Intersteno2015オフライン大会@Budapest:レポート(2015.7.17-7.25)



Interstenoとは
結果
プロローグ
TP(Text Production/英文ガチ入力)
TC(Text Correction/文書校正)
WP(Word Processing/文書作成)
英語力とTP/TC/WPの関連性
感想(というよりも反省)
ベルリン大会に向けて
参考文献・謝辞


●Interstenoとは

Intersteno(国際情報処理連盟)とは、1887年に設立された、速記者やタイピストを中心とする団体である。オフラインの速記およびタイピングの大会を2年に1回(2007年以降)、オンラインのタイピング大会を1年に1回(2003年以降)実施している。以下の記述は、2015年7月に開催されたオフライン大会に関するものである。

公式ランキングはこちら。→TP(Text Production)TC(Text Correction)WP(Word Processing)

オフライン大会には、現時点ではTP13言語(方言および、別枠扱いの中国語を含む)、TC/WP11言語で参加可能である。今回は日本語では参戦できなかったため、日本人参加者は英語で参加した。

筆者はTP/TC/WPの3種目に参戦した。他の種目(AT/SC/RT/NT)は、Listening能力不足で合格ラインに届かない可能性が濃厚と判断したため、参戦を見送った。


●結果

【TP】

Name総打鍵数CPM総ミス数%errorPoints順位/参加者数
たにごん16950565.040.024165507/107
表彰ライン15000以上500.0以上-0.250以内15000-
dqmaniac14713490.4100.0681371327/107
合格ライン10800360.0-0.250以内--

※表彰ラインとは、壇上で表彰されるために最低限必要な得点を指す。この得点に届かなければ、3位以内に入っても表彰されない。
※合格ラインとは、ランキングに掲載されるために最低限必要な条件を指す。

【TC】

NameCorrectErrorPoints順位/参加者数
表彰ライン140以上-14000-
たにごん772670037/83
dqmaniac814610044/83
合格ライン60---

【WP】

Name正答率順位/参加者数
表彰ライン80%-
合格ライン50%-
dqmaniac45%?/43

※合格ラインに届かなかったため、順位も出ず。

TPはともかくTCでもたにごんに敗北したのは、超絶悔しい。その原因がケアレスミス2回だったため、なおさらだ。さらにWPで、あと正答率5%の差で合格ラインに届かなかったのも、超絶悔しい。


●プロローグ

Pocariさんの尽力で今年から日本人の本格参戦が実現した。これは今になって思えば非常に画期的なことだった。だが、当初は積極的に参戦する気になれなかった。
オンライン大会と違って参戦できるのは1言語のみであり、総合力で強みを発揮するタイプの筆者にとっては上位を狙うのが難しいと感じたためだ。正直言って、Budapest行きの主目的はハンガリー最高峰であるMt. Kékes登頂であって、Interstenoオフライン大会はおまけに過ぎなかった(失礼)。必然的に、Interstenoの会議や国会議事堂の速記見学ツアーにも興味は無く、余った時間は他の場所の観光(例:国立博物館)に充てるつもりだった。

タイピングの練習は、5月上旬にオンライン大会が終了した後、タイプウェルオリジナルをコツコツと伸ばしたのみだ。これにより、初見の単語をランダム文字列と捉えて打鍵する能力だけは上がったかもしれない。だが、英文の練習には全くなっていない。TCやWPに関しても、後述の理由で早々にモチベーションを失った。その後2カ月もの期間があったのにもかかわらず、全く対策することなく本番を迎えた。というよりも、一応海外に遠征するというのに、準備を開始したのが出発当日の帰宅後という体たらくだった(ちなみに荷造りは30分で完了)。

以上の理由により、オンライン大会のレポートのように戦略や戦術を記述することはできない。確かに、敢えて無策で挑み、自らの素の実力を世界に問うてみたかったという一面もある。だが実際には、モチベーションの維持・向上に失敗したという面が大きい。今回の惨敗の最大の原因はここにある。


●TP(Text Production/英文ガチ入力)

