次に、イディッシュ語のキーボード配列に習熟する必要がある。イディッシュ語の一般的なキーボード配列は、Windows10/11の標準機能に含まれている。[設定]→[時刻と言語]→[言語と地域]→[言語の追加]でイディッシュ語を選択すれば良い。しかし筆者は独自の配列を作成した。他の言語への影響を抑えつつ、しかも短期間で、一般的な配列を習得するのが困難と判断したためだ。
イディッシュ語タイピングの技能を発揮する場として、TypeRacerやmonkeytype、Klavogonkiがある。Interstenoではまだ採用されていない。英語をはじめとするラテン文字に慣れきっていると、ヘブライ文字およびイディッシュ語キーボードの壁は高い。例えば、Interstenoの合格条件である「240文字/分以上、かつミス率0.50%以内」を突破するのが意外と難しい。また、約30秒という短期決戦であっても、外国人がTypeRacerやmonkeytype、Klavogonkiで100wpmに到達するのは極めて困難である。
※英字表記: 本稿で「英字表記」とは、筆者の独自配列でヘブライ文字を打鍵した時の文字列をQWERTY配列の英字に置換した文字列を指す。例えば[מחבר](著者)の英字表記は[bnaf]となる。なおヘブライ文字は右から左に読む。英字表記とは逆になるので要注意。
※wpm: words per minute、即ちワード/分。打鍵速度を表現する一般的な指標の一つ。英字タイピングでは一般的に1ワードを5文字と数えるため、1wpm=5文字/分、100wpm=500文字/分となる。イディッシュ語も同様である。
筆者がイディッシュ語に触れるのは今回が初めてだし、イディッシュ語を使用する文化圏についてもよく知らない。「ヘブライ文字を使用する言語」という漠然としたイメージがあるだけだ。ちなみに先程Wikipediaを参照し、概要を初めて知った。
但し、2018.7.4時点で、即ちTypeRacerでギリシャ語とベトナム語の100wpm達成がほぼ見えた段階で、ヘブライ語ともに次に取り組むべき言語の筆頭に挙がっていた。当時残っていた他の難関言語と比較すれば、主にヘブライ文字の図形認識という観点でまだとっつきやすいと考えた。
●用語の定義
※ヘブライ文字: イディッシュ語およびヘブライ語で使用されている固有の文字の名称。日本語の「ひらがな」「カタカナ」、英語等の「ラテン文字」に相当する。
●なぜイディッシュ語か
ヘブライ語と同様にヘブライ文字を用いる言語だからである。ヘブライ語で100wpmを達成し、ヘブライ文字にある程度習熟した段階で、イディッシュ語でも100wpmを達成できると考えた。◆偉大な先駆者と有用な練習サイトの存在
2024年、X(旧Twitter)上で、Dashaさん(Intersteno2024オンライン大会の銀メダリスト)がmonkeytypeのイディッシュ語で100wpmの達成を報告されていた。そもそも筆者がイディッシュ語でノーミス100wpmを目指す絶望的な練習を数カ月にわたり継続できたのは、q_d_2さんという偉大な先達がその可能性と道筋を示して下さったお陰であり、大変感謝している。
筆者は2025年にまずmonkeytypeで100wpm達成を目標とした。monkeytypeではランダムに並んだ単語を打つ。1回あたりの時間は細かく設定可能であり、筆者は初期値の30秒のままにしている。
一方で、TypeRacerやKlavogonkiでも100wpm達成を目標とした。TypeRacerとKlavogonkiでは文章を打つ。1回あたりの時間は概ね30秒〜1分である。monkeytypeとTypeRacer、Klavogonkiのすべてに存在するというのは、練習効率の意味で大きい。
具体的には、100wpm到達までには表1に示す幾つかの段階がある。このうち「図形認識の成長」は、ラテン文字のタイピング習得過程にはほぼ無かった。英語のタイピングを始めたのが英語習得の後だったためだ。2015年のInterstenoの多言語対応においても、ロシア語を除けば一部の特殊文字(ドイツ語のß等)や文字装飾に対応するだけで済んだ。ロシア語のタイピング習得時にのみ、図形認識の壁が存在した。だが、気付いた時にはその壁を通り過ぎており、「配列の試行錯誤」の段階に入っていた。ギリシャ語や朝鮮語/韓国語、ヘブライ語タイピング習得の過程で「図形認識の成長」の段階を改めて実感できた。具体的には、配列作成の際に図形認識を活用した。但し[ח][ת][מ][ה]の区別は難しく、100wpmに接近してからも苦労した。イディッシュ語ではヘブライ語に加えて数個の特殊文字を習得すれば良い。とはいえ、[אַ][אָ]の区別にはそこそこ苦労した。
