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オンライン大会には、最大17言語で参加可能である。練習サイトであるTakiソフトウェアの順番に並べると、イタリア語、英語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、スペイン語、トルコ語、ポルトガル語、ルーマニア語、日本語、フィンランド語、チェコ語、スロバキア語、ハンガリー語、ロシア語、ポーランド語、クロアチア語/セルビア語である。
各言語で初見の課題を10分間打ち、「総打鍵数−ミス数×50」を得点とする。この得点の合計値で競う。従って、速度を上げることも重要だが、それ以上に正確性を上げることが非常に重要である。但し、毎日パソコン入力コンクール(以下「毎パソ」)とはミスの定義が違う。例えば、1単語内の入れ替えミス(例:that→taht)や、1行すっ飛ばしは、1ミスとカウントされる。
言語 | 得点 | 速度(文字/分) | ミス数 | 順位 | 参加者数 |
---|---|---|---|---|---|
英語 | 5797(+143) | 589.7(-0.7) | 2(-3) | 4(-1) | 338(+13) |
イタリア語 | 5672(-154) | 572.2(-10.4) | 1(+1) | 4(-1) | 205(-33) |
フランス語 | 5603(-417) | 565.3(-36.7) | 1(+1) | 3(-) | 153(-12) |
ポルトガル語 | 5502(-212) | 565.2(-6.2) | 3(+3) | 3(-1) | 100(-4) |
日本語 | 5469(+962) | 551.9(+91.2) | 1(-1) | 4(-2) | 150(+125) |
トルコ語 | 5370(+94) | 542.0(-0.6) | 1(-2) | 11(-) | 223(-4) |
スペイン語 | 5365(+145) | 536.5(-10.5) | 0(-5) | 4(-) | 153(+1) |
クロアチア語 | 5300(+250) | 530.0(+10.0) | 0(-3) | 2(-1) | 283(+78) |
ルーマニア語 | 5227(+116) | 527.7(+6.6) | 1(-1) | 3(-1) | 80(-2) |
オランダ語 | 5087(+35) | 538.7(+3.5) | 6(-) | 6(-3) | 193(-9) |
フィンランド語 | 4917(-362) | 531.7(-1.2) | 8(+7) | 2(-1) | 156(+20) |
ドイツ語 | 4875(+73) | 527.5(+17.3) | 8(+2) | 9(-2) | 327(+74) |
ハンガリー語 | 4698(+139) | 474.8(-1.1) | 1(-3) | 2(+1) | 98(+7) |
ポーランド語 | 4632(-91) | 463.2(-34.1) | 0(-5) | 5(+1) | 99(-) |
スロバキア語 | 4583(-155) | 468.3(-15.5) | 2(-) | 6(-4) | 240(+55) |
チェコ語 | 4514(-99) | 486.4(+5.1) | 7(+3) | 7(-3) | 311(+73) |
ロシア語 | 4478(-) | 452.8(-) | 1(-) | 9(-) | 43(-2) |
合計 | 87089(+4945) | 43(-5) | 2(-1) | 996(+157) |
※()内は昨年比。
※合計欄の昨年比は、言語数が違うため参考程度。ロシア語以外の16言語で比較すると+423。
※得点、速度、順位、参加者数は上がった時に+表示。ミス数は増えた時に+表示。
※オランダ語とフランス語にはベルギー方言、イタリア語にはスイス方言、ドイツ語・クロアチア語には本家、日本語にはtransliteratedで参加した。
※順位は4/12 日本時間7:00時点のもの。また、方言(例:本家ドイツ語とスイスドイツ語)はまとめて集計した。
言語 | 最高記録 | 平均得点 | 平均速度 | 平均ミス数 |
---|---|---|---|---|
英語 | 5984(-318) | 5638(-154) | 575.6(-18.9) | 2.36(-0.70) |
イタリア語 | 5672(-154) | 5608(+54) | 564.6(-1.6) | 0.75(-1.40) |
フランス語 | 5820(-200) | 5520(-226) | 563.6(-19.7) | 2.33(+0.58) |