※以下、【競技概要】および【評価】に関しては、
大会実施規定より引用・要約した。

【競技概要】

・タイプされた文章を見ながら、画面にそのまま入力する。
・制限時間は30分。
・打つべき文章はA4の白紙に黒字で印刷されている。
・各ページに、5行ずつのテキストが7ブロック配置されている。
・但し、Returnキーや行間調整等でテキストを段落ごとに分断する必要は無い。
・ハイフネーション(ハイフンによる、改行時の長い単語の分断)は無い。
・Courierフォント・12pt・行間1.5行。
・速度制限は「360文字/分(72wpm)以上」、ミス制限は「0.25%以内」

【評価】

・スコアは「総打鍵数−ミス数×100−α」
・ミスの定義は以下の通り。
 →脱字、余字、誤字(1単語につき最大1ミス)
 →2文字、2単語の入れ替えミス
 →1単語あるいは複数単語のすっ飛ばし、追加
 →スペース脱落、スペース余剰
 →行単位のすっ飛ばし、再打鍵、入れ替え
・単語や行をすっ飛ばした場合、その分の「文字数」も差し引かれる。
・最後の10文字に含まれるミスはカウントされない。
・最後の10文字にミスがあった場合、最後の正解文字までを打鍵数としてカウントする。
・上記スコアを基にランキングが作成される。
・表彰条件は「15000点以上」かつ「1〜3位」

【傾向と対策】

速度を上げることも重要だが、それ以上に正確性を上げることが非常に重要である。1ミスにつき100点の減点はオンライン大会の倍であり、表彰ラインの15000点を目指す際に重くのしかかる。さらに、30分間耐久という条件が厳しい。特に後半に疲労が蓄積すると、速度は低下するし、ミス率も増加する。

参考までに、多くの日本人参加者にとって馴染みの深い毎日パソコン入力コンクール(以下毎パソ)の英文部門と比較した時のInterstenoのレベル感は以下の表の通りである。より長時間にわたり、正確性を保ちつつより高速なタイピングを続けなくてはならない。

種目時間速度制限ミスペナルティ
Interstenoオフライン大会30分360文字/分
Interstenoオンライン大会10分360文字/分
毎パソ英文B決勝5分無し(実質300文字/分)最大

※毎パソ英文B決勝の速度の目安「実質300文字/分」は、第8回大会以降の第5位相当の実績を参考に記述した。第7回以前はルールや参加者層が異なるため除外した。

……

以下、対策の一例を記述する。これは筆者が断続的に15年ほど試行錯誤してきた方法をベースとしたものであり、万人向けではない。より効率的な方法もあるかもしれない。いろいろな人のアイデアを出し合って、結果として日本人の得点アップにつながれば良いと考えている。

(1) 英文打鍵速度の向上

基本中の基本。いくらテクニックを駆使しても、ベース速度が不足すれば容赦なく足切りされる。英文入力の練習ソフトとしては美佳テキスト、タイプウェル憲法E、毎パソソフト、TypeRacer等が挙げられる。Interstenoのオンライン大会で使用されるTakiソフトウェアも有用だ。これらのソフトで、最低500文字/分を目指す。さらに、このレベルに安住せず600文字/分、700文字/分、800文字/分を貪欲に目指して鍛錬を積み重ねる。身も蓋も無い事実を言うと、この段階で800文字/分を出せなければ、2015年大会で1位を獲得したCelal Aşkın氏には勝てない。

なお、ある段階までは短距離種目で練習を積み重ね、単語やフレーズごとの高速な運指を脳と指に染み込ませるのも有効だ。有用な練習ソフトとしてはタイプウェル英単語(拡張を含め約6000語をカバー)、e-typing英語(英文の基本練習)が挙げられる。但し、これらのソフトは次に述べる持久力の向上には役立たない。なぜならば、習熟すれば1分かからずに終わってしまうためだ。