|
・図形認識の成長 ・文字装飾の区別 ・配列の試行錯誤 ・打鍵高速化過程のプラトー現象 ・最後に100wpmを目指して集中練習 |
もちろん難関言語にはさらなる難関要因が含まれる可能性もある。例えばアラビア語の場合、「右から左に読む」ことが難関要因となり得る。しかし上記の各段階の工数を概ね把握しておくことで、ある程度の見積もりが可能となる。
イディッシュ語も「右から左に読む」言語である。しかし、monkeytypeで100wpmを目指す際にそれを難関と感じたことは無かった。最初からそういう言語だと割り切って訓練したためかもしれない。
……
以上、ロシア語と違って趣味に走った理由しかない。Interstenoではイディッシュ語が2025年現在採用されていないし、今後採用されるか否かも分からない。イディッシュ語タイピングで競い合うライバルがいるわけでもない。要するに、イディッシュ語タイピングはあくまでも自己満足である。とはいえ、己が成長する実感を味わうのは類稀なる快感を伴うものである。
●イディッシュ語の練習方針
イディッシュ語を初めて本格的に練習したのは、6月1日〜8月31日にKlavogonkiをプラットフォームとして開催されたMEGAlingua 2025という多言語タイピング大会においてである。8月20〜29日に12回打ち切り、80.6wpmまで伸ばした。
その後、monkeytypeのヘブライ語10kで100wpmを達成してリソースが解放されたため、イディッシュ語でも100wpmを目指すことにした。練習方針は表2の通りである。
| プラットフォーム | 難易度 | 目標値 | 練習時期 |
|---|---|---|---|
| monkeytype | 基礎 | 100wpm→110wpm | 最初から |
| TypeRacer | 中級 | 100wpm(一部の文章のみ) | monkeytypeと並行 |
| Klavogonki | 上級 | 100wpm(一部の文章のみ) | monkeytypeが一段落してから |
monkeytypeでは200語しか出現しない。ヘブライ語等と違って語彙増加版が存在しないため、基礎練習と位置付ける。なお、[Failed to save result: Result data doesn't make sense]と表示されて記録が正常に保存されない原因不明の問題があるため、記録は自力で収集・管理する。また、基礎練習の100wpmで満足していてはTypeRacerやKlavogonkiに太刀打ちできないため、110wpmを、そしてその先を貪欲に目指す。
TypeRacerでは文章を入力する。語彙レベルはmonkeytypeよりも上であるため、本来ならmonkeytypeで基礎ができてから挑戦すべきである。しかし、ヘブライ文字の認識はできるため、今回は最初からmonkeytypeと並行して練習する。文章の数が約41個に限られているため、最終的には一部の高速文章を暗記して記録を狙うことになる。なお、ヘブライ語等と違ってTypeRacer Dataが最新の文章に対応しておらず、詳細な練習記録が残らない。こちらも、記録は(TypeRacerの画面や履歴を参考にしつつ)自力で収集・管理する必要がある。
Klavogonkiでも文章を入力する。語彙レベルはTypeRacerと恐らく同程度だ。だが、文章の数が169個と多いため、特定の文章に特化した攻略が困難である。従って、上級の練習と位置付ける。練習時期は、monkeytypeの基礎練習が一段落してからだ。
| 文字 | 頻度 | 図形認識メモ |
|---|---|---|
| אַ | 3.94% | kの下に_ |
| אָ | 1.58% | kの下に^ |
| פּ | 0.96% | gの中に・ |
| יַ | 0.61% | eの下に_ |
| פֿ | 0.09% | gの上に- |
※出現頻度は、Spaceを含めて計算。
次に、配列を検討する。ヘブライ語で使用した独自配列をベースとし、イディッシュ語に特有の特殊文字を右端や最上段に配置する。筆者が作成した配列は図1の通り。

図1:図形認識を利用したイディッシュ語の独自配列
※数字の[7][8]は、[Shift+7][Shift+8]に設定する。すると[&][*]が打てなくなるが、出現率は非常に低い(出現しない?)ため問題無いと判断した。
