。
 →約5行毎にEnterを押下し、必要なら半角文字を追加して文字列を確定させる。
 →すると画面上部に表示される課題がスクロールされていく。
 →1ページ分の課題がスクロールされたら、再びキャプチャする。
 →課題のスクロールが止まるまでこれを繰り返す。
 →さらに半角文字を約5行打ち込むと、2行同時にスクロールする。ここで文章終了。

・キャプチャした画像をmspaint等で連結して1つの画像にする。
 →1分間課題は概ね3枚、10分間課題は概ね25枚の画像を連結すれば完了。
 →余分な部分は削除する。

・この画像を見ながら、メモ帳に課題文章を入力する。
 →フォントはCourier New、サイズは12ptに設定する。
 →メモ帳の横幅を調整し、改行位置をTakiソフトウェアの画面と合わせる。
 →特殊文字を保存するため、文字コードを「Unicode」に設定する。

・入力結果をExcelに貼り付ける。
 →そのまま貼り付けると1行おきになってしまうため、後で余分な行を削除する。

・ExcelからGoogle翻訳の画面に貼り付ける。
 →ロシア語は約10行、他の言語は約15行毎に実施する。
 →翻訳結果がおかしい場合は大抵ミスが原因なので、画像と比較して修正する。
 →難関言語は再入力し、以前の入力結果とEXACT関数で比較してミスを発見する。

・1〜3行目を順次Google検索し、出典が見つかればメモする。
 →各行を" "で囲んで検索する。
 →出典が明確ならミスの発見に役立つし、本番課題の予想にも使える。

・ExcelからWordに貼り付けた後、文字カウントで文字数を数える。
・Excelの置換機能を用いて特殊文字やqwvx等の出現頻度を調査する。
 →マクロを使っても良いし、司@dvorakさん推奨のWebサイトもある。

この作業の結果、出現するすべての文字を把握できた。例えば引用符として"の他に“”等が存在することを確認できたし、2015年に「アポストロフィバグ」と呼称していた'と’の違いも明らかになった。さらに、ハンガリー語ではőűの代わりにõûが、クロアチア語ではđćčの代わりにðæèが、ルーマニア語ではăの代わりにãもしくはǎが用いられるケースもあることが判明した。日本語の「いえ→ゐゑ」のような扱いなのだろうか。英語等では、日本人が普段まず打つことのない€(ユーロ)や£(ポンド)が稀に出現することも判明した。

また、英語等で頻出するTakiソフトウェアの問題点の報告も効果的に実施できるようになった。どの文章のどの文字がバグであるか、ピンポイントで指摘できるためだ。実際、2015年12月から2016年3月にかけて、英語・ハンガリー語・イタリア語・ドイツ語・フランス語・ルーマニア語・クロアチア語・ポルトガル語の問題点をInterstenoのTaki担当者にまとめて報告し、練習課題の精度向上に貢献した

さらに、全文入力自体が各言語の打鍵のトレーニングになった面も見逃せない。スコアを測定する練習は1言語・1日につき「1分間練習×10」もしくは「10分間練習×2」程度が精一杯であった。だが、これでは練習量が絶対的に不足する。確かに全文入力ではスコアを目的としないため、ともすれば緊張感の無い打鍵になりがちだ。とはいえ、絶対的に不足している練習量を補う効果は間違いなくあった。さらに、英語では20分前後、ロシア語では30分以上かけて10分間課題の全文(約1万文字)を入力し続けることで、脳・目・指の持久力が強化され、10分間の打鍵を長いとは感じなくなった。

(2) Takiソフトウェアの問題点への対応

Takiソフトウェアの練習課題には、表12に示す問題点が存在する。発見次第Interstenoの担当者に報告し、その総数は約200件に上った。これは、今年のみならず来年以降の練習課題の精度を上げるためだ。

【表12:Takiソフトウェアの問題点一覧】

No.内容言語
110分間練習用の課題が2〜5種類しか無いため、
初見課題の対策にならない
フィンランド語、ポーランド語、スロバキア語、
ハンガリー語、オランダ語、スペイン語
2スペルミス英語(competitition、artisric等)
3その言語では使用しないはずの特殊文字が
出現する
英語(éçàèìò)、ハンガリー語(äõû)、トルコ語(îûþ)、
クロアチア語(ðæè)、ルーマニア語(ãǎ)、
イタリア語(î)、ポルトガル語(ïö)
4画面上部に何も表示されないことがある英語、クロアチア語、イタリア語、
本家フランス語、ベルギーフランス語
5麻雀牌に似た記号が出現する各種ドイツ語、イタリア語、各種フランス語、
英語、ベルギーオランダ語
6黒ダイヤ内に白い?を含む記号が出現するベルギーフランス語、イタリア語
7アポストロフィがミス判定となる文章がある英語、フランス語、スイスフランス語、
イタリア語、トルコ語、ルーマニア語、スロバキア語
8ハイフンがミス判定となる文章がある日本語、英語、ハンガリー語、クロアチア語、
ルーマニア語、フランス語、イタリア語、
ロシア語、スロバキア語
9その他、特殊な記号が出現する表13参照
10短すぎて1分未満で終了する1分間課題があるトルコ語等
11短すぎて10分未満で終了する10分間課題がある各種フランス語
12結果表示画面でうまく改行されておらず、
ミスの詳細が隠れて表示されない
英語、イタリア語、ポーランド語
1310分経過時点で仮確定文字列が残っていると、
ミス判定になる。
日本語
141分間課題に異なる言語の課題が混在しているイタリア語、ルーマニア語
15開幕で半角/全角キーが勝手に入力されることがある英語、ハンガリー語、チェコ語
16打鍵中、左Altキー等に誤って触れることで、
フォーカスが外れることがある
共通