(2) 持久力の向上

Interstenoオフライン大会では30分間も英文を打ち続ける。これは、普段からe-typingやタイプウェル英単語等の短期決戦(1分以内に終了する)に慣れている人にとっては非常に厳しいと思う。長文になればなるほど、脳・目・指・腕に疲労が蓄積し、速度の低下とミスの増加に結びつく。従って、タイピングにおける持久力を向上させ、速度の低下とミスの増加を最小限に抑える必要がある。

持久力の向上には、二つのアプローチが考えられる。一つは、長時間(最低30分間)打ち続ける練習をすることだ。既存の練習ソフトはこのような長時間の練習を想定していないため、自分で工夫するしかない。筆者が実践したのはタイプウェル憲法Eの全文打ち切りだ。また、Interstenoオンライン大会で用いられるTakiソフトウェアを利用して、10分間練習を3回連続で実施するのも良いだろう。

もう一つは、打鍵時の無駄を減らすことだ。即ち、ミスタッチ(ミスではない)を減らすのに加えて、無駄な力を入れずに打鍵する。いずれも、大会本番で意識して突然できるものではない。普段から、長文を少ない疲労度で安定して打ち切る訓練を積み重ねる必要がある。

(3) ミス対策

Interstenoオフライン大会では、ミス対策に特化した練習が必要だ。例えば、Wordのスペルチェック機能でミスを判別することが可能である(centre等、一部の単語を除く)。但し、修正するという行為が得点的にプラスになるか否かを常に判断する。基本的に、ミスを1つ修正すれば100点増える。だが、600文字/分ペースなら、10秒あれば100文字入力できる。つまり、「修正時間+元の場所に戻る時間+再びトップスピードに上げるまでの時間」の合計が10秒以上かかるなら修正しない方が良い。例えば、1行前の同じ場所にミスを見つけた場合は、すぐに修正と復帰が可能なので、修正すべきだ。だが、10行前の文末にミスを発見し、自分が今打っているのが文頭という場合には、復帰までに10秒かかる可能性もある。こういう時はまず文末まで入力した後、マウスなり矢印キーなりでミス箇所に行って修正し、それからCtrl+↓←等で元の場所に戻るのが最速の方法だ。これを即座にできないようなら、というよりも即座に体が動かないようなら、ミスの修正を諦めて先に進むべきだ。

上記を実行する大前提として、そもそもミスタッチをいかに減らすかが決定的に重要だ。その上で、ミスタッチした瞬間に画面を見ずに自信を持って修正できれば問題無い。だが、大抵の場合は自信を失い、画面を確認する羽目になる。この段階では、対策(4)に移行する前に、(1)で挙げたソフトを正確性重視で打つ練習を積み重ねるのも良い。但し認識しておくべきなのは、これらのソフトは基本的に、画面上に表示される英文を見て入力する形式ということだ。特に美佳テキストとタイプウェル憲法E、TypeRacerでは、ミスした時の探索時間がゼロに等しい。なぜならば、ミスした箇所を都度修正しなければ先に進めない仕様となっているためだ。また、Takiソフトウェアに関しては、矢印キーによるカーソルの移動が無効なので、2行前にミスを見つけても修正する気になれない。せっかく2行打ったのにそれをむざむざ消してまで修正するよりも、その時間で先に打ち進んだ方が得点が伸びるためだ。

(4) 初見文章を紙を見て入力する練習

Interstenoオフライン大会は、毎パソ決勝と同様、紙を見ながら入力する方式だ。従って、紙だけ見て画面を一切見ない(ミス修正時は除く)という入力方法にも、ある程度の慣れが必要だ。理由は、ミス修正時に、自分が今どこを打っているか分からなくなるためだ。この探索時間は、焦っているとすぐに5秒、10秒、…と経過していく。特にミスタッチが多い場合、30分間の制限時間中3分くらいは「何も打てず迷っている時間」になりかねない。これは大変なマイナスだ。

このロスを抑制するため、ミスを修正する直前に、現在位置がどの段落の何行目のどの辺なのかを把握しておく必要がある。幸いなことに、Interstenoオフライン大会では5行ごとに段落が区切られており、現在位置の把握は比較的容易だ。また、可能であれば、theのような頻出ワードの途中で止まることは避けたほうが良い。theは1つの段落に10回くらい出てくることもあり、他のtheと混同して1行すっ飛ばしの原因となるためだ。