※当初は、[יַ]を[3]に配置した。しかし、数字の[3]を打てなくなるため、[^]に移動した。[יַ]は[ייַ]というパターンでしか出現しない。200語中7語に含まれるため、覚えやすい。加えて、もともと[e→3]という左殺しだったこのパターンが、[e→^]となって右手に負荷が分散されるため、打ちやすくなる。
| 大項目 | 中項目 | タイミング |
|---|---|---|
| 文字の一覧 (32文字) | 出現回数/出現割合/打鍵数 | 初期 |
| HTML表記 | 初期 | |
| 単語の一覧 (200語) | 打鍵数/文字数 | 初期 |
| 意味(英語。Google翻訳レベル) | 後でまとめて |
また、ミスタッチは最終的にほぼ根絶した。9/25と9/29にはノーミス打ち切りを達成した。200語しかなく、1文字1打鍵対応であり、単語の暗記が比較的順調に進んだためと考えられる。この練習は、結果として、その後の成長に寄与した可能性が高い。
一方、ヘブライ語と違って、最初からChromeのズーム125%を採用した。110%では[אַ]と[אָ]、[פּ]と[פ]の区別が極めて難しいためだ。代償として、1行あたりの文字数が減って改行が増える。改行による認識ミスや速度低下は致命的であり、増えれば増えるほど不利になる。しかし今回は特殊文字の区別ができないことによるデメリットの方が上回ったため、改行による不利を甘受した。200語を徹底的に暗記することにより、改行時のロスを減らした。
その後も他の言語と同様、将来のTypeRacerへの挑戦も視野に入れて、「30秒・ノーミス」という条件下で練習を重ねた。英語で160wpmを出せる筆者にとって、イディッシュ語で100wpmを目指す際に速度の比重は少ない。速度を求めてミス覚悟で限界まで追い込む必要が無いためだ。それよりも、ミスとそれによるロスを抑えることを重視した。そもそもノーミスが条件である以上、1ミスでもした場合には即Escである。終了間際のミス等により、誤って打ち切って出した記録は、集計時に対象外とする。初期段階や不調な日には、1回打ち切るのに苦労することもよくあった。また、速度が上がるにつれて、ノーミス打ち切りは難しくなる。しかし基本方針は変えなかった。
なお、イディッシュ語の制限時間は初期設定の30秒とした。TypeRacerやInterstenoを見据えるなら、60秒などより長い設定にした方が良い。しかし、60秒ノーミスを保つのは至難である。練習効率を勘案し、30秒のままの方が良いと判断した。
イディッシュ語を含む全体の練習は、1セットを約60分として、平日に1セット、休日に2〜3セット実行した。このうちイディッシュ語には、各セットの中盤の約25分を充てた。残りの35分は「指慣らし(主に英語ベースのプログラミング言語)」「新規言語(あれば)」「Klavogonkiのロシア語」という構成だ。ロシア語以外は、すべてmonkeytypeの30秒練習である。イディッシュ語を25分に限定したのは、朝鮮語/韓国語と同様、実質ランダム練習に脳が耐えられないと予測したためだ。この25分のうち、最初の5分はロード(読み込み)時間だ。次の15分で記録を狙う。これを終える頃には脳のリソースが慢性的に欠乏し、開幕の数語で確実にミスするようになる。この状態で練習を継続しても、己の肉体と精神を痛めつけて疲労を蓄積させるだけであり、戦略的に何の意味も無い。また、イディッシュ語に限らず他の言語を練習するのは、「Intersteno対策」「ベース速度の維持」「モチベーションの継続」という意味がある。
通常版では200語しかないため、脳と指が早期に単語を覚えていく。するとランダム練習が単語練習に変化し、脳のリソースが尽きる事態が激減する。このため、30分、40分と練習時間を延ばすこともあった。また、練習開始直後に脳が働かない場合でも、20分くらい打ち続けることで文字や単語を強引に思い出し、更新に結び付けたこともあった。
結局200語の大半を暗記した。意味までは覚えきれなくても、単語の冒頭2文字と長さを見た瞬間に即入力できるようになった。また、主なミスの原因を把握し、事前に察知できるようになった。こうなるとランダム練習が単語練習に変わり、速度が明らかに増していく。
| 単語 | 意味 | 英字表記 | 苦戦の原因 |
|---|---|---|---|
| אינסטרומענט | 楽器 | kejoufibyju | 長い |