ポルトガル語 | 5502(-212) | 5178(-183) | 530.7(-16.8) | 2.57(+0.29) |
日本語 | 5469(+566) | 5418(+819) | 556.8(+83.5) | 3.00(+0.33) |
トルコ語 | 5564(-107) | 5385(-37) | 549.0(-4.6) | 2.09(-0.19) |
スペイン語 | 5561(-7) | 5310(-76) | 544.9(-11.8) | 2.78(-0.84) |
クロアチア語 | 5300(-45) | 5084(+21) | 520.4(+0.8) | 2.40(-0.27) |
ルーマニア語 | 5227(-162) | 5043(-43) | 516.1(-6.4) | 2.36(-0.42) |
オランダ語 | 5387(-254) | 5038(-238) | 522.3(-21.5) | 3.70(+0.45) |
フィンランド語 | 5240(-145) | 5012(-159) | 526.2(-2.1) | 5.00(+2.75) |
ドイツ語 | 5255(-151) | 4988(-172) | 518.5(-10.7) | 3.93(+1.30) |
ハンガリー語 | 4782(+117) | 4497(+2) | 463.8(-7.4) | 2.82(-1.52) |
ポーランド語 | 4661(-62) | 4522(+8) | 468.8(-11.3) | 3.33(-2.42) |
スロバキア語 | 4866(-71) | 4595(-159) | 476.6(-10.9) | 3.43(+1.00) |
チェコ語 | 4844(+4) | 4600(+22) | 480.6(+3.6) | 4.13(+0.28) |
ロシア語 | 4531(+378) | 4227(+290) | 442.5(+24.5) | 3.95(-0.90) |
合計/平均 | 89665(-823) | 85661(-230) | 512.5(-16.8) | 3.05(+0.06) |
※()内は昨年比。
※上記の数字には本番も含む。
※Takiソフトウェアのバグによるミスと、それによる減点も含む。
一方、一昨年まで日本人の参加を取りまとめて下さったPocariさんが不在となり、筆者が昨年に続いて取りまとめを代行することとなった。2月中に動いたため、昨年と同様に大会期間を6週間確保できた。
●プロローグ
2022年オンライン大会の目標は、2019年の世界記録(17言語で85613)を更新して連覇と決定した。背景として、ここ数年検討されていた日本語(transliterated)がついに実装され、3年ぶりに17言語で参戦できることとなった。しかしその道のりは簡単ではない。確かに筆者にとっては日本語(transliterated)に切り替えることで約1000点のスコアアップが期待できる。一方、海外のライバルたちにとっては約5000点、あるいはそれ以上のスコアアップが期待できる。従って、2020年以前と比較すると激戦が予想された。とはいえ、16言語で85000、17言語で90000という昨年未達成の目標を達成する過程でこの激戦は避けては通れない。
●戦略
昨年のレポートの来年に向けてに記載した通り、全17言語で積極的に攻めることによる速度アップを狙う。もちろん、正確性を保ったまま高速化するのが望ましい。だが、大前提として速度を上げないことにはスコアも頭打ちになる。これに関しては、基本的に、2016年大会である程度確立した戦略を踏襲した。同様のアプローチでもう少し伸ばす余地があると考えていたためだ。但し、必要に応じて修正を加えた。(1) 各言語の配列の再検討 〜頻出特殊文字の1打鍵化〜
2017年と同様。
10月から1月にかけて、「未打鍵課題潰し」と称して、トルコ語、各種フランス語、スイスイタリア語の1分間練習を1日10回ずつ打ち続けた。それぞれ数百個の1分間課題を収集したのに、ろくに練習していないことに気付いたためだ。結局、トルコ語は99%以上、各種イタリア語は約97%、本家フランス語とスイスフランス語は約95%、ベルギーフランス語は約87%の課題を打鍵した。これにより、これらの言語は早期に10分間練習に移行できた。また、トルコ語の10分間練習の課題が大規模に修正されたり、セルビア語やルーマニア語の課題が追加されたりしたため、課題収集と入力を実施した。トルコ語、フランス語、イタリア語、クロアチア語の劣化を最小限に抑制できたのは、このためと考えられる。
Takiの練習課題の全文再入力とミスの検出も、平日の日課として進めていた。その結果、新たに約100万文字の課題に対して約200ものミスを検出し、精度を向上させた。詳細は後述する。
期間 | 言語 |