No.7に関して、日本語配列の「Shift+7」やUSインターナショナル配列の「:→Space」を打鍵すると'(アポストロフィ)が表示される。ところが、一部の文章では’(シングルクォート)が使用されている。後者にはやや角度がついているため、辛うじて判別可能である。

No.8に関して、日本語配列やUSインターナショナル配列の-(ハイフン/マイナス)を入力するとミス判定になることがある。一部の文章では–(enダッシュ)が用いられている。日本語では―(全角ダッシュ)が用いられている。これらはTakiソフトウェアの画面上でCourier Newフォントで表示されると判別不可能だ。なお、ロシア語でのみ—(emダッシュ)も出現する。こちらはやや長いため、辛うじて判別できる。

No.9に関して、特殊文字や記号は表13に示す通り、かり〜配列で概ね対応可能だ。前記の独自配列でももちろん対応させた。とはいえ、これらの特殊文字や記号は、基本的に本番には出ない(例外:2016年の各種フランス語には、以下に含まれない初見の引用符が2箇所出現した)。従って、練習時に理不尽な減点をされても、本番で出ないと割り切れば良いという考え方もある。

No.15に関して、英語では本番でも発生した。Win10のバグか、Takiのバグかは不明。筆者の配列はUSインターナショナル配列がベースなので、母音はグレイヴ付きになるし、子音は直前に[`]が入る。対策としては、入力結果を確認してから進むしかない。

No.16に関してもWin10機に変更してから悩まされている。左Altキー以外にもこのバグを誘発するキーがあると思われるが、未確認。本番では発生しなかった。

【表13:Takiソフトウェアに出現する特殊文字・記号一覧】

特殊文字/記号かり〜配列dq配列出現範囲
Shift + : → 1: → 1ルーマニア語、トルコ語、英語、ポルトガル語、
スロバキア語、ロシア語
Shift + : → 2: → 2上記+フィンランド語、ハンガリー語
(未対応): → 3ハンガリー語、ルーマニア語
£右Alt + $: → 4英語
右Alt + 5: → 5英語、イタリア語、フィンランド語
右Alt + 9: → 6英語、スロバキア語
右Alt + 0: → 7上記+トルコ語、イタリア語、フランス語、ルーマニア語
«右Alt + @: → 8フランス語、スイスフランス語、クロアチア語、ロシア語
»右Alt + [: → 9同上
º右Alt + +: → 0イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語
ª(未対応): → -イタリア語、スペイン語、ポルトガル語
(未対応): → mロシア語
(未対応): → n英語、ハンガリー語、クロアチア語、
ルーマニア語、イタリア語、ロシア語、スロバキア語
œ右Alt + x: → x各種フランス語
æ右Alt + z: → zクロアチア語
(未対応)半角/全角 → .英語、ベルギーフランス語、イタリア語、ルーマニア語
¿右Alt + /同左スペイン語
¬右Alt + [半角/全角 → [英語
§右Alt + S同左ポルトガル語
½右Alt + 7同左ルーマニア語

※かり〜配列は、2015年5月時点のもの。
※dq配列では、英語のみデッドキーに半角/全角を使用。

(3) 方言の選択

ドイツ語、フランス語、オランダ語の方言選択の検討にも、上記の練習課題の収集結果資料が役立った。具体的には、バグや特殊文字の少ない方言を選択することで、練習の効率アップと本番の得点アップを狙った。

ドイツ語には本家ドイツ語の他にスイス方言が存在する。今回は特殊文字の少ない後者を採用した。両者の主な違いは、後者には原則としてß(エスツェット)が存在せず、ssで置き換えられることである。つまり特殊文字が1種類減るため、短期間での攻略が容易になる。但し、長い目で見れば、ssという連打に耐え続けるよりもßの位置を覚えて打つ方が負担が少ないという考え方もある。いずれにせよ出現頻度は低いため、実際には大差無い。なお、2016年のスイスドイツ語の本番では、ßが複数回出現した。このような場合に備え、ßを含む配列を準備し、かつ場所を把握しておく必要はある。

フランス語には本家フランス語の他にスイス方言、ベルギー方言が存在する。今回はバグが最も少ないベルギー方言を採用した。但し、本質的な違いは調査しても分からなかった。その後、Taki担当者とのやり取りの中で、本家フランス語やスイス方言では記号(;:!?)の直前にスペースが入る一方、ベルギー方言では入らないとの情報を頂いた。普段打ち慣れた仕様であるベルギー方言を選択して正解だった。

オランダ語には本家オランダ語の他にベルギー方言が存在する。今回は特殊文字の出現率がやや低い後者を採用した。本質的な違いは調査しても分からなかった。一字一句違わない課題文章を両者で使い回している事例も複数存在した。

(4) キーボードの選択

2017年大会では全17言語を東プレRealforce106(All30g)で打鍵した。東プレRealforce106でもミスを抑えつつ高速化できるという確信を得たためだ。実際、昨年と比較してミスの総数は47→28、1言語あたりの平均値は2.76→1.65と有意に減少した。

東プレRealforce106(All30g)適用の実験を開始したのは12/19だった。2003年時点の筆者はこのキーボードを使いこなせなかった。打鍵時に隣のキーに指が軽く触れただけで認識され、ミス判定となる「かすりミス」が目立ったためだ。だが、東プレRealforce89U(45g/30g)で10年以上も正確性重視の鍛錬を継続してきたため、All30gでも次第にミスを抑えて打てるようになった。それならば、速度を出せるAll30gの方が良い。折しも、45g/30gのキーボードのSpaceキーのレスポンスが長年の使用の影響で悪化し、高速打鍵に悪影響を及ぼすようになってきたため、All30gを久々に採用した。

(5) その他環境整備

以下の事項を網羅した
本番準備・実施手順書を作成した。もはやこの辺は仕事と同じだ。人為ミスをシステム的に根絶していかないと、本番で思わぬところで足元をすくわれる。