| אַנטוויקלען | 開発する | ]juiiepsyx | |
| אַקוואַריום | 水族館 | ]pii]feid | |
| קיזלשטיין | 小石 | perswueex | |
| שאָקאָלאַד | チョコレート | w8p8s]t | 特殊文字 |
| שפּראַך | 言語 | w@f]v | |
| אַפּאַראַט | カメラ | ]@]f]u | |
| פענצטער | 窓 | gyjzuyf | 右殺し |
ミスの原因の大半は誤読だ。特に、語尾の[ן]を[ו]と打つパターン、語尾の[ך][ר]を互いに混同するパターンが目立った。そこで、9/10に単語の末尾の文字を調査した。その結果、[ן]で終わる単語が62個ある一方、[ו]で終わる単語が無いという法則を発見した。一方、[ך]で終わる単語は10個、[ר]で終わる単語は16個であり、両方のパターンを想定しておく必要がある。
さらに、[וי]を[יו]と打つパターンも目立った。そこで、9/16に出現パターンを調査した。その結果、[יו]というパターンは[אַקוואַריום](水族館)のみと判明した。一方、[וי]は28パターンある。大変分かりやすい傾向であり、ミスの根絶に役立った。
加えて、[רג]と[גר]を互いに混同するパターンも目立った。[ר]を脳内で勝手に180度回転させてラテン文字の[L]と認識するのが原因と考えられる。こちらも併せて調査した。その結果、[רג]というパターンは[בערג](山々), [בערגל](丘)のみと判明した。一方、[גר]は5パターンある。数が少ないため、当該単語の暗記で対応した。
[עפענען](開ける/開く)も苦手単語の一つだった。右手人差し指を酷使し、かつ[פ]と[נ]を混同するためだ。だが、[ע]と他の文字が交互に出ると覚えることで、ミスが激減した。
特殊文字に関して、[פֿ]は[פֿיס](足)のみにしか含まれない。これも早期に暗記することで対応した。
| 指標 | 具体例 |
|---|---|
| 〇〇wpm以上を通算△△回出す | 9/14、90wpm以上を通算10回 9/16、95wpm以上を通算10回 |
| 〇〇wpm以上を1セットに複数回出す | 9/15、1セットに98wpm以上を3回 |
| 結果表示画面の「やや遅い単語」が100wpm突破 | 9/8に達成 |
| 結果表示画面の「遅い単語」が100wpm突破 | 9/15に達成 |
| 100wpmを維持できる時間を伸ばす | 9/12、11秒まで100wpmを維持 9/14、25秒まで100wpmを維持(ミス爆死) 9/16、29秒まで101wpmを維持 |
| Top10から〇〇wpm未満を駆逐する | 9/14、90wpm未満を駆逐 9/16、95wpm未満を駆逐 9/17、98wpm未満を駆逐 |
| Top100から〇〇wpm未満を駆逐する | -(そもそも85wpm以上を62回しか出していない) |
| タイピング画面で3行打ち切る | -(ズーム125%のため4行ある。比較の対象外) |
| 結果表示画面で2行打ち切る | -(100wpmでは不足。その後9/28に達成) |
| 連続5単語以上で平均〇〇wpm以上の加速を決める | 9/8、連続7単語で113wpm 9/14、連続6単語で151wpm 9/15、連続5単語で160wpm |
| かつての苦手単語を加速単語に変える |
イディッシュ語、100.76wpm! 100wpm突破!!!!!画像はこちら。昨日の記録を0.81wpm更新し、72言語目の100wpm突破! 比較的楽に達成できたのは、ヘブライ語の鍛錬を通してヘブライ文字に慣れていたためだろう。引き続き、110wpmを目指す。終盤にいつものごとく疲労とびびりで落ちることを見越して、積極的に加速してリードを奪った。11秒まで105wpmを維持した。16秒時点で101wpmまで低下するも、22秒時点で104wpmまで立て直した。25秒時点で101wpmまで低下するも、27秒時点で103wpmと再び立て直した。最遅単語群は[<103]となり、昨日の記録と1wpm差に迫った。序盤[אַנטוויקלען]で104wpm, [מענטש]で90wpm, [האָלץ]で108wpm, [פאַלש שטשור]で108wpm, 101wpm、中盤[פון הערן]で103wpm, 68wpm, [קישן]で107wpm, [פלייש]で108wpm、終盤[שרויף טרויעריק]で89wpm, 113wpm, [זשאַבע פרייען]で75wpm, 101wpmと失速した。一方、中盤[אַקוואַריום צולייגן שיקן טינט זאקען געלט]で平均144wpm、終盤[ביין זינקען ברויט גיין זינקען מויל]で平均134wpm、2語置いて[באַלד שטול פיש מינוט]で183wpm, 128wpm, 143wpm, 145wpmと加速を決めた。ここまで15分を要した。 |