なお、書見台を導入すればミス修正時の視点の動きが減少し、タイムロスの軽減につながる。筆者も切羽詰まってきたら導入するかもしれない。

筆者は過去に毎パソ決勝の初見文章対策として、紙を見ながら初見文章(主に社説)を5分間入力する練習をした。2006年10〜11月に220回、2007年11月に68回だ。この蓄積が、今回のInterstenoオフライン大会でも大いに役立った。具体的な方法は以下の通り。

・練習用ソフトは、Roadさん作のPractical Typeが良い。
・英文社説を入手する。GANGASさんの新聞コラム・社説を打とうのリンク集を活用する。
・自分の打鍵速度を勘案し、指定した時間で打ち切れる分量になるよう編集する。
 (500文字/分で30分間打つなら15000文字。数回分の社説を連結する必要がある)
・フォントや行間、1行あたり文字数等を、本番文章に合わせて設定する。
・紙に印刷し、それを見ながら入力する。

この過程で指先の感覚を磨き、ミスしたら即座に分かるレベルにまで引き上げている。ミスした時の修正の速度も、これらの練習の蓄積の中で少しずつ培われた。その結果、今回のInterstenoオフライン大会の課題ではeconomy(右手殺し)とexacerbate(左手殺し)で詰まりまくったものの、他の単語で詰まることはほとんど無かった。


●TC(Text Correction/文書校正)

【競技概要】

・15,000文字の文書をワープロソフトで見ながら、350箇所の校正を実施する。
・校正内容は、校正シート(紙)に記載されている。
・制限時間は10分。
・合格するには、校正シートの先頭から順に最低60箇所の校正を実施要。
・Interstenoにより国際的に認められた校正記号に従って実施する。
・削除、置き換え、並べ替え、挿入、太字による強調、下線、整列、
 インデント、文章構成(text structure)を含む。
・最後の笛が鳴った後、Enterキー5連打を実施要。
 その後、最終結果を保存する。

【評価】

・スコアは「校正済み数×100−校正失敗数×500」
・校正は先頭から順に実施する。すっ飛ばした場合は校正失敗数にカウントされる。
・校正失敗とは、「不完全な場合」「すっ飛ばした場合」「余分な修正を加えた場合」である。
・上記スコアを基にランキングが作成される。
・表彰条件は「14000点以上」かつ「1〜3位」

【傾向と対策】

Intersteno独特の校正記号の把握は当然の前提として、さらに正確性+速度が重要だ。制限時間は10分しかない。表彰ラインに到達するには最低140問の修正が必要だ。即ち1分間に14問、1問あたり4.3秒であり、瞬時の判断と操作が必要だ。このため、例えばWord2010を使用する場合、以下のショートカットキーへの習熟は必須だ。

ショートカットキー効果
範囲選択後、Ctrl+BBold(太字)
範囲選択後、Ctrl+IItalic(斜体)
範囲選択後、Ctrl+UUnderline(下線)
フォーカス後、Ctrl+ECenter(センタリング)
範囲選択後、Shift+F3Upper text(すべて大文字に)
Ctrl+Shift+→1単語選択
Shift+End行末まですべて選択
Ctrl+Delete1単語削除

※その他:「Indent 6mm」は「範囲選択→右クリック→インデント」→左側「0字」と表示されているところに「6mm」と直接入力。ショートカットキーは恐らく無い。


●WP(Word Processing/文書作成)

【競技概要】

・USBメモリで渡されるテキストを、配布される紙に印刷された指示に基づいて編集する。
・競技時間は90分。
・競技内容:
 →構成、再構成、整形(文字単位、段落単位、ページ/セクション単位)
 →イラスト、図形、テキストボックス等の挿入や移動
 →選択、ソート、マージ
 →箇条書きと段落番号
 →(拡張)検索/置換、基礎的なマクロを用いた問題解決や工数軽減
 →表を効果的に使用し、情報を構成・再構成すること
 →指示されたレイアウトの範囲内で、目次や索引の作成
 →最高得点の50%以上を獲得すれば合格。