TakiソフトウェアをFirefoxで使用する場合、「Ctrl+z」でそれまでの入力結果がすべて消えるというバグが存在する。従って、このショートカットキーを無効化するか、他のブラウザを用いるという対策が不可欠である。筆者はGoogle Chromeを導入した。ちなみに、Google Chrome上で「Ctrl+z」が発動した場合は、直前に打鍵した1文字が消えるだけで済む。また、Firefoxを使用する場合は、ChangeKeyを用いて左右のCtrlキーを一時的に無効化するのが良いと思う。

また、言語ごとに異なる配列を使用する場合は、配列変更のショートカットキー「Shift+左Alt」の無効化が必須だ(Windows VistaかつFirefoxの場合)。さもないと、Shift文字の打鍵ミス等が原因で意図しないタイミングで入力言語が切り替わって即死する。参考サイトはこちら

さらに、www.intersteno.itでは「Ctrl+;」で文字サイズを拡大できる。特殊文字の多い言語、特にi, í, ì, ıのうち2種類以上が同時に出現する言語(伊西葡洪土捷斯)を打鍵する時には必須と言って良い機能だ。だが、www.intersteno.orgでこの操作を実施すると、"This page and application is only for use on computers, not available for mobile devices." というエラーが表示される。なお、本番ではwww.intersteno.orgで上記のエラーが発生しない一方で、画面内の本番エリアのサイズが小さいため、開始直後にマウスで調整する必要がある。www.intersteno.itではこのような調整が不要なので、開幕の数秒を無駄にしないためにもこちらを採用すべきだ。

本番や練習の実施前には、使用しないアプリケーションやブラウザ画面を必ず終了させる。筆者のケースでは、Outlookの定期的なメール受信により、練習中にブラウザがフリーズしたことがあった。また、Firefoxのプラグインの暴走により、日本語の変換結果の表示に逐一10秒以上かかる状況に陥ったこともあった。このような事態が本番で発生してはたまらない。フリーズの場合も再受験等の救済措置は無い。その時点で打ち終えていた分までで判定されるか、もしくは失格(0点)となる。WindowsUpdateやLiveUpdate、JavaUpdate、セキュリティソフトの定時スキャン等に関しても、10分間打鍵の実施中にバックグラウンドで動作させないような対策を講じておきたい。

最後に、Takiソフトウェアで本番を実施する場合、直前に必ず画面をリロードする。一定の時間が経過するとタイムアウトし、練習用のTakiソフトウェアに切り替わるためだ。

(6) 本番の実施

ベストの体調で、ベストの時間帯に実施するのは言うまでもない。筆者の場合、休日の午後の早い時間と、夕食後21時までの時間が最善だった。仕事・育児・家事と重ならず、かつ身体が覚醒しているためだ。また、平日帰宅後や登山直後のように疲労している場合や、リハビリが不十分な場合、眼精疲労や脳・腕・指の疲労が蓄積している場合も、本番実施を避けるべきだろう。

また、1日あたりの本番実施数は2言語に抑えたい。但し、充分な練習を積んだ状態で、体調が良く、指の調子も好調を持続している場合に限り、1日に3〜4言語の本番を実施することもあった。

さらに、本番の直前に10分間練習を実施する。これは、本番で使用する配列に確実にセットすると同時に、他の言語との混同を避けるためだ。また、言語ごとに頻出する単語やシーケンスが存在するため、本番の直前に目と指を充分に慣らしておく必要がある。但し英語や日本語など、ガチで10分間打つと疲労する高速言語についてはほどほどにしておく。5分で止めても良いし、1分間練習×5で代用しても良いだろう。要は、本番にピークを持っていくため、本番を想定してある程度本気を出しつつも、準備と割り切って力を抜くということだ。


●各言語の対策(主要なもののみ)

(1) ハンガリー語

2016年大会に向けて重点強化言語に指定し、約半年の間ほぼ毎日打鍵した。詳細なスケジュールは昨年の
戦略の「(3) 難関言語の底上げ」で述べた通り。ここでは、配列の進化の過程を表14に記す。青太字で示した部分が、主要なブレイクスルーである。

【表14:ハンガリー語配列のバージョンアップの履歴】

日付Version変更内容
2015/10/18汎用öüを「無変換+py」で打つことで2打鍵化(これは自分に合わなかった)
2015/10/20汎用かり〜配列を改造
ウムラウトをデッドキー[;に配置し、試行錯誤
2015/10/21汎用かり〜配列を改造
ウムラウトとñをデッドキー;に、サーカムフレックスをデッドキー[に配置
2015/10/223専用配列を新規作成。őűを[]に配置し、1打鍵で打てるようにした
2015/10/234áöüを@[]に配置
2015/10/246áéを@[に配置(特殊文字の出現調査の結果を基に変更)
öüをデッドキー;に、őűをデッドキー]に配置
2015/10/277or8öüőをwqxに、qwxを半角/全角および^]に配置
2015/11/49?
2015/11/1010„を「:→3」に配置
デッドキー;に仕込んだöüを削除(;の1打鍵化
ハンガリー語に出現しないćĺńŕśýźも削除
2015/11/2712űを]に、xを「右Alt+v」に配置
2015/11/2713íóを]^に配置
űqwxを「:→ysdv」に配置(この時点では「:→qwx」に配置する方法が不明)
2015/11/2714űqwxを「:→jfgv」に配置
2016/2/315qwxを「:→qwx」に配置
2016/3/2816emダッシュを「:→m」に配置(これは結局不要だった)
2016/4/1118enダッシュを「:→n」に配置
2017/3/219õûを「半角/全角→ou」に配置