100wpm到達前に85wpm以上(ノーミス。以下同様)は29回、90wpm以上は22回、95wpm以上は13回出した。ヘブライ語で基礎ができていたため、少ない負担で効率的に目標を達成できた。

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※回数とは、そのトライアルまでの累計のノーミス達成回数。その日までの練習回数やノーミス達成回数とは必ずしも一致しない。
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(1) フォント、文字サイズを最適値に設定する。 (2) マウスポインタを事前に排除する。 (3) BSの仕様を把握する。 (4) カーソルの仕様を把握する。 (5) ['](アポストロフィ)の仕様を把握する。 (6) 数字と記号の仕様を把握する。 |
(1)に関して、フォントはヘブライ語と同様、Arialを選択した。さらに、Chromeのズームを100%→110%に変更した。意外なことに、ズーム110%の方が改行の回数が減るので大変助かる。筆者の環境では、文章が画面の横幅いっぱいに広がるためだ。しかしズーム125%以上にすると改行の回数が再び増え始めるので逆効果だ。同様の理由で、文字サイズを無闇に拡大すべきではない。
(2)に関して、文章の範囲内にマウスポインタが残っていると、そこまで打ち進んだ際に文字の一部が隠されて見えなくなる。また、車が走るエリアにマウスポインタがあると、そこまで車が進んだ時に当該レーサーのProfileウィンドウが表示され、文章が広い範囲で隠される。いずれもマウスポインタを動かして対処するしかなく、記録を狙う際には致命的なタイムロスになる。
(3)に関して、ミスタッチの数が少なければ基本的に「ミスタッチ数と同じ数だけBS(※)→正しい文字を打ち直す」で良い。但し、BSでどこまで消えるか、そしてどこから打ち直すか、観察が必要である。例えば[ץ]を打つつもりで隣の[אָ]を打った場合、BSは2回必要だ。BS1回では[א]が残り、修正しきれないためだ。一方、[אָ]を[אַ]とミスした場合、BSを1回だけ打って後置装飾文字を消した後に[ָ]のみ打ち直すのが本来ならば最善の対応である。しかし、筆者の独自配列では[ָ]を設定していないため、結局BS2回で[אַ]を消して[אָ]を打ち直すしかない。脳の処理速度が追いつかなければ、散々迷った挙句、単語ごと消して打ち直す羽目になる。
※TypeRacerではmonkeytypeと違って、ノーミスを毎回狙うのは非効率だ。成功率が低い(筆者の例では172回中19回)のに加えて、文章の後半部分を練習する機会が減るためだ。そこで、BSによる修正をある程度まで許容する(ミスタッチが多すぎる場合には棄権だが)。確かに、この修正によるロスは速度に影響する。一方、ノーミスを狙うと速度面で委縮することがある。従って、正確性99%台を狙いつつ、加速できそうな場所では積極的に加速していた。
(4)に関して、カーソルの位置は現在の打鍵位置よりも1文字進んでいる。これが邪魔になり、現在位置を見失うケースが非常に多い。また、ミスした時にどこまで戻るか大変分かりにくい。上の画面だけ見ても分からず、下の画面も見ないと判別できない。迷った挙句、単語ごと消して打ち直す羽目になり、ロスが非常に大きい。従って、単語を打つ前に完璧に読み切り、かつその単語を打ち終えるまで記憶して正確に再現する必要がある。また、ミスした場合も指先の感覚だけで即座に修正できないと、大幅ロス確定だ。
(5)に関して、['](アポストロフィ)と[י]の区別が難しい。高さが微妙に違うようだが、瞬時に見分けるのは不可能だ。従って、該当文章と該当位置を暗記する必要がある。
(6)に関して、数字と記号も厄介だ。イディッシュ語は通常右から左に読むのに対し、数字は例外で、左から右に読む。また、行末のピリオドは行頭に来る。従って、例えば[פונט]-25(25ポイント)という表示に対しては[25-giju]と打つ必要がある。とんでもねえ初見殺しだ。