【評価】

・クリアした課題に応じて得点を得られる。部分点を獲得できる場合もある。
・クリアできなかった課題や、間違えた課題については、0点。減点は無い。
・上記スコアおよび、クリアタイムを基にランキングが作成される。
・表彰条件は「80%以上」かつ「1〜3位」

【傾向と対策】

タイピングを中心とした力技に頼っていては、時間がいくらあっても足りない。Wordの細かい機能(見出し、目次作成等)、Excel等を使った文字列操作、さらには正規表現やマクロの知識が必要だ。過去問対策は必須である。今回はスキル不足で歯が立たない問題があった。具体的な出題内容は以下の通り。なお、開始前に審判員に "Can I use Internet?" と質問してみたが、当然ながら答えは "No" だった。Regulationにも書いてあることであり、仕方ない。

問題配点内容
163Wordの知識。見出しと目次作成、ページ番号挿入の機能を使いこなせず轟沈。
また、正規表現を使えずひたすら置換を繰り返して時間を浪費した。
212Excelの文字列操作。WZ Editorも使用した。ここはほぼ満点だと思う。
325Excelマクロを短時間に(20分以内に)組めないと厳しい。ここも轟沈。

また、本番では制限時間90分を自由に使えるのではない。まず15分の問題文読解時間があり、残りの75分でのみPCに触れることができる。従って、問題文読解時間をフル活用して各問題をどのようなアプローチで解くかを検討する。そして、問題を攻略する順番や時間配分を決定しておく。そして残りの75分で、時々方針を軌道修正しながら、得点を最大化する努力を継続する。

筆者の場合、問題文読解時間中に第2問は短時間に完答可能と見切った。第3問は充分に時間があればマクロを組むことも可能だが、短時間では困難と判断した。従って、第2問を最初に瞬殺し、残りの時間は第1問で部分点稼ぎに徹するという戦術で臨んだ。Wordの目次作成機能は使ったことすら無かったため、余った時間を使って全部手入力しようと試み、途中で時間切れとなった。


●英語力と各種目の関連性

現時点で、TP/TC/WPを含めすべての種目に日本語は存在しない。よって、日本人は英語で受験するのがほぼ唯一の選択肢となる。独逸語等、他の言語が得意な日本人もいるだろうが、数は少ないだろう。従って、全種目共通の認識として、英語力(特に語彙とReading力)はあった方が良い。英語力が不足すれば問題文の指示の読解に時間を取られるし、得点もどこかで頭打ちになる。

TPやTCでは、打ったことのない単語、認識したことのない単語が出現すると、間違いなく認識速度と打鍵速度が低下する。単語でなくランダム文字列と認識するためだ。また、文意を把握できない場合、英文ではなく英単語の羅列を打つことになる。すると、単語/行/段落をすっ飛ばすリスクも増す。

WPでは、そもそも問題文の指示がすべて英語で記述されており、しかもA4サイズの紙にびっしりと7〜8枚もある。事前に対策しておけば、何をすれば良いかはある程度分かる。だが、過去問と全く同じ問題が出題されるわけではないため、細部の読解はどうしても必要となる。英語力不足の場合、90分という制限時間内に解ききるのはまず不可能だろう。

なお、他の種目(AT/SC/RT/NT)に関しては、Listening力が絶対に必要である。慣れの問題もあるかもしれないが、TOEICのListeningで満点に届かない程度の能力では合格ラインすら見えない。


●感想(というよりも反省)

今回はあまりにも対策をしなさすぎた。というよりも、対策を思いついても実行するモチベーションがなかなか湧いてこなかった。事前に大会実施規定や過去問を参照し、傾向と対策を調査するという最低限の仕事はしたものの、その時点で結果が見えてしまったためだ。

【TP】

正直ナメてかかりすぎた。合格ラインである「360文字/分かつミス0.25%以内」は余裕で達成できる自信があった。それどころか、表彰ラインである「15000点」(現実的には550文字/分かつ15ミス以内)すら何とかなると過信していた。従って、大会当日になって会場で
タイプウェル憲法Eを4章途中まで打ち、英文の打鍵感覚を取り戻そうとしたのが、最初で最後の対策だった。ちなみに全文打ち切る予定だったが、試験開始時間が近づいたところで審判員に停止させられた。本番では、対策不足が原因で、ベース速度が不足しすぎた。490文字/分はあり得ない。15000点までスコアアップすれば、ランキングでも17位相当にまで上がったのに!