(2) 英語

筆者にとって英語は馴染み深い言語であり、タイピングの練習もそこそこ積んできている。ところが、2015年大会ではこの油断が落とし穴となり、4897点(539.7文字/分、ミス10)という屈辱的な惨敗を喫した。速度も正確性も到底納得できない結果だった。英語の練習も怠ってはいけない。貴重な稼ぎどころなのだから。

2016年オンライン大会に向けて練習を重ねる段階で、多言語対策を重視すると英語が打てなくなることを痛感した。単純に練習時間が減少するし、英語より遅い言語を打つことで英語も遅くなるためだ。そこで、1月以降は英語の10分間練習をほぼ毎日継続した。こうして、英文の打鍵感覚を落とさないようにした。

さらに、英語の配列もカスタマイズした。2015年大会では旧来の習慣から脱せず、日本語配列で打っていた。だが、表15に示す通りUSインターナショナル配列をベースとしている他言語の配列とは一部の記号の位置が異なるため、混同する恐れがある。そこで、英語もUSインターナショナル配列をベースとした。但し、当初:およびShift+:に割り当てていたデッドキーを削除し、;および'を1打鍵で打てるようにした。また、練習問題で稀に出現する一部の特殊文字(’éç)を1打鍵で打てるようにした。

【表15:記号の打鍵方法の違い】

記号USインターナショナル配列日本語配列
:Shift + ;:
':Shift + 7
"Shift + :Shift + 2
@Shift + 2@
&Shift + 7Shift + 6
(Shift + 9Shift + 8
)Shift + 0Shift + 9
=^Shift + -
_Shift + -Shift + \

※他にも日本語配列と打鍵方法の異なる記号は存在する。だが、Interstenoでは出現しない。

さらに、運指の最適化も少しずつ進めた。但し、採用したのは正確性100%を保ちつつ速度を増せるものに限る。具体的には表16の通り。

【表16:英語の運指の最適化】

シーケンス内容適用範囲
un, nu, hu正確性強化fundamental, under, tunnel, nuclear等
number(やや無理がある)
po, op正確性強化/
適用範囲拡大
opportunity, power, potential, polluting, support, possible, policy等
例外:development, developingは薬小。shoppingのoppは全部薬
lo新規allow, follow, lower
例外:ecological(適用しにくい)

(3) ロシア語

paraphrohnさんが作成したインテルステノ用paraph配列集のロシア語配列を参考に、USインターナショナル配列をベースとして新規作成した。但し、細部は筆者にとって打ちやすいようカスタマイズした。例えば、右Altを押しながら何らかのキーを打つという方法は(たとえ右Altを他のキーにスワップしても)性に合わなかった。理由は、かな入力におけるShiftが減速要因になるのと同じである。このため、デッドキー:を押してから当該キーを打つように変更した。また、キーの割り当ても微妙に変更している。

キリル文字に慣れ、зとэ、лとпとиとц、ъとьとы、БとВの認識ミスが減ってきた段階で、配列の最適化に着手した。まず、デッドキーを用いて入力していた文字のうち、ьчйщの出現頻度が比較的高いため、1打鍵で入力できるようにした。一方、ъの出現頻度は低いため、デッドキーを用いて入力するように変更した。

この配列には問題点が二つある。第一に、ьчйщの次に出現頻度の高いэが2打鍵のままであること。これについては、半角/全角キーへの割り当てを検討した。だが、ホームポジションから大きく外れるため、ロスが大きい。かえって:→sの2打鍵で入力した方が安定すると判断した。第二に、пを@に配置しており、проが連続して出現した時に例外無く苦戦することだ。だが、出現頻度の高いпをどのキーに移動するかについては容易に結論が出なかった。同様の問題が発生しているフィンランド語とともに、来年に検討を持ち越すこととした。

2017年大会に向けて重点強化言語に指定し、約4カ月の間ほぼ毎日打鍵した。詳細なスケジュールは戦略の「(3) 難関言語の底上げ」で述べた通り。

(4) 日本語

2015年大会終了後に練習課題が刷新されるとのことだったため、対策はその後に実施する予定だった。ところが、2017年大会の本番実施直前になっても刷新されなかった。このため、2015年と同じ課題を用いて対策を実施した。

また、今年もローマ字入力一本で臨むことを早い段階で決めていた。理由は、東プレRealforce89U/106における初見かな入力が安定しないためだ。確かにローマ字入力では望み得ない速度を得られるのだが、ミスが減らない。特に濁点打鍵時に右手薬指が「わ」に触れたのが認識されてミスになるパターンが根絶できなかった(例:「自動車」が「じわどわうしゃ」になる)。毎パソの和文部門の予選のように同じ文章を300回練習できるならこのミスは根絶できる。だが、初見課題でこのミスを根絶することは不可能というのが、現時点での結論だ。

2016年との違いは、八号機(Windows10機)調達に伴うIMEのバージョンアップだ。これにより、練習課題に頻出する固有名詞「安倍晋三」が一発で変換できるようになった。一方、他のワードの変換回数が微妙に異なるという弊害も発生した。基本的には練習を重ねて慣れるしかない。

(5) チェコ語、スロバキア語

両言語の一般的な配列を参考にしつつ、日本語のJISかな配列をイメージして配列を作成した。即ち、右手小指や最上段まで駆使して、頻出特殊文字の1打鍵化を徹底した。この配列のデメリットとして、頻度が低いとはいえwx34567等が連続して出現した時に速度が低下する。だが、頻出文字を1打鍵化するメリットの方が上回ると判断した。

MSKLCを用いた配列の改良回数は、ハンガリー語や英語にこそ及ばないものの、両言語とも10回を超えた。まずは頻出するアキュートを中心に1打鍵化し、次にwxに特殊文字を割り当て、最後に最上段への割り当てを解禁した。合間に、シングルクォートやenダッシュ等、極稀に出現する記号にも対応した。これらの進化は一度にできたことではない。他の言語の練習から得た知見も駆使しつつ、断続的に半年の時間をかけてじっくりと練り上げ、脳と指に適応させていった。