他に、[ץ]で終わる単語の直後に[.]があるように見えるという仕様もある。これに関しても、当該単語を、さらには当該文章と当該箇所を暗記するのが最善の解決策だ。
| 特殊文字 | Unicode | 配置 | 図形認識メモ | |
|---|---|---|---|---|
| ֹ | u+05b9 | :→1 | 右上に・ | |
| ׂ | u+05c2 | :→2 | 左上に・ | |
| ִ | u+05b4 | :→4 | 下に・ | |
| ּ | u+05bc | :→6 | 中央やや左に・ | |
| ֿ | u+05bf | :→9 | 上に- | |
| וֹ | u+05d5 u+05b9 | i→:→1 | וの右上に・ | |
| שׂ | u+05e9 u+05c2 | w→:→2 | שの左上に・ | |
| יִ | u+05d9 u+05b4 | e→:→4 | יの下に・ | |
| בּ | u+05d1 u+05bc | a→:→6 | בの中に・ | |
| וּ | u+05d5 u+05bc | i→:→6 | וの左に・ | |
| כּ | u+05db u+05bc | c→:→6 | כの中に・ | |
| תּ | u+05ea u+05bc | m→:→6 | תの中に・ | |
| בֿ | u+05d1 u+05bf | a→:→9 | בの上に- | |
※出現率はいずれも稀。
※[']は[:→Space]の2打鍵が必要となる。
幾つかの特殊文字は、後置特殊文字を使用せず1文字で扱うUnicodeで表現することもできる。実際、monkeytypeではそのUnicodeでもミス判定にならない。だが、TypeRacerとKlavogonkiではミス判定になる。面倒でも、後置特殊文字を使用する必要がある。対象は表10の通り。
| 特殊文字 | 正しい設定 | ミス判定となる設定 |
|---|---|---|
| אָ | u+05d0 u+05b8 | u+fb2f |
| אַ | u+05d0 u+05b7 | u+fb2e |
| פֿ | u+05e4 u+05bf | u+fb4e |
| פּ | u+05e4 u+05bc | u+fb44 |
※直近10戦の平均速度が80wpmを超えた時に得られる称号。Megaracerかそうでないかで、出現する文章が一部異なる。
Megaracerで出現する文章を確定させるには、さらに数百回打ち切る必要がある。今回はそれを実施する前にTypeRacerおよびKlavogonkiで100wpmを達成したため、イディッシュ語の練習を一旦終了した。将来monkeytypeに語彙増加版が追加された場合や、TypeRacerで110wpmを目指すことになった場合に、この調査を完成させる意思はある。
90wpm以上を記録した計43回のトライアルの正確性と速度の分布を図3に示す。正確性と速度の相関係数は0.182で、相関性はほぼ無いと言える。とはいえ、逆相関も無いから、ミスが多ければ速度が伸びるわけでもない。
43回のトライアル中、正確性100%は8回記録した。また、100wpmを超えたトライアルのうち1回は正確性100%だった。しかし、正確性が100%でなくても90wpm以上は35回出している。
一方、正確性99%未満で90wpm以上を出したことは4回しかない。そこまでミスタッチが頻発するトライアルは、ほぼすべて棄権している。大抵の場合、1ミスを起点にミスが連鎖し、立て直せない状況に陥るためだ。さらに、正確性99%未満で96wpm以上を出したことは一度も無い。即ち、筆者の現在の実力で96wpm以上を狙う場合、正確性99%以上がほぼ必須だ。また、96wpm以上を出したトライアル5回中3回は正確性100%であった。以上により、正確性99%以上を確保しつつ、可能な限り100%を狙う必要があると結論できる。
90wpm未満のトライアルも含めるとまた違う結果が出るかもしれない。しかし筆者の目標は100wpmであるから、その計算に意味は無い。一方、将来110wpm、120wpmを狙う際には、また違った結果が出るかもしれない。例えば朝鮮語/韓国語では、ノーミスを狙うよりも、1ミスを許容してヤケクソ加速する形での記録狙いを積極的に採用した。

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そして8戦目!