---|---|
1/31-2/6 | ロシア語、ハンガリー語、トルコ語、英語 |
2/7-13 | チェコ語、スロバキア語、ポルトガル語、スペイン語 |
2/14-20 | クロアチア語、ルーマニア語、イタリア語、フランス語 |
2/21-27 | ポーランド語、フィンランド語、ドイツ語、オランダ語 |
新型コロナウィルスの影響で在宅勤務となったため、平日は業務終了後に即練習できる。このため、当初は1分間練習によるリハビリを実施しつつも、徐々に本番を想定した10分間練習に切り替えた。単に10分間打つというノルマをこなすだけの無益な練習を徹底して排除した。但しスペイン語、日本語、フィンランド語、スロバキア語、ポーランド語、ハンガリー語の1分間練習または10分間練習の課題数は限られており、課題を覚えてしまうリスクがあった。このため、TypeRacerに参戦することもあった。
2015年〜2022年大会に向けた練習量の比較は表5の通り。2022年の練習量は2021年こそ上回ったものの、2018年以前と比較するとなお少ない。とはいえ、大会期間が6週間もあったため、大半の言語で必要十分な調整を実施できた。
言語 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
英語 | 11 | 245 | 86 | 151 | 7 | 51 | 17(-34) | 33(+16) |
イタリア語 | 6 | 11 | 16 | 11 | 5 | 10 | 13(+3) | 8(-5) |
フランス語 | 7 | 44 | 14 | 9 | 3 | 9 | 12(+3) | 12(-) |
ポルトガル語 | 6 | 21 | 14 | 15 | 14 | 13 | 14(+1) | 14(-) |
日本語 | 9 | 24 | 10 | 36 | 9 | 5 | 9(+4) | 3(-6) |
トルコ語 | 6 | 17 | 9 | 155 | 6 | 57 | 7(-50) | 11(+4) |
スペイン語 | 12 | 14 | 9 | 14 | 20 | 13 | 13(-) | 9(-4) |
クロアチア語 | 7 | 25 | 16 | 15 | 12 | 15 | 9(+3) | 10(+1) |
ルーマニア語 | 8 | 11 | 18 | 40 | 7 | 9 | 9(+3) | 14(+5) |
オランダ語 | 16 | 12 | 16 | 11 | 6 | 11 | 8(-3) | 10(+2) |
フィンランド語 | 17 | 8 | 6 | 8 | 5 | 5 | 4(-1) | 5(+1) |
ドイツ語 | 16 | 20 | 16 | 9 | 6 | 9 | 8(-1) | 14(+6) |
ハンガリー語 | 6 | 33 | 13 | 18 | 6 | 26 | 9(-17) | 11(+2) |
ポーランド語 | 9 | 11 | 10 | 13 | 6 | 7 | 4(-3) | 6(+2) |
スロバキア語 | 12 | 8 | 12 | 14 | 10 | 6 | 7(+1) | 7(-) |
チェコ語 | 12 | 13 | 16 | 35 | 11 | 10 | 13(+3) | 16(+3) |
ロシア語 | 0 | 35 | 94 | 44 | 14 | 67 | 7(-60) | 43(+36) |
合計 | 160 | 552 | 375 | 598 | 147 | 323 | 163(-160) | 226(+63) |
※上記の数字には本番および仕様調査を含む。
※各年の打鍵回数には、前年オンライン大会終了翌日から当年オンライン大会終了当日までのすべての10分間練習を含む。
今回の大会実施期間は2/28〜4/11となり、43日間確保できた。準備不足の言語を第5週以降に回すという戦略を適用できた。また、3/6の東京マラソンの影響も最小限に抑制できた。1週間あたりの本番実施数を2〜3言語とやや負荷を落とすことで、各言語の練習の質と量を確保し、スコアの低下を最小限に食い止めることができた。
本番に向けたスケジュールは表6に示す通りである。
期間 | 低速言語 | 中速言語 | 高速言語 |
---|---|---|---|
2/28-3/6 | ロシア語、ポーランド語 | フィンランド語、ドイツ語 | オランダ語 |
3/7-13 | ポーランド語 | フィンランド語、ポルトガル語 | 日本語 |
3/14-20 | クロアチア語、ルーマニア語 | フランス語、イタリア語 | |
3/21 | ハンガリー語 | トルコ語、ルーマニア語 | フランス語 |
3/22-27 | ハンガリー語 | トルコ語 | 英語、スペイン語 |