【TC】

4月末に過去問を解いてみた。その時は10分間に60問が精一杯であり、辛うじて合格ラインには届くものの、表彰ラインである140問(正確には14000点、つまりノーミス140問)にはどうやったら届くのか、見当もつかなかった。ある程度は慣れで伸びるとしても、現状の81問/10分から2倍近い速度を獲得するには一体どうすれば良いのか。なお、本番では全消しの校正記号がifに見えたため、うっかりifに変えてしまうというケアレスミスを2回もやらかした。3回目で前後の文脈から明らかにifが入らないことに気付いたものの、2回目までのミスを修正する気にはなれなかった。探索→修正→復帰で合計1分以上ロスすることが予想され、その間に10問解いて失点をカバーすべきと判断したためだ。

なお、前夜と本番直前には即席の学習会を実施した。と言っても傾向と対策を説明し、必須ショートカットを共有する程度であったが。また、本番直前に30分ほど余裕時間があった。これは、当日配布された本番課題入りのUSBメモリが全部「空」というハプニングがあり、監督者が本部に確認に行っていたためだ。たにごんが(タイプウェル英単語で)「ZGを出した」などと煽ってきたため、筆者も(タイプウェル数字で)ZF→ZDと出して煽り返す。そうこうしている間に前方の中国チームも刺激されたのか、中国語のコードキーボードで400文字/分という凄まじい漢字入力を開始する。さくらんが中国語で会話したところ、トップレベルは750文字/分という爆速らしい。良い雰囲気だ。ちなみに筆者はタイプウェル数字にもそのうち飽きたため、TOLを打っていた。

【WP】

過去問に2回挑戦した。だが、いずれも途中で挫折した。原因は、Wordの細かい機能(目次作成、ページ挿入等)を把握していなかったことと、Excelマクロを短時間で組む経験が不足だったことだ。対策をする気力も湧いてこないほどにスキルレベルが不足していた。普段から系統的な知識獲得を行わず、困った時にはGoogle先生に頼りまくっていた弱点が露呈された。次回もこの種目に挑戦するには、相当高いモチベーションが必要だ。但し、表彰ラインは難しくともせめて合格ラインに到達していれば、Combined listに掲載され、かつ3種目総合でたにごんを上回る可能性があった。この意味で非常に悔いが残る。

この種目でも、開会式終了後に直前になってから即席の学習会を実施した。と言っても筆者の理解が甘かったため、傾向を説明するだけで終了してしまったが。

【その他の感想と反省】

日本人チーム全体でも、以下のように合格率が世界標準に遠く届かないという惨敗を喫した。慣れない異国での生活、時差ボケとの闘い、外国語である英語での受験というさまざまなマイナス要因を差し引いても、この結果はひどすぎる。次回ベルリン大会でリベンジを狙うなら、この結果から目をそらしてはいけない。

種目世界日本人
受験者数合格者数合格率受験者数合格者数合格率
TP1076459.8%12216.7%
TC836679.5%6233.3%
WP432148.8%500.0%

※いずれもSeniors(21歳以上部門)の数字。TPはstandard keyboard(標準キーボード部門)のみ。

この結果を受け、Twitter上でたにごんが次回ベルリン大会でTPの合格者を増やすことを自らの課題に挙げていた。一方、TCやWPを含む全体のレベル底上げの責任はむしろ筆者にあったと考えている。まず、筆者の(特にTPに対する)ナメきった態度が他の日本人参加者にも伝播した点は猛省すべきだ。たにごんが3月の企画会議で「TypeRacerで山篭りをしよう!」と提案したり、mayoがその後TypeRacerの練習会を毎週開催したりと良い雰囲気ができており、それに伴いやる気になっているメンバーも居たのに、筆者は最後までいずれにも参加しなかった。