(6) フィンランド語

この言語の対策の難しさは、「Takiの10分間課題の数の少なさ」にある。何と、わずか2種類しか用意されていないのだ。従って、10分間課題を打ちまくって対策すると、そのうち頻出単語や間違いやすい箇所を中心に文章を脳や指が暗記してしまう。これでは初見文章の対策にならない。

そこで、22種類用意されている1分間課題を中心に初見文章への対策を進めた。もちろん1分間(約500文字)打って終わりではない。一つ一つの課題は約1000文字用意されているのだから、全文を再入力し、初見文章への耐性を培った。さらに、以前の入力結果とEXACT関数で比較することにより、従来気付かなかったミスを発見し、入力結果の精度も向上させた。

(7) フランス語

ベルギー方言だけで1分間課題260個、10分間課題98個を収集し、全文を入力した。本家フランス語とスイス方言も合わせると、総打鍵数は120万を超える。これは約240回分の10分間練習に相当する(1回につき5000打鍵と仮定)。この豊富な練習量に基づく習熟度の向上が、スコアアップに大きく寄与した。

また、英語に似たスペルの単語が多いという特性を充分に活用して高速化を図るとともに、英語と異なる(かつ間違えやすい)スペルの単語をリストアップし、辛抱強くミスを減らしていった。一例を挙げれば表17の通り。

【表17:英語と混同しやすいフランス語】

フランス語英語
histoirehistory
territoireterritory
mémoirememory
respiratoiresrespiratory
nécessairenecessary
militairesmilitary
environnementenvironment
gouvernementgovernment
mouvementsmovements

フランス語英語
rythmerhythm
humainehumane
organisationorganization
particulierparticular
conflitsconflicts
membresmembers
européenneEuropean
recommandationsrecommendations
jugementjudgment
comparaisoncomparison


●日本語の係数について

2015年大会では、日本人参加者から、日本語の係数「2.2607」は不利との声が多数挙がった。確かに、大半の参加者のスコアが「英語>日本語」となった現状を鑑みれば、そういう感想を持つことも理解できる。実際、日本人のうち英語と日本語の両方で合格条件を満たした41人中、32人(78.0%)のスコアが「英語>日本語」であった。母国語である日本語よりも外国語である英語の方が平均的にスコアが高いというのでは、違和感を覚えるのもある意味当然だろう。

2016年大会では、課題文章の大幅な易化により、上記の感想はほとんど目にしなかった。むしろ、得点が伸びたことで「係数が上がったのでは?」という感想を持つ人が多かった。実際、日本人のうち英語と日本語の両方で合格条件を満たした37人中、「英語>日本語」となったのは19人(51.4%)であり、昨年よりも大幅に低下した。

2017年大会では、課題文章の難易度は2015年と2016年の中間程度だった。日本人のうち英語と日本語の両方で合格条件を満たした18人中、「英語>日本語」となったのは11人(61.1%)であり、昨年よりもやや増加した。

個人的には、そんなに不利な係数とは思わない。実際、筆者の日本語の記録は446.3文字/分(ミス1)で4413点だった。これは全17言語中13位に相当する。確かに英語と比較すれば低いが、ロシア語やチェコ語、ハンガリー語等と比較すれば高い値だ。そしてこの例は筆者だけに当てはまるわけではない。今回の日本人参加者29人について、各言語の合格者平均点のランキングは表18の通りとなる。英語の優位性は昨年と比較して低下したものの、日本語の係数が不利とまでは言えない。そして、日本語の係数をさらに上げるのであれば、特殊文字の多い他の言語にも係数を設定すべきだろう。

【表18:各言語の合格者平均点と合格者数】

言語合格者平均点合格者数
ポルトガル語3827(+297)7(-4)
クロアチア語3796(+322)7(-4)
フランス語3755(+268)7(-4)
英語3689(+58)23(-11)
ドイツ語3614(+406)8(-7)
ルーマニア語3535(+418)7(-4)
ポーランド語3336(+206)6(-4)
日本語3325(-85)23(-27)
トルコ語3305(-71)6(-2)
スロバキア語3300(+87)6(-3)
フィンランド語3248(+41)9(-4)
スペイン語3273(-81)10(-6)
オランダ語3206(+44)13(-10)
イタリア語3174(-39)13(-6)
ロシア語3122(+315)4(-3)
ハンガリー語3014(-6)6(-3)
チェコ語2947(-126)6(-2)

※()内は昨年比。
※方言はまとめて集計した。

日本語の係数は今回の参加者の平均値をベースに再検討するとのことだ。だが筆者は、係数を上げるとしても2.5程度に留めておくべきと考える。あまり高い係数を設定すると、今度は文章により日本語が有利になりすぎるリスクがあるためだ。

但し、ミスのペナルティに関しては他の言語と比較して大きめと感じた。特に合格ラインギリギリの文字数しか打てない場合、ミス率の制限に引っ掛かりやすくなる。Interstenoの仕様では、日本語に単語という概念が無いため、「抗議」を「講義」と打つと2ミスになる。これに対し、他の言語では1単語の中のミスは最大1なので、例えば英語のcomeをcmoeと打っても1ミスである。


●モチベーション維持策

今回長期に渡ってモチベーションを維持できたのは、「自分を成長させる」ことを第一の目的としたためだ。Interstenoへの参戦は今回で終わりではない。今後数年かけて多言語タイピングの実力を培うという戦略で臨んでいた。強化を継続すれば、17言語で85000点に届くという見通しを持っている。その先には17言語9万点、20言語10万点も見えてくるかもしれない。