3/28-4/3 | チェコ語、スロバキア語、ハンガリー語 | 英語 | |
4/4-9 | チェコ語 | 英語 |
※ハンガリー語とトルコ語の配列は親和性が高い(öüをwqに配置)。
※フランス語とイタリア語の配列は共通。また、経験値が高い。
※チェコ語とスロバキア語の配列は親和性が高い(特殊文字を34567に配置)。
※スペイン語とチェコ語、スロバキア語、ハンガリー語の配列は親和性が高い(áéíを@[]に配置)。
※ドイツ語とオランダ語は言語として親和性が高い(ゲルマン語派)。
※ドイツ語とフィンランド語の配列は共通。
※ポーランド語とクロアチア語は言語として親和性が高い(スラヴ語派)。
基本的に、2016年以来のスケジュールを踏襲した。高速に打てる言語(英語、フランス語、イタリア語、トルコ語、オランダ語、スペイン語)と速度の出ない言語(ロシア語、ハンガリー語、ポーランド語、チェコ語、スロバキア語)を可能な限り分散させた。これは、高速に打つ感覚を維持するとともに、低速言語を底上げするためだ。
また、親和性の高い言語や、共通の配列を使う言語は、同じ週に打つのが効率的だ。逆に、混同する可能性の高い言語(例:フランス語とスペイン語、ハンガリー語とドイツ語、ポーランド語とチェコ語)を同じ週に打たないように注意した。なお、チェコ語とスロバキア語にも混同しやすい部分がある。だが、配列の親和性による相乗効果の方が上回ると判断し、同じ週に実行することとした。
……
最終的な本番実施スケジュールは表7の通りである。平日は仕事があるため、本番実施は土日や祝日がメインとなる。
日付・時間帯 | 言語 | 累計得点 | コメント |
---|---|---|---|
3/5(土)午後 | ドイツ語 | 4875 | びびり過ぎ。速度不足に加えてまさかの8ミス爆死 |
3/5(土)夜 | ロシア語 | 9353 | 集中練習の効果を発揮。目標の4500にはわずかに届かず |
3/5(土)夜 | オランダ語 | 14440 | びびり過ぎ。序盤に4ミスが集中、その後も立て直せず |
3/12(土)夕方 | フィンランド語 | 19357 | びびり過ぎ。前半ミスタッチの嵐。後半の加速もミスで相殺 |
3/12(土)夜 | 日本語 | 24826 | 残り20秒で痛恨の改行位置ずれ |
3/13(日)夕方 | ポーランド語 | 29458 | 奇跡のノーミス! だが、速度が伴わず |
3/13(日)夜 | ポルトガル語 | 34960 | 風呂効果を活用していい感じに打ち進んだ |
3/20(日)午後 | イタリア語 | 40632 | 今季自己ベストを出すも、昨年の爆発スコアは遠かった |
3/20(日)夜 | クロアチア語 | 45932 | 風呂効果を活用し、今季自己ベスト |
3/21(祝)夕方 | フランス語 | 51535 | 不調なりに正確性と速度の両方を重視して最善を尽くした |
3/21(祝)夜 | ルーマニア語 | 56762 | stコンマビロー配列を準備。文章に不備あるも、最善を尽くした |
3/26(土)夜 | トルコ語 | 62132 | 風呂後なのにびびり過ぎて指冷えまくり |
3/27(日)夜 | スペイン語 | 67497 | 打鍵から表示までにラグ多発。正確性重視で必死に耐えた |
4/2(土)夜 | ハンガリー語 | 72195 | 序盤浮足立つも、中盤以降は開き直って加速 |
4/3(日)夜 | スロバキア語 | 76778 | ラグ多発。ミスタッチ抑制で対抗するも終盤力尽きた |
4/9(土)午後 | チェコ語 | 81292 | 直前の練習にピークが合った。まさかの7ミス爆死 |
4/9(土)夜 | 英語 | 87089 | 風呂パワーをもってしても指が動かず |
●戦術
(1) 練習課題文の収集と入力、再入力
InterstenoのTakiソフトウェアに出現する1分間練習および10分間練習の課題文を収集した。結果はこちら。目的は、文字の出現頻度の調査の他に、ミスの原因把握と傾向調査である。2015年大会に向けた練習ではここができていなかったため、打鍵終了後に表示される結果画面からミスの原因を推測するしかなかった。ミスした単語をGoogle翻訳やGoogle検索に入力すると、正解らしき単語を見出せることもある。だが、すべてのケースでうまくいくわけではない。これでは練習効率が悪すぎる。
そこで、1分間練習の課題文を計2015個、10分間練習の課題文を計614個収集した(昨年以降の追加分は1分間課題54個、10分間課題79個)。さらに、収集したすべての練習課題を実際に入力してExcelシートに整理し、ミスの原因を正確に把握できるようにした。具体的な方法は2018年と同様である。