イディッシュ語102.37wpm(99.8%)! 100wpm突破!!!!! 画像はこちら。9/20の記録を4.60wpm更新した。現時点で唯一100wpmを狙える文章で気持ち良く加速した。[האַלטן דעם: איז](これを保持する)で始まる3.0行の文章だ。ラップ6で大きく落ち込むも、他では98wpm以上を維持した。[זענען](は)を[זענהען]とカスるも、冷静に全消し修正した。ここで109wpm→105cpmと低下するも、その後を耐えきった。
直後のテストでも打ちやすい文章に恵まれ、一発で82.3wpm(95%)を出して撃破。正確性重視で臨み、隠れて見えない部分は適当に埋めた。これで52言語中46言語目の500cpm突破だ。残りはアラビア語、ペルシャ語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、ヒンディー語、タイ語だ。 |
100wpm到達前に85wpm以上は49回、90wpm以上は23回、95wpm以上は3回出した。ギリシャ語や朝鮮語/韓国語と比較すると圧倒的に少ない試行回数で到達できた。ヘブライ文字を習得済みだったこと、monkeytypeで練習を積み重ねたことが要因として挙げられる。
とはいえ、その後10/5まで練習を続けても100wpmが安定したわけではない。ボリュームゾーンは緩やかに向上しているものの、95wpm以上を出せることすら稀である。結果的に、一部の打ちやすい文章でたまたま100wpmを突破できたという状況だ。

monkeytypeで100wpmを達成した時点の実力ではTypeRacerに歯が立たなかった。90wpm突破までは比較的順調だったのに対し、その後95wpm突破、100wpm突破に長い時間を要している。また、100wpm突破後に1週間練習したのに、その後更新できなかった。
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※回数は、記録を出した時点での総練習回数。その日までの総練習回数とは必ずしも一致しない。
※上記データはTypeRacerのPremiumで取得できるレースデータから取得した。
●Klavogonkiのイディッシュ語で100wpmを目指せ!(2025/9/28〜10/5)(11/2追記)
6/1-8/31にはKlavogonkiを用いた多言語大会であるMEGAlingua 2025に参戦した。イディッシュ語も期間中に12回打ち込み、最終的に80.6wpm(ミス2)まで伸ばした。
その後9月中にmonkeytypeとTypeRacerで鍛錬し、相次いで100wpmを達成した。そこで、最後にKlavogonkiでも100wpmを目指すことにした。なお、TypeRacerは文章一覧が完成するまで、もしくはKlavogonkiで100wpmを達成するまで、やや時間を減らして継続することとした。
また、1行目の左端に記号や数字がある場合、打鍵順序に注意が必要だ。その一覧を表12に示す。例えばNo.8では、1行目の左端に["-א]、右端に[אזי]がある。この場合、左端の["-]を打ってから右端に移動し、ヘブライ文字を右から左に打っていく。1行目の左から三番目の[א]は1行目の最後に打つ。記号に気付かず右端の[אזי]から打ち始めたり、記号に気付いても最初に["-א]と打ったりするとミス判定だ。また、["-]の直後にスペースは不要だ。非常に紛らわしいのが、No.86とNo.102だ。両方とも左端に["אַ]がある。しかし打鍵順序は異なる。とっさに判断するのは難しいため、暗記に頼るしかない。
| No. | 1行目左端 | 1行目右端 | 打鍵順序 |
|---|---|---|---|
| 8 | "-א | אזי | ["-]→[אזי]→…→[א] |
| 29 | (לויט … הארטמאָן). | אין | [(לויט … הארטמאָן)]→[.]→Space→…→[אין] |
| 65 | : (מאָל | וואָס | [: (]→[וואָס]→…→[מאָל] |