自分を成長させるには、自ら戦略と戦術を考案し、練習の過程でPDCAを回して練り上げていくのは当然のことだ。ここまでは本気で勝ちたければ誰でも実行するだろう。加えて、実力が同程度、もしくは上の人間はライバルであると同時に、自分を成長させてくれるありがたい存在だ。今回はこの発想が根底にあったため、かつての毎パソにおけるたにごん戦のように、姑息な手段を使ってでも勝ちに行くという考えは全く無かった。むしろ、毎週のTypeRacer対戦会で叩きのめされることを感謝しつつ、最大限に利用させて頂いた。

今回も対人戦を行う意思が極めて希薄であり、特定の相手に向けた宣戦布告はしなかった。4月の本番期間が始まる少し前にそれまでの自己ベストおよび平均スコアをTwitter上で公開し、「目標は日本語を除く16言語で75000点、全17言語で80000点」と公言したのが最初で最後である。昨年と同様、大会に向けて自分を、そして日本人参加者を鼓舞する目的の方が大きかった。


●感想(というよりも反省)

限られた本番実施期間で、複数の難関言語を含む17言語に参戦した。その結果、合計で82000点を超え、歴代最高スコアで世界第一位を獲得した。また、日本語を除く16言語では77744点となり、2015年のCelalのスコア(75204点)を上回った。この事実は、参戦3年目という条件を鑑みれば評価して良いだろう。

だが、来年もこの得点で同じ順位を獲得できると楽観はしていない。昨年以来の日本人の奮闘ぶりを見た諸国のタイピストたちが、このまま座視しているとも思えない。また、過去にはSean、Danielといった神速タイピストたちが15〜16言語で8万点超という偉大な記録を残しており、筆者はその足元にも及ばない。さらに、新たな強力なライバルたちが続々と出現してくる可能性もある。さらなる境地を目指すためにも、まずは今年の失敗と成功を分析する。

(1) 失敗から学べ!

最大の失敗は、土日に疲労が抜けなかったことだ。ランニングのやりすぎか、それともタイピングのやりすぎか。ロシア語の本番打鍵時には画面の凝視度が高まった結果、ドライアイのような状況となり、反射的に涙が流出してきて困った。ハンガリー語の本番打鍵時には、事前に仮眠で目を休めたのに、左目が霞んで困った。

一部の言語では、本番でびびりすぎた。特に、練習量に不安がある言語で緊張感が増加する傾向があった。但し、一概にびびりすぎが悪いとは言えない。適度な緊張感がミス低減に寄与した言語も複数ある。必要十分な練習を積み重ねて不安を消し、緊張感をうまくコントロールしたい。

体調管理も昨年よりはだいぶ改善されたとはいえ、完璧ではなかった。特に5/4以降は風邪の前兆と思われる症状が発生し、ルーマニア語やクロアチア語の練習時のスコアが一時的に大きく低下した。最後の追い込みを前にして風邪にやられるなどあり得ない。筋トレやランニングを継続し、多少の怪我や風邪に負けないよう鍛え上げておきたい。但し、過度のランニングは怪我や疲労の原因にもなり得るのでほどほどにするべきかもしれない。

(2) 重点強化の結果

ロシア語では昨年比787アップという結果をもぎ取った。本番でチェコ語の記録を上回り、最下位からの脱出を果たしたのは象徴的だ。10分間練習を93回実行し、キリル文字への習熟を進め、最低4000は叩き出せる見通しを持って本番に臨んだ。

英語は昨年比912アップ。昨年の失敗を踏まえ、手順書まで作成して本番に臨んだ甲斐があった。加えて、10分間練習を85回実行し、最低5700は叩き出せる見通しを持って本番に臨んだ。東プレRealforce106(All30g)でミスを抑えて高速に入力する技術を身につけた結果、練習での最高得点・平均得点とも昨年比300近い上昇となった。

フランス語は昨年比582アップ。10分間練習の回数こそ少なかったが、課題収集と全文入力で鍛え抜いたベース速度と正確性、ワード慣れが明らかに寄与した。実際、たまに10分間練習を打った時に5000以上のスコアを連発し、その効果には我ながら驚いた。

……

一方で、重点強化対象でなかったはずのルーマニア語で504アップ、ポルトガル語で417アップ、ドイツ語で325アップという結果を得た。これらに関しては、運による部分が大きい。ルーマニア語は昨年のスコアが低すぎた(本番文章が打ち辛かった)。ポルトガル語は今年の文章が打ちやすく、かつ緊張する要因が無かったためノーミス無敵モードに何度か突入した。ドイツ語は運良くノーミスを達成できた。大会の性質上、運に左右される要素はどうしても出てくる。幸運が毎回訪れるとは限らない以上、ベースとなる実力(速度、正確性、言語習熟度、配列習熟度)を地道に向上させる必要がある。

練習量が結果に比例するとは限らない。しかし、練習は裏切らない。不調な時や苦しい時に崩壊を防ぐのも、好調な時に思い切った加速を可能にするのも、積み重ねた練習に裏打ちされた実力である。逆に、過去の実績にあぐらをかいて練習を怠れば、失敗の確率は確実に増加する。

(3) ミスの減少

全17言語で4ミス以内に抑えた。しかも、トルコ語、英語、スロバキア語を除く14言語を2ミス以内で打ち切った。普段から正確性重視の練習を地道に継続した成果が現れた。また、ほぼすべての言語で、本番では練習時とは明らかに違う集中力が発揮された。その結果、ドイツ語、フィンランド語、ポルトガル語、クロアチア語の計4言語で、本番で自己ベストを叩き出した。もっとも、裏を返せばこれらの言語の練習量が不足だったということだ。この辺に、来年に向けて改善の余地がある。