さらに、難関言語に限らず全文再入力を実施した。1分間練習の課題文のうち1770個、10分間練習の課題文のうち615個(トルコ語の旧課題を含むため多い)、合計で約800万文字を再入力した(昨年以降の追加分は1分間課題61個、10分間課題87個、合計で約100万文字)。その結果を過去の入力結果とEXACT関数で比較し、計2400箇所を超えるミスを検出した(昨年からの増加分は約200箇所)。この作業の結果、残存ミス率は約0.05%から0.001%未満に減少したと推測される。
ドイツ語には本家ドイツ語の他にスイス方言が存在する。2019年以降は前者を採用している。両者の主な違いは、後者には原則としてß(エスツェット)が存在せず、ssで置き換えられることである。つまり特殊文字が1種類減るため、短期間での攻略が容易になる。但し、長い目で見れば、ssという連打に耐え続けるよりもßの位置を覚えて打つ方が負担が少ない。いずれにせよ出現頻度は低いため、実際には大差無い。なお、2016年と2018年のスイスドイツ語の本番では、ßが複数回出現した。このような場合に備え、ßを含む配列を準備し、かつ位置を把握しておく必要はある。
フランス語には本家フランス語の他にスイス方言、ベルギー方言が存在する。2016年以降、バグが最も少ないベルギー方言を採用している。但し、本質的な違いは調査しても分からなかった。その後、Taki担当者とのやり取りの中で、本家フランス語やスイス方言では記号(;:!?)の直前にスペースが入る一方、ベルギー方言では入らないとの情報を頂いた。普段打ち慣れた仕様であるベルギー方言を選択して正解だった。
オランダ語には本家オランダ語の他にベルギー方言が存在する。本質的な違いは調査しても分からなかった。一字一句違わない課題文章を両者で使い回している事例も複数存在した。但し、一部の特殊文字は方言により得点が違うことがある。特にオランダ語ではベルギー方言の.が2点なので、スコアにして約1%有利になる。この仕様に気付いた2019年以降、ベルギー方言を採用している。
イタリア語には本家イタリア語の他にスイス方言が存在する。本質的な違いは無い。一部の特殊文字は方言により得点が違うものの、その頻度は非常に少ないため、影響は限定的だ。なお、2022年の本番ではスイス方言を選択した。たまたま練習でスイス方言の未打鍵課題潰しを実施していたためだ。
クロアチア語の代わりにセルビア語(ラテン)、セルビア語(キリル)を選択できる。セルビア語(ラテン)はクロアチア語とほぼ同じだ。セルビア語(キリル)はロシア語と同様キリル文字を使用する。しかしロシア語と違う特殊文字への対応が新たに必要で、難易度が高い。
日本語には日本語(漢字かな交じり文)の他に、ローマ字で記述された日本語(transliterated)が存在する。従来の漢字かな交じり文には事実上日本人しか参加できなかった。ひらがなやカタカナはともかく漢字は日本人以外にとって習得が非常に困難であるためだ。このデメリットを解消するためにtransliteratedが導入された。日本人にとっても、一般的にtransliteratedの方が有利になる。理由は、変換の手間が無くなることと、実態よりも低めに設定された2.2607というスコア換算係数の影響を受けなくなることだ。筆者の場合も、Takiを用いた1分間練習において、transliteratedが漢字かな交じり文と比較して100文字/分近く有利になった。このため、本番でも迷うことなくtransliteratedを選択した。
All30g適用の実験を開始したのは2016/12/19だった。2003年時点の筆者はこのキーボードを使いこなせなかった。打鍵時に隣のキーに指が軽く触れただけで認識され、ミス判定となる「かすりミス」が目立ったためだ。だが、東プレRealforce89U(45g/30g)で10年以上も正確性重視の鍛錬を継続してきたため、All30gでも次第にミスを抑えて打てるようになった。それならば、速度を出せるAll30gの方が良い。折しも、45g/30gのキーボードのSpaceキーのレスポンスが長年の酷使の影響で悪化し、高速打鍵に悪影響を及ぼすようになってきたため、All30gを久々に採用した。
但し、2019年は日本語のみ45g/30gに戻した。All30gが長年の酷使の末、5/3に至ってついに故障したためだ。
2019年10月、消費税増税前に新たに東プレRealforce(R2TLSA-JP3-IV)を調達した。All30g、かつテンキー無しという基準で選択した。このキーボードはタイプウェル国語Rの更新には役立ったが、カスリが激増するというデメリットがあった。従ってIntersteno向けには使えないのではないかという危惧を抱いた。だが、APC設定を「よく使うキー2.2mm、使わないキー3.0mm」としたことで、カスリを防ぎ、Interstenoの実戦に投入する目途が立った。