| 77 | ...מאָל | האָב | [...]→[האָב]→…→[מאָל] |
| 86 | "אָ | און | ["]→[און]→…→[אָ] |
| 102 | "אַ | וואָס | [וואָס]→…→[אַ]→["] |
| 124 | (געלעכטער) (אַפּפּלאַוסע) | אוג | [(געלעכטער)]→[(אַפּפּלאַוסע)]→Space→[אוג]→… |
最終行の右端に[.]以外の記号がある場合も、打鍵順序に注意が必要だ。その一覧を表13に示す。こちらは、「ヘブライ文字を右から左に打つ」→「右端に戻り、記号を左から右に打つ」という法則を覚えておけば良い。
| No. | 最終行右端 | 打鍵順序 |
|---|---|---|
| 19,24,26,54,86, | ". | (ヘブライ文字)→["]→[.] |
| 91 | "... | (ヘブライ文字)→["]→[...] |
| 28,101,102 | ?". | (ヘブライ文字)→[?]→["]→[...] |
| 112,134 | !". | (ヘブライ文字)→[!]→["]→[...] |
| 2,7,14,27,41,43,51,56,61,65, 79,81,85,126,127,128,131,158,166 | ?. | (ヘブライ文字)→[?]→[.] |
| 9,57,69,96,120,157 | !. | (ヘブライ文字)→[!]→[.] |
但し、このような文字が多数出現すると失速を免れない。例えば、[אָבֿות-אַבֿותינו,](私達の祖先)、[כּבֿוד](名誉)が苦しい。[בֿ][כּ]は想定よりも頻出するため、出現頻度の低い文字を潰してでも1〜2打鍵化すべきか。これは将来110wpmを目指す時の課題だ。
直後に表示されたテストは、ヘブライ語と同様のムリゲーだ。以下の要因が解消されない限り、打つのは時間の無駄。
・通常右→左と読むべきところ、左→右に記述されている
・ダイアクリティカルマークの位置が約1文字分右にずれる(例: [וואָס]の3文字目に付くべき装飾が4文字目の下に見える)
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※回数は、記録を出した時点での総練習回数。その日までの総練習回数とは必ずしも一致しない。
※上記データはKlavogonkiのPremiumで取得できるレースデータから取得した。速度は小数第一位までしか取得できない。
●参考文献
・イディッシュ語 (Wikipedia)
・ヘブライ文字 (Wikipedia)
→イディッシュ語およびヘブライ文字に関する一般的な知識を得るため、最初に参照しました。
・Unicode and HTML for the Hebrew alphabet (Wikipedia)
→ヘブライ文字のHTML表記を調査する際に参照しました。
・Unicode
→イディッシュ語に出現する特殊文字のHTML表記を調査する際に使用しました。URLの末尾にUnicodeを追加すると、例えば[ַ](Unicode: U+05B7)はこちらのように表示されます。ちなみにUnicodeは、当該文字を検索するなり、MSKLCに張り付けるなりすれば表示されます。
・Home - instant tools
→出現文字別の分類と集計に文字出現頻度分析ツールを使用しました。このツールは、イディッシュ語のみならず多言語の解析に、以前から大変役立っています。
●各種資料
・monkeytype:出現文字・単語の分析資料
→monkeytypeのyiddishに出現する単語の各種情報を調査・分析した資料。
・monkeytype:練習実績とグラフ
→monkeytypeのyiddishの練習実績を集計し、グラフを描画した資料。
・TypeRacer:練習実績とグラフ
→TypeRacerの練習実績を集計し、グラフを描画した資料。