最後に、ノーミスの言語はドイツ語とフィンランド語のみだった。練習時には、英語での13回を筆頭に、13言語で計41回出していたのにもかかわらずだ。全375回の10分間練習(本番含む)中、1ミスは87回、2ミスは86回、3ミスは52回、4ミスは42回だった。昨年と比較すると、4ミス以内の確率が約72%から約83%に増えた。2ミス以内は約42%から約58%に。ノーミスは約7.2%から約11.5%に増えた。合格ラインであるミス率0.50%以内(4000文字につき20ミス以内)を気にする段階から、2ミス以内を積極的に狙い、得点を最大化する段階に進んだと言えるだろう。


●来年に向けて

昨年目標に掲げた「今後数年以内に世界第一位」は、今年あっさりと達成してしまった。それどころか、全17言語の総合スコアは歴代第一位でもある。では来年に向けてどのような目標を設定するか。一つの解は、日本語を除く16言語で80000点、全17言語で85000点である。その先には、日本語を除く16言語でSean、Danielの過去の記録を上回るという目標も考えられる。

筆者の今後数年を見据えた戦略がいつ実を結ぶかはまだ分からない。筆者が85000点以上を狙うには、もはや低速言語の底上げだけでは不充分だ。高速言語では6000点を目指して鍛錬を積み重ねる必要がある。

しかし幸いなことに、戦略と戦術の進化により、総得点を伸ばす余地は残されている。昨年挙げた課題のうち「配列のさらなる最適化」「手順書の作成と遵守」は、既に述べた通りある程度解決した。それでは、来年に向けてさらに伸ばすにはどうするか。

(1) 各言語の習得

究極的には、極めて有効と考えられる。実際、英語では言語習熟度がタイピングに好影響を及ぼしている。タイプウェル英単語やTypeRacer、10FastFingers等の短距離種目では日本人タイピストの中でも決して速くない筆者が、Interstenoや毎パソ等の中長距離種目で上位に居座っていられるのはこのためだ。また、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語に関しても、英語に似たスペルの単語が多数出現するため、英語習熟度がある程度影響を及ぼしている。

さらに、第二外国語としてある程度習得したドイツ語に関しては、長い単語を見た時にどこで区切るかが概ね分かるというメリットを体感できた。同じゲルマン語派のオランダ語に関しても、習得はしていないものの、同様のメリットを享受した。

一方、第三外国語として選択しつつも習熟が甘かったフランス語では、タイピングに好影響を及ぼす段階に至っていない。今年のフランス語のスコアアップの要因は、特殊文字や一部のワードに慣れたことであって、フランス語の習熟とは無関係である。まして、第四外国語以降を新規に習得するとなると、タイピングに好影響を及ぼすレベルまで引き上げるには数年かかりそうだ。長期的視野で取り組むべき課題と言えるだろう。

(2) 各言語の頻出ワード・頻出シーケンスの習得

短期的にできる対策は、これに尽きる。これだけなら、10分間練習を100回繰り返せばある程度の成果を期待できるだろう。例えばハンガリー語に関しては、重点強化する過程で幾つかの頻出単語を覚えたことで、明らかに高速化された。azonban(しかし)、napjainkban(今日)といった打ちやすい単語はもちろん、egészség(健康)のような打ち辛い単語も高速化できたのは収穫だ。

ロシア語でも、本格的な高速化には至らなかったものの、頻出ワードは幾つか覚えることができた。Takiの練習課題では、жизни(生活)、подход(アプローチ)、Москве(モスクワ)、экономических(経済の)、воспроизводство(再生)、распределения(配布)、производство(生産)といった単語が頻出する。

(3) 来年の重点強化言語

表19に示す通り、全17言語にまだ伸ばす余地がある。特にトルコ語とイタリア語は、ほぼ未着手である課題収集と全文入力を進めることで、今年のフランス語並みの伸びを期待できる。日本語については、かな入力でかすりミスを根絶できないか再び試行錯誤したい。ローマ字入力は疲れるし、腱鞘炎も誘発する。5000を超えるスコアを狙うには、かな入力を鍛えるのが近道ではないか。この他、本番で自己ベストあるいはそれに近い得点を叩き出した言語についても、さらに伸ばす余地がある。

但し、練習量が低下した場合は伸びが鈍ることも考えられる。重点強化言語の陰に隠れて練習が疎かになった今年の日本語やトルコ語が好例だ。どの言語を重点的に伸ばすか、そして実力の低下を最小限に抑えるにはどの程度の練習をこなすべきか、全体最適の視点から戦略的に練習を進めていきたい

【表19:各言語の成長余地という観点での分類】

カテゴリ言語
びびりすぎ英語、フランス語
その他、本番での失敗オランダ語
高速化未完成日本語、スペイン語、イタリア語、ルーマニア語
本番自己ベストドイツ語、フィンランド語、ポルトガル語、クロアチア語
本番自己ベスト付近ロシア語、ポーランド語、スロバキア語
練習不足ハンガリー語、トルコ語、チェコ語

※オランダ語は、改行位置ずれの原因探索と修正で10秒ロスした。

(4) Interstenoへの働きかけ

これは個人として総得点を伸ばすというよりも、将来を見据えて公平かつ公正な競争環境を維持し、裾野を広げるのが目的だ。

まず各言語の練習問題に残る問題点について。筆者が指摘済みだがまだ修正されていないものもあるし、その後新たに見出したバグも存在する。ある程度まとまった段階で、再び粘り強くInterstenoのTaki担当者に働きかけて、修正を促していく。同時に、€や£等、欧米人には常識であっても日本人には馴染みが薄い記号については、打鍵方法を啓蒙するという手段もある。

次に日本語の仕様について。日本人以外の参戦が著しく困難な現状はどうかと思う。今年は結果的に日本語を除く16言語でも日本人が総合1位・3位・4位を占めた。だが、来年以降は「16言語で勝てないのに17言語で勝ちました」という事態が生じる可能性もある。「方言の一つとしてローマ字入力種目を設定する」「現状の中国語部門と同様、別枠での開催とする」等、既に幾つか案はあるものの、デメリットも多い。前記の日本語の係数の問題と合わせて、試行錯誤が必要だ。現在の不平等感が少しでも解消されるよう提言していきたい。ここでの試行錯誤は、将来の韓国語等への展開の際にも役立つことだろう。