(3) 方言の選択
ドイツ語、フランス語、オランダ語等の方言選択にも、上記の練習課題の収集結果資料が役立った。具体的には、バグや特殊文字の少ない方言を選択することで、練習の効率アップと本番の得点アップを狙った。(4) キーボードの選択
2017〜2019年大会では、東プレRealforce106(All30g)を主に使用した。日本語かな入力を除いて、All30gでもミスを抑えつつ高速化できるという確信を得たためだ。実際、2016〜2019年の総ミス数の推移は47→28→35→34、1言語あたりの平均値は2.76→1.65→2.06→2.00であり、2016年と比較して有意に減少している。(5) その他環境整備
2018年とほぼ同様。本番準備・実施手順書を作成し、遵守することで、人為ミスをシステム的に根絶することを目指した。但し2019年以降、Windows10機で打鍵中にフォーカスが勝手に外れる事故に悩まされている。2019年のフィンランド語と日本語、2021年のルーマニア語の本番でも発生した。当初は左Alt、右Alt、左Ctrlへの誤爆による何らかのショートカット発動が原因と考えていた。最大の要因である左Altのキートップを外す、あるいはソフトウェアで一時的に無効化するといった対策がまず考えられる。さらに、「セキュリティソフトの割込み」「プリンタドライバの割込み」等、他にも原因がありそうだ。原因究明のためMy Window Loggerを導入したが、まだ原因を見出せず、対策もできていない。
2020/4/7、自宅の電気契約を30Aから40Aに上げた。打鍵中にブレーカーが落ちてもPCはバッテリーで動くため問題無い。だが、ルータの電源も落ちるためネット接続が一時的に遮断される。これが危険すぎる。
フィンランド語、ポーランド語、スロバキア語等、10分間課題の少ない言語はTypeRacerやmonkeytypeを併用してこの欠点を補った。確かに、TypeRacerには「30秒ほどで終了する短文が多い」「フォントが見辛く、.,やlIやijの判別が至難」といった難点はある。だが、従来圧倒的に不足していた初見文章への対策にはある程度なったと思う。
一方、フランス語、イタリア語、トルコ語で大きく崩れなかったのは、練習用課題が豊富にあり、多くの単語に習熟できたためと考えられる。ドイツ語、オランダ語、チェコ語に関してもこの状態に持っていくため、TypeRacerやmonkeytypeで鍛えるのは有効と考える。
基本的に、仕事・育児・家事と重ならず、かつ身体が覚醒しているタイミングで実施する。平日帰宅後のように疲労している場合や、リハビリが不充分な場合、眼精疲労や脳・腕・指の疲労が蓄積している場合には、本番実施を避けるべきだ。
また、1セット(約1時間)あたりの本番実施数は1言語、1日あたりの本番実施数は2言語に抑えたい。但し、充分な練習を積んだ状態で、体調が良く、指の調子も好調を持続している場合に限り、1セットに2言語、1日に3言語の本番を実施することもあった。
さらに、本番の直前に10分間練習を実施する。これは、本番で使用する配列に確実にセットすると同時に、他の言語との混同を避けるためだ。また、言語ごとに頻出する単語やシーケンスが存在するため、本番の直前に目と指を充分に慣らしておく必要がある。但し英語や日本語など、ガチで10分間打つと疲労する高速言語についてはほどほどにしておく。5分で止めても良いし、1分間練習×5で代用しても良いだろう。2018〜2022年は「前半は速度重視、後半は速度を落として正確性重視」「前半で体が覚醒しなかった場合は後半も速度重視」のように、その日の調子に合わせて使い分けた。要は、本番にピークを持っていくため、本番を想定してある程度本気を出しつつも、準備と割り切って力を抜くということだ。
●各言語の対策(主要なもののみ)
※2018年・2019年とほぼ同様。
なお、2022年3月に入り、セディーユをコンマビロー、コンマビローをセディーユで打つと本番を含めミス判定になるという混乱があった。そこで、セディーユメインの配列とコンマビローメインの配列を準備した。そして打鍵直前に課題文章をチラ見して、必要に応じて配列を切り替えるという対策を採用した。最終的に、セディーユをコンマビロー、コンマビローをセディーユで打ってもミス判定とならないよう改めて修正されたため、この対策は終了した。
なお、筆者の配列ではşţăを[]@に配置している。従って、右手小指の範囲の文字(lや大文字)が頻出する文章に弱い。paraph配列に倣って、qwにşţを配置する案を検討すべきか。現状qwにはâîを割り当てている。しかしâîの頻度は比較的低い。ここに改善の余地があるかもしれない。
カテゴリ | 言語 |
---|---|