せめて、事前に練習の必要性を強調し、タイプウェル憲法Eの全文打ち切り等の対策を率先垂範して実行すべきではなかったか。TPが30分間耐久打鍵という事実や、TC/WPを解いてみた感想をもっと発信し、危機感を煽っておけばと思わずにはいられない。全体の底上げは、時として自分のスコアアップにも直結する。例えば「Wordの目次の作り方教えて!」とメンバーに呼びかけておけば、良い知恵が出てきたかもしれないのだ。自分のスコアを引き上げる努力を放棄したのみならず、チーム全体の底上げをも怠ったのは、もはやS級戦犯と言っても差し支えない。


●ベルリン大会に向けて

幸いなことに、戦略と戦術のゼロからの構築(敢えて見直しとは言わない)により、個人としてもチームとしても総得点を伸ばす余地は多い。

【TP】

先述した4項目の対策、即ち「(1) 英文打鍵速度の向上」「(2) 持久力の向上」「(3) ミス対策」「(4) 初見文章を紙を見て入力する練習」が基本となる。筆者に関しては一通り対策が終わっているため、さらなるレベルアップのために再び(1)から繰り返す。あるいは、皆で知恵を出し合えば、対策(5)(6)が出てくるかもしれない。サミットやオフ会等を利用して情報共有の機会を設定しても良いだろう。ベルリン大会までの2年間を有効に使い、活路を見出したい。

【TC】

作業速度と正確性を向上させたい。操作に習熟すれば、100問/10分までは伸びると考えている。だが、表彰ラインの140問/10分は全く見えない。日本人チームの中で知恵を出し合って底上げするだけでは限界があると思う。ここは発想を転換し、チェコやドイツのチームがどのように解いているか見学する機会を頂くことはできないか。あるいは、将来の日本語採用を見越して、日本語版のTCの問題を作成し、140問/10分に届くか否か見極めてみるのも良いだろう。

【WP】

まずは不足しているスキルの獲得が急務だ。特にExcelマクロおよび、Wordの目次作成やページ挿入等の機能に習熟しておきたい。また、過去問を解き直し、出題傾向をより詳しく把握しておきたい。さらに、この種目に関しては、1人で対策するよりも数人でアイデアを出し合った方が明らかに効率的だ。このため、学習会の開催も検討する。また、先達は必ずいる(Microsoftの専門資格保持者等)と思うので、条件が揃えば講習会の開催を依頼しても良いだろう。


●参考文献・謝辞

Pocariさん:Interstenoオフライン大会への日本人初参加に向けて、大会自体の周知に始まって、さまざまな障壁のクリアを先頭に立って推進頂きました。この方の尽力なくしては、筆者はInterstenoの存在すら知らず、まして参戦など考えもしなかったことでしょう。ありがとうございました。

たにごんさん:言わずと知れた日本のエース。TPで世界7位という自らの結果を知った時の、Twitter上での今までにない凄まじい決意表明には、激しく心揺さぶられました。このレポートを執筆する動機の半分は、当時のTwitter上でのやり取り(内容はかり〜さんがこちらにまとめて下さいました)から生まれました。きっと今回の日本人参加者の多くも、同じ思いだったことでしょう。

mayoさん:TypeRacerによる対戦会を毎週開催して頂きました。英文入力のベース速度底上げへの貢献は最大だと思います。そしてほぼすべてサボってしまってすみません。

愛する家族:夏休みという、本来は育児・家事・家族サービスに充てるべき貴重な時間をすべてBudapest大会に投入できたのは、間違いなく家族のおかげです。ありがとう! ……というよりも、我ながらろくでもない夫・父親だと思う。2017年以降もオフライン大会に参加するなら、夏休みを2年おきに潰すことになるというジレンマがある。


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