●参考文献・謝辞

Pocariさん:Interstenoオンライン大会への日本語部門追加を先頭に立って推進し、実現にこぎつけたのみならず、2015年の日本人参加者120名もの参加費までご負担頂きました。2016年・2017年大会での日本語部門継続にあたっても紆余曲折があり、各国代表との交渉に奔走されたと聞いております。この方の尽力なくしては、筆者はInterstenoの存在すら知らず、まして参戦など考えもしなかったことでしょう。ありがとうございました。

ジュニアさん:最難関のロシア語を含む全17言語への参戦を目指し、最も早い段階で練習に着手していました。その過程では、各言語の専用配列を習得し、特殊文字や記号の入力方法を一から調査・導入されるなど、先行者として並々ならぬ苦労があったことと推察します。今年も昨年に続いて、中盤戦まで全体1位となって引っ張って下さいました。

かり〜さん:2015年から多言語タイピングWikiで積極的に情報発信し、筆者を含む多くの初心者に多言語参戦への道筋を示して下さいました。さらに2017年大会に向けた新たな取組みとして、初心者向け多言語対戦会や10FastFingers大会を開催されています。

たのんさん:2017年大会に向けて、TypeRacer多言語対戦会の開催および毎週参戦により、積極的に引っ張って下さいました。

paraphrohnさん:2016年大会に向けて、早い段階で「総合8万点で世界一」という高い目標を掲げ、それを有言実行することで日本人参加者全体を引っ張って下さいました。また、インテルステノ用paraph配列集の作成・配布に加えて、TypeRacer多言語対戦会を毎週開催して頂いたお陰で、筆者を含め参加者のレベルは前年とは比較にならないほど向上したと言えるでしょう。

やださん:Takiソフトウェアで出現した "This page and application is only for use on computers, not available for mobile devices." というエラーに対して、画面サイズを拡大するか文字サイズを小さくすることで解決できるという情報を頂きました。

どりすとさん:上記の問題につき、www.intersteno.itで打てば問題無いという情報を頂きました。筆者は2016年・2017年大会に向けて、練習でも本番でもこちらのサイトのみで打ちました。

司@dvorakさん:文章内の文字の出現頻度調査に役立つWebサイトをご紹介いただきました。筆者は主にロシア語の文章で活用させていただきました。

愛する家族:4月後半の土日およびゴールデンウィーク前半という、本来は育児・家事・家族サービスに充てるべき貴重な時間の大半をInterstenoの多言語参戦に投入できたのは、間違いなく家族のおかげです。ありがとう! ……というよりも、我ながらろくでもない夫・父親だと思う。来年以降もオンライン大会に参加するなら、ゴールデンウィークの一部を毎年潰すことになるというジレンマがある。


●各種資料

Intersteno2017関連の資料を以下に公開します。必要に応じ、自己責任でご利用下さい。また、著作権等で問題が発生した場合は即削除します。

Intersteno拡張dq配列
→Interstenoで使用した配列。インストーラとともにMSKLC用のファイルもあります。

※1:まだ進化の過程にあり、完成形ではありません。
※2:言語によっては慣れるまでに相応の時間が必要であり、短期決戦には不向きです。
※3:このMSKLCファイルはWindows10環境でBuildできません(エラー対処を実施していないため)。必要ならばWindows7, Vista, XPのいずれかでBuildしてコピーして下さい。

Intersteno拡張dq配列:仕様書
→上記配列の仕様書。

Interstenoの各言語ランキングと統計資料
→eighさんの統計資料を参考にしつつ、自分用にVBAで作成していた資料です。本レポートにはこのデータを一部使用しています。ソースコードは非公開(効率が悪く、エラー処理も甘く、プログラマとして恥ずかしいレベルなので)。

Interstenoランキング:仕様書
→上記資料の仕様書。

Intersteno課題文の解析資料
→各言語の練習課題(1分間課題計1013個、10分間課題計310個)を自力で収集・入力した資料です。配列作成の際に、特殊文字や記号、qvwxyz等の文字の出現頻度を解析するために使用しました。また、InterstenoのTaki担当者への問題点の報告は、この資料をベースに実施しています。ついでに練習時の最高記録も掲載してあります。

注1:元のExcelシートには本番の情報(課題文のうち筆者が入力した部分)も一部含みますが、公開資料では念のため除外してあります。
注2:特に10分間課題の収集は約2/3が終わったばかりであり、完成形ではありません。
注3:入力時の正確性は99%以上あると自負していますし、難関言語の一部は再入力によりミスを検出して正確性を高めていますが、筆者も人間である以上100%ではないことはご了承下さい。

Intersteno練習の各種統計
→Intersteno対策として実施した10分間練習(2015年160回、2016年552回、2017年375回。本番含む)の各種統計として、「言語毎の最高記録、平均得点、平均速度、平均ミス数」「本番の記録との比較」「練習回数」「ミス数別の試行回数」をまとめたものです。特に昨年からの伸びが非常に励みになりました。

Intersteno練習記録
→Intersteno対策として実施した10分間練習(2015年144回、2016年535回、2017年358回。本番除く)の詳細をデータベース化したものです。上記の統計資料はすべてこのデータから作成しています。なお、元のExcelシートには本番の情報(課題文の冒頭部等)も含みますが、公開資料では念のため除外してあります。

本番準備・実施手順書
→「トルコ語配列のまま英語を打つ」「省電力モードが発動して画面が暗くなる」等の間抜けな事故を防ぐために作成した手順書です。


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