びびり過ぎ | トルコ語、フランス語、ポルトガル語 |
高速化未完成 | 英語、スペイン語、ハンガリー語、スロバキア語 |
正確性未完成 | フィンランド語、ドイツ語、チェコ語、オランダ語 |
本番自己ベスト | 日本語 |
本番自己ベスト付近 | クロアチア語、ロシア語、イタリア語、ポーランド語、ルーマニア語 |
まず各言語の練習問題に残る問題点について。筆者が指摘済みだがまだ修正されていないものもあるし、その後新たに見出したバグも存在する。ある程度まとまった段階で、再び粘り強くInterstenoのTaki担当者に働きかけて、修正を促していく。同時に、€(ユーロ)や£(ポンド)等、欧米人には常識であっても日本人には馴染みが薄い記号については、打鍵方法を啓蒙するという手段もある。
次に日本語の仕様について。2022年には方言の一つとしてローマ字入力種目(transliterated)が導入された。一参加者としては歓迎だ。筆者のスコアは、従来の漢字かな交じり文と比較して1000点近く改善された。また、日本人以外のタイピストたちも日本語を打てるようになり、2015年の日本語(漢字かな交じり文)導入以来続いていた日本人の優位性は消滅した。これにより、コンテストとしての公平性は明らかに向上した。
但し、日本語(transliterated)に関する論点は少なくとも三点ある。現在の不平等感が少しでも解消されるよう提言していきたい。ここでの議論や試行錯誤は、将来のラテン文字・キリル文字以外を用いる多言語(中国語、朝鮮語、アラビア語、タイ語等)への展開の際にも役立つことだろう。
(a) 日本語(transliterated)は日本人が普段使う日本語とはかけ離れたものであり、これを「方言」と称するのは違うのではないか。
⇒問題無いと考える。外国人が日本語を習得する際の第一歩として、ローマ字は実際に使われている。他にはひらがな文も検討対象に入れて良いと思う。Interstenoの存在意義を考慮すると、多くの外国人が日本語に参加し、日本語に慣れ親しむ機会を提供するのは望ましい。
(b) ほとんどの日本人タイピストにとって、日本語(transliterated)の方が日本語(漢字かな交じり文)よりもスコアを稼げる。その結果、日本人タイピストも皆transliteratedを選択するようになる恐れがある。
⇒日本語(漢字かな交じり文)に設定されている係数2.2607の再検討が必要と考える。具体的には、少なくとも2.5以上が望ましい。現状の係数は、漢字かな交じり文とローマ字文の文字数の比率から算出した値であり、ひらがなから漢字への変換のコストが含まれない。実際、Intersteno2022の日本人参加者の結果を見ると、日本語(漢字かな交じり文)を選択した8名のスコアは2021年比でほぼ同じ(-16%〜+14%)なのに対し、日本語(transliterated)を選択した9名のスコアは2021年比で平均約35%(+19%〜+68%)も上昇した。従って係数を2.2607×1.35≒3.05まで引き上げるのも一案である。
(c) 一部の卓越した海外のタイピストは、(恐らく文章の意味を理解していないのに)多くの日本人タイピストよりも日本語(transliterated)で高いスコアを出し得る。
⇒問題無いと考える。日本人は日本語(transliterated)を意味のある言語として認識できる。これはタイピングを行う上で強みとなる。しかし熟練した海外のタイピストは、幾つかの頻出単語やシーケンスに習熟することにより、日本人タイピストの強みを上回ることができる。これはタイピングのスキルの一つとして捉えることができるし、評価されるべきものだと考える。なお、この問題は他の言語でも既に発生している。例えば筆者は、幾つかの言語でその国のタイピストよりも高いスコアを出してきた。
ジュニアさん:最難関のロシア語を含む全17言語への参戦を目指し、最も早い段階で練習に着手していました。その過程では、各言語の専用配列を習得し、特殊文字や記号の入力方法を一から調査・導入されるなど、先行者として並々ならぬ苦労があったことと推察します。
かり〜さん:2015年から多言語タイピングWikiで積極的に情報発信し、筆者を含む多くの初心者に多言語参戦への道筋を示して下さいました。さらに2017年大会に向けた新たな取組みとして、初心者向け多言語対戦会や10FastFingers大会を開催されています。
たのんさん:2017〜2020年大会に向けて、TypeRacer多言語対戦会の開催および毎週参戦により、積極的に引っ張って下さいました。2017年10月以降のパワーアップには大いに刺激を受けました。
paraphrohnさん:2016年大会に向けて、早い段階で「総合8万点で世界一」という高い目標を掲げ、それを有言実行することで日本人参加者全体を引っ張って下さいました。また、インテルステノ用paraph配列集の作成・配布に加えて、TypeRacer多言語対戦会を毎週開催して頂いたお陰で、筆者を含め参加者のレベルは前年とは比較にならないほど向上したと言えるでしょう。
やださん:Takiソフトウェアで出現した "This page and application is only for use on computers, not available for mobile devices." というエラーに対して、画面サイズを拡大するか文字サイズを小さくすることで解決できるという情報を頂きました。
どりすとさん:上記の問題につき、www.intersteno.itで打てば問題無いという情報を頂きました。筆者は2016年大会以降、練習も本番もこちらのサイトのみで打っています。
司@dvorakさん:文章内の文字の出現頻度調査に役立つWebサイトをご紹介いただきました。筆者は主にロシア語の文章で活用させていただきました。
愛する家族:3〜5月の土日およびゴールデンウィークの一部という、本来は育児・家事・家族サービスに充てるべき貴重な時間の大半をInterstenoの多言語参戦に投入できたのは、間違いなく家族のおかげです。ありがとう! ……というよりも、我ながらろくでもない夫・父親だと思う。来年以降もオンライン大会に参加するなら、ゴールデンウィークの全部または一部を毎年潰すことになるというジレンマがある。
・Intersteno拡張dq配列
注1:言語によっては慣れるまでに相応の時間が必要であり、短期決戦には不向きです。
・Intersteno拡張dq配列:仕様書
・Interstenoの各言語ランキングと統計資料
・Interstenoランキング:仕様書
・Intersteno課題文の解析資料
注:入力時の正確性は99%以上あると自負しています。また、2022年に追加された新課題を除き、再入力によりミスを検出して正確性を高めています。しかし、筆者も人間である以上100%でないことはご了承下さい。
・Intersteno練習の各種統計
・Intersteno練習記録
・本番準備・実施手順書
●参考文献・謝辞
Pocariさん:Interstenoオンライン大会への日本語部門追加を先頭に立って推進し、実現にこぎつけたのみならず、2015年の日本人参加者120名もの参加費までご負担頂きました。2016年以降の日本語部門継続にあたっても紆余曲折があり、各国代表との交渉に奔走されたと聞いております。この方の尽力なくしては、筆者はInterstenoの存在すら知らず、まして参戦など考えもしなかったことでしょう。ありがとうございました。2020年5月以降音信不通となり、その後2021年10月に一度ご連絡を頂いたものの再び音信不通となり、大変心配です。
●各種資料
Intersteno2022関連の資料を以下に公開します。必要に応じ、自己責任でご利用下さい。また、著作権等で問題が発生した場合は即削除します。
→Intersteno, TypeRacer, monkeytypeで使用した配列。インストーラとともにMSKLC用のファイルもあります。
注2:このMSKLCファイルはWindows10環境でBuildできないことがあります(エラー対処を実施していないため)。必要ならばWindows7, Vista, XPのいずれかでBuildし、結果ファイルをコピーして下さい。
→上記配列の仕様書。
→eighさんの統計資料を参考にしつつ、自分用にVBAで作成していた資料です。本レポートにはこのデータを一部使用しています。ソースコードは非公開。
→上記資料の仕様書。
→各言語の練習課題(1分間課題計2015個、10分間課題計614個)を自力で収集・入力した資料です。配列作成の際に、特殊文字や記号、qvwxyz等の文字の出現頻度を解析するために使用しました。また、InterstenoのTaki担当者への問題点の報告は、この資料をベースに実施しています。練習時の最高記録も掲載してあります。
→Intersteno対策として実施した10分間練習(2015〜22年に計2544回。本番含む)の各種統計として、「言語毎の最高記録、平均得点、平均速度、平均ミス数」「本番の記録との比較」「練習回数」「ミス数別の試行回数」をまとめたものです。
→Intersteno対策として実施した10分間練習の詳細をデータベース化したものです。上記の統計資料はすべてこのデータから作成しています。
→「トルコ語配列のまま英語を打つ」「省電力モードが発動して画面が暗くなる」等の間抜けな事故を防ぐために作成した手順書です。
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